ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター8 オリエンテーションⅡ

 そして3日後。

 

 オリエンテーションのやり直しは運動場で行われる事となり、2輌のカヴェナンターがそれぞれ運動場の角、対角線を引くように対峙する形で配置された。

 

 萩原の新聞記事が功を奏したのか、思ったよりも人が集まっていた。

 カヴェナンター特有の欠陥やその原因、今度はそれを改善した状態でオリエンテーションのやり直しに臨む事が論理的かつ詳細に記載された事で、戦車に対する先入観が幾らか解く事が出来たようである。

 

 塚野はカヴェナンターの砲塔の上に立ち、マイクを握っていた。

 

「はーいみんなあ、これから戦車道のオリエンテーションを始めるよぉ!この前は無様を見せちゃったけど、今度は大丈夫!」

 

 その時、塚野は観衆の中に蝶野一尉の姿を認め、一瞬言葉を切った。

 

 蝶野も、塚野が自分を見つけた事に気付いてサムズアップする。

 周りの生徒達が、見慣れない自衛官を不審げに何度も見上げているが、蝶野本人は全く意に介していない様子だった。

 

 因みに蝶野からは事前に、オリエンテーションの見学に来てくれると知らされており、その際に蝶野からある提案を1つ受けており、それを早速実行するつもりだった。

 

 塚野は小さく頷き返すと、続きを口にした。

 

「色々説明する事あっけど、昔の人の『百聞は一見に如かず』って偉い言葉を実践した方が早いかなあって事で、これから、戦車同士で撃ち合いをしたいと思います!」

 

 『撃ち合い』と聞いて、見学者達が互いに顔を見合わせてガヤガヤと何か言い合った。

 

「え、撃ち合い!?」

「実弾射撃!?」

 

 確かに戦車は基本的に大砲を持っており、それを撃ってなんぼだが、まさかいきなりオリエンテーションで行うとは誰も思っていなかったのだ。

 

「この件は会長からの了承済みです!でも人がぜんっぜん足りないんで、あと5、6人お願いしよっかなぁ?」

 

 が、そうほいほいと名乗り出るわけでもなく、数秒間の沈黙が続いた。

 何しろ、3日前にカヴェナンターが蒸し風呂地獄である事を目の当たりにしたし、砲撃戦を行うのは、そのカヴェナンターなのだ。

 自分も同じ目に遭いたくないと躊躇うのは当然の心理と言えよう。

 

 それでなくとも、いの一番になかなか言い出しにくいものだが。

 そんな中、最初に名乗り出たのは萩原だった。

 

 実を言うと、打ち合わせで砲撃戦イベントの志願者の1人になる事が決められていたが、新聞記事でカヴェナンターの蒸し風呂地獄が『改善』されているという記事の書きだしっぺとしての責任を果たしたいと言う、本人の気持ちもあったようだ。

 

「乗ります!」

「はい、そんじゃこっち来てね!」

 

 塚野は萩原を、自分が立っているように手招きした。

 もう片方には野島と土橋が乗っており、これで2対2だ。

 

 

 

 その頃、今回もオリエンテーションを見学していた国崎が、隣の佐伯を肘で小突いた。

 

「会長…?」

「佐伯さん、乗りなさい」

「…え!?」

 

 唐突な命令に、仰天する佐伯。

 しかし国崎はいたって真面目だった。

 

「まだあなたに処分を下していませんでしたよね。ですので、これを処分の1つとします。すぐに行きなさい」

「でも…」

「代わりに、副会長の任を解きましょうか?」

 

 さらっと脅して見せたが、佐伯には効果的だった。

 

 佐伯にとって、落ちこぼれの塚野が原因で、副会長の座を外されるのは屈辱以外の何物でも無かった。

 それよりは、一時の屈辱に耐える方を選ぶべきだ、と佐伯は考えた。

 本当は、落ちこぼれが設立した戦車道に関わるなど、願い下げだったのだが。

 

「…分かりました」

 

 佐伯が運動場へ向かった後、鹿屋が横に立った。

 

「あのー会長。私も行って来ていいですかー?なんか面白そうですしー」

 

 国崎は片眉を上げたが、反対しなかった。

 

「ええ、構いませんよ」

 

 鹿屋の目がパッと輝いた。

 

「やったー!それじゃ、いってきまーす!」

 

 鹿屋が佐伯の後を追い、2人一緒に砲撃戦イベントに参加する旨を伝えると、佐伯が野島車の方へ、鹿屋が塚野車へ割り振られた。

 

 その様子を眺めながら、国崎は別の事が気になるのか、観衆を見回していた。

 

「…ところで、あの子は、まだかしら?」

 

 

 

 佐伯と鹿屋が戦車に乗り込んでいる間、塚野は指折りで人数をカウントしていた。

 

「えーっと、あっちが3人で、こっちも3人。カヴェ(ナンター)は4人乗りだから、あと2人かぁ」」

 

 カヴェナンター乗員の、それぞれの役割は車長、操縦手、砲手、装填手だが、砲手が装填手を兼ねれば、一応3人でも運用出来なくは無いと思うが…やっぱり定員は満たしておきたい。

 

 塚野は再度募集を試みた。

 

「あっとふったりー!あと2人欲しいなぁ!」

 

 左手で作ったVサインを掲げる。

 すると、1人が歩み出た。

 

「私も乗るわ!」

 

 報道部長の福地だった。

 

「え、デスクも乗るんですか!?」

 

 驚く萩原に、福地は自分の胸に拳を当てた。

 

「やっぱり気になるわ!私、あっちに乗るわね!」

 

 福地は自分で野島車を選んだ。

 どうやら、報道部同士の対決という構図を作るらしい。

 

 それから数秒待ったが、これ以上は出て来そうに無かった。

 

「んー。さて、こっちは1人足りないけど…まあいっか」

 

 塚野は募集をこれで切り上げる事にした。「んじゃあ、これで募集を終わり…」

 

 と、それを遮る自転車のベル音の連打。

 

「ちょっと待ってえええええ!」

 

 塚野だけでなく、観衆も声のした方角を見ると、こちらに向かって前のめりに自転車を突撃させる少女の姿があった。

 服はフロンティア学園の制服とは異なる、別の高校のものらしい制服を着ていた。

 

「どいてえええええ!」

 

 勢いを止めずに突っ込んでくる自転車に、観衆は慌てて左右に道を開けた。

 彼女達の間を高速で通過してから急ブレーキを掛けると、他所の高校から来たらしいその少女は、自転車に跨ったまま、元気良く自己紹介した。

 

「ふう、セーフセーフ」

「えっと…どなた?」

 

 相手は学生証を塚野に向かって開いた。

 

「隼高校から来ました、田張エミです!」

 

 その名前に、塚野はピンとくるものがあった。

 

「田張って…あの田張整備工場の…?」

「はい!実家です!」

 

 田張工場長の娘らしい事は分かったが、あまりの唐突な登場に困惑しかない。

 

「それで…何しに…?」

「私も戦車に乗ります!」

「ほうほうなるほど…って、え!?」

「いきなりでごめんなさい。でも、パパがどうしても行けって言うから、ついつい来ちゃったんです」

「いやでも…他所の生徒乗せるのって…」

「国崎さん…でしたっけ?ここの生徒会長には許可を取ってます!ですから乗せて下さい!」

 

 塚野が国崎を見ると、向こうで見学している国崎が静かに頷いて見せた。

 どうやら田張の言った事は本当らしい。

 

「…マジ?」

「そう、マジだよー」

 

 後ろから鹿屋が保証した。「いやー。最初聞いた時はびっくりしたねー」

 

 更に田張は、頼んでもいないのに売り文句も付け加えて来た。

 

「戦車の動かし方なら、小さい時からパパに教えて貰っていたから、大丈夫ですよ!あと機械弄りも得意です!」

 

 まだ塚野は混乱していたが、この田張が加わればこちらも定員を満たせる。

 

 今は、デモの進行が優先だ。

 

「…オッケー。じゃあ、自転車をあっちに置いてから乗って」

「分っかりました!」

 

 田張は自転車を運動場の外に出してから戻って来ると、慣れた身のこなしでカヴェナンターをよじ登った。

 

 こうして、両車輌とも定員を満たした状態で砲撃戦イベントを始められる事になった。

 塚野車の人員配置は、萩原が装填手、鹿屋が砲手、乱入者の田張が操縦手、塚野が車長となった。

 

「いわばチェックってやつ?」

 

 まだ操縦席から顔を出していた田張は、砲塔の塚野を振り仰いだ。

 

「他にも事情はあるんですけど、とりあえずそんなところですね」

 

 田張は自分の希望で操縦席を選んでいたが、「カヴェナンターって、ここが一番地獄なのよね」

 

「塚野ちゃん、凄かったよー。1回目のオリエンテーションで、化粧がドロドロに溶けちゃってー…ほがほが!!」

 

 塚野が慌てて鹿屋の口を塞いだのでそれ以上は聞き取れなかったが、田張は状況を察して苦笑した。

 

「ああ、なるほど。そう言う事ですね」

「でも今回は、その点が改善されているんですよね?」

 

 と、萩原が不安そうに田張に聞いた。

 

「うーん。まあでも、蒸し風呂地獄は避けられないかも。そうなるのが遅れるというだけですから」

「え!じゃあ私が書いたあの記事は…!?」

「まあまあ、そうなる前に決着つけちゃえばいいんじゃね?」

 

 塚野がそう締め括った。

 

「大丈夫ですかね…」

 

 鹿屋が塚野を見る。

 

「今から下りようかなー?」

「それは困るんで、やめて下さい」

 

 塚野はマイクをオンにした。「じゃあ始めるんで、みんな隠れてどうぞ!」

 

 互いのエンジンが始動すると、観衆は校舎の廊下に入ったり、塀の後ろに身を隠したりして砲撃戦に備えた。

 

「えっとー、これが旋回装置だっけー」

 

 砲が上を向く。「あ、こっちかー」

 今度は砲塔が左に回った。

 

 「で、こっちが右?」

 

 鹿屋の操作通り、右に砲塔が回る。

 

「主砲の上下がこれで…射撃はこれ…」

「飲み込み速いですなぁ」

「ありがとー」

「塚野さん、ここに砲弾入れるんですよね?」

 

 カヴェナンターの主砲、2ポンド砲から発射される40mm砲弾を両手に抱えた萩原が、砲の尾栓を確認した。

 

「うん、それでいいよ」

「じゃあ早速…」

 

 ぎこちない仕草で萩原は主砲に砲弾を押し込んだ。

 

「上等上等…んで、田張さんは…」

「こっちはいつでも行けますよ!」

 

 さすがに整備工場の娘だけあって頼もしかった。「あ、普通に呼び捨てで構いません!」

 

「おっし。えーっと…」

 

 塚野は携帯電話のアドレス帳から野島の電話番号を選んだ。

 すぐに野島が出ると、状況を確認する。

 

「ノイジー、そっちは?」

「ああ、いいぞ」

「よーし。じゃあスタート!」

 

 電話を切ると、車内に頭を入れた。「戦闘開始ですよぉ!」

 

「ねーねー」

「ん?」

「なんかちょっと蒸し暑くなってきたねー?」

 

 塚野の表情が引き攣る。

 

「…え、早くね?」

「急ぎましょう!」

 

 早くも額に汗を浮かべた田張が、カヴェナンターの向きを野島車に向けた。

 

 

 

 さてこちらは野島車。

 

「…あいつ、絶対瞬殺してやるわ」

 

 鼻息荒い佐伯は、自ら砲手を買って出ていた。

 目的は、塚野車をさっさと倒してしまう事で、それで塚野への鬱憤を晴らそうとしていた。

 まだ殴って来た塚野に根を持っているらしく、操縦席の野島には幼稚に映ったが、敢えて黙っていた。

 

 その代わりに、

 

「人に当たらないよう、気を付けて下さいよ」

 

「そんなの朝飯前よ」

 

 しかし佐伯は、砲塔を左に回そうとして、右に回してしまった。

 

「これだと昼飯になりそうね」

 

 撮影したいという理由だけで車長になった福地が茶々を入れると、佐伯は鬱陶しそうに言い返した。

 

「うっさいわね」

 

 弾丸は既に装填されており、あとは狙いを付けるだけだが、やはり素人で構成した即席チームはそういう簡単な動作もままならない。

 

 対して、乱入者の田張を乗せたカヴェナンターは、少なくとも走行に関しては上手だ。

 

「こっちに来ますよ」

「分かってるってば!」

 

 砲塔を回し直す佐伯だが、情景が横に滑るスコープは、相手のカヴェナンターを華麗にスルーした。「もう!」

 

「えっと、代わりましょうか?」

 

 装填役の土橋が声を掛けたが、佐伯はあくまで自分が撃つ事に拘った。

 

「奴は、私が潰すわ!」

「いいかげん、こっちも動きますね。接近されてるんで」

「ちょっと待って…!」

 

 佐伯の反論を待たず、野島はカヴェナンターを左に転じて塚野車と間合いを取るように移動させた。

 

「うひょー、良い画がバッチリ撮れる!」

 

 福地は車長役そっちのけで、嬉々としてカメラのシャッターを切りまくっている。

 

「福地先輩!指示出してくださいよお!」

 

 土橋が懇願するが、福地は聞いていない。「カエデちゃん、やっぱり人員配置間違えてるよお!」

 

「今更遅いな」

「そんなあ!」

 

 

 

「敵は遅れてる!さっさとやっちゃうよぉ!」

 

 そう指示を出しながら、塚野はこちらにレンズを向ける福地に、両手でピースした。

 

「鹿屋さん、どうですか?」

 

 田張は、鹿屋が照準を付けやすいように速度と向きを調整していた。

 

「もう少し…もう少し…これで、どうだー!」

 

 先制攻撃をしたのは塚野車だった。

 2ポンド砲が火を噴くと、小口径砲だが初めて見るその迫力に観衆はどよめいた。

 しかし砲弾自体は野島車の手前に着弾し、運動場に穴を穿った。

 

「弾込め急げー!」

「は、はい!」

 

 普通は再装填に備えて次弾を抱えているものだが、萩原は弾薬ラックから砲弾を抜き取る作業から始めた。

 

「よし、突っ込むぞ!」

 

 発砲した隙を突くべく、野島はカヴェナンターを急転回させると、塚野車に向かって突撃を開始した。

 

「うおわ!こっち来るし!」

「どうするの!?」

「ええと、ええと、全力疾走!」

「了解!」

 

 田張がカヴェナンターを急加速させたので、塚野は振り落とされないよう、両腕を砲塔の天板に突っ張った。

 

 2台のカヴェナンターが、互いの尻尾を狙う犬のように運動場をぐるぐる回る。

 2、3発撃ち合うが、どれも見当違いの場所で土煙を上げる。

 その様子を、福地が呑気に撮影している。

 

「これじゃ埒が明かないから、ここから出よっか!」

「出る!?」

 

 装填作業を終えた萩原が驚く。

 

「ちょっと運動場出て、校内散策!」

「それはいいですが、ガイド頼みますね?」

「塚野にお任せ!」

 

 塚野車は運動場の周回をやめて、外側に歩を進めた。

 

 

 

「あ?何やってんだあいつ?」

 

 野島が操縦席ハッチを跳ね上げて顔を出した。

 ちょうど運動場を出た塚野車が、校舎の陰に姿を隠すところだった。

 

「追うわよ!」

 

 そう息巻くは佐伯だ。「どこに逃げようが仕留めてやるわ!」

 

「え、いいんですか?ここから出て」

 

 土橋が確認したが、佐伯は強引だった。

 

「いいから追うわよ!生徒会命令!」

「使い勝手の良い命令ですね」

 

 そう皮肉を言いながら野島も、塚野車の追撃に移った。

 

「暑くなってきたわねそう言えば」

 

 福地がそう呟いたが、野島はそれより数分前から蒸し暑さに最も苛まれていた。

 オーバーヒートを遅らせる改造をした筈だが…どうなってるのだろう。

 

 校舎と校舎の間を走る塚野車に、見学に来なかった生徒達が興味津々の視線を向けて来た。

 

「お、来た来た」

 

 すぐに姿を現した野島車を認めると、塚野は田張に次のコースを指示する。「そこ左!」

 

「左ね!」

 

 T字路を左折する塚野車。

 野島車も後を取って左折してきた。

 

「撃てぇ!」

「そりゃー!」

 

 砲弾が野島車のすぐ横で命中すると、驚いた生徒達が慌てて身を隠したものの、それでも窓や物陰から両者の戦いを覗き見る。

 

 

 

「もう1発!」

 

 佐伯の弾丸も外れ、その先の校舎のガラス窓を突き抜けた。「次!急いで!」

 

 萩原と違い、用意していた土橋がすぐ砲弾を押し込む。

 

「装填しました!」

 

 直後に塚野車はまた左折して姿を消した。

 

 

 

 しかし、これ以上は追いかけっこをしていられなくなってきた。

 車内温度が、いよいよ耐え難い蒸し暑さにまで上昇してきたのだ。

 

「そろそろ決着つけっかなぁ」

「どう…するんです?」

 

 と、蒸し暑さに喘ぎながら萩原が聞いた。砲弾を抱えるのも辛そうだ。

 

「うん、マジでしんどくなってきたー」

 

 塚野や田張はハッチを開ければ外気で涼めるが、鹿屋と萩原は車内に閉じ込められた状態だ。

 

「運動場に戻るよん。そこ右折して道なりに進んだら運動場に出られるから」

「了解!」

 

 また後ろから野島車が撃って来たが、今度も外れて、塚野車の左斜め前方の道に命中した。

 

「あ、戻って来た!」

 

 観衆の1人が言う通り、運動場に再びカヴェナンターが戻って来た。

 すぐにもう1輌も姿を現し、運動場の向こう側とこちら側で睨み合う形となる。

 

「ああ…きつい…」

 

 佐伯は顔中を流れる汗を袖で拭った。

 既に全身汗だくなので、今更制服に汗が追加で沁み込もうが知った事では無かった。

 

「これは決着がつきそうね?」

 

 福地は新鮮な空気を吸って悠々自適だ。

 

「いやもう、これで決着ついて下さい…」

 

 顔中が滝の汗の土橋の言葉は、もはや願望だった。

 

「今度こそ決めてやるわ」

 

 佐伯はスコープを覗こうとして、汗が目に沁みる痛みに顔をしかめた。

 

 

 

「大洗対黒森峰みたいにやりたいけど、まあ無理だしぃ…」

 

 塚野は振り上げた右腕を、野島車に向かって下ろした。「突撃!」

 

 田張は野島車に向かってカヴェナンターを突撃させた。

 野島車もそれに応じて向かって来る。

 コースとしては、互いに反航でニアミスする形だ。

 

 先に佐伯のスコープが塚野車を捉えた。

 

「食らえ!」

「撃てー!」

 

 ほぼ同時に鹿屋も発射した。

 互いの砲弾は、偶然にも真っ向からぶつかり合い、両車の間でまるで爆発するように砕け散った。

 

 その瞬間を、福地のシャッターが収める。

 

 再装填する間は無く、2輌はあっという間に距離を縮め…

 

「危ない!」

 

 直感で危険を察した田張が急ブレーキをかけ、前につんのめった。

 

 その為、野島車が前につんのめった塚野車を踏み台に、右履帯を乗り上げる恰好となった。

 

「うわっ!」

 

 車体が左へ急角度に傾いたので、福地が慌てて車内に引っ込む。

 

 塚野はこの体勢を見逃さなかった。

 

「そのまま引っ繰り返しちゃえ!」

「オーケー!」

 

 田張は巧みにカヴェナンターを操作して、みるみる野島車を押し上げ、とうとう横転させてしまった。

 

「装填しました!」

「これでおしまいだー!」

 

 無防備に晒された野島車の腹を、無情にも2ポンド砲弾が叩き込まれ、その衝撃で野島車は吹き飛ばされ、仰向けに引っ繰り返りながら滑って校舎の壁にめり込むように激突して漸く止まった。

 

「…やった?」

 

 萩原が、ほとほと消耗し切った顔で這い出て来た。

 

「死ぬー」

 

 鹿屋にいたっては、砲塔の上で大の字に引っ繰り返っている。「もうやだー」

 

 やがて観衆が恐る恐る校舎や物陰から出て来る。

 横転した野島車からは、撃破判定を示す白旗が上がっていた。

 

 暫し沈黙が垂れ込めていたが、いつの間にマイクを握った蝶野の声が響き渡った。

 

「カヴェナンター2号車、走行不能!よって…カヴェナンター1号車の勝利!」

 

 アドリブ判定だったが、観衆達からは「おお~!」と一斉に声が上がった。

 

 塚野車の周りに観衆が集まり、汗だくの塚野達に「凄い迫力だった!」とか「こんなに興奮したの初めて!」と言った称賛の言葉が惜しみなく掛けられた。

 

 そこへ国崎がやって来て、塚野の前に立った。

 俄かに緊張で固まる塚野に、国崎は優しく声を掛けた。

 

「凄かったですよ、塚野さん。間近で見る戦車道が、こんなに面白いものとは、正直予想外でした」

 

 何を言われるかと内心びくびくしていた塚野は、緊張が解けてつい間の抜けた返事をしてしまった。

 

「は…ひゃい…どもっす…」

 

 と、すぐに我に返る。「あ、有難う御座います!」

 

 国崎はちょっと笑い、頷いて見せた。

 

「戦車道の活動続行を、認めます」

 

 

 

 一方、引っ繰り返った野島車からも蒸し焼き状態の4人が救出され、そちらにも観衆達から称賛の声が掛けられた。

 

 もっとも、4人に称賛を聞く余裕など無かったが。

 

 「ねーねー、大丈夫ー?」

 

 自分も蒸し焼きで消耗状態なのに、鹿屋が地面に伸びている佐伯を気遣ったが、佐伯は鹿屋を弱弱しく睨み返した。

 

 「…大丈夫に見える…?」

 

 

 かくて、オリエンテーションのやり直しは成功した。

 しかし、問題は山積している。

 

 

 

 続く

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