ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
チャプター1 依頼
「隊長車に照準!あれをやれば指揮系統が崩れる筈!」
逸見エリカは、隊長車撃破に活路を見出そうとした。殲滅戦ルールだが、指揮官を失えばたとえ一瞬にしても隙が出来る筈だ…とだけ言えば聞こえは良いが、実際には至難の業だった。
正確な照準を行う為には一端停止しなければならないが、敵戦車隊の猛烈な弾幕の中でそのような事をするのは自殺行為だ。
ガギーン!
前後運動で回避するティーガーⅡの正面傾斜装甲に、122mm徹甲弾が当たって弾かれ、衝撃と轟音が車内を揺るがせる。
この衝撃と轟音も正確な照準を妨げ、砲手の集中力を奪っていた。
苛立ったところで無意味な事は頭で分かっているが、エリカは苛立っていた。
「…隊長車にロックした!?」
と、切羽詰まった口調で砲手に催促するが、
「まだです!」
砲手も歯を食いしばり、なんとかスコープの中心線に、敵隊長車のIS-3をたとえ0.1秒でも捉えようとする。
と、赤星小梅のより一層緊張を帯びた声が通信機に入る。
「隊長!3時の方向から、敵戦車隊が新たに6輌現れました!」
「ぬっ!?」
双眼鏡をそちらに回すと、はたして十字砲火を組もうと回り込んできた6輌のIS-3とT-44の部隊が横一列に展開しつつあった。
「…塚野達が危ない…!」
10日前。
『会長日誌。西暦20XX年9月12日。当校史上初の戦車道は、どうにか再スタートを切った。まだ仮承認の段階だが、今後に期待したい』
「では、これで始末書とします」
生徒会長の国崎マイは、手元のA4用紙に万年筆で手書きのサインを書き込んだ。
『始末書』との内容は、先日行われた戦車道のオリエンテーションにおける砲撃戦で校舎にもたされた様々な被害に関するものだった。
2台のカヴェナンターの撃ち合いにより運動場には穴が穿たれ、校舎の窓ガラスは割れ、窓ガラスを突き抜けた40mm徹甲弾は建物内にも若干の被害をもたらしたのである。
幸い、その場所に人はいなかったので、怪我人は出なかったが。
「まあ、書いたのは私ですけどね」
と、副会長の佐伯ユキネが肩をすくめた。
諸般の事情により、本来参加するつもりのなかった戦車道に、国崎の命令で強制的に参加する事になってしまっていたが、詳細は第1話を参照されたい。
「窓ガラス割ったのは副会長でしょうに」
そうとぼけるのは、フロンティア学園に史上初めて設置された戦車道の初代隊長である塚野スズネだ。
「隊長でしょ?あなたが書きなさいよ」
「感謝してますってぇ」
「白々しいわね」
と、そこへ執務机の上の電話が鳴り、国崎が手を伸ばして受話器を取った。
「はい…え?」
どうやら生徒会員の1人と話をしているらしく、何度か電話向こうの相手に相槌を打ちながら、国崎は塚野を横目で見た。「ええ、いるわよ…うん。繋いで」
2、3秒の間があり、国崎は背筋を伸ばした。
「はい、生徒会長の国崎です…はい、初めまして。塚野ですね?お待ち下さい」
そう言うと、受話器を塚野に差し出す。「田張整備工場の田張工場長から」
「え、マジっすか?」
「そう、マジですよ」
国崎から受話器を受け取ると、
「おひさです!」
すると、あの懐かしきフレンドリーな工場長の声が耳に入って来た。
「やあ。娘からこの間のオリエンテーションの事は聞いたよ。成功して良かった」
「あ、有難う御座います」
「うんうん。ああ、それで早速本題なんだけど、ちょっと頼みを聞いて貰えるかな?」
塚野は首を傾げて国崎と目を合わせた。
「…頼み、ですか?」
続く