ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター2 朗報

 田張工場長の頼みとは、塚野は勿論、戦車道のメンバー達にとって朗報だった。

 

「え、この前来てくれた子が?」

 

 塚野の話が終わると、土橋が驚いた声を上げた。

 

 今や戦車道チームのブリーフィングルームとなった小会議室には、塚野と佐伯の他、副隊長の野島カエデ、漫画部と戦車道を掛け持ちする土橋アンナ、生徒会広報で戦車道チームに志願した鹿屋リナ、そして彼女達を取材する報道部員の萩原ミツキの6人がいる。

 

 外は夕立の模様で、窓には時折斜め風に吹かれた雨粒が叩き付けており、室内はエアコンが冷房モードで静かに唸っている。

 

「仮承認段階である事は伝えたのですか?」

 

 この質問は萩原である。

 

 フロンティア学園戦車道は、現時点では仮承認でまだ『存在』を正式には認められていない為、途中で頓挫し立ち消えになる可能性が、正式設置されている部活や履修科目よりも確率が高かった。

 

 そして正式承認される条件はまだ決まっておらず、完全手探り状態である。

 

「うん。その上で、だって。マジびっくり」

「戦車は足りねえ、人も足りねえ、さりとてカネもねえとこによく来る気になったな」

 

 野島がそう言うと、塚野が更に2つの問題点を付け加える。

 

「まだ倉庫も直ってないし、練習用の敷地も無いのマジやばい」

 

 椅子にふんぞり返りながら組んだ両手で後頭部を支えている。「とりま戦車にはシート被せてっけど」

 

 戦車の保管場所として生徒会から認められた、元テント倉庫だった骨組みには未だテントが張り直されておらず、そこに置かれた2台のカヴェナンター巡航戦車は、雨曝しを防ぐ為に青色の防水シートが間に合わせに被せられていた。

 

 佐伯が鼻を鳴らす。

 

「あれじゃ放置ね。保管じゃなくて」

「全く、副会長様の御指摘通り」

 

 塚野は弾みをつけて身を起こした。「誰も声上げてくれないんですかぁ?」

 

「今のところはね。もしかしたら、全然駄目かもよ?」

 

 フロンティア学園は100年近くも戦車道無しで運航されてきた学園艦だ。

 その為、戦車道に対する理解がある住人はゼロで、佐伯を通じて戦車道用の敷地を提供してくれる所を探索してはいるものの、土地の提供に協力してくれる人は今のところ現れていない。

 

 塚野が縋るように野島の方に体を傾ける。

 

「ねぇノイジー。おじいちゃんのポリティカルパワーで何とかなんない?」

「おじいちゃんはこの船の船長であって政治家じゃねえよ」

 

 渋い表情を浮かべながらそう答える野島。

 野島カエデの祖父は元海上保安官で、このフロンティア学園の学園艦の艦長を務めていた。野島は祖父が働く操舵室へ遊びに行く事が時々あるが、いつ行っても歓迎されている。

 

「でっかい船動かしてるから影響力あるのかなぁって」

「ねえよそんなの」

「けど元海上保安官じゃん?」

「それ関係ねえだろ」

 

 すると、萩原がボールペンを握る手を挙げた。

 

「あ、あの。それで、隼高校ってどんな高校なんですか?」

「ああ、それそれ。サンキュー」

 

 塚野は話題を元に戻す。「20年前まで戦車道があった高校なんだけど、財政難に陥って、金策として戦車を売る為に戦車道が廃止されたんだって。んでそうは言っても戦車道の廃止を惜しんだ当時の人達が、機械部を立ち上げたらしいよ」

 

「機械部…ですか?」

 

 と、萩原がメモの手を止めて聞き返した。

 他のメンバーも同じように、聞いた事が無い単語に首を傾げている。

 いや、正確に言うと漢字には脳内変換出来るが、どういう意味なのかと図りかねたのである。

 

「なんか機械とか車輛の修理とか整備やってて、戦車を改造した作業車を持ってるらしいよ」

「ああ、戦車を残す為にわざわざ機械部を始めたってわけか」

 

 と、野島が言った。「てことは、その作業車が手に入れば、実質戦車を手に入れたも同然ってわけか」

 

「でも、どうしてわざわざうちに来る事になったの?」

 

 と、土橋が尋ねた。

 

「なんか廃校になっちゃうんだって。それで解散する事になってたみたいだけど、ここで会ったが百年目だから受け皿になってくれないかって」

「あのな、それ仇討ちのセリフだぞ」

「結局財政難が仇になったのかしら」

 

 と、佐伯が考え込みながら言った。学園艦の運営に関わる立ち位置の生徒会副会長だから、その辺りの事情については色々と詳しく、思うところがあるのだろう。

 

「でもそう言えば…」

 

 萩原に1つ思い当たる事があるようだった。「文科省が学園艦の統合を進めていて、それで廃校にされる高校が続出しているみたいです。今年の戦車道全国大会で優勝した大洗女子学園もそうでしたし、隼高校もその煽りを食らったのかもしれません」

 

 そう説明すると、この場にいる人間の不安そうな、しかし質問するには恐ろしくて言葉に出せないという視線が、佐伯に向けられる。

 彼女達の視線に気付いた佐伯は、しかしキッパリと断言する。

 

「何も言われてないわ。だから大丈夫よ」

「ふう、良かったー」

「広報の癖になんで知らなかったって顔してるのよ」

 

 安堵の溜息を吐く鹿屋に呆れながらツッコミを入れる佐伯。

 

「まあそんなわけで、明後日会いに行くよ」

「どっか寄港するのか?」

「いんや。ヘリで直接隼高校に行こっかなって」

 

 フロンティア学園には、航行中でも外部とコンタクトが取れるようにヘリコプターや軽飛行機、小型船が民間企業の手で運航されている。

 

「あたしはいいけど、他のみんなは時間あるのか?」

 

 野島が一同を見回すと、萩原が真っ先に手を上げた。

 

「私は大丈夫です!」

「うん、こっちも行けるよ」

 

 と、土橋が首肯した。

 

 しかし、生徒会の2人は用事を抱えているようだった。

 

「行ける行けるー」

 

 と、鹿屋が言ったが、

 

「何言ってるのよ。合同説明会の準備に行かないと」

「え、でも4日後なんだから別にいいんじゃないのー?」

「資料とかパワーポイントの準備いつも遅いじゃないの」

「大丈夫だってー、徹夜するからさー」

「すぐ寝落ちするでしょ」

「今度は大丈夫だってー」

 

 塚野が口論に割って入った。

 

「えっと、合同説明会って何なの?」

「ああ、今から説明するわ」

 

 佐伯は口論を中止すると、「廃校になった高校生を対象に日本全国で開かれるんだけど、横浜も会場になってるから、そこに出展するのよ」

 

「何それ、聞いてないし」

「今日決まった事よ」

 

 隼高校の話題が終わり次第、佐伯はこの合同説明会の事を切り出すつもりでいたが、鹿屋との口論ですぐに話に出せなかったのであった。「そこで戦車道経験者の募集をしようって事になったわけ」

 

 機械部自体は20年前に廃止された戦車道の名残ではあるが、戦車道はやっていないので経験者は別途募集する必要があった。

 確かに田張のケースで見られたように、戦車を動かす事は出来るが、チームの指揮や戦術についてはまた別の話なのだ。

 

「ネットで募集はかけないんですか?」

 

 と、土橋が言うと、鹿屋が答えた。

 

「もうやってるよー。でも全然集まらないんだよねー」

 

 広報の鹿屋が主導して、フロンティア学園の公式サイト内に戦車道経験者の募集ページが設けられたのだが、今のところまだ連絡は来ていなかった。

 

「そもそも何人見てるか分からないしな」

 

 野島の言う通りだった。何しろインターネットサイトは星の数ほどもある。その中からピンポイントでフロンティア学園のホームページ、尚且つ戦車道メンバー募集ページに辿り着く現役高校生は果たして何人いるのか。

 ましてや戦車道経験者をターゲットに絞っているので、より至難の業だろう。

 

 しかし行政主催の合同説明会であれば、少なくとも説明会に参加した生徒全員は、基本的に一度は目にする筈だ。

 実際に何人話に応じてくれるかどうかはまた別問題だが、やってみる価値はある。

 

「あ、本当だ」

 

 土橋は愛用のラップトップコンピューターで検索を掛けていたが、 「うーん。やっぱり仮承認段階だから余計に人が来ないんじゃないかなあ?」

 

 募集ページには、カヴェナンターの写真と共に、発足したばかりのフロンティア学園戦車道チームに戦車道経験者を募集する文章が掲載されている。

 しかし同時に、『仮承認段階』である事が但し書きされていた。

 

「もし私が戦車道経験者だったら、ちょっと行くの躊躇っちゃうかも」

「でも後で揉めるのも嫌だしねー」

 

 『あとの喧嘩を先にする』と言う諺の通り、もし興味を持って入って来てくれても、仮承認段階でまだ正式に『存在』を認められてない事を隠し通せる筈は無く、それを転校生が知った時の一悶着を避ける為に但し書きが入れられたのである。

 

「じゃあ、お二人は合同説明会の準備って事でオッケー?」

「悪いけど、それで宜しく」

「行きたいなー」

「あなたは早く資料作成して」

 

 

 

 続く

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