ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター3 隼高校

 そして2日後。

 

 1機のAS332シュペルピューマ汎用ヘリコプターが、海原を眼下に飛行していた。

 窓から覗き込むと、海面は太陽光でギラギラ反射させており、高速で前から後ろへと過ぎ去っていく。

 

 シュペルピューマ機内には、フロンティア学園の生徒である塚野、野島、土橋、萩原の4人が乗っていた。

 携帯電話のディスプレイに表示される時間を見た野島が、隣で寝息を立てている塚野の脇腹を肘で小突いた。

 

「もうそろそろだぜ」

 

 塚野はまだ眠そうに両目をこすりながら欠伸した。

 

「ふあ…え、もう着いたの?」

「ちげえわ。もうそろそろだっつってんだよ」

「ふーん。あふ…じゃ、着いたら起こして」

 

 二度寝を敢行しようとする塚野だったが、野島がまだ脇腹を小突いた。

 

「だから寝るんじゃねえ」

 

 そこへ、機長の声がヘッドセット越しに入って来た。

 

「到着まであと5分です。ベルトをしっかり固定して下さい」

 

 キャビンアテンダントが立ち上がり、6人のフロンティア学園生徒1人1人のベルトを念入りに確認して回った。

 安全確認が終わると、キャビンアテンダントはリップマイクに手を添えてコクピットに報告した。

 

 やがて機内が右に傾き、ヘリコプターが右旋回を始めた事を教える。

 

「あ、あれだよ!」

 

 窓の外を見ていた土橋が指差す方向に目を向けると、空母に似た巨大な船舶、即ち学園艦が航行しているのが見えた。

 

 ヘリコプターは右旋回を続けながら、一度学園艦の艦首の前を横切った後、学園艦の右舷側を平行にすれ違う形で水平飛行し、艦尾を越えると、今度は急激に右旋回して艦尾の後ろに付き、艦尾に設けられているヘリポートに着陸した。

 

 

 

 隼高校は、旧日本陸軍が保有していた航空母艦『あきつ丸』の全通飛行甲板時代の姿をモチーフにしたデザインの学園艦であった。

 今から20年前に学園の財政難により戦車道が廃止されるという、大洗女子学園と似たような経緯を辿っていたが、隼高校ではチーム解散を惜しむ有志により、名残として機械部が設立され、これまで存続してきていた。

 

 ヘリポートでは、田張ともう1人が塚野達の到着を待っていたが、もう1人は田張の一歩後ろで、手を背中で組んで立っている。

 

 塚野達がヘリコプターのサイドドアから下りると、田張が始めに挨拶した。

 

「隼高校にようこそ!」

 

 塚野が片手をひょいと肩の高さにまで上げ、軽い口調で挨拶を返す。

 

「ちいっす!おひさ!」

「おひさにはもうちょっと日数が要りますね」

 

 田張は苦笑しながらそう応じつつ、 「パパから話を聞いていると思いますけど、ここで機械部のリーダーをやってます。こちらが副リーダーの…」

 

 副リーダーが一歩進み出て、田張の右隣に立った。

 

「安藤アイリでさあ。田張部長とおんなじ、2年生だぜ」

「うお、すっげぇユニーク…」

 

 しかし人懐こそうに手を差し出してきた安藤に多少戸惑いながらも、塚野は握手に応じた。

 他の面々との自己紹介も一通り済むと、田張は早速、機械部の拠点へ先導しながら、道中に学園艦の案内をした。

 

「ガラガラですけど、見ての通り、元々は教室なんです」

 

 右手に見える校舎を示しながら田張は説明した。「でも廃校が決まってから、誰もいなくなってしまいました」

 

「あの、廃校って、やっぱり例の文科省の政策の影響なんですか?」

 

 と、萩原が遠慮がちに尋ねると、意外にも田張は首を横に振った。

 

「いいえ。去年から廃校の手続きが始まっていたんです。うちの高校、20年前から財政的に厳しくなっていたらしくて」

 

 20年前の金策として行われた戦車道廃止は、ちょっとした延命措置にしかならなかったようである。

 

「あたしら、ここが廃校になったら解散する事になってたんでさあ」

 

 と、安藤が相変わらず特徴的な喋り方で補足する。「短かったけど、なんだかんだ思い出も色々あったもんだから、残念で残念で腐っちまってたんだ。でもそこへ、あんたらと合流するって話が来たってわけで、正に渡りに船ってとこですかね」

 

 それから一同は、田張や安藤からガイドを受けながら暫く歩き続けた。

 

「にしても、ここまで人がいねえと殺風景だな」

 

 野島が辺りを見回しながら言った。「みんな、もう転校が済んだのかな?」

 

「いえ、みんな自宅か寮にいます。もう登校する意味が無くなったので、校内にはいないだけです。今は荷造りしてるんじゃないかと」

 

 と、田張が答えた。「私達を含めて、ここに用事がある生徒がほんの一握りといったところです」

 

「愛想がねえ連中だよなあ全く」

 

 と、安藤が田張に同意を求めるように見たが、田張は困ったように唸るしかない。

 

「んまあ、それは人それぞれですし」

「…お、そろそろつきますぜ」

 

 果たして曲がり角の先に、機械部が拠点とする倉庫があった。

 その中には2輌の重機、即ちクレーン車らしき装軌車輛と、ブルドーザーらしき車輛が保管されており、機械部の人間2人が整備を行っていた。

 

「あれが元戦車の作業車?」

「その通り。あたしらが使ってる作業車…SPK-5自走クレーン車と、アレクト・ドーザーでさあ」

 

 安藤がアレクト・ドーザーのドーザーブレードを軽く叩きながら言った。

 

「確かに車体が戦車みたいですね」

 

 と、萩原が初めて見た感想を言うと、田張は頷いて見せた。

 

「はい、クレーン車の方がT-34中戦車かその派生型、ブルドーザーの方がハリー・ホプキンス軽戦車に改造出来ます」

 

 前者は旧ソ連の作業車、後者は英国の作業車で、どちらも戦後に誕生したが、前者はT-34-85中戦車を改造し、後者はオープントップのアレクト自走砲を改造したものだが、これも元を辿ればマークⅧ・ハリー・ホプキンス軽戦車に至る。

 

「ふむふむ。T-34って色々バリエーションがあるんですね」

 

 早速ラップトップコンピューターを開いていた土橋が言った。

 画面は日本戦車道連盟の公式サイトで、開いたページにはT-34シリーズや、この戦車の車体を利用した固定砲塔式のSUシリーズが掲載されている。

 

「なので一考の余地があると思います。手に入れる主砲によっては、強力な戦車に出来ますよ」

 

 と、田張は補足説明を加えた。

 

「でもまあ、なんていうか寂しいもんですなあ。いざ戦車に先祖返りするってなると…」

 

 安藤が名残惜しそうに頭を掻いた。

 

「安藤さん、よく乗ってましたからね」

「他に戦車に出来る…その、乗り物ってあんの?」

 

 塚野がそう聞くと、安藤は首を横に振った。

 

「いいや、生憎これで全部でさあ」

「2輌増えるだけでも御の字だろ」

 

 と、野島が窘めるように言った。

 

「じゃあ、あと3人メンバーがいるので、紹介しますね」

「あれ、2人じゃないの?」

 

 塚野の疑問通り、田張の言葉を合図に集まって来たのは、この倉庫で作業していた2人だった。

 

「カズサちゃんならLCUの整備ですよ!」

 

 アレクト・ドーザーの整備をしていた方が言った。なかなか元気が良く、親しみが持てるようだ。

 

「ついさっき出て行ったので、入れ違いですね」

 

 と、SPK-5の整備をしていた方が言った。こちらは落ち着いていて、クールな印象を受ける。「五十嵐セイナと申します」

 

「中村ホノカだよ!」

「3人目は尾鷲カズサという名前です」

 

 と、田張が言った。「中村さんの言う通り、この下でLCUを整備しています」

 

「えるしーゆー?」

 

 塚野が聞き返すと、安藤が説明した。

 

「『Landing Craft Utility』の略で、和訳すると汎用揚陸艇ってゆうんでさあ…上陸用舟艇と言う方が一般的ですかね」

「あー、なんか砂浜に乗り上げて兵隊とか戦車とか下ろすやつ?戦争映画で見たかも」

「そういう事ですな。見に行ってみますかい?」

「うん、見てみたい」

「大歓迎ってもんですよ」

 

 田張と安藤に先導され(中村と五十嵐は引き続き作業車の整備を続けた)、倉庫に隣接する鉄製の急階段を下り、更に狭いエレベーターで下降して行った先にLCUを収容する格納庫があった。

 格納庫は広々としていて、2艇のLCUが横並びに並んでいたが、まだまだ数艇を余分に収容できる余裕はありそうだった。 

 

「1年前まではまだ4艇残っていたんですが、資金不足で2艇売ってしまって、今はこの有様です」

「まあ、残り1艇も売っちまうんですがね」

 

 と、安藤が言った。「二束三文にしかならんでしょうが」

 

「買ってくれるだけ有難いですね」

 

 田張はそう言ってから、「尾鷲さーん!」

 

 と呼び掛けると、操舵室の中から尾鷲カズサの顔がひょいと出て来た。

 

「なんすかー!?」

「昨日話してたフロンティア学園の皆さんですよ!」

「あー!ちゃっす!」

 

 挨拶も手短に、尾鷲はまた操舵室に引っ込んでしまった。操舵系統を弄っているのだろうか、完全に窓の下に隠れてしまっている。

 

「超忙しそうじゃんね」

「ちょっとぶっきらぼうですが、本当はいい子です」

 

 すると塚野は、なぜか野島に目配せした。

 

「なんか分かる」

「何が分かるんだよ」

 

 野島のツッコミはさておき、田張は状況を説明した。

 

「これに2台の作業車を乗せて、明日は母港に揚陸する予定なんです。場所は焼津なんですが、そちらの母港はどこですか?」

「あー、こっちは横須賀…えぇっと、ヤイヅってどこだっけ?」

「静岡よ」

 

 と、佐伯が信じられないと言うように首を振った。「とんだ隊長ね」

 

「という事は、そちらに移すのは少し時間が要りますね。直近で横須賀に寄る予定はありますか?」

「明後日に寄港予定で、停泊は2日間よ」

 

 と、佐伯が手帳を取り出してスケジュールを確認しながら言った。「それまでに横須賀まで回さないと、置いてけぼりになるわね」

 

「じゃあ、すぐ手配してきまさあ」

 

 安藤はそう言うと、エレベーターに戻って行った。

 

「あ、そうだ」

 

 塚野が何か思いついたようだ。

 

「何ですか?」

「あの2輌を、2日後に横浜でやる合同説明会に持って来れないかなあって」

「それ、良い案だと思う!」

 

 土橋も賛同した。「展示したら興味持ってくれるかも!」

 

「そう言えば廃校の生徒を対象に開かれますね」

 

 田張も合同説明会の件は知っているようだったが、「でも作業車ですよ?」

 

「改造予定って書いとけばダイジョブだと思うんだよねぇ」

「いやまあ、それはそうですが…」

「うちの戦車も出すし、ちょっとでも賑やかになったら嬉しいなぁ」

「で、実際問題、合同説明会に出すとして、初日から展示出来るのか?」

 

 と、野島が疑問を呈すると、田張は腕組みしてちょっと考えた後、

 

「多分、大丈夫だと思います。元々競技用戦車向けの輸送網は整備されていますし、事情を話せば急いでくれるかもしれません…運賃をどれだけ取られるか分かりませんが」

「まあ、何とかなるっしょ」

「そうですね。まずはやってみましょう」

 

 

 

 続く

 

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