ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター5 碧眼の少女と偽物

 SPK-5やアレクト・ドーザーと一緒に積載されていたのは、フランス製のルノーUEと呼ばれる小さくて古臭い装甲トラクターと、旧ソ連製の100mm対戦車砲D-10Sであった。

 

 そしてこの2つの便乗者の持主は、伊関ナナと桐山シノという女子高生で、ディスカバリー総合高等学校という高校出身だった。こちらも文科省の統合政策で廃校対象となった高校である。

 

 

 

「なんか戦車道経験者って言うらしいんでね、それで連れて来ちまったってわけでさあ」

 

 と、安藤が経緯を説明した。「んまあ、戦力にはなるんじゃないですかね?この100mm砲はSPK-5に装着すりゃあSU-100になりますぜ」

 

 塚野もSU-100なら知っていた。土橋から日本戦車道連盟の公式サイトでT-34とそのバリエーションを一通り見せて貰っていたが、中でもSU-100は無砲塔戦車ながら主砲が非常に強そうな印象を受けたものだった。

 

「というわけで、宜しく頼みます」

 

 伊関と塚野が挨拶を交わす中、パシフィコ横浜と国立大ホールを繋ぐペデストリアンデッキの上から塚野達を見下ろしている1人の女子高生の姿があった。その女子高生は、ちょっと前に塚野と大地が擦れ違った人物だった。

 

「倉庫から引っ張り出してきたんですが、すっかり錆びついてしまっていて、レストアにえらく骨を折ったもんです」

「そのディスカバリー高校にあったのって、これで全部?」

「はい。正直これだけじゃどうしようも無いんですが、うちの高校、なかなかどうして貧乏で」

 

 桐山が言った。何となくがさつそうな伊関とは違い、こちらは丁寧そうな印象を受ける。トラクターや大砲のレストアをしたのが彼女だろうか?

 

 そんな事を考えていると、塚野と大地が擦れ違った人物がどこからともなく現れ、いきなり伊関にこう言った。

 

「手を見せて」

 

 伊関は仰天したが、それもそうだろう。いきなり見知らぬ人間に『手を見せろ』などと言われて、『はいどうぞ』と反応など出来るわけがない。

 

「…えっと、占い師?」

「いいから見せて」

 

 有無を言わせずその女子高生は伊関の右手首を握って掌が上に来るよう引っ繰り返した。

 

「あいた!」

「…あなた、本当に戦車道やってたの?」

 

 伊関は手を振り払って不機嫌そうに答える。

 

「そ、そうだよ」

 

 いきなり現れた女子高生は、しげしげと伊関と桐山を見た。

 

「…どうだか。多分、嘘ね」

「え?」

 

 大地が困惑する。「でもオイルの臭いはしていたし…」

 

 すると女子高生は、大地がこちらの臭いを嗅いでいた事を思い出したようだ。

 

「ああ、それであんな変な事を」

「え、まあ…」

 

 女子高生は、今度は塚野に顔を向けた。

 その時塚野は、彼女がどうやら欧米系のハーフの顔立ちをしている事、虹彩が淡いブルーである事に気付いた。

 

「あなた、ここの隊長?」

「は、はい…そうです…」

 

 この女子高生が見せるブルーの虹彩のようにクールな迫力には、塚野も思わず敬語になった。

 

「この2人、偽物よ。あなたの隣は本物だから安心して」

 

 そう言うと、伊関と桐山の横を擦れ違うようにして立ち去ろうとした。

 

「あ、あの!」

 

 呼び止めたのは土橋だった。碧眼の少女は立ち止まり、肩越しに土橋を振り返った。

 

「何?」

「ひょっとして、戦車道の経験者ですか!?」

「だとしたら、なんなの?」

 

 一瞬迷ったが、塚野は誘ってみる事にした。

 この様子だと、厳しそうだが…

 

「うちのチームに入ってくれたら嬉しいなあって…ダメです?」

「お断りよ」

 

 にべもなく断ると、碧眼の少女はまた歩き出し、塚野達をその場に残して立ち去って行った。

 

「…あーあ。臭いだけじゃ駄目だったねぇ」

「そのようです」

 

 塚野の指摘に、大地はあっさりと認めた。「でも私は本当に経験者ですよ?」

 

「…大丈夫、信じてっから」

 

 その頃、野島が伊関と桐山に詰め寄っていた。あまりの剣幕に、2人とも決まり悪そうに固まっていた。

 

「おい、なんで嘘ついたんだよ?」

 

 と、野島が問い質すと、伊関が口を開いた。

 

「私達、本当は吹奏楽部なんです」

「ん?どういう事だ?」

 

 この場にいるみんなが、吹奏楽部とトラクター及び大砲が繋がらなくて首を傾げた。

 

「私達の高校には吹奏楽部の砲術部というチームがあって、大砲を使った演奏に参加していたんです」

 

 と、桐山が説明した。「チャイコフスキーの1812年とか、アメリカ野砲隊のマーチとかの演奏です」

 

「聞いた事あるわね」

 

 と、佐伯が言った。「本物の大砲を使って空砲射撃をするんだったっけ?」

 

「はい、そうです」

 

 と、桐山は首肯した。「あの大砲は、その時使っていたもので、トラクターは大砲の牽引用でした。特殊な役目で私達も楽しくやっていたんですが、急に廃校になって、私達は解散させられる事になりました。でも私達はそれが嫌で、せめて自分達への餞別として、トラクターと大砲を持ち出したというわけです。元々廃棄処分にする予定だったので、誰も気にしませんでしたし」

 

「どうしてもトラクターと大砲を失いたくなくて、それで正体を偽ったんです」

「列車で移動する途中で2人を見つけて、トラクターと大砲が気になって、戦車道の経験者かと聞いてみたらそうだと言ったので、そのまま一緒に乗せて来たんです」

 

 と、田張が便乗の馴れ初めを語った。その時は作業車と一緒に列車に持ち込んだ補給物資の管理や整備にも多忙で、深くは尋ねなかったのである。

 

「かなり思い入れあるんだねー」

 

 鹿屋がそう言うと、伊関と桐山は同時に頷いた。恐らく二人は1門の大砲を受け持っていたコンビなのだろう。

 

「はい。家の都合で楽器を持てなくて、本当は吹奏楽部を諦めていたんですが、砲術部のおかげで参加出来たんです」

 

 伊関が言った。「楽器こそ演奏出来ませんが、大砲でみんなと合わせる事が凄く楽しくて、まさか夢が叶うとは思ってもいませんでした」

 

「他にもメンバーはいたの?」

 

 と、塚野が尋ねると、

 

「いましたが、解散と同時にみんな離れて行ってしまいました」

「お願いです。私達も戦車道に参加させて下さい!」

 

 桐山がそう言って頭を下げると、伊関もそれに倣った。「嘘ついた事は謝ります!戦車道経験者限定の募集だと言うので、何とか入ってしまえばこっちのものだと考えていたんです!」

 

「…塚野さん。部外者の私が言うのもなんですが…」

 

 と、それまで黙って話を聞いていた萩原が遠慮がちに言った。「参加を認めてもいいのではないでしょうか…?」

 

 塚野もそれについて考えていた。伊関と桐山が身分を偽って自分達に近付いてきた事を抜きにしても、戦車道経験者の募集を目的にここまで来たのだ。とは言え、2人の話を聞くに、無下にするのも気が引ける。

 

「スズやんスズやん」

 

 土橋がテントの下から自分のラップトップコンピューターを持って歩いて来た。「今ディスカバリー高校のサイト見てるんだけど、吹奏楽部に砲術部があったのは本当みたい」

 

 横から差し出されたラップトップコンピューターのモニターを覗き込むと、活動報告の中に吹奏楽部が大砲を使った曲の演奏を行った記事と写真が載っていた。その中には伊関と桐山の姿も写っており、彼女達が持参した100mm対戦車砲D-10Sも写っていた。

 

「私も賛成かな。彼女達をチームに引き入れるのに」

「うーん。どうすっかなぁ…」

「隊長はあなたよ。さっさと決めたら?」

 

 佐伯が不愛想な口調で促す。鹿屋と野島は、静かに塚野の決定を待っている。塚野がイエスと言えば伊関と桐山の参加は認められ、ノーと言えば2人の願いを聞き入れず、有無を言わさず追い返す事が可能だ。

 

 しかし、2人の参加によってもたらされるメリットの方が大きい。何よりもあの牽引砲だ。あれを手に入れれば、現状チームで最大火力の戦車を手に入れる事が出来るのだ。そして伊関と桐山は、あの大砲の扱いに慣れている。

 

 それに、嘘を吐いたとは言え、こちらの募集条件を見た上での判断だし、こちらを頼ってやって来たのだ。まだ戦車道経験者は大地だけになるが、それは残りの時間を使って探せばいい。さっき伊関と桐山の嘘を見抜いて行った女子生徒も気になるし、もしまだ転校先が決まらず会場に残っているのであれば、勧誘するチャンスはまだ残されている。

 

「オッケー。でももう隠し事は無いよね?」

 

 伊関と桐山の表情が一気に明るくなった。心底ホッとした事が、目に見えて分かる。

 

「ありません!」

「そんじゃ、2人ともウェルカムって事で!

「有難う御座います!」

 

 と、2人とも礼を言ってもう1度頭を下げた。

 

「トラクターは豆戦車に改造出来るので、戦力は5輌になりますよ」

 

 と、田張が塚野に言った。

 

「お、いいねそれ」

 

 

 

 1日目はそうして幕を閉じ、2日目に持ち越しとなった。

 

 あの碧眼の女子高生が転校先をまだ決めていなければ、会場のどこかで遭遇出来るだろう。

 

 

 

 続く

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