ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター6 戦力吟味

 結論から言うと、合同説明会2日目は散々だった。

 結局、戦車や装軌作業車との記念撮影を希望する者は多かったが、フロンティア学園の戦車道に参加を希望する経験者は、あれから誰も現れなかった。

 

「あの人、やっぱり他の高校に転校したのでしょうか?」

 

 2日間に渡る合同説明会が終了し、撤収作業を手伝っていた萩原が言った。

 

 昨日の昼休憩に出会った碧眼の少女の事だ。

 

 伊関と桐山が偽経験者だと暴いた後、自分が戦車道経験者だという事を認めたが、戦車道への参加は拒否した…と言うよりは、戦車道に関わる事を避けているように見えたが、気のせいだろうか。

 

「…はあ、2日目は散々だったねぇ」

 

 塚野が折り畳み机の脚を折り畳みながら溜息を吐いた。

 

「でも来た甲斐はあっただろ。まさかメンバーも戦力も増強出来るとは思ってなかったぜ」

 

 野島が言う『メンバー』、即ち大地、伊関、桐山の3人は、フロンティア学園艦に引っ越す準備の為、昨日の時点で先にそれぞれの自宅に帰宅していた。

 荷造りが終われば、ひとまず最低限の荷物を持った上でフロンティア学園艦に先行して乗り込む手筈となっている。

 引っ越し用の荷物は、出航前の最後の貨物便に混じって学園艦に積載される予定なので、かなり大忙しの筈だ。

 

「…ま、あんまり贅沢は言えないよねぇ」

 

 思えば非常に幸運だったと言える。

 収穫ゼロで終わる、という確率の方が格段に高かった筈だが、そのような事態だけは避けられたというわけである。

 

 

 

 とは言え、やはりしょげているように見えたらしい。

 遠くから撤収作業を眺めていた碧眼の少女は、一度背を向けて1、2歩進んだところで立ち止まり、

 

「…ああもう。だから駄目なのよ、私は」

 

 と、自嘲気味に小さく呟いたが、意を決したように塚野達の方へ身を翻した。

 

 

 

 碧眼の少女の名前は村江カルラで、 新戸学園と言う高校出身の3年生で、イタリア人の母と日本人の父の間に生まれ、苗字のカルラは母の祖母の名前が由来との事である。

 

「どうしてまた気が変わったんです?」

 

 屋外ブースの撤収作業中に転校を申し入れて来た村江に、塚野はそう尋ねた。

 相手は他所から来た3年生という事で、さすがに初対面からため口は躊躇ったようだ。

 

「結局転校先が決まらなかったし、あなた達がなんだか惨めに見えたから放っておけなくなったのよ」

「そんなに惨めだったかなぁ」

「傍から見てたらね」

「でも、これで経験者は2人だな」

 

 と、野島が言った。「これは大きいぜ」

 

「ああ、あの鼻が利く子ね」

 

 村江にはフロンティア学園の戦車道チームの現状を説明したが、その上で彼女は撤回しなかった。

 

 ただ、大地や伊関、桐山に対してもそうだが、元々は塚野の退学回避を賭けた創設であるという事は言えなかったので、大洗女子学園の活躍に影響を受け、便乗した形のチーム創設であるという説明にしてあった。

 

 村江の気が変わった理由については、聞かないで欲しいとの要望だったので、突っ込んで尋ねるという事はしなかった。

 もしそんな事して気が変わられたら痛手だ。

 

 

 

 翌日から、村江は大地と一緒に廃倉庫前に並んだ5輌の戦力の前に立っていた。

 まだ制服を購入していないので、元居た高校の恰好のままだが。

 

「この戦力、あなたはどう思う?」

 

 腕を組んで戦力を眺める村江の横で、大地は右手を腰に当てていた。

 事前に話を聞いていても、いざ目の前にすると頭が痛くなってくる。

 

「うーん。やっぱりカヴェナンターがネックですね」

「やっぱりそうなるわよね…」

 

 すると、SPK-5の右側の転輪の1つをチェックしていた田張が振り向いた。

 

「一応改造で、蒸し風呂地獄になるまでの時間を遅らせてありますよ」

 

 村江はゆっくりと息を吐きながら田張を見た。

 

「戦車道は長期戦になる事も多いから、蒸し風呂になるカヴェナンターはその点不利になりやすいのよ。乗ってる人は大変だから」

 

 村江にとっては、蒸し風呂地獄になる事が問題なのだ。

 試合中に自滅してしまうのは好ましくない。

 

「いや、オリエンテーションの時は本当に悪夢だったよ…」

 

 土橋はオリエンテーションの時の事を思い出して顔をしかめていた。

 

「確かに。あれはきつかったですね」

 

 田張も苦笑しながら頷く。

 彼女は特にラジエーターの過熱が直に伝わる操縦席にいたから尚更だろう。

 

「私もちょっと調子崩しました」

 

 萩原も右に同じくである。

 

「とは言え、ここの貴重な戦力ですし…」

 

 大地が頭を捻りながら言った…そうすれば知恵が絞り出て来るかのように。「なんとか使いこなさないと」

 

「そうね。でも戦車が戦車だし…」

 

 カヴェナンターの持つ悪い特性故は、他の戦車道チームも運用を敬遠する程だ。

 代わりは幾らでもあったので、今までカヴェナンターの活用法を考えた事が無かった。

 

 このチームは予算がかなり限られており、当分使っていくしかなさそうだった。

 

 欠点があれば欠点があるなりに工夫すべきだが、今すぐには思いつかない。

 

「ただ、人数の問題もありますし、カヴェナンターは一旦棚上げでいいかと」

 

 人員の割り振りとしては、ルノーUEが2名、ハリーホプキンスが3名、SU-100が4名、そしてカヴェナンターが1輌につき4名の、合計8名。

 即ち定員を満たす為に17名が最低限必要となるが、今の人数は14名で、あと3名足りない。

 

 そこへ塚野と野島がやって来た。

 

「新しい会議室の許可取れたよぉ!」

 

 戦車道のメンバーが増えた事で、今までの小会議室では手狭になる為、新たな会議室の使用許可を生徒会に取りに行っていたのだ。

 

 塚野が手にしているA4書類は、正にその申請書類だった。

 因みに佐伯と鹿屋は、先日の合同説明会の報告書作成に時間を取られていて欠席だ。

 

「テント張りの申請は?」

 

 と、村江が骨組みだけのテント倉庫を指差した。

 いつまでも戦車を吹きさらしにしておくわけにはいかないからだ。

 

「凄いね。本当に生徒会から校舎設備の修繕目的で費用を出して貰える事になったんだけど」

 

 塚野が3年生の村江に普通の話し方をしているのは、村江が今後は普通に話してくれても構わないと言っていたからであり、決して塚野が非礼というわけでは無い。

 

「ほら、うまくいったでしょ?」

 

 と、大地が得意げに言った。

 

 これは村江や大地の提案で、色々と費用が掛かる戦車道で出来るだけ出費を抑える為、設備の修繕や補給物資の入手に、校則を活用した裏技を身に着けていた彼女達ならではの知恵だった。

 

「あと、倉庫増設の方はどうなりました?」

「うーん。こっちは駄目だった。正確には『検討する』だったけど」

「それだとダメそうね…」

 

 村江が手狭な敷地を見回して溜息を吐いた。「まあ元々狭いから、逆に増設しない方がいいかもしれないけれど…」

 

 テント倉庫跡の面積はあまり広くない。

 まだ2、3輌の戦車を収容する余裕はあるが、5輌を搬入した時点で重箱に詰め込んだような様相であった。

 

「んで、さっきは何の話してたの?」

「人数の話。17人必要だけど、3人足りないのよ」

 

 村江がそう説明した時、塚野は萩原と目が合い、1人増やすアイデアが閃いた。

 

「そうだ。おハギもカウントしない?」

「え!?」

 

 塚野の唐突な提案に、予想していなかったおハギこと萩原が驚愕で目を丸くした。「私が乗るんですか!?」

 

「そ。密着取材できるし、やったね?」

「あ、でも…勿論戦車に乗れたら文字通りの密着取材は出来ると思いますけど…」

「ヘッドセットカメラにしたら解決するだろ?」

 

 と、いつもなら塚野に異議を申し立てる野島も、今回は塚野の意見に賛成の様子。

 

「え、なんか乗る雰囲気になってますが…」

 

 冷や汗を流しながら助けを求めるように他のメンバーを見回す萩原だが、

 

「でもミツキちゃん。きっといい画が撮れると思うよ?」

 

 土橋もどうやら萩原を引き摺り込むつもりのようだ。

 

 とは言え、確かに手持ちカメラでは無く、頭に録画用カメラを装着すれば、ドキュメンタリー映像を撮影出来る筈だ。

 それに、 傍観者ではなく、当事者としての記事は、当然質が違って来る筈だ。

 

 最初は不意打ちで動揺していたが、そう考えると自分も戦車に乗りながら取材するのは良いアイデアのように思えて来たし、何より、デスクの座を射止める確率が高くなるかもしれない。

 

「…では、割り振りはお任せします」

「うっし、1名ご案内」

「それで15名。意外と何とかなりそうですね」

 

 大地の意見に、村江も首肯した。

 

「そうね。じゃあ次はこれだけど…」

 

 村江が話題をSPK-5に移すと、田張が車体を叩きながら説明する。

 

「これはSU-100に改造します。現状、ここの最大戦力になるでしょう」

 

 村江はSPK-5の隣に並ぶ100mm対戦車砲D-10Sを見た。

 田張の言う通り、SU-100はこのフロンティア学園の戦車道チームで中核となるだろう。

 

「黒森峰やプラウダ相手に、正面を張れるのはこれだけね」

「ハリーホプキンスとルノーUEは、索敵要員になるかと」

 

 大地の所見に、村江も頷き返す。

 

「索敵で敵の居場所を先に把握して、SU-100は有利な場所で待ち伏せ…現実はそう簡単に行かないけれど、まずはそんなところかしら」

「でも、そもそもの話をして悪いんだけど、練習用の敷地が無いと始まらないよね…」

 

 土橋の指摘は一理も二里も三里もあるが、塚野や野島は「うーん」と難しそうに唸る。

 

「生徒会の話じゃ、もう無理かもって話なんだよねぇ…」

「何とかなりませんか?ぶっつけ本番では瞬殺されます」

 

 大地の問いに、野島がかぶりを振る。

 

「こればっかりは何か他の手を考えないと駄目だな」

「一般公開練習はどうですか?ほら、自衛隊もやってるあれです」

 

 萩原が指していたのは、年に一度、東富士演習場で陸上自衛隊が主催する総合火力演習の事だったが、

 

「アウェイなのに強行したら余計に反対されると思うよ?」

 

 と、土橋が言った。

 

 しかし、このまま手をこまねいているわけにもいかない。

 このままだと、悪戯に戦車とメンバーを持っているだけの、ただの置物チームと化してしまう。

 

「なんかさ…その…貸会場みたいなのって無いのかなぁ…?」

 

 塚野がなんとなしにそう呟くと、村江がポケットに手を突っ込み、

 

「…宮口先輩なら何か知ってるかしら」

 

 そう言いながら取り出した携帯電話を弄る村江に、塚野が問い返す。

 

「…宮口先輩?」

「先輩と言っても10くらい年が離れてるけれど…」

 

 

 

 続く

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