ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
3日後、塚野達は列車の中にいた。
電気機関車を先頭に、客車を数両と、フロンティア学園戦車道チームの全戦力5輌を1台ずつ積載した台車5両の編成であった。
そして作業車だったSPK-5とアレクト・ドーザーはSU-100対戦車自走砲とハリー・ホプキンス軽戦車に、非武装だったルノーUEは右座席部分に箱型戦闘室が増設され、ボールマウントに7mm機銃が搭載された豆戦車仕様に改造されていた。
田張たち機械部の功労である。
この特別列車は、山梨県内にあるイズベスチヤ社という会社にに向かっていた。
村江の10年先輩、宮口恵良は塚野達に耳寄りな情報をもたらしてくれた。
彼女と同期で親友でありライバルでもあった足羽香林という人物が、政府や日本戦車道連盟が支援する戦車道人材育成企業であるイズベスチヤ社を創設したばかりであり、ここに塚野達のチームを最初の教導相手として頼み込んでくれる事になったのだ。
村江の話では、宮口はサンダース高校卒業生、足羽はプラウダ高校卒業生で、試合で相対する度に砲火を交えて来た仲だったらしい。
また、萩原や生徒会広報の宣伝で、学園艦に住む一般人から10人ばかりの見学者も参加を表明して特別列車に同乗しており、今回のイズベスチヤ社での訓練は、フロンティア学園戦車道の活動を理解して貰う良いイベントになるだろうと期待された。
見学者の中には、学園艦艦長である野島の祖父も加わっている。
訓練期間は2日だが、敷地内には豪華では無いが快適な宿泊施設もあり、時間や経済力が許す限り、何日でも滞在が可能だった。
「ねっむ…」
口を大きく開けて欠伸する野島の鼻先に、ブラックコーヒー入りのボトル缶が突き出された。
持主は塚野だ。
「飲む?」
「いらねえよ。余計な事すんな」
迷惑そうに軽く振り払う野島だが、欠伸をかみ殺しても歯の間から空気が漏れ出る。
「欠伸したらおじいちゃんにお叱りを受けるんでしょ?」
「いいからいらねえっつってんだろ」
時刻は9時を回ったところだが、朝早くから行動した事もあり、今になって眠気が襲ってきたのである。
周りのメンバーはと言うと、窓際にもたれたり、背もたれを後ろに傾けた状態で眠っているが、塚野や野島は、それぞれ隊長と副隊長としての立場からか、頭がスッキリしていた。
2人の他には、村江と大地がA4用紙の束を手に何か話し合っているものの、内容までは聞き取れない。
それから更に1時間くらい走ると、特別列車は漸くイズベスチヤ社の敷地内に入った。
イズベスチヤ社の敷地内の一部には、この特別列車の為に線路が敷かれており、鉄道経由で直接乗り入れる事が可能となっているのだった。
駅ではわざわざ足羽教官が塚野達の到着を待ってくれていた。
「みんな初めまして。足羽香林よ。カリンカ教官と呼んで頂戴」
「隊長の塚野スズネです」
「宜しくね」
握手をしながら、塚野はカリンカ教官の事を背の高い人だと思った。
それに、この前出会った蝶野教官と比べるとクールな感じだが、同時に話しやすそうな印象も受ける。
プラウダ高校の生徒は、こんな感じなのだろうか?
「恵良から聞いているわ。2日間だけど、練度向上を目指しましょう」
「はい、宜しくお願いします」
すると、カリンカは不思議そうに塚野を見た。
「ふーん。ちょっと意外ね」
「え、何がですか?」
「いや、なんだかギャルっぽいから、もうちょっとこう、フランクなのかなあって思ってたんだけどね」
塚野は最初のオリエンテーション以来、化粧を最低限にしているが、やはり雰囲気は出てしまうものらしい。
「ああ、今は借りて来た猫です」
「こら、余計な事言うなし!」
野島とのやり取りを見て、カリンカは納得だと言うように何度も頷きながら笑った。
「なるほどなるほど。確かにその方が自然ね」
そう言った後、「それで、あなたが副隊長?」
「はい。野島カエデです」
「あなたも同じその…ギャルっ子?」
「そんな感じです。自分で言うのもなんですが…」
「ノイジーも十分『借り猫』じゃん」
すると村江が咳払いをして、
「ええ、早速ですが…」
「そうね」
カリンカは一瞬で顔を引き締めた。
さっきまでの話しやすそうな印象とは打って変わって目つきが鋭くなり、その場の全員の思わず身を引き締めた程だ。
「では、塚野隊長。宿舎に荷物を預けたら、みんなを車庫に集合させるように。戦車はこっちで下ろしておくわ」
塚野もここは集中して、ハッキリと返答する。
「…はい!」
でないと、恐らく良い結果にはならないだろうし、敢えて冒険する勇気はさすがに無かった。
それから15分で、カリンカの指示通りに宿舎へ荷物を預けると、塚野はメンバー全員を車庫前に集合させた。
車庫は横に15棟並んだ一群が2つ、互いに向かい合っており、30輌の戦車を収容可能だった。
その内の5棟に、フロンティア学園の戦車が収容されている。
まだを5輌分を満たす人員は揃っていなかったが、ひとまず前日までに割り振りを終えていた。
「うちにもこんなのあったらいいなぁ…」
塚野がそう呟いた直後、カリンカが現れ、塚野達の前に立った。
やはりクールながらキビキビしている。
「じゃあみんな。まずは基礎訓練から始めるわよ」
カリンカは最初にそう言った。「ここを出て左に折れて、真っ直ぐ進んで行った所に練習所があるから、まずはそこまで戦車に乗って移動する事。いいわね?」
誰に言われたわけでもなく、全員が一斉に「はい!」と返事した。
乗員の割り振りは、SU-100に村江、伊関、桐山、萩原の4名、ハリー・ホプキンスに大地と土橋と五十嵐の3名、ルノーUEに佐伯と鹿屋の2名、そしてカヴェナンターは1輌目に塚野と田張と尾鷲の3名、2輌目に野島と安藤と中村の3名となっていた。
但し固定の配置では無く、車輛や役割を交代しつつ、各メンバーの適性を確かめて行く予定であった。
因みに佐伯と鹿屋は、蒸し風呂地獄になるカヴェナンターに乗る事を揃って嫌がって豆戦車を選んでいた。
エンジンを始動させると、塚野が乗るカヴェナンターを先頭に、SU-100、ハリー・ホプキンス、ルノーUE、最後に野島が乗るカヴェナンターの順番で車列を組み、カリンカが指定した練習所まで移動した。
ルノーUEを除く4輌は、操縦手を戦車道経験者や機械部が担当した事で移動はスムーズだったが、素人の2人が乗るルノーUEは列からはみ出たり、急に加速して前のハリー・ホプキンスにぶつかりそうになったりと『落ち着き』が無かった。
「ちょっと。ちゃんと運転してよ!」
「佐伯ちゃんがやってよー!」
「あなたの方が吞み込みいいじゃない!」
「慣れるまでダウンロードが長いんだってー!」
その瞬間ルノーUEは急に加速したので、鹿屋は慌てて制動を掛けたが、前のハリー・ホプキンスに追突してしまった。
「ああ。やっちゃったー」
追突されたハリー・ホプキンスの砲塔のハッチが開いて、大地が心配そうな顔を覗かせた。
大地が咽喉マイクに手を当てると、佐伯と鹿屋の耳に大地の声が入って来た。
「代わった方がいいですか?」
「ああいや、ごめんね!平気平気!」
戦闘室のハッチを開いた佐伯がジェスチャーを交えて断ると、大地はまだ心配そうにしつつ砲塔内に引っ込んだ。
一方で鹿屋は佐伯に愚痴を垂れていた。
「なんで断るのー!代わりたかったー!」
「後で交代するから、我慢して」
そういうハプニングもあったが、5輌は練習所に辿り着き、そこではカリンカがT-70軽戦車の車上に立って待っていた。
いよいよ塚野達にとって本格的な訓練が始まる。
続く