ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
唸りを上げながら飛んできた100mm徹甲弾は、塚野車と村江車の正面5m程手前に着弾し、その衝撃が車内を揺るがした。
「うわっ!」
「す、凄い衝撃…!」
村江車の中で、田張と伊関が思わず首をすぼめた。
まきあげられた土や砂利の音が天板に落下したらしい、バラバラという音が頭上で鳴り響く。
大口径弾がもたらす大音響や振動は、今回の練習試合が初めての経験なので、動揺しても不思議ではない。
そんな二人を見て村江も、初めて戦車に乗り、練習で砲撃戦を交わした時の事を思い出したが、その時の反応はやはり二人と同じようなものであり、なんとなしに懐かしさを感じたのだった。
「落ち着いて。やられたわけじゃないわ」
冷静な口調でクールダウンを促した村江は、着弾時も怯まずに頭を出していた。
さすがは戦車道経験者だけあって、こんな事には慣れっこの様子だ。
「村江さん、バックしていいですか?」
田張がそう聞いてきたが、村江は
「ちょっと待って」
と言いながら双眼鏡で一度正面の様子をざっと確認した。
最初にSU-100を見ると、長大な100mm対戦車砲D-10Sを小刻みに動かして照準を調整している様子が見て取れた。
それから手前が見えるよう倍率を下げると、丘に向かって来る2台の戦車が見えた。
「ルノーは右から接近して下さい!こちらは左から接近します!」
大地の指示に従って、ハリーホプキンスとルノーUEは左右に広がり始めた。
ハリーホプキンスはこちらから見て右から、ルノーUEは左から回り込んでくるつもりだ。
ルノーUEは機関銃しかないので、カヴェナンターにとって厄介なのはハリーホプキンスだ。
乗っているのは、恐らく大地だろう。
それから村江は、左にいる塚野車を見た。
「そっちは大丈夫!?」
さっきの攻撃で動揺しているとまずいと考え、声をかけたのだが、予想外の反応が返ってきた。
「すっごいじゃん!これ最高じゃね!?」
ハッチを開いて顔を覗かせた塚野の表情は、実際動揺とは真逆の、興奮で高揚しているように見えた。
「それ本気で…」
佐伯が塚野を見上げた直後、SU-100が第2弾を放ち、今度は塚野車と村江車の間に着弾した。
「さっきより近い…いい腕してるわね」
そう呟く村江に対し、塚野は
「うっひょお!もっと撃ってこーい!」
と、完全に有頂天状態である。
変わった反応だが、ひとまず隊長としての適正はありそうな気がする。
が、このままでは危険だ。
「少し後退。3発目が来る前に」
「本当ですね」
田張が待ってましたとばかりに操作の腕を動かして村江車を4m程度後退させると、塚野車もそれに倣って村江車と同じぐらいの距離を後退させる。
できればSU-100に直接反撃したいところだが、生憎敵は2ポンド砲の有効射程外、1km以上先にいる。
「隊長、私が指示するのもあれだけど、お願いがあるわ」
「何なりとどうぞ!」
「左から回り込んでくるルノーを撃破して。ハリーホプキンスはこっちで食い止めるから」
「でもSU-100はどうするの?」
塚野は意外と平静さを取り戻すのが早いらしい。
これは頼もしい限りだ、という感想を村江は抱いた。
「後で始末するわ」
「オッケー!」
「敵が奥に引きました。どうしますか?」
桐山が照準器から目を離しながら、野島に指示を仰いだ。
「ここに居ても仕方ねえってことだよな…」
そう呟くが、相手がこちらにまた姿を晒して来た時の事を想定すると、やはり動くべきではないのではないか、という考えも頭をよぎる。
こちらは2ポンド砲の影響を受けない優位な距離から砲撃しているので、接近するとその優位を捨てる事にもなる。
まあ、正面装甲は厚めなので、よもや簡単に白旗を上げるような事態にはならないと思うが、SU-100は固定砲塔の対戦車自走砲だ。
側背面に回り込まれると一瞬で主砲の能力が封じられてしまう。
実際のところ、どちらが正しいか判断はつかないが、野島としてはここでじっと構えているのは性に合わなかった。
「こちら野島。こっちも前進する」
対する大地の返答は予想していた制止では無かったが、ちょっと考えたようで、一瞬の間があった。
「…了解。敵はもう射線に入ってこないでしょう」
「おっし。前進だ」
「合点でさあ!」
安藤の応答と同時にエンジンが一声唸りを上げると、SU-100は前進を開始した。
「丘を登り切ったら、敵戦車同士の間に割って入りながら煙幕を展張してください!」
「まじですかー!?」
機関銃のグリップを握りしめる鹿屋の視線の先には、こちらに砲口を向けるカヴェナンターの姿があった。
丘の上から狙われているからなのか、酷く圧迫感を感じる。
グリップを握る手に、更に力が入った。
「もうちょっと車体を動かして!」
「はい!」
2ポンド砲の狙いをつけている佐伯の注文に従って、中村は車体をもう少し左によじらせた。
緊張のせいか、車内の温度が急激に上昇したように感じる。
佐伯は左手の甲で額の汗を拭った。
照準器の中では、横切るように移動するルノーUEを捉えていた。
塚野からは、任意のタイミングで射撃しても良いと許可されている。
砲塔を少し回し、照準点を未来予測点に置く。
やがてルノーUEの小柄で背の低い車体が射線に入り…
「発射!」
が、2ポンド砲から弾丸は飛び出さなかった。
「何!?不発!?」
塚野が困惑した口調で問うが、佐伯も何が起こったのか理解出来ていなかった。
その間にルノーUEは塚野車の射線から完全に逃れ、更に数メートル進んだところで土を飛び散らせながら左に急転回すると、斜面をよじ登り始めた。
村江車から発射された砲弾がハリーホプキンスのすぐ後ろを掠め、相手に回避行動を取らせた。
「くっそ!外した!」
「落ち着いて狙って!」
舌打ちする伊関に、村江はそう声を掛けながら次弾を装填した。
装填手が不足しているので、村江がその代理となり、伊関には砲撃に集中して貰っているのである。
「当たれ!」
伊関は再び発砲したが、今度は前方を掠めたのであった。
「うわ!近いですね!」
五十嵐が目の前を通過していった砲弾に驚いて、思わず声を上げた。
「こっちも負けてられないよ!」
土橋が砲塔を回しながら叫ぶ。「返り討ちにしてやる!」
「停止射撃は出来ませんよ!」
「構いません!」
しかし案の定、こちらも明後日の方向に外した。
「…あ…」
佐伯は不発の理由をすぐに突き止め、そのとんだ凡ミスに思わず間の抜けた声を上げた。
ただでさえ暑くなってきた車内で、佐伯の体が恥ずかしさでカーッと熱くなった。
鏡があれば、自分の顔がみるみる朱に染まっていく様子が見られたに違いない。
「どしたの?」
「ごめん!装填し忘れてたわ!」
「え、ちょ、マジ!?」
塚野の焦る声を頭上に受けつつ、佐伯は大慌てで砲弾をラックから引き抜こうとするが、汗で手が滑って思うように手が掛からない。
しかしどうしてこんな簡単な事が頭から抜けていたのだろう。
そんな事を考えているとどうしようもなく自分に腹が立ち、内心自分を罵りながら佐伯はやっと砲弾を引っ張り出して装填に取り掛かった。
「ルノー、こっちに向かって来まーす!」
中村が注意を促した直後、豆戦車の機関銃が火を噴き、無数の銃弾がカンカンとカヴェナンターの車体を叩いて火花を散らした。
弾丸を体に食らっては洒落にならないので、塚野は思わず車内に体を引っ込めた。
その代わり、こっちも同軸機銃の引き金に右手の人差し指を掛ける。
隣では、まだ佐伯が装填作業を行っている。
「撃たれたら撃ち返すんじゃあ!」
塚野車の機関銃も応戦し、互いに銃弾のシャワーを浴びせ合いする形となった。
「ひやあ!撃ち返してきたよー!」
鹿屋が悲鳴を上げて、思わず引き金から人差し指を放した。
狭い箱型戦闘室だと銃弾が当たって跳ね返される感触が、なぜか肌で感じられて嫌な鳥肌が立ち、顔が冷や汗に覆われるのだった。
「大丈夫なので撃って下さい」
と、尾鷲が冷淡に言った。
彼女自身も頭を保護するドーム越しに銃弾が当たる音を聞いている筈なのに、鹿屋とは対照的に平気なようだ。
「あと、いちいちリアクションが大げさだと思います」
「そんな事ないってー!」
そう反論しながら、鹿屋は機関銃を構え直して射撃を再開した。
夢中になって撃っていると、カヴェナンターの砲塔が思い出したように再び動き出し、今度こそこちらに狙いを定めた。
が、佐伯は装填忘れの動揺からまだ立ち直っておらず、焦りからスコープの中心がルノーUEのギリギリ頭上に向けられた状態で発射してしまった。
徹甲弾は操縦手を保護するドームのてっぺんに引っ掻き傷を作っただけで、ルノーUEには命中せず、その後ろの地面に食い込んだ。
「外したわ!」
佐伯の動揺が余計に広がったのを見て取り、塚野も漸く自分が装填手を兼任する事を思いついた。
「ノープロブレム!次!」
そう佐伯を励ましながら2発目を砲尾に押し込む。
しかし時すでに遅し。
「うわ!な、何これ!」
中村の声に顔を上げ、潜望鏡越しに外の様子を伺うと、視界全体が真っ白になっていた。
村江が後ろの気配に気付いて振り向くと、ちょうどルノーUEが後部から白煙をもくもくとふかしながら横切っていくのが見えた。
塚野車と村江車の間に白煙のカーテンが仕切られ、互いを視認出来なくなってしまった。
咽喉マイクに手を触れる直前、佐伯の動揺した声が耳に入って来た。
「すみません!仕留め損ないました!」
原因を聞く前に、村江は分断された状況をどうにかする方へ思考を集中した。
「そっちに合流するから待ってて!」
「え、どうやって…」
塚野の疑問を無視して、村江は田張に命じる。
「真っすぐバック!急いで!」
「りょ、了解!」
田張も困惑しつつ、村江の言われた通りにした。
ハリーホプキンスの砲弾が砲塔を掠めたところで煙幕の中に後ろから飛び込み、長く感じられる2、3秒の後、煙幕の向こう側に出た。
見回すと、右側に塚野車がいた。
「一体何があったの!?」
「砲弾を装填し忘れていて…それで対処に遅れました…」
佐伯は言いにくそうにしつつ、しかし真相を正直に話した。
あそこでヘマをやらかしていなければ、恐らくこうはならなかっただろう。
すると、直後に塚野の声が割り込んだ。
「ああ…それ、あたしが確認してなかったから…」
「何言ってるのよ、私の責任でしょ」
「隊長は私だし」
「それより、ここから降りた方がいいわね」
村江の言葉で現状に話題が戻った。
「降りる?」
「ここはもうダメ。丘の上という優位は失われたわ。すぐに行動しないと」
しかし、相手の対応は予想以上に早かった。
塚野車の向こうに、丘の斜面を回り込みながら頂上まで登って来たハリーホプキンスの姿が見えた。
「目標確認!」
土橋が叫びながら、スコープ越しに手前のカヴェナンターに塚野が乗っている事を認めた。「あ、スズネちゃんだ!」
「停止!手前のカヴェナンターを盾にしてください!」
五十嵐は言われた通りにした。
これで村江車は、間にいる塚野車が邪魔でこちらを攻撃出来ない。
「土橋さん、今です!」
「はい!」
土橋は既に横っ腹を晒している塚野車に狙いをつけており、あとは撃つだけだ。
塚野車の砲は反対側を向いており、こちらに砲塔を回し切るまでに仕留める時間はたっぷりとある。
「バック!!」
ハリーホプキンスが停止した瞬間、塚野はそう叫んでいた。
どうして咄嗟にこの命令が出たのかは分からない。
ただはっきりしていた事は、後退すれば村江車に射線を通せるという事だ。
中村もすぐ命令に応じてカヴェナンターを後退させ、レールの上を滑る門のように村江車に射線を開いた
村江も塚野車の行動の意図をすぐに察し、狙いをつけていた。
対するハリーホプキンスは、遠近感が急に変わったのですぐに反応出来なかった。
村江のカヴェナンターが先に発射し、砲弾は被弾経始を考慮して斜めに構えた車体正面ではなく、垂直に構えられた砲塔正面の右側に命中した。
ハリーホプキンスはその衝撃で少し身を震わせた後、力無く白旗を上げた。
「ナイスショットォ!」
と、塚野が両手でガッツポーズを取った。
「すぐに後退してくれて助かったわ」
村江も塚野の判断を労うと、「次はSU-100を仕留めるわよ」
「ルノーは?」
「後回しでいいわ。機銃だから撃ち合いでは怖くないから」
村江はそう言いながら、額の汗を拭った。「それにしても早く決着を付けないと」
「ですね…」
伊関もハンカチを取り出して目の周りの汗を拭き取る。「そろそろしんどいです」
田張の方は、顎の先から汗の滴をポタポタと床に垂らしながら、辛うじて蒸し風呂地獄を耐え忍んでいた。
「すみません、やられました!」
大地からの通信を聞いた野島達は、少なからず動揺した。
残るはSU-100とルノーUEだが、まともに撃ち合えるのはSU-100だけで、おまけに心強い経験者を失った。
そして相手には、まだ経験者が生き残っている。
「ど、どうしますか…?」
と、萩原が野島を見た。
野島は体を包みつつある動揺を押しのけるように唸る。
「どうもこうもねえよ。やるしかねえんだろやるしか」
やがて丘の上に、姿を消していた2台のカヴェナンターが姿を現した。
最初はSU-100の主砲を警戒していたのに、今は堂々としている。
まずい事に、SU-100は大地達と合流する為にかなり前進しており、丘の麓まで100mと迫っていた。
そして見ていると、2台のカヴェナンターは左右に広がるように丘を駆け下り始めた。
こちらを左右から挟撃するつもりらしい。
さながら獲物を狩ろうとする捕食動物のようだ。
「おいルノー、今どこだ!?」
その頃ルノーは、丘の頂上に戻って来たところだったが、2台のカヴェナンターがSU-100目掛けてまっしぐらに突っ込み出した直後の事だった。
因みにハリーホプキンスがやられた事は、無線で聞いて把握している。
「おいルノー、今どこだ!?」
野島の呼びかけに鹿屋が応答する。
「丘の上だよー!」
「援護してくれ!カヴェナンター2台に襲われてるんだ!」
尾鷲がルノーUEを移動させ、SU-100を見下ろせる位置でアイドリングさせた。
眼下には、逆八の字を描くように左右に広がりながらSU-100に迫る2台のカヴェナンターが見えた。
「こちらの事はガン無視ですね」
と、尾鷲が言った。
「うわー。舐められたもんだねー」
「で、どうします?」
尾鷲は相変わらず淡々と喋り続けているが、実際のところ、どう行動すべきかを決めなければならなかった。
ただ、鹿屋にもどうすべきかは判断しかねた。
しかし行動しなければならない。
機関銃を構え直して叫ぶ。
「突撃ー!」
「分かりました」
ルノーUEも、カヴェナンターの後を追って丘を駆け下り始めた。
「えっと、どうするつもりなんでしょう?」
と、スコープ越しにルノーUEの行動を見た桐山が困惑気味に言った。
「…まあ、いいだろ…って、それよりこっちがやべえんだわ」
2台のカヴェナンターは、尚も左右に広がりながら丘を下り切り、いよいよSU-100への間合いを詰め始めた。
「どっち狙うんでさあ?」
と、安藤が聞いた。
SU-100は無砲塔戦車だ。
主砲は限定旋回式で、その可動範囲外を狙うには車体を旋回させなければならないが、そうすると反対側の敵に接近する隙を与えてしまう。
そのリスクを承知の上でやるしかないわけだが…
「…右からやるぞ」
「右ですな」
安藤はSU-100を右に回した。
このカヴェナンターは、左側のと比べて幾分距離の詰め方が早かった。
よって、一番近いこちらから対処しようというわけであった。
SU-100から見て右から迫るカヴェナンターは村江車だった。
「…狙われてます!」
田張の目が緊張で見開かれる。
蒸し暑さによる息苦しさが、余計に締め付けられるようだ。
「大丈夫。向こうからしたら、斜めに動いている敵は狙いにくいから」
「いつ勝負をかけるんです?」
汗まみれの顔をハンカチでふきふき伊関が息も絶え絶えに尋ねた。
もうすっかりハンカチは汗を十分に吸い込んで濡れ雑巾のようになっている。
「もう少し間合いを詰めてからよ」
それから塚野に連絡する。「隊長。準備はいい?」
「いつでも!合わせるよぉ!」
「了解」
村江は潜望鏡でSU-100の動きに注視し始めた。
「もう少し右!」
「あいよ」
桐山の指示に従い、安藤はまた少し右旋回させた。「これくらいでさあ?」
「十分です!」
照準を針路の先、つまり未来予測位置に置いて…「発射!」
「今!」
村江がそう言った瞬間、田張は車体を右へ急カーブを切った。
読み通り、同じタイミングで放たれた100mm弾は空振りに終わったのであった。
しかしここで村江車が限界を迎えた。
右に急カーブした直後、だしぬけにエンジンが咳き込むような音を立てながら黒煙を噴き上げ、よろめきながら完全に停止すると白旗が上がった。
エンジンがオーバーヒートを迎え、走行不能の判定となったのである。
「…自滅しましたね」
桐山が野島を見ると、野島は安堵のため息を吐いていた。
呆気なかったが、これで挟撃は免れた。
「よし、あと1輌か…」
SU-100が塚野車に向き直っている横で、村江車からオーバーヒートした3人が命からがら這い出て来て、向こう側に転がり落ちて行った。
「うわ、形勢逆転じゃん」
塚野はそう呟いたが、同時に他人事ではなかった。
こちらのカヴェナンターも、いつエンジンが断末魔を上げるか分からないし、自分達もいつまでサウナ状態に耐えられるか…と言うより、今すぐにでも脱出したかった。
しかしその前にSU-100とルノーUEを倒さねばならないのだ。
幸い、ルノーUEは後ろを追いかけてきているので探す手間は省けたが。
「どうします!?」
中村が聞いてきたが、やり直しは利かないので、答えは1つだ。
「そのまま突撃!」
ぐんぐんSU-100に迫る。
SU-100は車体を尚も旋回させており、距離を詰めに入った事で旋回半径が狭くなったこちらに砲口を向けつつあった。
「撃て!」
野島の号令で桐山は100mm砲を発射した。
弾丸は確かにカヴェナンターの通過点と交差していたが、着弾は車体の真下の地面であり、その衝撃でカヴェナンターは一瞬浮き上がったものの撃破とはならなかった。
左履帯から接地したカヴェナンターは小刻みに蛇行した後、再び一直線に走り出し、そのまま車体を右に傾けながら急旋回してSU-100の10m程真後ろで急停止した。
それから砲塔が回りだし、不利になってもこちらに砲を向けようと車体を回すSU-100の戦闘室真後ろに照準を合わせた。
「…貰ったわ」
佐伯がそう言った直後だった。
照準器の中を爆走するルノーUEが横切ったかと思うと、そのまま白の世界に塗り潰されてしまった。
武器が機関銃だからとノーマークだったルノーUEが、丘の上でした時と同じように煙幕を張ったのだ。
今度はカヴェナンターとSU-100の間を仕切ったわけだが、おかげで照準感覚が狂ってしまった。
「くそっ、とりま撃てぇ!」
塚野の命令に従って発砲したが、手応えが無い。
ついさっきまでそこにSU-100がいた筈だが、今の一瞬で射線から逃れたのだろうか?
佐伯の隣で、塚野が弾薬ラックから次弾を引き抜いて砲身に押し込む。
「オッケー!」
塚野が装填完了を告げた直後、何かが砲塔に当たる『ゴン』という鈍い金属音が車内に響いた。
「…何?」
佐伯が首を傾げる中、塚野は砲塔ハッチを押し開けて外に顔を突き出すと、音の正体に気付いて口をあんぐりさせた。
「あ…」
細長い金属の棒が、塚野車の右斜め前方から伸びてきて砲塔に突き付けられている。
「どうしたの?」
と、佐伯が声を掛けて来たが、塚野の耳に入っていなかった。
棒の根本に向かって視線をゆっくりと辿らせていくと、薄れていく煙幕の中にぼんやりと浮かび上がる角ばったシルエットが目に入った。
そのシルエットは紛れも無く、今正に仕留めんとしていたSU-100だった。
こちらが煙幕に困惑している間に旋回を終え、しかも運良く塚野車の居場所を煙幕の中から突き止めたようだ。
まるでピストルを頭に突き付けられたような感覚だった。
「で、何なの?」
佐伯が苛立たし気な口調で尋ねながら塚野の後ろから出て来たが、彼女もSU-100の存在に気付いて言葉を失った。
SU-100側も、塚野や佐伯がこちらを見ている事に気付いたらしい。
キューポラのハッチが開いて野島が顔を覗かせた。
「…チェックメイトだな」
「ねえノイジー」
「ん?」
「降伏してもいい?」
野島は顎を引いてちょっと考えたが、
「…この前吹っ飛ばしといてよく言えるな」
それはオリエンテーションで野島の乗るカヴェナンターを、塚野車が接射で吹き飛ばした時の事だった。
野島が手を振った。
「あばよ」
瞬間、塚野と佐伯は穴の中に逃げ込むウサギの如く車内に頭を引っ込めるのと、SU-100が接射で塚野車を弾き飛ばした。
高速でスピンしながらカヴェナンターは向こう側へと吹っ飛び、最後に小さな岩場につまずいた事で横転してから白旗を上げた。
「…私、吹っ飛ばされたのこれで二回目なんだけど…」
塚野の上に仰向けに折り重なった佐伯がそうぼやいた。
SU-100の右横に戻って来たルノーUEが停車した。
「ナイス援護だったぜ」
それぞれの戦闘室から出て来た鹿屋と尾鷲に、野島はサムズアップして見せた。
その上空に、空中ドローンが滞空する。
「Aチーム、残存車輛無し。よって、Bチームの勝利!」
判定係のカリンカ教官が野島チームの勝利を告げると、観客席の見学者達から、自然に拍手が湧き上がった。
<第2話・終>