ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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第3話 初陣
チャプター1 黒森峰女学園


まだエンジンから黒煙が燻っているカヴェナンターを、背中合わせにワイヤーで繋げたT-34戦車回収車が引っ張っていく光景を横目に、村江は上から差し出された田張の手を借りてGMCトラックの荷台によじ登った。

 このT-34戦車回収車は戦中生まれの作業車輛で、田張達が保有していた戦後生まれのSPK-5とは違う車種である。

 

 壊れていない方、塚野が乗っていた方のカヴェナンターも、別のT-34戦車回収車に牽引されていった。

 

「…おつかれぇ…」

 

 トラックの運転手から差し入れされたスポーツドリンク入りのペットボトルのキャップを外しながら、塚野がカヴェナンターの乗員達に労いの言葉を掛ける。「マジで死にそうだったよねぇ」

 

「もう勘弁してください…」

 

 田張が結露まみれのペットボトルを額に当てながら言った。「ホント死にそうです…」

 

 運転手が荷台後部の仕切り板を固定して運転席に戻ると、程なくしてエンジンが始動して走り出した。

 その際に吹き付ける風が、蒸し風呂地獄で汗まみれになった体に心地よい。

 思わず塚野達は「ホッ」と安堵の溜息を吐いた。

 

「まずはシャワーね」

 

 村江はそう言うと、冷えたスポーツドリンクを一刻も早く体内に流し込もうとがぶ飲みし始めた。

 

 

 

「あー、シャワー最っ高ー!」

 

 熱々のシャワーをたっぷり顔面に浴びた田張の歓喜の声が、風呂場に反響する。

 宿舎には戦車道の練習を終えた人間が汗を流し、リラックス出来る大浴場が設けられていた。

 

「リナ、補充の制服の手配は?」

「ああ、ちゃんとやってきたよー」

 

 広い浴槽の一角では、遅れて風呂場に入って来た鹿屋が佐伯の隣に腰を下ろしていた。

 今回の合宿では、各々2着分の制服を持参していたが、余分が必要だという考えから佐伯は鹿屋に国崎会長へ制服の追加を送って貰うよう依頼させていたのである。

 本来は佐伯の仕事だが、カヴェナンターの蒸し風呂地獄でほとほと消耗し切っていたので、まだまだ元気だった鹿屋に引き受けて貰ったというわけだ。

 

「生き返るねー」

「ホント、生き返る」

 

 お湯は体中に沁み渡って心地よく、その疲れも徐々に抜け出て行く感覚がした。

 

「あ、そうそう。ついでに会長も明日来るよー」

「え?忙しいだろうに…」

「なんか直々に訪問したいんだってー」

 

 その2人の左斜め前方では、村江と大地が今回の練習試合について話し合っていたが、シャワーを終えて浴槽に歩いてくる塚野と野島を目の端に捉え、そちらに顔を向けた。

 

「あ、隊長、副隊長」

「普通に名前で呼んでくれていいよぉ」

 

 そう言う塚野に、野島が

 

「そうもいかねえだろ」

 

 と、反論するが、大地が

 

「じゃあ、スズネ隊長、カエデ副隊長でも宜しいですか!?」

「もう全然オッケー!」

「なんであたしも巻き込んでんだよ」

 

 塚野と野島は、村江と大地の近くでお湯に足を踏み入れた。

 

「お呼びのご用件は?」

 

 塚野の問いに、村江は最初に「うん」と頷いた。

 

「今日の練習試合だけれど、みんな筋は悪くなかったと思うわ。特に、ルノーの2人がMVPね。私も実は…所詮豆戦車だと侮っていたわ」

 

 それを聞いた鹿屋が拳を突き上げた。

 

「イヤッホー!褒められちゃったー!」

「大袈裟過ぎ…」

 

 と、鹿屋のリアクションに慣れない様子の尾鷲がボソッと呟いた。

 

「ただ…」

 

 村江が塚野に言った。「声掛けはもっと意識した方がいいわね」

 

 丘の上でルノーUEに煙幕を張られて一時的に分断された時の事だ。

 村江は冷静に対処したが、ハリーホプキンスを牽制する事に集中していたので不意打ちに近かった。

「そうでないと、丘を捨てる事態にはならなかったかもしれないから。結果論だとは分かっているけれど、チームの情報共有は必要よ」

「うん。気を付けるよぉ」

「まあ、こっちも気を配るべきだったと反省してはいるけれど…」

「でもでも、凄い戦いだったよね」

 

 と、土橋も肩から下を水面の下に沈めた状態で4人の所に合流してきた。「今書いてる漫画の参考にしようかなあって」

 

「あ、そうだ、タイトルって決まったの?」

 

 塚野が聞くと、土橋はまだ納得が行ってなさそうに首を傾げながら

「一応、『タンク・ウィズ・ガールズ』にしようかなって」

「なんだか、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』みたいですね」

 

 と、大地がケビン・コスナー主演の1990年公開のハリウッド映画のタイトルを言ったが、

 

「あ、実はそれをもじったものなんだ」

 

 と、大地はその映画タイトルに影響を受けている事を認めた。「でもどうも納得出来なくて…他にいいタイトルがあったら、それにしようかなあって。まだ発表は先の予定だし…」

 

「んまあ、思いついたら提案すっかなぁ」

「タイトル募集中だから待ってるよ」

 

 その後も塚野達は心行くまでお湯につかり、明日に向けて英気を養った。

 

 

 

「ふう、サッパリしたぁ」

 

 宿舎に向かう廊下を野島や土橋と一緒に歩きながら、塚野が気持ち良さそうに大きく伸びをした。

 替えの制服なので、馴染みの制服にも関わらずスッキリして新鮮な着心地だ。

 

「でもなあ、カヴェナンターを使い続けたものか、ちょいと考えどころだよな」

 

 右を歩く野島も蒸し風呂地獄を経験しているからこそ、その言葉は一考の余地があるものだった。

 大地は有効活用法を探ると言っていたが、どうするつもりか皆目見当がつかない。

 

「また明日も頑張らないとね」

 

 と、野島の更に右を歩く土橋が言った時、後ろから呼び止める声があり、振り向くとカリンカ教官が見知らぬもう1人を伴って歩いて来るところだった。

 カリンカよりやや背が高く、髪型はカリンカのミディアムに対してこちらはボブだ。

 

「お疲れ様。今日は大変だったわね?」

 

 練習の時には厳しい一面を見せていたカリンカだったが、オフの時は初対面直後にも見せていた、とても柔和で親しみやすさが出ていた。

 フレンドリーで、それでいてどこか豪快だった蝶野とは違う印象を受ける。

 

「あ、まあ…あれは…」

 

 それでも練習の時のイメージがまだ脳内に残っており、塚野は慌てて伸びの姿勢を解いたが、もう1人のボブヘアが笑いながら、

 

「まあまあ、今は肩の力抜いていいからいいから」

 

 そう言いながら塚野や野島、土橋の肩を、まるで昔からの友人かのように親し気にポンポンと叩いて回った。

 その様子を見たカリンカが呆れたように、

 

「エラ、初対面なのに慣れ慣れし過ぎるわよ」

「エラって確か…」

 

 塚野はそう言ってすぐに思い出した。「あ、ひょっとして…宮口…エラ…さんですか…!?」

 

 村江カルラの10年先輩、宮口恵良はウインクしながらニッコリして見せた。

 

「That`s collect!! カルラちゃんがお世話になってるようね。感謝してるわ」

「は、はじめまして…」

「宜しくね!」

 

 塚野達と熱のこもった握手を交わすエラを見ながらカリンカが首を振った。

 

「…全く、サンダース時代から変わってないわね」

 

 最後に土橋と握手すると、エラは肩をすくめながらカリンカに首を振り向けた。

 

「カリンカだって全然プラウダの時から変わってないじゃない」

「どこがよ」

「ワーオ。無自覚なのね」

 

 カリンカはまたまた首を振り振り話題を変える。

 

「…まあいいわ。ところで、呼び止めたのは別の要件なの。明日、うちのアグレッサーチームと黒森峰女学園の練習試合があるんだけど、見学する?」

「え、黒森峰が来るんですか!?」

 

 塚野は驚いて思わず目を丸くした。

 

「きっといい勉強になるわよ」

 

 と、エラも誘った。「まあ、私はアグレッサーじゃなくて見学だけど」

 

 因みに明日も今日と同じように基礎訓練と練習試合をこなすメニューになっているが、強豪校の黒森峰女学園とアグレッサーチームの練習試合の見学は、違った学びをフロンティア学園にもたらすに違いない。

 

「どうする、隊長?」

 

 野島が塚野の判断を仰いだ。

 

「個人的には見学したいかなあ」

 

 と、土橋が意見として述べたが、塚野も既にどうするかを決めていた。

 

「はい、見学します」

「All right!そうなこっちゃ!」

「なんであなたが返事してるのよ」

 

 悪びれずにカリンカに振り替えるエラ。

 

「ええ?だって私だってこの子達をあなたに紹介したんだから、言う権利あるでしょう?」

「…はいはい」

 

 カリンカはそう軽くスルーすると、再び塚野達を見た。「じゃあそうと決まったら、明日のスケジュールを調整するから、夕食の後でいいから事務所に寄ってちょうだい」

「分かりました」

 

 エラが右手首に付けた腕時計を見た。「もうすぐ黒森峰が到着するけど、どんな戦車が来るか、見に行ってみない?」

 

 

 

 黒森峰女学園の戦車を積載した列車が近づいて来るにつれ、次第に荷台の上の戦車が何れも巨大でパワフルな外観をしている姿が見て取れるようになって来た。

 

「やばそう」

 

 そう呟いた塚野に、野島は

 

「デブいとか言ってなかったか?」

「あんだけいたら逆にびびっちゃうよぉ」

 

 田張整備工場で見た時は3輌だったが、今回は只事では無い。

 3輌どころか、ざっと見ただけでも10輌以上が確認できる。

 

 ティーガーⅠ、ティーガーⅡ、パンター、ヤークトパンター、Ⅳ号駆逐戦車…

 

「すっげぇ。マジで鋼鉄の猛獣じゃん」

「お前にしてはまともなセリフだな」

「いつもまともだし」

 

 塚野と野島の言い合いをよそに、土橋が感慨深げに呟く。

 

「…昔はあれが何百台もいたってことだよね…」

 

 それに対し、カリンカが簡単に説明した。

 

「ティーガーⅠの生産数が大体1350輌、パンターの生産数が大体5900輌。他の車種は…ちょっとど忘れちゃったわ」

「凄い数ですね…」

 

 目を丸くする土橋に、カリンカは意味ありげにニッコリ微笑んで見せた。

 

「フフ。でもね、旧ソ連のT-34は終戦までに57000輌近く生産されたのよ…あ、これ終戦までの話で、戦後も生産は続いているわ」

「え…」

 

 その圧倒的な数字に口をあんぐり開いた土橋を見ながら、エラがゲラゲラ笑った。

 

「凄い数よね。シャーマンの約50000輌よりも多いんだから」

「そ、そっちも多いですけど…」

「まあね~」

 

 そうこうしているうちに、列車が減速しながら駅に停車し、暫くして客車部分から黒を基調としたパンツァージャケットを着用した黒森峰女学園の戦車道チームメンバーがぞろぞろと下車してきた。

 

 最後に出て来た2人組のうちの1人が塚野と野島に気付いてちょっと手を挙げて見せると、塚野と野島も小さく手を振り返した。

 

「知り合いか?」

 

 彼女の動きに気付いた隊長らしき人物がそう尋ねると、

 

「はい隊長。この前、田張整備工場に行った時に会いまして」

「そうか」

「それにしても、パンター2輌の整備が遅れて冷や冷やしましたよ」

「まあ、カールの砲弾だから仕方あるまい」

 

 整列した黒森峰チームの前にカリンカが歩み出て行く中、塚野が聞こえないように小声で、

 

「ふむふむ。あの隊長、なかなか愛想が無さそうだねぇ」

 

 そのような感想を述べた塚野の尻を野島が強くつねった。

 

「ぐえ」

「あの人が西住まほ隊長ですよ」

 

 土橋の解説に、塚野は「あー」と、大きく頷いた。

 

「動画で見たあの子かぁ」

「お前嘘でも後輩だろ」

「ノイジーもそうじゃん…っていった…!」

 

 また野島が塚野の尻を強くつねったのだ。

 

「お望みなら野島先輩って呼ばせるぞ」

 

 痛みの追い打ちに顔を歪めながら体をよじる塚野の様子に気付いた何人かの黒森峰の隊員が、不思議そうにこちらを見てきたが、知らぬ顔で通した。

 

 こうして黒森峰女学園の戦車道チームがイズベスチヤ社に到着したのであった。

 

 

 

 続く

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