ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
この練習試合は殲滅戦ルールであった。
殲滅戦ルールが基本となるプロリーグを睨んだ練習試合なので、このようになっていた。
黒森峰は南東から、イズベスチヤ社は北西からスタートしている。
「うん。修理は問題ないみたいでよかったよかった」
観客席に座る田張工場長が、観戦用大型モニターに映る黒森峰のティーガーⅡやパンターを見ながら、満足げに何度か首を縦に振った。
昨日は来られなかったが、昨夜の黒森峰チームを乗せた列車に便乗してやって来たのである。
聞けば、どうやら黒森峰から、もう1つ仕事の依頼があったらしい。
「もう、パパったら自信もっと持ってよ」
娘の言葉に父親は恥ずかしそうに頭を掻きながら、
「いやあ、万一エンストでも起こしちゃったら、うちに仕事来なくなっちゃうからね。そうしたら明日の飯に困っちゃうだろ?」
「まあ、そりゃそうだけど」
一方、進軍する黒森峰女学園チームでも、田張親子の会話と似たようなやり取りが行われていた。
「赤星、パンターの調子はどうだ?」
「はい隊長。問題なく動いています!」
「よし」
赤星との交信が終わると、次はエリカに尋ねる。
「エリカ、そっちはどうだ?」
「快調です。さすがは田張整備工場ですね」
「ああ。技術と経験値の積み重ねといったところだな」
そう応じながら、西住まほ隊長は双眼鏡で右に広がる森をサッと右から左へなぞるように見回した。
エリカはそれ見て一度地図を確認し、
「右折ポイントはあと1km先です」
「分かっている」
ちょっと首を傾げて隊長の考えを推測すると、
「…敵も同じ手を使ってる可能性ですか?」
尚も双眼鏡を覗きながら、まほは小さく頷いた。
「ああ。向こうはこちらより機動力がある。それでいて火力持ちだ。奇襲は食らいたくない」
その森を挟んで進軍中のイズベスチヤ社アグレッサーチーム。
「こちら前方偵察隊。会敵予想地点に到達しましたが、未だ黒森峰の姿は見えません」
「了解。指示あるまでその場で監視を続行せよ」
「了解。監視を続行します」
一端偵察に先行させたT-44中戦車との通信を閉じると、IS-3重戦車に座乗するカリンカは半開きの地図に手を添えた。
彼女のIS-3の左右には、2輌ずつのIS-3、周囲には14輌ものT-44が隊列を組んで足並みを揃えて走っていた。
どちらの戦車も旧ソ連製で実戦には投入されなかったが、T-44は戦後ロシア主力戦車の設計に大きな影響力を与えた中戦車で、IS-3はその防御力を考慮して多用された曲面や傾斜装甲と強力な長砲身122mm砲で、当時のアメリカや英国といった西側諸国を驚かせた重戦車である。
「模擬市街地に向かったのでしょうか?」
左方手前を走るIS-3に座乗する田村真美子がそう言ったが、
「…うーん。あり得なくはないけど…」
カリンカは得心が行かぬ様子で、無線機を取ると、「後方警戒、右翼の森の向こうを偵察せよ」
イズベスチヤ社の戦車隊は、本隊の前方だけでなく、後方にも警戒用のT-44を配備していた。
こちらも1輌で、後方から不意打ちしようとする敵を発見する役割を担っている。
後方警戒のT-44が命令を受領すると、再び田村が口を開いた。
「…敵はこちらとすれ違うタイミングで方向転換して、こちらの後方に回り込む形で横槍を入れるとお考えですか?」
カリンカはゆっくりと頷いた。
「ええ、あり得るわ。それを今から確かめるのよ」
「こちら3号車、敵戦車隊を発見!」
Ⅲ号戦車J型からの報告は、右折ポイントまであと600mに差し掛かった時であった。
Ⅲ号戦車J型は、途中まで黒森峰本隊と進軍した後、単独隊列を離れて森の中へと消えて行き、互いに「直進」した場合の会敵予想地点が見える場所まで来ると、そこで茂みに身を潜めていた。
少し前に、イズベスチヤ社が前方索敵に放った1輌のT-44も発見しており、その情報から、まほはアグレッサーチームがこちらの居場所を類推し始めたと分析していた。
問題は、相手がどちらに注意を向けるか、だが…
「敵の針路は?」
と、まほがⅢ号戦車の車長に尋ねると、
「針路変わらず」
「…迷っているな」
「こちら側にいるか、北東側にコースを取っているか、ですね?」
エリカが言うと、まほは首肯した。
「ああ。だが感づかれるとまずい。予定を変更して、森を突っ切るぞ。敵が索敵方向を変える前に」
「了解」
エリカは周囲の味方を見回しながら森の方へ右手を振った。「全車右折!森の中を突っ切るわよ!」
突然の方針変更にも動じず、熊本県の強豪チームは1つの生き物のように隊列を右に転じて森に向けた。
まほは再度地図を確認しながら、
「この分だと、敵部隊の真横につけるな」
「こちら後方警戒。敵部隊を発見。全車右折して森に向かっています!」
「そこね」
カリンカは右手でガッツポーズを取った。
続いて後方警戒車輛からもたらされた位置情報から、このまま進むと黒森峰がこちらの真横から攻撃を入れられる位置取りになると分かった。
「こちらも相対して迎撃しましょう」
と、田村が意見具申したが、カリンカは地図を眺めながら、
「北東に転進」
「え?」
「敵はどこかに索敵車輛を配置して、こちらの動きを監視しているわ。だからタイミングよく方向転換したのよ。そしてその索敵車輛は巧妙に擬装していて、こちらも簡単には発見出来ない。となれば、逆手に取るわ」
「…では、模擬市街地に向かうのですか?」
「ええ。でも市街地には入らない。ちょっと考えがあるわ」
カリンカは無線機をオンにして、「前方偵察隊…」
「え、北東に?」
Ⅲ号の報告に、エリカは首を傾げた。
部隊は今しがた、森の中に入ったところであり、悪路の中を進軍するので進行速度は少し鈍っていた。
ただ、黒森峰チームはこういった悪条件のコース走破訓練もみっちりこなしているので、極端に遅くなるという事は無い。
「敵は…我々が北東にいると踏んだ…?」
「ふむ…」
まほは敵の行動を吟味した。
相手は社会人チームで、しかもアグレッサーチームだ。
当然、こちらの居場所を少なくとも二通りは考慮する筈で、それらの候補に索敵車輛を送り込んで確認してもおかしくない。
が、相手はそうする素振りも無く北東に転進した。
その先には模擬市街地があるが…
「我々が模擬市街地に陣取ると考えたのでしょうか?」
「否定はしないが、根拠としては薄い。我々はこちらから市街戦を仕掛けるという事は無い。よもや市街戦を想定したとしても、まずそこに我々がいるかどうか、先遣隊を派遣する筈だが…」
そう言ってからまほは、結論に辿り着いた。「敵はこちらの居場所を掴んでいるという事か…」
「え!?」
エリカが目を丸くしたが、
「そうとしか考えられん」
「じゃあ、敵の行動は陽動、という事ですか?我々を釣り上げる為の」
「あり得る。逆に市街戦に誘い込もうとしているとするなら、どうだ?」
「なるほど、確かに」
「だが足の速さは向こうの方が上だ。Ⅲ号に追跡させて、位置情報を常に把握させよう」
そう言うと咽喉マイクに手を触れ、「隊長から3号車へ。敵に見つからないよう追跡しろ。位置を常に把握しておきたい」
「3号車、了解!」
通信を切ると、まほは一人呟いた。
「森を抜けるまでに、どれだけ引き離されるか…」
「市街戦に誘い込む気でしょうか?」
「プラウダの引き込み作戦を狙っているという可能性は確かにあるわね」
村江の疑問に、宮口も一定の同意をしつつ、「でも、どうもそんな気はしないわ」
「どこかで反転して、仕掛けると?」
「そう。やられた事あるのよ」
それから5分が経過した。
黒森峰戦車隊は既に森を抜け、増速して平原を走っていた。
「こちら3号車!T-44にやられました!」
追跡中のⅢ号戦車からの悲報に、エリカが思わず声を上げた。
「え、どういう事!?見つかったの!?」
「いえ…偵察車輛にやられました…」
「本隊に合流すると見せかけて、Ⅲ号を探していたらしいな」
と、まほが結論付けた。
「そんな、こちらは目を失ったも同然です!」
「狼狽えるな。突発的な遭遇に備えるぞ」
「敵部隊、坂まで4分!」
尚も森の中から黒森峰の動向を探っていた後方警戒T-44から報告を受けると、カリンカは部隊を見回した。
「攻撃準備」
そして4分後、黒森峰戦車隊は坂を上り始めた。
勾配は全体的に緩やかだが、重量級の戦車が多い黒森峰にとってはこれでさえ速度が遅くなる。
しかし、この坂を越えれば模擬市街地まではまた平原続きである。
双眼鏡で周囲を見回したエリカが、
「…現れませんね」
「…やはり市街地で待ち伏せか…」
全く仕掛けて来る気配を見せないアグレッサーチームに、まほも本当に敵は市街戦に誘い込もうとしているという可能性を考慮し始めた。
指揮を執るカリンカ教官は、元プラウダ高校生徒である。
プラウダ高校戦車道チームは、相手を引き込む戦術を得意としているので、カリンカ教官もプラウダの戦術を使うつもりなのか。
やはり疑念が残るまほの耳に、エリカのイライラしたぼやきが入る。
「…鬱陶しい坂ね。早く終わらないかしら」
その瞬間、まほの脳内に直感の警報が鳴り響いた。
「…全車!迎撃態勢!」
その直後、轟音と共に坂の向こうからT-44の集団が現れた。
黒森峰の隊列の左右に広がるように坂を駆け下って包囲網を完成させていき、あっという間に一番先頭を走る車輛が背後まで回り込んで退路を断ってしまった。
監視役の後方警戒T-44から逐一送信されてくる情報を元に、カリンカは一斉攻撃の機会を窺い、一気に仕掛けたのだ。
包囲完成の時と同じくして、黒森峰の真正面に立ちはだかるようにカリンカの乗るIS-3が現れた。
「固定砲塔の履帯を破壊せよ」
カリンカがそう命じると、T-44部隊の主砲が次々と火を噴き、信地旋回でT-44の隊列に向き直ろうとする固定砲塔戦車の履帯を次々と破壊した。
カリンカの狙いは、まず固定砲塔戦車の履帯を破壊して動けなくさせる事で、反撃能力を削ぐ事にあり、履帯を切られて旋回出来なくなった車輛は、無防備に晒した側面に徹甲弾を受けて白旗を上げて行った。
黒森峰側は今のところは撃ち返してこないが、隊列は崩れていない。
さすがは強豪校といったところか。
「こちら17号車、履帯を破壊されました!」
ヤークトパンターに続いて四号駆逐戦車から悲痛な通信が入り、まほは敵の作戦をすぐに理解したが、同時に反撃を命じる。
「各車、手近な車輛に照準!私の合図で砲撃!」
緊迫しているが落ち着いた声音に、敵の猛攻の中で黒森峰の隊員達は落ち着きを取り戻し、それぞれの近い敵戦車に照準を合わせた。
照準が重複していたとしても問題ない。
それは集中砲火の形になり、撃破の可能性が高まるからだ。
「撃て!」
偶然にも完璧な同時射撃となり、黒森峰戦車隊の反撃は腹にこたえる1つの重々しい砲声となって轟いた。
砲弾は全方向にばら撒かれた形となり、なんとこの砲撃で4輌のT-44が撃破された。
まほは周囲を見回して、今の反撃で右翼のT-44部隊が怯む様子を見逃さなかった。
「全車、右翼の敵部隊に突撃!包囲を突破する!」
それに対しエリカが、
「ですが動けない固定砲塔車が!」
「諦めろ!」
黒森峰戦車隊は、健在な車輛が我先にと右翼の敵に殺到し、強引に食い破るようにして包囲網を突破した。
見捨てる形となった、履帯を切断されて動けなくなった何両かの固定砲塔戦車は各個撃破されていった。
「…すまん」
肩越しにその光景を見ながら、まほは小さくそう言った。
しかし、気を抜いている間は無かった。
「包囲網突破!」
「次の敵襲に備えろ!」
そう警告した直後、
「前方に敵集団!」
赤星の報告通り、針路上に4輌のIS-3が展開して、こちらの退路を断とうとしていた。
思わずたじろいだ数輌が速度を緩めかけたが、まほが語気鋭く、
「突破しろ!」
黒森峰の操縦手達が反射的に増速させた直後に、IS-3の長大な122mm砲が一斉に火を噴き、1発はティーガーⅠの車体左側面を掠めた。
幸い、今回の損害はゼロだった。
「強行突破する気です!」
部下の報告に、田村は次弾装填が間に合わないと判断した。
「ぶつけてでも阻止して!」
田村の言葉に、IS-3部隊は斜めに構えるようにして黒森峰戦車隊を止めようとしたが、どれも上手に間を通り抜けて阻止銭の向こう側に飛び出した。
ティーガーⅠが砲塔を真後ろに振り向けると、こちらに向き直ろうとしているIS-3部隊の1輌に徹甲弾を叩き込んだ。
側面の履帯と転輪の間に命中して有効打となり、このIS-3からは白旗が上がった。
「今度こそ突破したか」
阻止部隊のIS-3がまた撃ってきたが、これも外れたり地面を抉ったりした。
その後ろでは、隊長車のIS-3とT-44が再集結して隊列を整えながらこちらに向かって来るのが見えた。
「隊長、こちらは残り10輌です」
「半数がやられたか」
エリカの現状報告に衝撃を受けるよりも、まほは次の事への思考に集中した。
この短時間で固定砲塔車輛は軒並みやられ、偵察のⅢ号戦車も失った。
しかし相手はまだ15輌残っており、数的不利に立たされている。
「このまま距離を離しますか?」
「いや。相手の方が足が速い。すぐ追いつかれるだろう」
「では…」
「全車反転!敵集団と相対しろ!」
黒森峰戦車隊はぐっと踏み止まると、車体を旋回させてイズベスチヤ社アグレッサーチームと対峙した。
「黒森峰、こちらに向き直りました!」
「逃げても追いつかれると分かっているようね」
田村は追いついてきたカリンカを振り返った。
「また包囲しますか?」
「いえ。今度は堂々と撃ち合うわ。あれだけ堂々としている隊長を見ていると、こちらも嬉しくなるわ」
カリンカは不敵な笑みを浮かべていた。
彼女達を見ていると、全国大会で激戦を繰り広げた当時の自分を思い出して血沸き肉躍る思いになる。
「こちら後方警戒隊、ただいま合流しました」
後方警戒のT-44も合流し、これで全戦力が整った。
「さすがは西住流。でも、接近戦はどうかしら?」
カリンカは無線機をオンにした。「接近戦に持ち込むわ!有効射程に入り次第、砲撃開始!」
一方、黒森峰側は強固な楔形陣形を組んでイズベスチヤ社戦車隊に向かって増速していた。
「まずはT-44だけを狙え。数を減らして数的不利を覆す」
まほのティーガーⅠも、IS-3とIS-3の間に見えるT-44に狙いを付ける。
それから緊張の数秒間が過ぎた。
「撃て!」
黒森峰が先制攻撃をかけ、カリンカはその全てがT-44を狙ったものだという事に気付いた。
今の攻撃でT-44が1輌やられたが、それはIS-3とIS-3の間を通過した徹甲弾…即ちティーガーⅠのものだった。
更に被害報告も入る。
「こちら8番車!砲塔故障!」
カリンカは2発目が来る前に指示を出す。
「IS-3は前方に突出!T-44を守りながら距離を詰めるわよ!」
「こちらも砲撃準備完了!」
「砲撃開始!」
先に射程距離に入ったIS-3の122mm砲が火を噴き、直後に黒森峰から第2弾が放たれ、砲弾と砲弾が飛び交う砲撃戦が幕を開けた。
「T-44を更に1輌撃破!」
「撃ちまくれ!乱戦になる前に出来るだけ減らすぞ!」
しかし敵側も防御力の高いIS-3が盾となって前進してくる為、なかなか当てづらい。
それでも1輌ずつ数を減らしていくが、思うようにいかない。
やがて敵のT-44も発砲を開始し、砲撃戦が更に激しさを増した。
モニター越しでも、試合の迫力は伝わっていたようだ。
「すっげぇ砲撃戦じゃん…」
塚野は本物の戦車道の試合の迫力や激しさを見て、圧倒されると同時に自分が何かとんでもない世界に気軽に足を踏み入れたのではないかという疑問を感じていた。
そもそも彼女が戦車道を始めた理由は、退学回避の為であって好き好んでやり始めたわけではない。
とは言え、戦車道の試合の動画を見て、それに大きな刺激を受けた事も事実だったが、この練習試合の観戦で心境に何かしらの影響を与え始めていた。
他のフロンティア学園戦車道メンバー達も、冷静かつ真剣に観戦している村江と大地を除いては塚野と同じように圧倒されている様子だった。
土橋に至っては、目は観戦モニターに釘付けながらラップトップコンピューターのタイピング速度がまるでアンドロイドのような高速ぶりを披露しており、しかも一言一句にタイプミスが無かった。
両者は撃ち合いを続けながら更に距離を縮め、互いに目と鼻の先に迫った。
「隊列を解いて交戦!」
その命令に、しかし黒森峰の隊員達は機敏に反応した。
黒森峰の得意技は隊列を組んでの統制射撃だが、それだけでは勝てない試合がある事を、今年の全国大会決勝戦で身をもって学ばされた。
まほはあくまで隊列を組んだ連携を中心にしつつ、同時に隊列を解いた戦い方にも対応出来るようチームを指導してきた。
この練習を始めてからまだ1か月程度しか経っていないが、メンバーは柔軟に順応してきていた。
今年の全国大会における大洗女子学園の戦いぶりや、大学選抜チームとの試合の映像を手本として見せて、イメージを付けやすくした上で練習を繰り返してきたのが効果的だったようだ。
左右に散開した黒森峰戦車隊に、カリンカは一瞬目を見開いた。
上述の通り、従来の黒森峰の戦い方では無かったからだ。
しかし、こちらも経験を積んだ社会人チームだ。
「各車自由射撃!応戦せよ!」
両チームが入り乱れた事で撃ち合いに激しさが増し、あちこちで地面が抉れ、砲撃音と跳弾音が響き、数十台の戦車のエンジンの咆哮の合唱が支配した。
戦いは撃って撃たれてを繰り返し、一方的に撃破される車輛、相打ちになる車輛、ぶつかり合う車輛があちこちで展開され、互いに数をすり減らしていった。
「赤星!11時方向のIS-3を撃破するわよ!」
「了解副隊長!」
エリカのティーガーⅡと、赤星のパンターの砲口が、11時方向で別のティーガーⅡを狙うIS-3に向けられた。
それは田村のIS-3だったが、それは知る由も無かった。
「田村!狙われてるわよ!」
カリンカの警告で田村が振り返り、こちらを狙う2輌の戦車を見つけたが、時既に遅し。
「撃てえ!」
88mm砲弾はIS-3の車体後部の傾斜装甲に弾かれたが、75mm砲弾は砲塔と車体の境目に有効打となって田村車から白旗を上げさせた。
「よし!やった!」
大物重戦車を仕留めた赤星は両手でガッツポーズを取ったが、直後に物凄い衝撃が車内を走り、装填手の方に吹っ飛ばされた。
カリンカがカバーに放った砲弾が、赤星のパンターの車体右側面に当たったのだ。
こちらも有効打となり、赤星車は白旗を上げる。
「次、ティーガーⅡ!」
カリンカはエリカ車を狙わせようとしたが、
「正面にティーガーⅠ!」
その言葉に正面へ顔を振り向けると、今しがたT-44を返り討ちに遭わせた西住まほ隊長の乗るティーガーⅠが、こちらに車体を向けているところだった。
「隊長、援護します!」
エリカがそう叫んだが、まほは
「いや!そっちは敵の数を減らしてくれ!」
「了解!」
まほの指示に従いティーガーⅡが照準を別の敵に向ける中、ティーガーⅠとIS-3が対峙する。
「目標変更!ティーガーⅠ!」
カリンカ車は主砲をティーガーⅠに向かって回しながらティーガーⅠに突撃した。
まほもティーガーⅠをカリンカ車に向かって突撃させる。
すれすれのニアミスコースを取りながら、2輌が主砲を向け合う。
「撃て!」
「発射!」
ほぼ同時に放たれた88mm砲弾と122mm砲弾は、前者が砲塔に直撃したが曲面に力を受け流され、後者が車体側面の表層を削り取っていった。
直後に金属の擦れる、神経が逆撫でされる音と共に火花を散らしながらニアミスした両車は、すぐに急停止して向き合った。
まほが咽喉マイクに手を触れ、
「目標、車体正面下部!」
「照準よし!」
「装填完了!」
「撃て!」
先に装填し終わった88mm砲から徹甲弾がカリンカ車の車体正面下部に向かって放たれ、見事に直撃したが、斜めから入った事でまたもコースの向きを逸らされ、弾頭を地面に捻じ曲げられた。
カリンカ車の真下の地面に直撃した砲弾の衝撃は、車内を激しく揺るがした。
「うわ!」
特に操縦手は真下から突き上げられるような衝撃を受けて声を上げたが、IS-3に損害は無かった。
恐るべき防御力である。
「装填急げ!」
まほの見ている前で、カリンカ車が主砲の狙いをぴたりとこちらにつけた。
さすがのまほのこめかみにも汗が一筋流れたが、
「完了!」
「撃て!」
またもほぼ同時に放たれた両者の砲弾は、今度は共に有効打となった。
ティーガーⅠの砲弾はIS-3の主砲の基部の下側に、IS-3の砲弾はティーガーⅠの正面の垂直装甲に直角に入っていた。
両車から白旗が上がった時、まほとカリンカは辺りが静寂を取り戻している事に気付いた。
風に流される硝煙の臭いが立ち込める中、2人が周囲を見回すと、周辺は白旗を上げて擱座する両軍の戦車が『死屍累々』としていた…死んではいないけれども。
「黒森峰女学園、残存車輛無し。イズベスチヤ社アグレッサーチーム、残存車輛無し。モニター判定中につき、暫くお待ちください」
審判席では、蝶野や審判員が数アングルから録画された複数の映像を交互に、綿密にチェックしていた。
チェック対象は、最後の相討ちとなったティーガーⅠとIS-3の映像で、どちらの砲弾が先に相手に到達しかを判定し、勝敗が決定されようとしていた。
「蝶野教官…」
審判員の1人が蝶野に顔を向けると、蝶野は更に数秒俯き加減に考えた後、
「うん、これはどう見ても…」
顔を上げてマイクを取り上げると、
「モニター判定の結果が出ました。ティーガーⅠ、IS-3双方の砲弾は同時に着弾を確認。よって…結果は引き分け!」
続く