ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター4 打診

 午後も黒森峰女学園とイズベスチヤ社アグレッサーチームの練習試合があり、それに備えて昼休憩と戦車の整備の為の時間が取られた。

 その間に塚野は野島と一緒にエリカから黒森峰戦車隊の詰める車庫群へ呼び出され、2人を待っていた西住まほは開口一番、午後の練習試合に誘ったのだ。

 

「ああ。ふと思いついたのだがな」

 

 目を丸くする塚野と野島に、西住まほは静かに頷いた。

 まほの一歩後ろに立つエリカも、塚野と同じように驚きと困惑の表情で自分の隊長を見ている。

 どうやら2人を呼び出す事までは言われたが、この話はここで初めて聞いたようだ。

 

「しかし隊長、どうして…」

 

 まほはエリカに振り返った。

 

「午後の練習試合はお前が隊長だ。この機会に他校との連携と統率を学ぶと良い」

 

 エリカが午後の練習試合で隊長を務める事そのものは打ち合わせ済みであるらしい。

 それだけでもエリカは大きなプレッシャーを感じていたが、加えてもう1つ課題が課せられた。

 

「は…ですが見ず知らずの高校とチームを組むのは…」

「だから良い機会だと思ったのだ。とは言え…」

 

 まほは再び塚野達を見た。「君達の同意を得られたら、だが」

 

 塚野はまほの『打診』にまだ戸惑っていたが、自分はどうしたいのかと心の中を探ってみて、2秒後には決心を固めていた。

 ただ、これは自分の一存で決めるわけにもいかなかったので、

 

「勿論参加したいです。ただ…」

「チームメンバーとの相談だな?」

 

 先を言い淀んだ塚野だったが、まほは万事心得ているようだった。「分かっている。元々、私の無茶ぶりだからな」

 

 まほはポケットから懐中時計を取り出してパチンと開いた。

 

「試合まであと30分ある。どうするか、それまでに教えてくれ」

 

 

 

 塚野は自分達の戦車を収容している車庫前に全員を集めると、早速黒森峰女学園からの誘いを話して聞かせた。

 メンバー達にとっては、思いがけない突然の話だった筈だが、

 

「面白そうですな」

 

 腕組みした状態でカヴェナンターに寄りかかっていた安藤が言った。「あたしは賛成でさあ」

 

「黒森峰って確か、強豪校だよね」

 

 土橋がネットサーフィンで得た情報を思い出しながら言うと、

 

「全国大会じゃ決勝戦の常連…いや、いつも優勝候補のトップよ」

 

 と、村江が補足説明すると、土橋は目をキラキラさせながら

 

「凄いじゃん。こんな機会滅多に無いよ」

「お、強豪校とコラボって事であれば是非!」

 

 と伊関もやる気満々で、桐山も

 

「いいですね!強者の胸を借りるつもりで!」

「これはレベルアップのチャンスですね!」

 

 大地の言葉に、左隣に立っていた田張が

 

「ボーナスタイム!」

 

 と気合十分に掛け声。

 

 そう、全体的に反応は悪くなかった。

 話するまで躊躇されるかと思っていた塚野には嬉しい誤算だった…渋い表情を浮かべている2人を除いては。

 

「ノイジー。なんでそんな怖い顔してんの?」

 

 野島は気が乗らなさそうに塚野に向けた。

 

「なあ。本気なのか?」

「え?チョー本気」

「足引っ張ったりしねえか?」

「こっちが素人集団なのは百も承知で誘ってきたとは思うけれど」

 

 野島の懸念を和らげようとして村江がそう言うと、大地もうんうんと頷きながら

 

「確かに。村江先輩の仰る通りですよ」

 

 しかしもう1人の渋面、佐伯が、

 

「でも私達の学園艦の住人はどう思うかしら。こう言っちゃなんだけど、下手すると恥晒しになりかねないわよ」

「それなんだよな」

 

 野島も首肯した。「おじいちゃんから聞いたんだけどよ。敷地と義援金提供を検討しても良いって言う申し出があったらしいんだ。ここで取り下げられるリスクをわざわざ取る意味はあんのかってな」

 

「でもさぁ、これってチャンスだと思うんだけど」

「リスクが大きすぎるわ」

「ハイリスクハイリターンって言うじゃん?」

「まだ始まって1か月弱のよちよち歩きに何が出来ると思ってるわけ?」

 

 塚野は奥歯をギリッと歯ぎしりさせた。

 

「…つーかなんでそんなに邪魔したがるわけ?」

 

 すると佐伯は塚野を睨み返した。

 事情を知る者同士の、無言の対立がそこにあった。

 しかしこの時の佐伯は塚野を敵視しての事ではなく、心配しての事だった。

 

「…心外ね。自分で自分の首を絞めるのはやめなさいよ」

「へえ。心配してんの?」

「当たり前じゃない」

「塚野。一回落ち着いて考え直せよ」

 

 腰に両手を当てて一度2人に背を向けた塚野はまたくるりと向き直り、

 

「じゃあ2人は見学してて良いからさ、こっちは出るよ」

 

 とうとう野島と佐伯を抜きにする所まで踏み込んだ塚野に、口論を静観していた他のメンバー達はギクリとして動きが固まり、目だけが3人の間を交互に見比べて動いた。

 

 野島と佐伯は顔を見合わせた。

 

「ねえ、彼女本気なの?」

「いや、リスクを分かってねえみたいです」

「リスクなんて分かってるし!」

 

 とうとうムキになって言い返した塚野に、大地が目をぱちくりさせた。

 大地の関心を引いたのは、塚野の反論が野島や佐伯のネガティブな意見にムキになったところではなく、どうもそれとは別の、何か切羽詰まったようなものを感じた雰囲気である。

 

 大地が村江を見ると、村江も同じ考えだったようだ。

 

「…どうしたんだろう…」

 

 田張もどうやら、何かを感じ取ったらしい。

 

 それに野島や佐伯は、塚野がムキになって反論した意味を理解しているのか、2人を外すと言われて尚、冷静に受け止めているようだった。

 

「村江さん…」

 

 大地が囁くと、村江は頷いてから一歩進み出た。

 

「何かあるようね。裏事情が」

「え?」

 

 こちらを見た佐伯の目を見据えながら、村江は続ける。

 

「仮承認なのは承知しているけれど…どうしてそこまで仮承認に拘るか分からないわ。ここまでやって来ているのに。おかげで必要な資金も仮承認という理由で手に入らない。一体どういう事よ?」

「実際に正式承認するかは、まだ判断する時期じゃないからよ」

「じゃあ、黒森峰と組んで練習試合する方が正式承認に近くなると思うのだけれど?」

「負けたら評価されなくなるからよ」

「誰から?どういう理由で?」

「だから一般見学者からだって…」

「それなら幾らでもフォローしてやるわ」

 

 これに佐伯が更に言葉を重ねようとすると、塚野が遮った。

 

「原因はあたしよ」

「おい…」

 

 それまで渋面だった野島が一転して慌てて止めようとしたが、

 

「いいよノイジー。いつか言うつもりだったしさ」

 

 村江は遂に答えに辿り着いたと確信し、塚野を振り向いた。

 

「と言うと?」

「すっげぇ恥ずい話なんだけどさ…」

 

 そう前置きしつつ、塚野は正直にフロンティア学園に戦車道が設置された本当の理由を告白した。

 

 元々は自分が退学回避の為に始めた事、仮承認から正式承認に至る実績を積まねばならない事、今も綱渡り状態で活動の継続に支障が出たと判断されればその時点で戦車道は活動停止処分を受け、そうなれば成績点がどん底の自分は問答無用で退学処分になる事。

 

 そして、黒森峰とチームを組んでアグレッサーチームとの練習試合に臨もうとしているのは実績を積んで評価を得る為であり、成功すれば戦車道の活動継続が更に認められる事になる。

 確かに無様な姿を晒せば危うくなると思うが、自分はこれがチャンスだと思っている事。

 

 これらの事を塚野が話している間、全員が口を挟まず、塚野の言う事に耳を傾けていた。

 いつの間にか国崎もやって来ていて一同に混ざっていたが、みんな塚野に注目していたので気付いた者はいなかった。

 

 話し終えると、塚野は肩をすくめながら自己嫌悪するように言った。

 

「サイテーよね。自分の目的の為にこんなチームにいれちゃってさ…詐欺よね」

 

 それから数秒の沈黙が支配したが、腕組みして聞いていた村江がやや俯きながら、

 

「…私よりずっと立派じゃない」

 

 と自嘲気味に小さく呟いたので、

 

「え?」

 

 と、塚野が聞き返すと、村江は顔を上げて塚野を見た。

 

「理由はどうあれ、あなたは戦車道のチームを作り、ここまで育てて来た。『退学回避用』にしては、随分と愛情がこもっているように見えるけれど?」

「え、どういう事ですか?」

 

 大地が聞き返すと、

 

「さっきの練習試合、隊長はモニターを食い入るように見ていたわ。あなたも見たでしょう?」

「はい。すっかり夢中でした」

「退学回避の為だけでやってるなら、あそこまで熱心になるかしら?昨日の練習試合だって頑張っていたと思うわ」

「私も見た見た」

 

 加勢したのは土橋だった。「スズやんすっかり興奮してた!」

 

「私も見ました」

 

 と、伊関も証言を足した。「と言うか、今聞かされた話がとても信じられないくらいなんですがね」

 

「だよねえ」

 

 桐山が伊関に賛同して何度も首を縦に振った。

 

 村江が再び塚野に確認するように問う。

 

「あなた、動画サイトで見た戦車道の試合に刺激を受けたって言ってたわよね。退学回避の手段として選んだのかもしれないけれど、愛着があるのも事実じゃないの?」

「そ、それは…まあ…そうかも…」

 

 村江の指摘は、塚野にしても意外だった。

 しかし今、ハッキリとそう意識するようになった。

 そう、自分はこの戦車道チームに愛着を抱き始めている…いや、既に抱いている。

 

「じゃあ、ますます退学出来なくなったわね。せっかく育てて来た戦車道を取り上げられるなんて」

「だから止めたんですけどね」

 

 野島が右手の親指で塚野を何度も指した。「こいつの将来が掛かってんですよ」

 

「ノイジー」

「あ?」

「あたしがどうすっかは、あたしで決めっから」

「おめえ、そんな事言ってる余裕あんのか?」

 

 その時、まるでタイミングを見計らっていたかのように国崎が進み出た。

 

「野島さん。塚野さんを心配する気持ちは分かります」

「か、会長、いつの間に!?」

 

 国崎は佐伯に顔を向けた。

 

「塚野さんは敢えてリスクを取りました。他でもない塚野さんが自分で決めたのです。私はそれを評価します」

「でも会長。さっきの練習試合を見たでしょう?あんなレベルの戦い方が出来るかどうか…」

「まだ駆け出しのチームなのは分かっています。ひょっとしたら味方の足を引っ張ってしまうかもしれないでしょう…でも、頑張っている姿は、人は分かるものです。今の塚野さんなら、当てはまると思います。どうでしょう?」

 

 国崎にそう諭されては、佐伯もこれ以上の反論は引っ込めざるを得ない。

 

「…分かりました」

 

 野島も観念したように首を横に振りながら溜息を吐いた。

 

「…ちっ。あたしも付き合うぜ」

 

 こうして、フロンティア学園戦車道チームは黒森峰女学園と組んで午後の練習試合に臨む事が決まった。

 

 

 

 続く

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