ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

29 / 62
チャプター6 黒森峰・フロンティア連合vsイズベスチヤ社

 試合開始から15分以上が経過した。

 

「ルノーUEより入電。『敵部隊発見』。繰り返す。『敵部隊発見』」

 

 通信手の報告を受けて、エリカは手元の地図に敵部隊の所在を示すバツ印を書き込んだ。

 地図には偵察ポイントを示すアルファベットのA~Dの文字が書き込まれていたが、ルノーUEは『D』表記はエリカ達のいる所から東側に行った所にある丘で背の高い草原が生い茂っており、極端に車高が低いルノーUEを隠すにはうってつけだった。

 

「編成は?」

「…IS-3が1輌、T-44が3輌。時速30km前後で移動中」

「遊撃隊かしら?」

 

 そう呟いた後、通信手に「他に情報は?」

 

「いえ、今のところはこれだけです」

「分かったわ。別動隊Bと繋いで」

 

 偵察ポイントCとDの後ろには、エリカが差し向けた別動隊のマークがあった。

 戦力は自チームのⅣ号駆逐戦車が2輌と、フロンティア学園のSU-100、そして黒森峰が貸し出したレオパルトの計4輌である。

 同じように、偵察ポイントAとBの間に『別動隊A』が待機している。

 

 通信手は程無くして作業を終えると、

 

「出ました」

「こちら隊長、聞こえる?」

 

 本来の隊長である西住まほは観客席なので、今回は自分が隊長だが、どうも慣れない。

 モニター越しにこちらの一挙手一投足を観察されていると思うと、プレッシャーで無意識に体中の筋肉が緊張で強張り、息苦しさを覚える。

 だが、まほ隊長は自分より先に黒森峰女学園を卒業するから、その後はエリカがチームを引っ張って行かなくてはならない。

 これはその為の準備であり、己が通るべき試練なのである。

 

 

 

 同じ頃、エリカが呼び出した別動隊Bの指揮を執るレオパルトでは。

 

「こちら別動隊B、どうぞ」

 

 応答したのは別動隊Bの部隊長に任じられた塚野だった。

 当初、塚野は別車輛に乗る予定だったが、本人の希望でレオパルトに決まり、村江は車長の座を塚野に譲ったうえで自分は通信手に移動していた。

 

『ルノーUEが遊撃隊らしき敵部隊を発見したわ。予想進路付近に隠れて待ち伏せ攻撃せよ』

「…ここが良いと思うわ」

 

 真後ろの塚野を見上げながら、村江は地図の一点を指で押さえた。

 屈みこむように村江の提案を見た塚野はうんうんと頷きながら、

 

「えー、了解。待ち伏せの配置につきます」

『宜しくね』

 

 エリカも村江が戦車道経験者である事を自己紹介の際に聞いており、彼女から待ち伏せポイントの提案があったのだろうと想像しながら無線を切った。

 

 塚野が配下の戦車に指示を出すと、レオパルトを先頭に移動を開始した。

 

 

 

「それにしても敵の本隊はどこかしら」

 

 塚野との通信を終えた後、エリカは敵本隊の所在が不明な事に気を揉み始めていた。「赤星はどう思う?」

 

「偵察ポイントD以外からはまだ連絡が無いんですよね?」

 

 と、今回の練習試合の副隊長となった赤星小梅は言った。

 彼女のパンターは、楔形陣形の先頭を走るエリカのティーガーⅡの左斜め後ろを走っている。

 

「うん。どこもきちんと周囲を見張れるから…どこ行ったのかしら?」

「…森に隠れているとか?」

「私達が来るのを待ち構えているというわけ?」

 

 黒森峰戦車隊は、午前の練習試合でアグレッサーチームの待ち伏せ攻撃を受けた丘を通過するルートを進んでいる。

 その先は平原だが、前方に広がる森の中に隠れている可能性を赤星は推測したのだ。

 

「断言は出来ませんが…」

「じゃあ、さっき発見された4輌の敵部隊はどう説明すればいいかしら?」

「それなんですよね。待ち伏せに最適の森はそこから距離がありますから」

 

 赤星もエリカと同じ疑問を抱いているようだった。

 偵察ポイントDで敵部隊は発見されたが、待ち伏せに良い森の場所は偵察ポイントBとCの間で、どちらかと言うとB寄りだ。

 赤星の言うようにDから距離があり、森にいる(と仮定した)部隊と連携して十字砲火を組むには、時速30km前後の進行では間に合わない。

 間に合わせるならもっと早く走るだろうし、IS-3やT-44はそれが出来る。

 

「スタート地点から全く動いていないという事も考えにくいですし…」

「全く気配が無いというのが不気味ね…」

 

 4か所も偵察ポイントを配置すれば、かなり広範囲を監視下に置く事が出来る。

 こちらの進軍先は勿論の事、その左右もカバーしているから、少なくとも敵の不意打ちは防げる筈だ。

 

「こちらの方が高地ですし、見つけやすいと思うのですが…」

 

 今回は黒森峰が高地の北スタート、アグレッサーチームが低地の南スタートとなっていた。

 高地側のこちらが低地を見渡せるので、北に向かって進軍してくれば比較的早く発見出来る。

 

「よっぽど大きく迂回しているのかしら…」

「こちらの進路を読み切っていれば…あるいは…」

「でもそれだと、こっちに追いつくまで時間が掛かるわ」

 

 エリカが頻りに頭を捻っていると、塚野から通信が入った。

 

『こちら別動B。敵戦車隊を確認!』

 

 一端疑問を脇に置いてから、エリカは思考を集中した。

 

「了解。そちらのタイミングで攻撃せよ」

 

 

 

 こちらが潜伏している茂みの前を左から右へ横切るコースを走る敵戦車4輌が見えた。

 

「見えた見えた」

 

 塚野が「攻撃用意」と告げると、隣の鹿屋が徹甲弾を「よっこらせー」と言いながら砲身に押し込んだ。

 

 こちらの声は相手側には聞こえないのに、つい声を潜めてしまう。

 装填を終えた3輌の駆逐戦車は、塚野の合図を待った。

 塚野は予め、相手の隊列がこちらの射線に対して直角になった瞬間を狙おうと頭の中でプランを立てていた。

 

 じりじりするような秒刻みを経て、敵戦車隊は塚野のプランとなる砲撃ポイントに差し掛かって来た。

 

 緊張が高まり、塚野も黒森峰の隊員達もいよいよ集中力を高めてまなじりを決する。

 

 が、ここで思わぬハプニングが起こった。

 

「うーん。ちょっと車体を右に回してくれない?」

 

 SU-100の砲手の桐山が操縦手の中村にそうリクエストを出したのだが、これがまずかった。

 中村は桐山に言われるがままに車体を右旋回させたが、その際に茂みの外側に砲身がはみだし、太陽光を反射してしまったのである。

 砲撃ポイントに対して射界を広げる為だったが、それは暗闇の中で灯りをともしてしまったに等しい。

 

「え、ちょっと、何してるの!?」

 

 SU-100の右隣にいるⅣ号駆逐戦車の車長が驚愕して思わず声を上げたが、全ては遅かった。

 

 

 

「ん?」

 

 塚野達が狙っている敵戦車隊のIS-3に乗る部隊長は、目の端で何かが一瞬キラリと光るのを捉え、すぐその方向に双眼鏡を向けた。

 少し左右を見渡すと、茂みの中にSU-100の輪郭が目に入った。

 それに、その横には2輌のⅣ号駆逐戦車が並んでいるではないか。

 更にその3輌の後ろに、正体は分からないがもう1台。

 

「1時の方向、敵戦車4輌!正面を向けるわよ!」

 

 アグレッサーチームの小隊は回頭して、別動隊Bに単横陣となって相対した。

 隊列を整え直しながら、部隊長はカリンカに報告する。

 

「こちら先遣小隊!敵戦車4輌の待ち伏せ陣地を発見!これより攻撃に入ります!」

 

 

 

「うわ、こっち来るし!」

「SU-100の砲身が光ったんだわ…動いた時に」

 

 ペリスコープ越しに敵情を確認していた村江が原因を冷静に分析した。

 

「す、すみません!ばれるとは思ってなくて…!」

 

 しかし桐山の謝罪に応じている余裕は無かった。

 敵戦車隊はこちらに気付いており、いつ撃って来るか分からない。

 

「こ、攻撃開始!」

 

 塚野が緊張で上ずった口調でそう叫んだ直後、既に照準を置いていた2輌のⅣ号駆逐戦車が一斉に砲撃した。

 狙いはT-44が1輌ずつだったが、どちらも命中せず手前の地面に着弾した。

 

「おい、早くしろ!」

 

 SU-100車長の野島が桐山を急かすが、先の失態で焦っていた桐山は尚も照準固定に数秒掛かった。

 

「…よし…発射!」

 

 SU-100の発砲と、敵戦車隊の発砲はほぼ同時だった。

 100mm弾は、IS-3の丸みを帯びた砲塔の右側面を滑るように弾かれ、敵側の砲弾はこちらの手前やすぐ横に着弾し、その衝撃で車体を震わせた。

 

「撃って撃って撃ちまくれぇ!」

「隊長、逸見さんに知らせないと!」

 

 通信機を弄る村江の言葉で、焦りで命令を出す事ばかり考えていた塚野はハッと我に返った。

 生唾を飲み込んでひりついた喉の言う事を聞くようにすると、

 

「こちら別動隊B!こちら別動隊B!緊急事態発生!敵戦車隊がこっちに気付いて攻撃してきました!現在応戦中!」

 

 待ち伏せ失敗を悟ったエリカは原因を訝った。

 

『え、どういう事?どうして見つかったの!?』

 

 塚野は正直に、洗いざらい話した。

 怒られてしまうだろうが、責任を誤魔化す気はさらさら無かった。

 

「えーと…うちのSU-100が動いた時に、砲身がどうやら…太陽に反射したみたいで…」

『…ああもう!何やってんのよ!』

「すみません!私の責任です!」

『んーと…よし。すぐその場を放棄して、もと来た道を戻って来て!増援を送るから!』

「分かりました!」

 

 エリカとの通信を終えると、「みんな!ここを放棄してもと来た道を戻るよぉ!」

 

 次々と命令受領の返事があると、2輌のⅣ号駆逐戦車が最初にバックして反転し始めた。

 その間、SU-100と隣に並んだレオパルトが援護射撃する。

 攻撃対象が2輌に減った事で敵の射線がそれだけ集中しやすくなったが、どちらも歯を食い縛って逃げ出したい衝動を押さえつけた。

 幸い、敵は走りながら撃ってきているので、命中率は低かった。

 平原とは言い上、地表はぼこぼこしているので車体が揺れたり傾いたりするので照準が定まりにくいのだ。

 

 塚野は1度振り向いて、2輌のⅣ号駆逐戦車がもと来た道を戻り始めた事を確認すると、SU-100に後退を指示する。

 

「こっちは後から行くから、後退して!」

「はいよ!」

 

 SU-100も後退して反転した時には、敵戦車隊はこちらまで100mに迫っていた。

 

「おっし、こっちもずらかるよぉ!」

 

 その直後にレオパルトの砲塔をIS-3の122mm弾が掠め、塚野の全身から冷や汗が噴き出した。「やばいやばいやばい、撤退撤退撤退!」

 

 早口の指示に従うかのようにレオパルトは機敏にバック、反転すると先に逃がした3輌の駆逐戦車の後を追った。

 

 

 

 

 その頃、増援にパンター2輌と四号駆逐戦車2輌を送り込んでいたエリカは、再びルノーUEからの情報を受け取っていた。

 

『敵戦車多数…10輌以上…いやもっと!本隊の可能性あり!』

「え…ていう事はつまり…敵戦車はこっちを進軍してきてたの!?」

 

 佐伯の報告を聞きながら、エリカは地図を再確認した。

 敵戦車は全て、偵察ポイントDの方向に集中していたらしい。

 

「…道理で他から連絡が無いわけね」

 

 しかしそうなると、こちらも動きやすくなる。「全車、北東の川まで移動!別動隊Bの撤退を援護しつつ、川を挟んで敵本隊と交戦!」

 

 更にエリカは、偵察車輛には遊撃、別動隊Aにはこちらと合流するよう追加指示を出した。

 

 

 

 続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。