ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
「んで、あたしらの戦力は…」
指折りでカウントしようとした直後に、村江がポケットで着信バイブしだした携帯電話を取り出して画面の表示を見た後、
「ちょっとごめん。すぐ終わるから、話を続けておいて」
「タバっち?大地ちゃん?」
「いいえ。気にせず続けて」
村江は足取りも少し慌ただしく倉庫の外に出て行った。
「…なんだろ?」
首を捻りつつ、横並びに駐車している戦車を見ながらカウントを再開する。「ええと…レオパルトにSU-100、ハリーホプキンスにルノーUE、カヴェナンター、あとラムⅡ…だっけ?」
「まあ、そんなとこだな」
ラムⅡはカナダの開発した巡航戦車である。
アメリカのM3リー中戦車をベースに開発されたが、37mm砲の砲塔と車体右側に固定の75mm砲の2門態勢のリーに対し、ラムⅡは特徴ある見た目の丸みを帯びた四角っぽいデザインの砲塔に6ポンド砲を搭載した戦車である。
Ⅱとある通り、ラムⅠ型もあるが、こちらは2ポンド砲搭載となっている。
この機体はカナダ系の高校であるメイプル高校戦車道チームが保有していたが、Ⅰ型とⅡ型合わせて数輌が放出品セールとして出品されており、フロンティア学園は打撃力が高い方のⅡ型…もっと細かく言及すると、車体側面ハッチがある前期型を1輌購入したのであった。
理由は前期型の方が、側面ハッチが無い後期型より安価だったからだ。
購入が1輌だったのは、井上と言う女性から得られた義援金を戦車の購入費や整備費、燃料費、潤滑油費等の割り振りを考慮すると、1輌の購入で限界だった。
「メイプル高校、だっけ?折角自分達の戦車を売っちゃうとかさぁ、なんか勿体なくね?」
「うちらには好都合だから有難く貰っとこうぜ」
他にも候補となる戦車は幾つかあったが、今回導入したラムⅡと同じぐらいの性能でも希少価値で異様に高価格だったり、逆にそれなりに台数が現存している戦車でも日本全国や世界各国の戦車道チームに引っ張りだこで在庫切れ状態だったり、それでいて手頃な価格の戦車は性能的に不満があったりと、なかなかフロンティア学園戦車道チームに理想的な戦車は見つからなかったのである。
「でもあのサウナ戦車にはもう乗りたくないよー」
もはやカヴェナンターと呼ばない鹿屋の意見に、塚野も野島も一様に首を縦に振った。
「だよねぇ。でも貴重な戦力だし…」
「んまあ、ギリギリまで棚上げかなぁ」
そこへ電話が終わったらしい村江が戻って来た。
「それ以前に人手不足ですしね…」
五十嵐が物憂げに言う。「今は15人…ある程度役割を兼任させるとしても、これだと…」
「うんうん。足りないよね」
中村が後を引き取った。「鹿屋さん。募集はどうなってますか?」
「一応3人名乗り出てくれたよー。報道部の記事が宣伝になったみたいだねー」
「おかげで注目集まってる感じだし。良い感じじゃね?」
塚野がポータブルラジオをデコピンした…おでこは無いが。
「それで、誰と誰ですか?」
萩原が尋ねると、塚野がメンバーの名前を告げる。
「えーとねぇ…井上サクラって子と、桑田クミって調理部の子と、大川ユリカって仕立て屋さん」
「井上って、あの井上さんと何か関係が?」
伊関の質問に、塚野は頷きながら答える。
「正解バナナ。あの井上さんの孫だって。今回の件で興味を持ったらしいよぉ」
「なるほど」
萩原にもまた思い当たる人物がいたようで、
「まさか大川さんが参加するとは…」
「あ、オハギ知ってんだ?」
「はい。よくお世話になってますから」
「実はタンクジャケットのデザインも頼んでるんだよねぇ。知ってた?」
「はい、それも知ってます!」
「えー、そこは知らないって言おうよぉ」
一方で鹿屋はもう1人の事が気になるようだ。
「桑田ちゃんよく入る気になったねー」
「ああ、あの…がめつい?商人気質の人ですよね」
と萩原も桑田の事を知っているらしく苦笑する。「あ、でも商人のみんなをがめついとは思ってませんよ?」
どういうわけか急いで鹿屋に弁解する萩原に対し、当の鹿屋は別に気分を害した様子は無かった。
「気にしないでー。分かってるよー」
「あ、鹿屋さんってお父さんが自営業か何かの人なんですか?」
「そうだねー。金物屋やってて、あちこち飛び回ってるよー」
「なるほどそれで」
中村は納得して頷いた。
「3人はいつ来るのかしら?」
と、村江が聞いた。
そう、この場にはまだ集っていないのだ。
「用事終わらせてから来るんだって」
「そう。まあそれで18名。カヴェナンターを戦力から外せばいけるわね」
ここで戦力扱いの戦車の定員を整理しておくと、レオパルトが4名、SU-100が4名、ルノーUEが2名、ハリーホプキンスが3名、そして新顔のラムⅡが5名であり、偶然にも18名がすっぽり収まる。
「んじゃあカヴェは補欠っと」
塚野もカヴェナンターを外す理由が出来て安心したような表情だった。
都合、3度あのサウナ戦車に乗り込んでいるのだから無理もない。
しかしチャレンジャーがいた。
「なんとか改造して乗れるようにしますので、それまで楽しみにしていてください!」
「ホノカ、本気でやれるって思ってるの?」
怪訝そうな表情の五十嵐に対し、中村はあくまでもポジティブだ。
「機械部の腕の見せ所よ!」
「嫌だなあ…」
尾鷲がそう一人呟きながら腕時計を見て動きを止めた。「あ、そろそろじゃないですか?」
「え?あぁ…」
塚野も携帯電話を起動して時間を確認した。「そろそろラムⅡ来る時間じゃん」
その時、またも村江の携帯電話がバイブし始め、画面を覗いた村江はその場で通話ボタンを押した。
「もしもし、大地?ええ、聞こえるわ…え、遅れる?分かったわ。慌てないで来て…ええ、それじゃ」
「遅れる?」
「そうみたい。事前に打ち合わせたルートが途中で緊急補修工事で閉鎖されたとかなんとか言っていたけれど…」
塚野は野島と顔を見合わせた。
2人も村江や大地と一緒に新規導入のラムⅡが、井上と言う女性が提供してくれた敷地にやって来るまでのルートの事前打ち合わせに参加しており、実際にルートの下見も行ったが車幅や道路の状態も問題は無かった筈である。
「今日も大地からラムⅡを受け取りに行く時にルートの最終確認をして貰ったけれど、その時も問題無しって連絡だったわ」
と、村江が首を傾げた。「道を間違えたとも思えないし、一体どう言う事かしら…?」
「ひょっとすると老朽化のガタかなー」
普段はマイペースで楽天的な鹿屋が、珍しく考え込む表情になっている。「最近、あちこちで緊急補修の報告が来てるんだよねー」
「100年以上の歴史ですしね…そろそろガタが来ても不思議は無いかもしれませんね…」
と、萩原が言った。
「んじゃあ、そろそろ行こっか。遅れるっつってもそんなにかからないっしょ」
塚野がそう言った直後、噂をすればなんとやらでエンジン音が聞こえて来た。「お、意外と早いじゃん。おーいツッチー、起きろぉ」
足取りがおぼつかない土橋に肩を貸す塚野と野島を筆頭にみんなが戦車を迎えに倉庫を出る中、村江は一旦立ち止まると、また携帯電話を起動して着信履歴を呼び出した。
履歴欄には、さっき連絡してきた大地より前に掛かって来た電話の相手の名前が載っていたが、そこには『毛利隊長』と表記されていた。
村江は誰か自分の動きに気付いた者はいないか一度目を上げて確認してからまた履歴画面に目を落とし、数秒経ってから何かの思考を頭の中から追い出すように溜息を吐きながら電源を落として仲間達の後を追った。
しかし村江の目に入ったのは、困惑で立ち尽くす塚野達の背中だった。
その先を見ると、意外と早く到着したと思われたラムⅡではなく、別の戦車が佇んでいた。
「LVT…?なんで違う戦車が…?」
村江も購入した記憶が無いアメリカの水陸両用トラクター、LVT(A)(1)の大柄な車体に比して小さい砲塔のハッチが開くと、姿を見せたのは報道部長の福地だった。
続く