ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
「サプラーイズ!みんな驚いたかな!?」
福地は車上から親し気に塚野達に声を掛けたが、あまりにみんな驚いていたせいで、目をぱちくりさせるばかりだった。
ようやっと塚野が正気に返ったように、
「ええっとぉ…これがラムⅡ?」
「何寝ぼけてんだよ」
野島が突っ込みを入れつつ、「つか、なんなんだこれ?」
「LVT(A)(1)。アメリカの水陸両用トラクターよ」
いつの間に2人の横に並んでいた村江が戦車の名を紹介した。「私も選んだ覚えが無いわ」
「私達が独自に買ったものなの」
福地がLVTから飛び降りた。
また、車体前部の2つのハッチがほぼ同時に開いて2つの顔が覗く。
「え、独自に、ですか?」
萩原は同じ報道部員として、どうやら話は聞かされていなかったらしい。
「ごめんごめん。内緒みたいになっちゃったよね」
福地はそう謝ってから、「ちょっと、放送部と賭けをやってて」
「賭け?」
塚野が首を傾げながら聞き返すと、
「さっきやってたニュースは、あなた達、聞いたかしら?」
「うん聞いた。でも塚野さん、すっごい腹立ったんですけどぉ」
「放送部がその…あなた達がうまくいくかどうか懐疑的で、私達はうまくいく方に…その、レイズしているのよ」
「それはいいけれど、どうして賭けとやらでLVTを購入するのかしら?」
村江の問いに福地は頭をカキカキしながら、
「実は放送部と報道部が統合される事になっちゃったんだけど、どちらが軍門に下るかで揉めてて」
「え、そんなのどっちでもいいんじゃねぇ?」
塚野の無関心な感想に、福地はやや気分を害したのか、
「古参の報道部のプライドとしてはそうはいかないのよ。放送部はいわばぽっと出みたいなものなんだから」
「そ、そうなんだ。なんかごめん」
福地もそれ以上は気にしなかった。
「いいのいいの。それで、放送部も放送部で嫌がってて」
「で、戦車道が賭けの対象になったってわけかよ…」
野島が後を引き取ると、福地は遠慮がちに頷いた。
「ええ。賭けの対象にしちゃって申し訳ないとは思ってるのよ。だから自分達も戦車に乗る事にしたの」
「でもデスク。だからって、自分達も巻き込まないで下さいよ!」
LVTの縁に腰掛けて足をぶらぶらさせている2人の報道部員の内の右側が口を尖らせた。
左側より幾分背が高く、赤のベレー帽がトレードマークだ。
「なんで私も行く事になってんですか」
左側も気怠そうに抗議したが、福地が
「二人とも興味あるって言ったじゃない」
「そりゃそうですけど、乗るとまでは言ってないですって!」
赤のベレー帽がそう言って大きく欠伸をした。「徹夜で操縦を覚えたので昼寝したいです!」
「徹夜なんて日常茶飯事でしょ?」
「記事書きながらなんてしんどいですって!と言うかなんであなたも手伝わなかったんですかね!」
火の粉を振りかけられた左側は、
「そりゃあ、あなた後輩だから当たり前じゃない」
「嘘ばっかり。マニュアルちょっと読んで投げ出したの見てましたからね!」
「こいつ!」
左側がベレー帽に手を伸ばそうとしたが、
「じゃあ2人とも、自己紹介してね」
福地にそう言われて、2人は渋々といった様子でLVTを飛び降りた。
「先輩からどうぞ」
「やーだね」
「へたれですね」
「ちょ…」
『先輩』が反論する隙を与えず『後輩』が先に自己紹介する。
「西中ジュンコです。報道部の2年生です」
更に西中は間髪入れず「で、こっちがへたれの井坂ミナです。私より背が低いですがこう見えて3年生です」
「ねえ、酷くない?勝手に私の事紹介するとか」
「随分とへたれだったじゃないですか」
「後で覚えてなよ」
「まあまあ、喧嘩はそのくらいにしておいてね」
福地が2人の口喧嘩を止めると、「というわけで、飛び入り参加でごめんだけど、私達3人と、後ろのLVTを宜しく頼むわね!」
「随分と強引ね…」
村江が溜息交じりにそう言う横で、塚野は即決で福地達をチームに引き入れる事に決めていた。
「オケオケ。んじゃあこれから宜しくねぇ」
「いいのかよ。てかおめえ適応力たけえなおい」
「1台でも1人でも多い方が有難いしねぇ、ノイジー」
「まあ、隊長の言う通りね」
村江も塚野の判断に異論を挟むつもりは無いようだった。
チーム内では最も戦車道の経験が長いが、決して自分が上に立って教えるような事はせず、あくまで隊長が塚野、副隊長が野島である事を尊重して自分は補佐するような役割に徹していた。
「じゃ、そーゆー事でよろ」
「あの、デスク」
心配そうな表情の萩原に、福地は
「安心して。あなたの独占取材を邪魔する気はないから」
「それでしたら、まあ…」
「いやでも、デスクって何するか分かったものじゃないわよ?」
井坂が脅すように言ったが、すかさず西中が
「先輩って人でなしですね。脅すなんて、ねえ?」
「今日やけに当たりが強くない?」
「先輩が私に全部マニュアルを押し付けるからですよ」
「はいはい2人とも…」
福地が再び仲裁に入ったところで、ラムⅡ巡航戦車が敷地内に入って来た。
ラムⅡの車上には、新入りの井上サクラ、大川ユリカ、桑田クミの3人が乗っていた。
どうやら入りきらなかったらしいが…
「あれ、5人乗りじゃなかったっけ」
塚野が首を傾げたが、ラムⅡを受領しに行ったのは大地、佐伯、田張、安藤の4人だったので、あぶれている様子の4人中1人は車内に収まる筈だが、すぐにその理由が現れた。
「ほら、さっさと下りるんだ」
車体側面のハッチを開いた人物が、桑田に向かって身振りで示しながらそう言った。
「あ、小戸保安部長じゃん」
小戸は塚野を一瞥すると、また桑田に下車を促す。
「もたもたしてないで、ほら」
しかし桑田が小戸に負けじと言い返す。
「生憎あっしは高所恐怖症でね。踏み台になってくれたら有難いかな?」
瞬間、小戸の表情が変わり、桑田もその意味を理解したらしく、
「わ、分かった、分かったよ。自分で下りるからさ。な?」
桑田は逃げるようにしてラムⅡから飛び降りたが慣れていないらしく、両足が地面についた時の衝撃をうまく吸収出来ずに直接響いた痛みに顔をしかめた。
「もう、しっかりしなさい」
佐伯が桑田を支えてやると、後から下りて来た小戸が、
「いけませんなあ副会長。こいつを甘やかしちゃ為にならないですよ」
「それは分かるけど」
一方、大地、田張、安藤の3人は、先着のLVTに塚野達と同じように驚いている様子だった。
「チーフ、あれは何でさあ」
「いや…私も正直驚いているわ」
安藤にチーフと呼ばれた田張も困惑していた。
大地も状況を把握しようと、LVTを指差しながら塚野に、
「これ、買ったんですか?」
「いんや。報道部が買ったんだってぇ」
塚野は肩をすくめた。「つーか、ご苦労さん」
「いやあ、道路の閉鎖は想定外でしたよ」
「まあ、無事で何よりね」
村江もそう労いつつ、「細かい経緯は省くけど、これで戦力が1輌増えたわ」
「確か水陸両用ですよね?偵察とかに役立ちそうです」
「色々使い方は考えられるわね。ところで、小戸とか言う人も新メンバー?」
「いえ。桑田さんのお目付け役というか…」
「ああ、そう言えば萩原が、がめつい商人気質の子だとかなんとか言っていたわね…相当やばい事していたのかしら?」
「たくさんの前科がありましてね」
小戸が桑田を引っ立てつつ話に入って来た。
左の二の腕を掴む手が痛かったらしく、
「痛いってば、離してくれよ!」
「自業自得だ。我慢しろ」
桑田の抗議を鼻で笑うと、「安物をぼったくり価格で売ろうとしたり、学校の備品を転売しようとしたり、認可物以外の物資を無断で仕入れようとしたり、もうやりたい放題でしてね。調理部なのに色々やらかし気味で困ったもんです」
「その様子だと、毎日忙しそうね」
「そりゃもう。あなたと副会長が乱闘騒ぎ起こした時も、こっちは摘発で手が離せなかったですからね」
「乱闘?」
村江が塚野を見た。
あれは塚野が戦車道の最初のオリエンテーションに失敗した後に、佐伯が塚野を煽り、それに怒った塚野が手を出した事で起こった事件だ。
あの時は確かに保安部長の小戸は現れなかった。
保安部員の方は生徒会長室に詰めている数名が駆け付けようとしたが、直後に帰って来た国崎に止められている。
「ああいや、何でもないよぉ」
塚野は村江から目を逸らしながら適当に誤魔化すと、「それはそうとぉ、そんな『前科者』がどーしてまた戦車道なんかに?」
小戸は桑田を離すと腕を組んだ。
その隣で桑田は、相当痛かったのか掴まれていた左の二の腕をさすっている。
「これは司法取引と言うやつでしてね。今までの前科の積み重ねを軽減する代わりに、戦車道を履修するという事みたいでして」
「…みたい?」
微妙なニュアンスを塚野が読み取ると、桑田が口を開いた。
「元々あっしが持ちかけたんですよってにね。戦車道チームはメンバー不足って聞いてるぜ。だからこのあっしが入ってやりゃ、少しは助かるってもんだ。そうなりゃ、あっしはお見逃し、あんた方は人員補充のウィンウィンってわけだ」
「今すぐ断る事も出来ますがね。どうします?」
小戸の質問には、断る方を期待している節が見られたものの、実際のところ桑田の言う通りチームは人員不足に悩まされていた。
「いや、普通に歓迎するよぉ」
桑田は手を打って喜んだ。
「そいつぁいい!じゃあ早速ですがね隊長。戦車道グッズのプランを…」
「早速金儲けか。随分とご熱心で感動ものだな」
呆れたように首を振る小戸に、桑田は
「いいやそうでもねえぜ保安部長さんよ」
と言ってから塚野にまた顔を向け、「グッズの相談はおいおいするとして、売り上げの何割かを戦車道に上納する。悪くねえ話だろ?」
「どうせ仕入れに戦車道向けの予算を流用するつもりだろうが。それでプラマイゼロにして、自分の懐に害は無いようにする。お前の魂胆は見え透いているぞ」
「冗談きついぜ!これは隊長とあっしのビジネス話だ。同じチームなのにそんなあくどい真似はしねえから!第一、予算も足りねえらしいから、これはれっきとした戦車道の活動に必要な話だよ」
と、桑田は色々と理屈を並べ立てたが小戸は万事心得ているようで、何度かゆっくり頷きながら
「なるほどね。お前の行動には逐一目を光らせているからな」
すると今度は、タブレット端末を小脇に抱えた大川が塚野に話しかける。
「あの、塚野隊長。先日ご依頼頂いたタンクジャケットの件なのですが…幾つか候補を作ってみました」
「え、もう?マジで?」
「予選リーグまで1か月もありませんから、早くデザインを決めて数を揃えたいと思っておりまして」
大川が横から差し出したタブレット端末を受け取ると、画面には数種類のタンクジャケットのデザインが並んでいた。
「すっげぇ…」
「どれに致しますか?今すぐに…とは申しませんが、何分時間も差し迫っている事ですし…」
「これがいいかなぁ」
「どれどれ…」
塚野が指した候補を覗いた大川の表情がパッと明るくなった。「これは素晴らしい!私もこれを一番気に入っていたんです!それでは早速…」
「あぁ、あと…これも捨て難いんだよねぇ」
そのデザイン候補は左上にあった。
大川もそれを数秒間吟味して、
「なるほど。では、隊長が最初に選んだこちらをメインに…もう1つ選ばれたこのデザインの要素を取り入れた折衷案にしてみましょう」
「んじゃ、それで」
「私としても腕が鳴ります」
大川は右の人差し指を立てた。「早速取り掛かりたいので、今日はこれでお暇しても宜しいでしょうか?」
「オッケー。頼んだよぉ」
「それでは失礼致します」
大川が去ると、今度は井上がやって来た。
「塚野さん。井上サクラよ。宜しく」
こちらも礼儀正しいが、先程の大川みたいに仰々しくはない。
まあ、大川はあれが平常運転なのだろうが。
「あ、宜しくお願いするねぇ」
「おばあちゃんが散々話をしていたおかげで、こっちも興味が湧いちゃったから」
「いやぁ、ホントここ貸してくれて助かってるし。ありがとねぇ」
「ここは遊んでいた土地だからちょうど良かったっておばあちゃんが言ってたわ」
メンバーと戦車が増えた。
あとは予選リーグまでに出来るだけ練度を高め、備えるだけである。
続く