ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
チャプター1 会敵
『こちらガリシア。フロンティア学園の隊列を発見。2台見受けられません。ハリーホプキンスと、ルノーUEです』
位置を確認すると、エルは手元の地図を指でなぞる。
「2台は偵察ね。多分、ここと…ここ、かしら?」
彼女が座乗するⅡ号戦車F型の後ろには、もう2輌のⅡ号戦車F型が従っている。
3輌は林の中の道を走っていたが、両側に生い茂った草のせいで道なき道を進んでいるように見える。
予選リーグに出せる車輛数の上限は8輌だが、青師団高校は上述のⅡ号戦車F型が3輌と、先程エルに報告してきたガリシアが乗るBT-5が2輌、そしてベルデハ2軽戦車にⅣ号戦車H型とⅢ号突撃砲G型が1輌ずつの編成となっている。
地図を見ながら予想する限り、敵の偵察役(と思われる)ハリーホプキンス軽戦車とルノーUE豆戦車は、ここまで来ているとは思えない。
エルが率いるⅡ号戦車部隊は、主戦場になりやすい中央の平原を大きく迂回するようなコースを取っており、しかも念の為に幅広の道ではなく長年手入れされていないような酷い悪路を走っているのである。
現在、フロンティア学園の本隊と思われる隊列は、どうやら教科書通りに中央の平原に向かって進軍しているようだ。
尚も数秒思考していると、ガリシアとは別のBT-5の車長を務めるエレナが意見具申してきた。
エレナ車はガリシア車とは別地点に潜伏しているが、作戦発動時にはすぐに両車とも合流出来るように考慮した位置取りをしており、エルもそのつもりで配置していた。
『エル隊長、作戦通りにガツンとやっつけにいっちゃいましょう!』
慎重派のガリシアとは異なり、こちらはやや大胆な性格であり、その性格は口調にもなって現れる。
因みにガリシアもエレナも1年生であり、青師団高校の将来を担って立つであろう。
血気盛んなエレナを、バスク副隊長の声が嗜める。
『まあ待ちなエレナ。エル隊長もタイミングは心得ているさ』
『そ、そうですよね!でも、早く攻撃しに行きたいです!』
『待てないなら首輪つけちゃおうか?』
「エルからエレナへ」
『はい隊長!』
エレナの声は、これ以上待ち切れないといったような期待に満ちたものだった。
「ガリシアと合流し、合流したら任意のタイミングで陽動を開始して」
合流地点を伝えると、ガリシアとエレナの声が重なった。
「エル、私達も急がないと」
そう言ったのはエル車の通信手を担当するトリスターナだった。
エルの指示を待つまでもなく、操縦手のヴィリディアナがⅡ号戦車を加速させ、後ろの2輌もすぐに速度を合わせてついて来る。
「会敵まで4、5分…」
加速して強くなった向かい風にロングヘアをなびかせながら、エルはそう呟いた。「陽動隊が十分に引き付けてから、一気に仕掛けて…それから…」
『エル』
作戦を反芻中にバスクの声が割り込んできた。
「何?バスク」
『肩の力を抜きな。あたしには分かるよ』
「そ、そんな事は…」
『言ったろ。みんなで勝ち取るって。あんただけ肩肘張っててもダメだよ』
この副隊長はテレパスか何かだろうか?
そう言えばSF映画やドラマには鉄板ネタとしてテレパスがよく出て来るものだが、あれは現実に基づいているのか?
などと余計な事を考えている事に気付いた時、エルは不思議と体から良い意味で緊張が抜けていくのを感じた。
その直後にトリスターナが声を掛ける。
「エル。大丈夫?まだ今年の全国大会の事、気にしてるの?」
エルは微笑んだ。
「大丈夫よトリスターナ。ただちょっと…バスクがテレパスなんじゃないかって考えていたのよ」
トリスターナとヴィリディアナはぷっと噴き出した。
「何?エルってスタートレックとか好きな感じなの?」
「え、見た事無いわヴィリディアナ。あなたこそ…」
『エールー?聞いてるのかーい?』
「あ、しまった」
エルは送話ボタンを押した。「ごめんなさい。もう力は抜けたわ」
『それなら安心したよ。じゃ、あとは宜しく』
まあ、こんな会話が出来るのであれば心配無用だろう。
バスクは今年の全国大会に敗北した責任を、隊長として自分ひとりで背負っていた。
予選リーグの対象校に選ばれたのも、自分のせいだと。
おかげで何としても来年の全国大会に後輩を送り出そうと焦り、練習ではチームに辛く当たって関係がぎくしゃくしてしまった事もあった。
が、バスクやヴィリディアナ、トリスターナといった親友を始め、仲間達から励まされてわれに返った。
それに、通常はライバル校の1つであるセントグロリアーナ女学園の隊長からも力を得た。
自分は一人ではない。
改めて内心そう自分に言い聞かせながら、エルは時計を確かめ、呟く。
「あと3分…」
『敵戦車、確認出来ません』
「まだ見つかんないかぁ…」
ハリーホプキンスの車長を務める大地の報告は、これで2度目である。
ルノーUEからも2度報告を受けたが、こちらも発見出来ずじまいである。
フロンティア学園は、偵察の2輌を除き緩い楔形の隊列で中央平原に向かって進軍していた。
即ち、レオパルト軽戦車、SU-100対戦車自走砲、ラムⅡ巡航戦車、LVT水陸両用戦車の4輌である。
『隊長。敵は中央の平原を迂回するコースを取っている可能性が高いわ』
そう意見を述べたのは村江である。
彼女はラムⅡの車長を担当しており、戦闘状態でないフリーの今は地図を広げて戦況を確認していた。
「迂回?でもそんな事するの、ちょーめんどくない?」
『私もそんな手間は掛けないと思っていたのだけれど…今正に、敵はそれをやっているとしか思えない。こちらの側面に回り込んだところで、一気に仕掛けて来る。私なら…迂回させるなら、そうするわ』
中央平原まであと1分と数十秒。
つまり、村江の予想が正しければもう間もなく敵襲があるという事になる。
「マジ?そっちに偵察送ってないじゃん」
『一番近いのはルノーよ。今すぐ向かわせた方が…』
と、その時。
『こちら野島!正面からBT-5二輌!』
塚野と村江がほぼ同じタイミングで双眼鏡を向けると、レンズの中に2輌のBT-5を捉えた。
騎馬武者よろしく、こちらに向けて猛前と爆走してくる。
「フフフ。いた…いたわ。フロンティアの本隊!」
向かい風を受けながらエレナが不敵に笑う一方、ガリシアの声は不安そうだ。
「だ、大丈夫かな、エレナ?」
「やるっきゃないわ!それにこう言うの、好きなの私!」
「そうなんだ…」
「こちらエレナ、敵部隊と会敵!これより陽動を開始します!」
『OK。頼んだわよ』
「お任せ下さい!」
エルと通信を終えると、エレナはガリシア車に手を振った。
ガリシアの方は、開け放たれたハッチの縁に両手を掛けて、両目から下は車内だ。
「ガリシア、先に行くからね!」
「どうぞお先に…」
「ピリ、いいわよ!」
「了解!」
エレナ車を操縦するピリは、BT-5を急加速させた。
『来るわよ!』
村江の警告に、塚野達は全身を緊張させる。
青師団高校とフロンティア学園の激突が始まった。
続く