ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
2輌のBT-5のうち、こちらから見て左側の方が先頭切って飛び出してきた。
つまり、エレナ座上のBT-5だ。
「いつでも撃てますよー!」
鹿屋がレオパルトの砲塔を、そのBT-5に指向させて指示を乞う。
因みにレオパルトが今回のフラッグ車である。
「うっし。撃て撃てぇ!」
塚野の命令で、待ってましたとばかりに50mm砲が火を噴いた。
しかし照準を誤り、弾道はBT-5の後ろを斜めに通過した。
BT-5は外側に向かって緩やかな曲線コースを描きながら、こちらの隊列の左側を通過していき、その際に撃ち返したが、高速走行下での安定しない走行間射撃は、近くの地面を抉ったに留まる。
「ひゃ!」
「やばいわ!」
井坂と西中がほぼ同時に悲鳴を上げ、操縦スティックを握る井坂が思わず隊列を乱しそうになるが、
『LVTの諸君、心配には及ばぬ!へーきへーき!』
と、塚野の余裕ある声が通信機からLVTに乗る4人…福地、井坂、西中、桑田…に呼び掛けた事で、動揺による硬直からすぐに立ち直った。
他の車輛は今の攻撃に一切動揺していなかったが、それはイズベスチヤ社のアグレッサーチームとの凄まじい練習試合を経験した隊員達が乗っていたからであり、LVTにはその経験者が皆無だったからに他ならない。
塚野の声は続いて、
『LVTはさっきのBT-5に主砲向けといて!』
と命じ、桑田がそれに従って小型の砲塔を旋回させてエレナのBT-5に主砲を向ける。
「隊長って言われるだけの度胸はあるもんだな」
桑田が言った。
「始まりましたな」
「ええ。練習の成果を発揮する時ですね」
いよいよ戦車戦に突入した事で、観客席は盛り上がり始めていた。
野島船長や井上の祖母、桑田の配下である初坂や、それ以外の調理部員達もそれぞれフロンティア学園戦車道チームを応援する中、国崎と小戸は冷静に大型中継モニターに映し出される試合の成り行きを見守っていた。
但し小戸は桑田特製の焼きそばパンを頬張りながらの観戦である。
そして国崎は、小戸が桑田に対し多少は態度を軟化させた事を察していた。
また、フロンティア学園の学園艦の校舎では、試合のライブ中継が放送部の保有する大型液晶テレビによって映し出され、興味を持った生徒が大勢集まっていた。
住宅街でも、一般住民が各々の自宅でテレビやパソコンにライブ中継を映し出して試合観戦を行っていた。
これはひとえに報道部の萩原や生徒会広報の鹿屋、更には調理部の桑田による宣伝の効果の賜物と言えよう。
そしてもう1つ、宣伝効果をもたらした要素があり、その人物はちょっと面白くなさそうだった。
「やれやれ。逆宣伝になっちまったか…」
大型液晶テレビの前にひしめく生徒達を後ろから眺めながら、放送部長の羽佐間ミオは机の上に頬杖を突いて口を尖らせていた。
わざわざ大型液晶テレビを置いて予選リーグのライブ中継の垂れ流しを宣伝したのは、「注目度の低さを露呈させてその無関心ぶり」を事実として喧伝したかったから、と言うなんとも不純な動機からだったが、これまで展開してきたいわゆる「逆張り」の予想はかえってフロンティア学園の戦車道チームに対する注目をより一層集める結果となってしまったようだった。
生徒の中には、チームの練習の合間に操縦や砲撃体験を楽しんだり、陸上自衛隊もイベントの名物の1つとしている戦車搭乗体験に参加する者が大勢出ており、注目は否応なしに集まっていたのである。
もはや注目度の高さは抗えないものとなったが、羽佐間は敢えてそれを「ただ単に物珍しさが頼りの人寄せパンダ」と言う懐疑的な視点を持つ人間として振舞い今日に至っていた。
しかし結果は、目の前の人だかりとなって広がっている。
こちらの予想とは完全に真逆だが、これはこれで…
「…ま、悪くないか」
と、羽佐間は小さくそう呟いて自分の思考を締め括った。
しかし次なる問題は、このままだと報道部の軍門に下る形で吸収される事だが、まあそれについてはまだ考える時間があるだろう。
「エレナに負けてられない!」
エレナ車が交戦を開始したのを見て、ガリシアも決意して気を引き締めた。「突撃してください!」
ガリシア車の突撃を受けて、ラムⅡの砲塔がこちらを向き、ガリシアは全身に冷や汗が走る感覚を覚えた。
どうも砲を向けられるのは慣れない。
隊列を維持するフロンティア学園の後ろには、獲物の隙を窺うように旋回するエレナ車の姿があり、LVTとレオパルトの砲塔がそちらに向き、ラムⅡの砲塔だけこちらを向いているようだ。
最も脅威の主砲を持つSU-100は固定砲塔なので、こちらの射界に収まっていない。
つまり射線はこちらに対して薄いから…
と、思った瞬間、狙い澄ましたラムⅡの6ポンド砲が火を噴き、砲弾はガリシア車の側面を掠めた。
「嘘!?」
操縦手も動揺したらしく、コースを急激に変えた。
『こちらガリシア!敵のラムⅡに要注意です!射撃がかなりうまいです!』
「了解ガリシア。貴重な情報有難う!」
『Gracias!引き続き陽動します!』
部隊が勾配を登板し続ける中、エルは頭の中のメモに急いで注意書きする。
「ラムⅡが一番危険…なるほどね」
「エル!もうすぐ攻撃ポイントに到着するわ!」
ヴィリディアナの報告を受けて、エルはもう1度地図を確認した。
何度も確認済みだが、念の為だ。
「Bien、ヴィリディアナ。位置に着いたら、私の合図を待って」
「了解!」
「このやろおおおおお!」
エレナの叫びと共に再びフロンティア学園の隊列に突撃するエレナのBT-5。
しかし目的はあくまで陽動、決して無理はしない。
両チームの砲弾が交錯するが、有効打はおろか掠りもしなかった。
「エレナ、もうちょっと慎重に…」
「このくらいやらないと相手に舐められるわ!ガリシアも気合が足りないわよ!」
「そ、そんな事ないよ!」
エレナやガリシアは、陽動するに当たって「新参者」のフロンティア学園戦車道チームの隊列が足並みを乱すかと思っていたが、実際はそうならなかった事で、決して油断すべきでは無い相手と考えを改めていた。
2輌のBT-5は、羊の群れを狩ろうと隙を窺う狼のようにフロンティア学園チームの周りを旋回しながら近付いては射撃し、また一定の距離を保って旋回するという陽動を繰り返した。
「こりゃ本隊の到着を待ってるねぇ」
『そうね』
塚野の分析を、村江は肯定した。『いつ現れてもおかしくないわ』
『じゃあどうすんだよ?このままじゃジリ貧だぜ』
そう問う野島の声は焦れていた。
野島は固定砲塔のSU-100の車長なので、射撃のチャンスが無くイライラを募らせていたのだ。
隊列は既に中央平原に突入しており、BT-5は乱舞し続け、こちらは隊列を維持して防戦に努めているが、敵本隊がいつ現れてもおかしくないし、このままだと集中力もいつかは途切れる。
「…偵察隊を呼び戻して増援にすっかな」
『私がちょっとBT-5に仕掛けるわ』
「え?」
『偵察隊は呼び戻していいわ。でもそれまで時間がかかる…』
その時、またBT-5が仕掛けて来たので一端会話が途切れる。
今度は機銃を乱射しながらの突撃だったので、被弾を避ける為に車内に身を隠した。
BT-5が去り、攻撃が止むと、また顔を出して会話を再開する。
早く方針を決めないと、また会話を中断させられてこちらが気力を削がれる事になり兼ねない。
村江の声が早口で、
『偵察隊が合流するまで、私が奴らの相手をする。そっちは敵本隊を警戒して!』
「隊長!仕掛けますか!?」
エル車のすぐ後ろにつくⅡ号戦車の車長を務めるアンダルシアが、これでもう三度目の問い掛けを行った。
部隊は中央平原を見下ろす位置につき、あとはエル隊長が攻撃の判断を下すのを待つのみとなっていたが、エル隊長はなかなか首を縦に振らなかった。
エルは地面に腹ばいになり、双眼鏡でエレナとガリシアの部隊の陽動の様子をじっと追っていた。
Ⅱ号戦車は少し後ろで横一列に待機しており、下の中央平原からこちらが見えないように考慮されていた。
エレナとガリシアの反復攻撃に業を煮やしたのか、ラムⅡが隊列から飛び出してBT-5を追い回し始めた。
ガリシアが報告していた、『最も危険な』戦車だった。
あれには恐らく、自分と同じ戦車道の経験者が乗り込んでいるに違いない。
エレナとガリシアは、そのラムⅡによって攻撃を中断させられたように振る舞い、隊列から引き離し始めた。
勿論、ラムⅡも自軍の隊列から離れ過ぎないように注意している。
彼らが2輌のBT-5がまだ見ぬ他の部隊の到着を待つまでの陽動だと気付いているのは間違いないし、簡単に予想出来ただろう。
実際、ラムⅡ以外の戦車は気を散らさず周囲への警戒を怠っていない。
が、ラムⅡが隊列から僅かな距離でも離れたのはこちらにとって好機。
エルは起き上がってⅡ号戦車に駆け戻りながら、
「攻撃開始!」
と告げた。
3輌のⅡ号戦車のエンジンがいななくと、一斉に発進した。
続く