ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター3 分断

 最初に発見したのはLVTの車長を担当する福地だった。

 急勾配を3輌のⅡ号戦車F型が一糸乱れぬ横隊で駆け下りて来る。

 

「9時方向に敵戦車3台!」

 

 そう報告を叫びながらもカメラを向けて撮影する福地は、BT-5との遭遇でもカメラを回していたが、もはや悠長に構えていられない事態となった。

 

「え、3輌だけ!?」

 

 塚野も同じ方向に顔を回した。

 双眼鏡を構えるまでもなく、既に急勾配を半分まで下り切った青師団のⅡ号戦車部隊がハッキリと見えた。

 

 塚野が疑問口調で言ったのは、出場可能上限数の8輌のうち、まだ5輌までしか現れていないからだ。

 

 野島も塚野の疑問を察しつつ、

「あと3輌が合流してきたらまずいぞ!」

「迎撃!敵に正面を向けるよぉ!」

 

 塚野がこう言ったのは、固定砲塔のSU-100の主砲も有効活用する為だ。

 Ⅱ号戦車に正面を向ければ、SU-100も迎撃に加われる。

 

「了解!こっちは引き付けておくから、しっかり頼んだわ!」

 

 村江も塚野の考えをすぐに理解したようだ。

 ラムⅡが2輌のBT-5を相手にする間、レオパルト、SU-100、LVTは左に転回して突っ込んでくる3輌のⅡ号戦車部隊と相対した。

 

 

 

「て、敵戦車3輌、こちらと向き合いました!」

「落ち着いてミランダ!作戦通りに!」

「はい隊長!」

 

 3輌目のⅡ号戦車の車長のミランダは2年生だが、ややあがり症で想定外の事態や計画通りに進まないような形になると落ち着きをなくす癖があるが、ミランダ自身も改善しようと努力しており、なかなか一朝一夕にはいかないがそれでも諦めずに努力していた。

 

 急勾配を下り切ったⅡ号戦車部隊は、その勢いのまま迎撃しようとするフロンティア学園戦車隊に肉薄する。

 

「散開!」

 

 エルの指示で、アンダルシアとミランダのⅡ号戦車隊は左右に散らばったが、エルのⅡ号戦車だけは、そのまま正面から突っ込んだ。

 

 

 

「嘘!こっちに来る!」

 

 スコープの中で急激にズームアップするⅡ号戦車に、桐山が思わず怯んでスコープから顔を引いてしまった。

 しかしキューポラの覗視孔からエルのⅡ号戦車に視線を据えていた野島はそれに気付かないまま、

 

「撃て!」

 

 と命じてしまったので、それに反応した桐山が慌ててスコープを覗き直して発砲した時には既に照準は外れており、砲弾はⅡ号戦車の脇を空振りしてしまった。

 

 他方、鹿屋が放った50mm砲はミランダ車の砲塔を掠め、ミランダを動揺させた。

 

 

 

 野島が自分の命令に応じて桐山が発砲するまでに「不自然な」タイムラグが生じた事に頭を傾げる間もなく、エルのⅡ号戦車はフロンティア学園の戦車隊の懐に飛び込んでいた。

 

「Dispara!」

 

 満を持したエルの号令一下、3輌のⅡ号戦車は高速ですれ違いざまに、それぞれの方向から主砲の55口径20mm機関砲KwK30を1クリップ分叩きつけて行った。

 正面から突っ込んだエル車も、SU-100とLVTの間をすり抜けた。

 

 

 

「撃たれたわ!」

 

 福地から通信が入り、塚野がSU-100越しにLVTの様子を見ると、LVTはみるみる減速して落伍し、やがて停車すると虚しく白旗を上げた。

 塚野からは見えなかったが、アンダルシアのⅡ号戦車がLVTの左側面にたっぷり弾丸をお見舞いしていき、その多くが装甲の薄いLVTにブスブスと突き刺さり、致命傷となったのであった。

 

 

 

「フロンティア学園、LVT、走行不能!」

 

 観客席に蝶野の判定がアナウンスとなって響き渡り、それは放送部の大型テレビの前で観戦している生徒やそれぞれの自宅で観戦している一般住民にも伝わり、衝撃を与えていた。

 

 

 

 一方、SU-100も有効打こそ免れていたが、車体後部左側に外付けされている円柱型の燃料タンクが撃ち抜かれ、大炎上して黒煙を上げていた。

 

「やりやがったな…!」

 

 と、キューポラの外に顔を出して被害状況を確認した野島が拳を叩きつけて離れて行くⅡ号戦車を睨んだ。

 

 レオパルトも数発被弾したが、幸いにして食い込んだ弾丸は無かった。

 攻撃したのはミランダ車だったが、レオパルトの砲撃の精度に驚いたミランダがてんぱったおかげで、落ち着いた照準にならなかったようである。

 

 ラムⅡが最も危険だと聞いていたので、レオパルトの砲手…担当は鹿屋だ…の腕も良いという事は想定外だったようである。

 

 とは言え、これだけの肉薄攻撃はこちらを動揺させるに十分だった。

 村江のラムⅡを引き離した上での強襲としか思えない。

 

「くそぉ…!」

 

 だが、動揺している暇は無かった。

 

 一度すれ違ったⅡ号戦車隊は大きく弧を描くように方向転換し、こちらにコースを取り直そうとしていた。

 

「ルノー!ハリー!すぐに中央平原に合流!やばい事になったし!」

 

 

 

「第一撃成功!」

 

 Ⅱ号戦車を転回させながらヴィリディアナが嬉しそうに叫んだ。

 

「でも、フラッグ車撃破には至らなかったね…」

 

 トリスターナが残念そうに言ったが、エルにとっては想定内だった。

 

「エル、次はどうするの!?」

「作戦通りに行くわ。フラッグ車をトラップポイントまで追い立てるわ。あの50mm砲は危険ね」

「確かに…いい腕してたわね」

 

 トリスターナが首肯する。

 トラップポイントにはバスク座上のⅢ号突撃砲G型、Ⅳ号戦車H型、そしてフラッグ車のベルデハ2が待機している。

 そこまで追い込み、一気に叩く。

 

 それがエルの作戦だった。

 

「でもその前に…SU-100の履帯を切っておくわよ!」

「ワオ、性格悪い!」

 

 そう言いながらもヴィリディアナはSU-100の後ろに停車させた。

 20mm機関砲の弾丸では貫通出来ないが、履帯切断なら大丈夫だ。

 エルは初めからそのつもりで、次は榴弾を装填していた。

 

「よし、撃て!」

 

 エルが右側の履帯に集中攻撃すると、SU-100の履帯は哀れにも破壊されて切断されてしまった。

 アンダルシアのⅡ号戦車も、左前方から20mmの榴弾を叩き込んでこちらも履帯の切断に成功した。

 これで暫くは修復に時間を取られるから、トラップポイントへの誘導に集中出来るだろう。

 

 

 

「村江さん、どうしますか!?」

 

 味方の危機に、砲手兼装填手の土橋は村江に指示を仰いだ。

 元来は装填手が必要だが、人員の配置時に1人足りない状況になったので、砲手の土橋や車長の村江が柔軟に装填手として対応する形になっていた。

 

「合流するわよ!」

 

 直後、BT-5の砲弾がラムⅡを掠めて車内が揺れ、村江は一端言葉を中断し、「中村、BT-5には十分気を付けつつ、味方に合流して!」

 

「分かりました!なんとかやってみまーす!」

 

 村江が次弾を砲身に押し込む。

 

「1輌が調子に乗りやすい感じだから、誘い込んで倒すわよ」

「どうやります!?」

 

 村江はエレナのBT-5を見やった。

 

「わざとまっすぐコースを取って。多分、そいつが追いかけて来る筈だから」

「了解!」

 

  あのBT-5はなかなか挑戦的で油断ならないが、もう1輌の慎重なタイプ…ガリシア車…と比べると策略に乗せやすい。

 この短い間の戦闘で、村江は2輌のBT-5の車長の性格を見抜いていた。

 

 

 

 案の定、エレナは村江の誘いに乗ってしまった。

 

「ラムⅡを合流させるな!Vamos!」

「了解!」

 

 ピリもまたノリノリで、こちらに背を向けて味方と合流しようと真っ直ぐ戻って行くラムⅡに突っ込んで行った。

 

「あ、エレナ!ちょっと待って!」

 

 ミランダが嫌な予感を覚えてエレナを引き留めようとしたが、エレナは聞く耳を持たなかった。

 

「わ、私達も行きます?」

 

 操縦手のソルが、自身も迷いの感情を見せつつミランダに尋ねた。

 

「いや、ダメよ」

 

 何だか分からないが、行ってはいけない気がする。

 それはガリシアの直感だったが、明確な根拠は無かった。

 

 

 

「スピン!」

 

 村江が予め中村に伝えていた作戦内容の実行を伝えると、中村は見事な操縦テクニックでラムⅡをスピンさせ、何の躊躇いもなく突っ込んできたエレナ車に正面を向けた。

 

 土橋が少し砲塔を動かして照準を調整する。

 このBT-5は何の疑問も持っていなかったらしく、すぐに回避行動を取ろうとしなかった。

 

「発射!」

 

 タイミングを任されていた土橋が射撃し、6ポンド砲弾は見事にエレナ車の正面を捉えた。

 BT-5はその衝撃で2、3度飛び跳ねてから白旗を上げて停止した。

 

「お見事!」

「あ、有難うございます!」

 

 

 

「こちらガリシア!ラムⅡがそっちに向かっています!」

「Bien!こっちも見えてるわ!」

 

 エルがラムⅡを振り返ると、ちょうどエレナ車を撃破したラムⅡが再びこちらに方向転換して走り出したところだった。

 

「アンダルシア!ミランダ!そっちは引き続きレオパルトをトラップポイントに誘導!こっちはラムⅡをガリシアと牽制するわ!」

 

 

 

「すまない!こっちは修理に時間がかかる!」

「ノープロ!終わったら助けに来てねぇ!」

「はいよ!…ってノープロってなんだよ?」

「ノープロブレムだってば!」

「ああ…そうかい」

 

 野島との通信が終わると、今度は村江に呼び掛ける。

 2輌のⅡ号戦車がしつこく絡んで来ては銃撃してくるが、こちらも回避運動しながら応戦して隙を突かれまいとしている。

 

「そっちはどう!?」

「手強そうなⅡ号に妨害されてるけど、なんとか追いかけるわ!」

「オッケー!こっちもなんとか凌ぐから!」

「これ、本当に凌ぎ切れるのかしら?」

 

 井上が不安そうに下から塚野を振り仰いだ。

 

「わかんない…でも、何とか凌ぎ切っから」

「本当に凌げるかしら?」

 

 と、田張も井上と同じく不安そうだ。「もし敵が全部ここに集まったら…」

 

「偵察隊が戻ってきたら、なんとか…」

 

 と、塚野が応じた直後、左から飛んできたⅡ号戦車の弾丸がレオパルトの鼻先を掠め、驚いた田張が針路を変えた。

 すると今度は右から20mm弾が掠め、田張は更に針路を変える形となった。

 

「ラムⅡに合流させる気が無いねー」

 

 鹿屋がそう言った直後、塚野にある疑念が閃いた。

 その疑念は、Ⅱ号戦車がある方角にレオパルトを誘導しようとしているような動きをもう一度取って来た事で、確信に変わりつつあった。

 

 もっとも、見た目としてはラムⅡとSU-100からこちらを引き離して孤立させた上で、合流して包囲殲滅というシナリオもあり得るが…

 

「ハリー!聞こえるぅ!?」

「はい、こちらハリーホプキンスです!まだ少し時間が…」

「いや、ちょっとやって貰いたい事があんの!」

 

 一瞬大地からの応答に間があった。

 

「…何でしょう?」

 

 またもレオパルトの鼻先を20mm弾が掠めた。

 

 

 

続く

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