ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター4 トラップポイント

『敵フラッグ車、トラップポイントへ順調に誘導中!』

「その調子その調子、いい子だからこっちにおいで~」

 

 アンダルシアからの通信報告を聞きながら、三号突撃砲の砲手席でバスクは大きく伸びをした。

 その横では、装填手のカサンドラが徹甲弾を砲身に押し込んでいる。

 

「装填完了!」

「ご苦労さん。ソフィア、そっちはどうだい?」

 

 ソフィアは次期副隊長として有望視されている1年生であり、今はⅣ号戦車H型の車長を任されている。

 これに加えてフラッグ車のベルデハ2軽戦車が一緒にトラップポイントに潜伏し、敵フラッグ車のレオパルトがここまで追い立てられてくるのを今か今かと待ち侘びていた。

 

 その場所は、林を左右に挟んだ幅広の道の、右にカーブを描く地点で、Ⅳ号戦車とベルデハ2がカーブの外回り側、三号突撃砲が内回り側に潜伏し、茂みの中でカムフラージュしていた。

 

『準備OKです』

「落ち着いて狙いな。いつも通りやりゃあぶれないさ」

『はい!』

 

 それから数秒が経過し、今度はベルデハ2の車長であるアルタの声が少し不安げに

 

『副隊長、うまくいくでしょうか?』

 

 アルタは次期隊長として有望視されている1年生であり、ソフィアと共に将来の青師団高校戦車道チームを担って立つ存在だ。

 計画としては、味方に追い立てられたレオパルトがこちらに来たところでⅣ号戦車が茂みから飛び出して気を引き、その隙を突いてバスクの三号突撃砲がレオパルトを仕留める算段だった。

 

 バスクは苦笑しながら天井を見上げ、

 

「アルタ。あんたが隊長になってからもそんな事言うつもりかい?」

『あ…いえ…』

「もうすぐ奴さんがおいでになるよ」

 

 指揮官が不安そうにしたりあやふやな態度を取ればチームの動きに関わる。

 …とは言え、アルタの気持ちもよく分かる。

 

「まあ何かありゃ、いつでもあたしに相談しな」

『はい…有難うございます!』

 

 バスクは身を起こした。

 そろそろ射撃準備に入るとしよう。

 

「ペネロペ、レオパルトは見えたかい?」

 

 車長席に座る2年生のペネロペは、潜望鏡を覗きながら首を横に振った。

 

「いえ、まだ見えません」

「そうかい。来たら報告しな」

 

 

 

 それから数秒後。

 通信機の向こう側が騒がしくなったので、バスクは送話ボタンを押した。

 

「騒がしいけど、どうしたのさ?」

『副隊長!ハリーホプキンスが…!』

 

 動揺した口調でアルタが説明する。

 

「なんだって?」

 

 バスクが潜望鏡を回すと、レオパルトが追い立てられてくる方向とは反対から、ハリーホプキンス軽戦車が時速20~30km位の低速でやって来るのが見えた。

 

 何か様子を窺いながら走っているようだが…

 

 

 

 そのハリーホプキンスでは。

 

「う~ん。いないなあ…」

 

 双眼鏡を周囲に回しながら大地がそう呟いた。

 今しがたまで開いたハッチから体を乗り出して一生懸命敵戦車を捜索していたのだが、見つかる気配がない。

 

 大地が車長のハリーホプキンスは、塚野の命令でレオパルトが追い立てられている道に青師団高校の戦車が待ち伏せていたり進軍していたりしないか調べていたのである。

 

 しかしどうにも見つからず、大地は調べる場所を間違えたのかと考え始めていた。

 もう既に、あと2、3分もすればレオパルトと合流する所まで来ている。

 それにもかかわらず、敵は見つからない。

 

 塚野は、自分達が追い立てられた先で青師団高校の有力なⅢ号突撃砲やⅣ号戦車が待ち伏せ攻撃をしてくるのではないかと予想していた。

 最初は青師団高校の全戦車が集結して包囲してくるのではないかと考えられたが、塚野の推測も頷ける話であり、大地はルノーに別の道を調べさせ、自分は今の道を調べていた。

 

「大地から萩原さんへ。何か見つけましたか?」

『いえ、何も。そちらは?』

「こっちも…当てが外れたのかな?」

 

 

 

『どうします?』

 

 囁き声でアルタがバスクに指示を仰いできた。

 

「じっとしてな。このままやり過ごすよ」

『でもレオパルトがもうすぐ…』

「分かってるよ。なんならこのままレオパルトが来ても作戦実行するから」

 

 バスクはそう言いながら潜望鏡をハリーホプキンスの動きに合わせてゆっくりと動かす。

 

 

 

「う~ん。よし、このままレオパルトと合流して、Ⅱ号戦車をやっつけよう」

「なんだか気に入らないわね」

 

 砲手担当の佐伯が言った。「私はあの子の推測通りかなと思っていたんだけど…」

 

「私もそう思っていたのですが…」

 

 そこまで言った時、出し抜けに風が吹きつけてくると、大地の髪を横に凪いだ。

 その時、大地の目の端に林の中で不自然に動く物体を捉え、そちらに顔を向け、凝視した。

 

 それから双眼鏡を目に当てると、赤に染められた三角形の旗が風に煽られた影響で左右に揺れていた。

 

 赤い三角旗を支えるワイヤーを下に辿って行くと…

 

 

 

「え…バレた!」

 

 潜望鏡越しに大地の双眼鏡と目が合った瞬間、アルタは息を呑んだ。「副隊長、バレました!」

 

『なんだって!?』

 

 バスクの問い返しに答えている暇は無かった。

 ハリーホプキンスの砲塔が回り、こちらに向かって砲口が下がる。

 

「発進!逃げて!」

 

 夢中で喚くアルタに従い、急発進したベルデハ2のすぐ後ろに2ポンド砲弾が着弾する。

 ベルデハ2は林の中を分け入るように逃走を開始した。

 

 すぐに整備されていない林道に出ると、道なりにぐんぐん進んでいくが、その後ろにハリーホプキンスが滑り出て来ると、こちらを見つけて加速する。

 

 

 

『敵フラッグ車発見!ベルデハ2です!』

 

 大地の一報は、フロンティア学園のメンバーに活気を与えた。

 ルールはフラッグ戦。

 これ即ち、フラッグ車を先に撃破したチームの勝利というルールである。

 

「オッケー!なんとしても仕留めて!」

『了解!』

 

 塚野の指示を受けた後、大地は今度はルノーUEを呼び出す。

 

「萩原さん、聞こえますか!?」

 

 彼女の右手には地図が握られており、視線はこの林道の先に据えられていた。

 

 

 

『まずい、フラッグ車が!』

 

 慌てふためくソフィアだが、バスクはすぐに立ち直った。

 

「ソフィア!あんたはアルタを守りな!」

『は、はい!』

 

 Ⅳ号戦車がベルデハ2とハリーホプキンスの後を追おうとする中、バスクは操縦手のバレリアに言った。

 

「バレリア、前進だ!」

 

 バレリアは驚いて振り向いた。

 ペネロペとカサンドラも同じように目を丸くしている。

 

「どうするんですか!?」

 

 車長のペネロペが仲間の代わりに聞くと、バスクはペネロペを肩越しに振り返った。

 

「直接レオパルトを叩くよ!ぐずぐずしてないで、早くしな!」

「了解!」

 

 バレリアはバスクに従って三号突撃砲を道の中に飛び出させた。

 

「このままレオパルトの前まで行くよ!」

「でももうすぐ来るじゃないですか!」

 

 ペネロペが更に疑問を呈するが、バスクは早口でピシャリと言う。

 

「罠はもうバレてるんだよ!それに、先にベルデハ2がやられたらおしまいだ!こっちから出張って早くカタを付けるよ!」

 

 ペネロペはごくりと唾を飲み込むと、改めてバレリアに指示を与える。

 

「ペネロペ、レオパルトが見えるまで前進!」

「はい車長!」

 

 バレリアは再び三号突撃砲を発進させた。

 

『バスク、やれる?』

 

 エル隊長の声が問い掛けるが、バスクに迷いは無かった。

 

「任せな、エル」

『了解。頼んだわよ!』

 

 エルとの通信を終えると、

 

「発見したら停止。そこで仕留めるからね!」

「頼みます、副隊長!」

 

 とカサンドラが言うと、バスクは真剣な面持ちで頷き返した。

 

 

 

「撃て!」

 

 ソフィアの号令でⅣ号戦車の主砲が火を噴くが、弾丸はハリーホプキンスを外れて木立の中に吸い込まれた。

 

 ベルデハ2も砲塔を後ろに向けて牽制しているが、ハリーホプキンスも怯まずに撃ち返しており、この林道の中だといつ被弾してもおかしくなかった。

 

 と言って、Ⅳ号も楽ではなく、曲がりくねった林道の中では照準を付けづらいし、それでなくともハリーホプキンスはⅣ号戦車の射線をベルデハ2となるべく重なるように動いていた為、なかなか撃ちづらかったのである。

 

「ダメです!撃てません!」

 

 砲手が参ったと言うように首を横に振ったが、

 

「落ち着いて!チャンスを待つのよ!」

 

 そう言いながらも、ソフィアは心の中でバスクがレオパルトを仕留めてくれる事を一心に願っていた。

 

 

 

 これでもう何度目だろうか…またⅡ号戦車の20mm弾が車体を引っ掻いて行った後、井上の声が警告する。

 

「前方、敵戦車1輌!」

 

 そちらに顔を振り向けると、こちらと相対して三号突撃砲が迫って来るのが見えた。

 

「ち、おいでなすったねぇ…」

「どうしますか!?」

 

 と、田張の声が塚野に指示を仰ぐ。

 答える前に、塚野は周囲の状況を素早く見回した。

 

 

 

「停止!」

 

 バレリアが制動を掛けると、三号突撃砲は前のめりに数メートル滑って停止し、ガクンと砲身をもたげた。

 

「距離、200m!」

 

 目の前にフラッグ車、レオパルト。

 射程は十分。

 あとは落ち着いて狙えばいいが、その前に。

 

「Ⅱ号は合図で左右に展開!」

『了解!』

『了解!』

 

 アンダルシアとミランダから同時に返答が来ると、すぐに

 

「展開!」

 

 誤射を防ぐ為、こちらから見てアンダルシア車が左に、ミランダ車が右に分かれる。

 

 バスクは瞳を引き絞った。

 

「発射!」

 

 

 

 直前、塚野の脳内が閃いた。

 

「左のⅡ号のケツについて!」

 

 田張は機敏に反応し、レオパルトを急減速させながら左のⅡ号戦車…ミランダ車の後ろに滑り込んだ。

 

 この行動は三号突撃砲の射撃とほぼ同時であり、レオパルトが塚野の命令に従った直後に砲弾が発射され、レオパルトの横を掠めて行った。

 塚野は、三号突撃砲の徹甲弾が掠めた際の衝撃波を肌で感じて思わず顔をしかめた。

 

 しかしともあれ、レオパルトは決着の弾丸を回避したのである。

 

 

 

「Mierda!」

 

 バスクはスペイン語で悪態を突いた。

 ペネロペ、バレリア、カサンドラの3人も、思わぬ展開に一瞬呆気に取られていたが、その常態をバスクはいつまでも許さなかった。

 

「おい、早く装填しな!」

「は、はい!」

 

 慌ててカサンドラが腕の筋肉を盛り上げながら徹甲弾を持ち上げ、砲身に押し込める。

 

 

 

「そのまんま突破しちゃえ!」

 

 レオパルトはミランダのⅡ号戦車を離れると、3輌の青師団戦車の間を右に左に縫うようにしてキルゾーンを走り抜けた。

 振り向くと、三号突撃砲が旋回してこちらに主砲を向けようとしている。

 再び前方を見ると、その先は間もなく右にカーブを描いており、なんとか逃げ切れそうだった。

 

 

 

「ダメか…!」

 

 レオパルトがカーブの向こう側に消えると、バスクは舌打ちした。

 相手はどうやら機転の良さの持ち主らしい。

 

「バレリア、追いかけて!」

 

 ペネロペが言い、バレリアは三号突撃砲を発進させる。

 その左右を、より速いⅡ号戦車が追い越していった。

 

 バスクはエルとの通信を開いた。

 

「エル。すまない、仕留め損ねた」

 

 

 

「くっ、残念…!」

 

 ラムⅡを見据えながらエルは歯噛みした。

 とは言え、今大事なのはこの先どうするかと言う事だ。

 

 もはやラムⅡをここに引き留めておく意味は無くなり、目下追われているベルデハ2を助けなくてはならない。

 アルタの報告から、エルは頭の中に広げた地図でベルデハ2が今どこに向かっているかを思い描いていた。

 

 それですぐに当座のプランを立てると、

 

「ガリシア、離脱するわよ!先に行って!」

『は、はい!』

 

 ガリシアのBT-5がラムⅡに絡むのを中止し、自分の横を通って行き、100m以上の距離を取るのを一瞥した後、

 

「ヴィリディアナ、私達も離脱!ベルデハ2と合流するわ!」

「OKエル!」

 

 ヴィリディアナは巧みな操縦でラムⅡから距離を取ると、BT-5の後を追った。

 

 

 

「敵が離れて行きます!」

「ベルデハ2と合流する気ね」

 

 息を切らしながら村江は敵の動きを分析した。

 体中は汗まみれである。

 

「追いますか!?」

 

 再び中村の声が尋ねた。

 だが、村江はSU-100の方を見ていた。

 

「…いや、まずはSU-100の修理を手伝うわ。それからレオパルトを合流する」

「了解!」

 

 それから村江は、へたり込むようにキューポラの縁に両腕を置いてうなだれ、深々と疲労の溜息を吐いた。

 

「やっぱり装填手をつけるべきだったわ…」

 

 そう、ラムⅡは元来5人乗りだが、村江は敢えて4人にしていた。

 5人乗せる事は出来たが、その候補となり得た日の浅いメンバーをLVTに押し込めてしまったのである。

 

 結果、村江が車長と装填手を兼ね、土橋が砲手に専念したのだが、指揮と装填の両方をこなすのは思った以上に大変だった。

 経験値と体力でカバーするつもりだったが、ずっと2輌相手に孤軍奮闘していたのでそれもすぐに意味を成さなくなったのである。

 

 村江は再び、去って行くⅡ号戦車とBT-5を見た。

 

 すると、Ⅱ号戦車の車長も村江に気付いて振り返ると、フランクな動作で投げ敬礼をした。

 村江も弱弱しく苦笑しながら、敬礼を返す。

 

 互いに死闘を繰り広げた者同士の、敬意と感銘の籠もった敬礼であった。

 

 

 

 

 続く

 

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