ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
さて、ベルデハ2は林を抜けて広場に出た。
この先は幅の広い川が流れており、両岸は低めながらも切り立った崖となっており、その先を進む事は出来ないが、その代わり吊り橋が掛かっていた。
吊り橋の幅はベルデハ2が進むには十分だが、Ⅳ号戦車が進むには狭かった。
エルのⅡ号戦車とBT-5の2輌は、対岸で落ち合う予定だった。
『レオパルトを見逃そうってのかい?』
「まずはフラッグ車の安全確保が第一よ。それにⅢ突じゃ追いつけないでしょ?どのみち」
バスクの反論に、エルはそう諭した。
2、3秒の間を置いて、バスクの渋々といった口調が返事する。
『…分かったよ。でもそっちと距離があるけど?』
「ええ。だから別のポイントで合流するわ。あなたはそこに向かって。私達がベルデハ2を拾うから」
『OK。でも見張りにⅡ号を1台つけるからね』
素っ気なく通信が切れる音に苦笑するエルだったが、直後に先頭を走るガリシアの緊迫した声でその苦笑が消える。
続けてその報告内容に顔が青ざめた。
『エル隊長!ルノーUEが吊り橋のワイヤーを切断しています!』
「切れ切れ!全部切っちゃえ!」
「片側だけで良いんじゃ?」
「それもそうですね!」
尾鷲の忠告に従い、萩原は8mm機関銃の弾丸を手前のワイヤー、即ち左側のワイヤーに向かってばら撒いて行った。
既に左側が2本、右側が1本切断されており、吊り橋は少しずつバランスを崩し始めている。
ルノーUE・タンケッテ仕様は、機関銃が主武装なのであらゆる戦車を撃破するには完全に力不足だが、こういった役回りならお任せあれだ。
地図でベルデハ2の予測針路がこの吊り橋と予測した大地から指示を受けた萩原と尾鷲は、一足先にこの吊り橋に到着すると、機関銃で吊り橋のワイヤー切断作業に取り掛かり、ベルデハ2の退路を断とうとしていたのである。
そして大地の予測通り、ベルデハ2はここに現れたが、問題はまだ作業が終わっていない事である。
なるほど吊り橋はこれでも不安定になっているだろうが、ベルデハ2を支えるだけの力はまだ残されているかもしれない。
確実に退路を断つ為、萩原は一心不乱に機銃を撃ち続けた。
が、不意に銃撃が止まった。
「まずい、弾が切れた!補充しないと!」
「ベルデハ2は目の前よ」
弾帯を手に給弾を始めた萩原を横目に、尾鷲は目を細めながらベルデハ2を見やった。
ベルデハ2は尚も向かって来る。
吊り橋を強行突破するつもりだろう。
「衝突に気を付けて」
そう言うと、尾鷲はルノーを動かした。
「エル隊長!吊り橋が!」
『まだ行けるから!突っ込んで来て!』
「ええ、それマジですか!?」
『見て、ルノーは射撃を止めた。弾切れで補充中よ!今の内だわ!』
「うう…もう、こうなったら…!」
アルタは恐怖で目が潤みながらも、操縦手に「行くわよ!」
「まじっすか!?」
操縦手も唖然としながら、アルタの指示に従い速度を上げた。「うおお、こうなったら道連れじゃーい!」
「もう少しでルノーを撃てるから、早く!」
確かに、対岸ではエルのⅡ号戦車とBT-5がこちらに急いで駆け付けてきている。
射程に入ればこちらの援護射撃に入るだろう。
だがまずはとにもかくにも、吊り橋を渡る事だ。
後ろでは、どうやらソフィアのⅣ号戦車がハリーホプキンスとこちらから引き離す事に成功したようで姿がまだ見えないが、時間の問題だろう。
そう、どのみち先を急がねばならないのだ。
と、その時。
「…え?」
アルタはルノーの行動に目を見張った。
ルノーがこちらに正面衝突コースで突っ込んで来たのである。
「ひえええええ!」
と、萩原の悲鳴が上がるが、尾鷲はお構いなくベルデハ2に向かってルノーを突っ込ませた。
ベルデハ2の主砲がこちらを狙うが、相手も慌てたらしく、発射された弾丸はルノーの右側に着弾した。
「尾鷲さあん!?」
衝突直前、萩原が尾鷲を見たが、尾鷲は全神経を自分の両手両足、そして正面のベルデハ2に集中していた。
「せい!」
気合の一声と共に、尾鷲はベルデハ2を180度反転させ、バックでベルデハ2の正面に衝突した。
車内が急激な衝撃に襲われ、それに備えて体を固くしていた尾鷲と萩原だったが、やはりその衝撃の強さに悲鳴を上げた。
萩原に至っては危うく舌を噛みかけた程である。
「ぐう…」
衝撃の強さに一瞬意識が朦朧としかける萩原だったが、すぐに尾鷲の事が気になって無理矢理意識を現実に引き戻す。
その時、萩原は同時に重心が前のめりになっている事に気付き、続いて車体が前のめりに傾いている事に気付いた。
ルノーはベルデハ2に尻を持ち上げられる形で前傾姿勢になりながらズルズルと押されていたのだ。
傾きは更に角度を増していき、しまいには逆立ちになりそうだった。
「わわ!やばいですよ!」
ルノーとの衝突直前、操縦手は無意識で急ブレーキをかけていたのだが間に合わず、ルノーの尻に衝突してそのまま押し上げていた。
しかしもう一度加速しようにも、ルノーにブロックされて思うように進めない。
ふと振り向くと、林の中から死神のハリーホプキンスが姿を現した。
アルタは息を呑むと、
「全速後退!」
ベルデハ2は一度停止するとバックしてルノーを引きはがしてから、その横を通り抜けようとする。
その間も背後からハリーホプキンスが迫り来る。
アルタの全身を冷や汗がドッと噴き出し、恐怖で心臓が高鳴った。
するとルノーがベルデハ2を追い越し、今度は車体の左側をぶつける形でベルデハ2の前に割り込んだ。
またもブロックされたベルデハ2は減速を余儀なくされる。
そこへハリーホプキンスが更に迫り、2ポンド砲をこちらに向けて来た。
漸くソフィアのⅣ号戦車が林を抜けて来たが、ハリーホプキンスはいつでも射撃が出来る状態である。
アルタは主砲の45mm砲をハリーホプキンスに指向するよう命じた。
「急いで!アルタ達が危ない!」
エルのⅡ号戦車とBT-5は漸く吊り橋の前に辿り着いた。
『ベルデハ2に当たりそうで撃てません!』
ガリシアの言う通り、ルノーやハリーホプキンスを撃とうにもベルデハ2が射線に被る。
ハリーホプキンスも対岸のエル達に気付いてベルデハ2と射線を被るように立ち回っていた。
「もう1度バック!」
ベルデハ2はまた後退してルノーから離れた。
吊り橋が近くて遠い。
ハリーホプキンスとの距離は、もう100m以内と至近距離だ。
相手は確実に仕留めに来ている。
と、ハリーホプキンスが発砲し、弾丸はベルデハ2の側面を掠めて行った。
「は、早く吊り橋を渡って!」
「分かってますってえ!」
喚くアルタに操縦手も喚き返す。
しかし前進するとルノーがまたも通せんぼしてきた。
「エル、行こう!」
トリスターナがエルを振り返った。
吊り橋はワイヤーが何本か切られて不安定だが、素早く渡れば問題無い筈だ。
エルは頷くと、
「ヴィリディアナ!頼んだわよ!」
「任せて!」
ヴィリディアナが操縦桿を動かしてⅡ号戦車を吊り橋に向けると、慎重に車体を吊り橋に乗せ始めた。
「撃てえ!」
アルタの号令で45mm砲がハリーホプキンス目掛けて発射されたが、狙いを付けた瞬間に攻撃を見切ったらしく、ハリーホプキンスは急カーブを切って回避した。
それからコースを再びベルデハ2に戻す。
Ⅱ号戦車が車体の殆どを吊り橋に乗せた瞬間、負担に耐えかねたロープが音を立てて接続部から千切れ始め、Ⅱ号戦車の足元も斜めに傾く。
「まずい!」
エルの命令を待つまでもなく、ヴィリディアナは急いでⅡ号戦車を急速後退させた。
吊り橋の状態はさっきよりも悪くなった。
もうベルデハ2はこっちに渡ってこられない。
ハリーホプキンスの攻撃を危うく回避した直後にアルタは吊り橋の様子を見て取った。
「…林に戻るわよ!」
しかし仕留め損ね、勢いで横を通過したハリーホプキンスが、すぐに反転して戻って来た。
45mm砲はまだハリーホプキンスを向いていない。
相手は落ち着いてこちらを狙えるわけだ。
「…嘘…!」
アルタが目を見開いた瞬間、横から飛んできた砲弾がハリーホプキンスの横腹を直撃し、ハリーホプキンスはベルデハ2の眼前で停止して白旗を上げた。
砲弾が飛んできたのは吊り橋からではなく…
「ソフィア…!」
Ⅳ号戦車が砲口から煙を上げて佇んでいた。
ソフィアは停止させると、ベルデハ2を助ける為に慎重に狙いすましていたのだ。
この状況では冷静な行動と言える。
『良かった…良かった…』
通信越しに、涙ぐむソフィアの声が耳に入って来た。
「え、まずくないですかこれ?」
「逃げ一択!」
尾鷲はベルデハ2のブロックを中止すると、林に向かって逃走を開始した。
Ⅳ号戦車とベルデハ2からの砲弾が追ってきたが、どちらも命中弾を得ず、ルノーは林の中へと身を隠した。
「ソフィア、よくやったわ!本当に助かったわ!」
『あ、有難うございます…!』
「ファインプレー、やるじゃない!」
「うんうん!ホント、プレッシャーも凄かっただろうに!」
エルに続けてトリスターナとヴィリディアナもソフィアを労う。
『後でじっくり話を聞かせてほしいもんだねえ』
と、バスクの声が言った。
『隊長、この後は?』
アルタの言葉に、エルは気を引き締め直した。
まだ試合は終わっていない。
敵は4輌に減ったが、こちらの攻撃を回避し、またさっきのようにチャンスには喰らいついて来る相手だ。
フラッグ車を倒すまで、油断は出来ないのだ。
「合流地点を言うわね」
『こちら大地、フラッグ車の撃破に失敗しました。私達はやられました。すみません!』
「ドンマイドンマイ。次の作戦考えっから」
『で、どうすんだよ?』
野島の声が尋ねる。
レオパルトはラムⅡとSU-100と合流して吊り橋方面に移動中だった。
Ⅱ号戦車が1輌、見張りについてきているが、攻撃はしてこないようだ。
塚野はそのⅡ号戦車を一瞥すると、
「お萩にはベルっちの見張りをお願いすっから宜しくねぇ」
『了解しました!』
と、萩原の声が返事する。
『敵は7輌、こちらは4輌。状況は良くないわ』
と、村江が現在の戦力を勘定した。『こちらから攻撃を仕掛けるのは…自殺行為よ』
「まあまあ。何とか勝っときたいから、前向きに行こ?」
『でも実際、どうするの?』
土橋が言った。
「ま、暫くベルっちの動向確認だねぇ。村江参謀はどうすると思う?」
『私が青師団なら…まずは合流してベルデハ2の安全を確保する』
「そっからはどーすんの?」
『そうね。見張りにつけているⅡ号戦車からの報告を元に、攻撃作戦を展開する。何せ、向こうの方が数的有利だから、好きなように先手を打てるわ』
「ふうむ…」
『どうしたの?』
村江の問いに答える前に、塚野は数秒思案した。
「…あのさ、もしあたし達から先手を打つって言ったらどう思う?」
『…作戦は?』
続く