ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター6 弾雨

 アンダルシアから報告が入った時、エルは後ろ斜めから後を付けて来るルノーUEに双眼鏡を向けていた。

 

『エル隊長、フロンティアがそちらに向かうコースを取りました!』

 

 エルは双眼鏡を下ろし、前方に首を回した。

 頭の中で広げられた戦況図では、3輌のフロンティア学園戦車隊がこちらに向かって森の中へと進んで行く様子が描き出されていた。

 

「了解。引き続き報告を宜しく!」

『はい隊長!』

 

 ルノーの様子を目の端で監視しながら、エルは仲間達に指示を送る。

 

「みんな、迎え撃つわよ。これから森に入るわ」

『数的不利なのに無謀では?』

 

 アルタの声にベルデハ2を振り向くと、開かれた砲塔ハッチからアルタが上半身を出してこちらを見ている。『もしそうなら、あとは…』

 

『いや、敵に何か策があるんだろうね』

 

 と、バスクの声がアルタの意見を遮った。『あとは楽勝って言いたいんだろうけど、あいつらはそんな事を考えてないと思うね』

 

『でも副隊長。どうしてそう思われるのですか?』

 

 これはソフィアだが、バスクは落ち着いて答える。

 

『レオパルトを仕留めようとした時さ。土壇場でやけくそになったり、すぐ諦めるような連中じゃないって確信したよ。向こうの車長は咄嗟にあたしの砲撃を避け、振り切った。あんな判断、ポッと出としては上出来過ぎるね』

 

『確かにあれは…私もまさかと思いました』

 

 レオパルトの回避を間近で目撃したⅡ号戦車のミランダが言った。

 

 エルは仲間達の議論を暫し静聴していたが、やがて無線の送話ボタンを押し、

 

「みんな、よく分かったわね?フラッグ車を仕留めない限り、危険な相手だって。その上で、相手の挑戦を受けて立つわ」

 

 青師団高校はフロンティア学園と正面から激突するコースで森に入って行った。

 

 

 

「…りょーかい。サンキュー」

 

 萩原から青師団高校本隊の動きを知らされた塚野はそう答えて通信を切ると、後ろで監視しているⅡ号戦車を一度振り返った。

 

『会敵前に倒さないと』

 

 と、塚野の考えを村江が言った。『タイミングは?』

 

「大丈夫。任せて」

 

 村江は頷き、

 

『いいわ』

 

 直後にフロンティア学園も森の中に突入した。

 

 

 

 それから少し時間が経過した。

 エルは味方を横に散開させて森の中を進軍していたが、ベルデハ2だけは中央を進む三号突撃砲の後方に配置していた。

 ルノーUEは尚もこちらに撃たれないよう用心しながら、樹木や草の間を見え隠れしてついて来ている。

 

 両軍の様子は観客席の大型モニターで逐一表示されており、5分以内に会敵する筈だった。

 

 その頃、アンダルシアはフロンティア学園戦車隊が見せた行動に頭を捻っていた。

 

「…どういうつもりなの?」

 

 それまで3輌は横一列で走っていたのだが、中央のレオパルトを残して左にSU-100、右にラムⅡが展開して行ったのだ。

 戸惑っている間にSU-100とラムⅡは姿をくらましてしまい、見えているのはレオパルトだけになった。

 

「エル隊長!」

『こちらエル。どうしたの?』

「敵が散開。今レオパルトを追っています」

『了解。こっちも備えるわ。気を付けて』

 

 アンダルシアはハッチを開いて顔を出すと、こちらを無視して進み続けるレオパルトを見た。

 

 フラッグ車であるレオパルト自身が餌となってわざと孤立し、本隊を引き付けている間に残りの2輌がベルデハ2を狙うつもりだろうか?

 こちらも動向を把握されているから考えられる事ではある。

 

 しかしどうも合点がいかない。

 一体どうしてそう思うのだろうか?

 敵が他の方法を思い図っていて、それが何かである事にまだ気付いていないからか?

 

 そう考えの沼に耽っていたので、目の端で動く物体に気付くのにワンテンポ遅れてしまった。

 

「…え!?」

 

 ラムⅡだった。

 

 

 

 前方で6ポンド砲の砲撃音が鳴り響き、エル達は緊張を強めた。

 直後にアンダルシアの声が、

 

『エル隊長!やられました!』

 

 アンダルシアからの被撃破報告に、チームがざわつく。

 

『え、どうしたの!?』

『どういう事!?』

「みんな静かに!」

 

 エルが一同を制すると、改めてアンダルシアに問いかける。「何があったの?」

 

『ラムⅡにやられました!警戒はしていたのですが、不意に…すみません!』

「気にしないで。交信終わり」

 

 エルは喉の奥で唸った。「…なるほど。Ⅱ号を排除する為の作戦だったのね…」

 

 会敵直前だと言うのに、これで敵の位置は分からずじまいとなった。

 逆に敵は青師団高校チームの位置を一方的に掴んでおり、好きなタイミングで、好きなポジションから攻撃出来るようになった。

 エルは左右の味方を見回した。

 

「減速!どこから来てもおかしくないわ!警戒を厳にして!」

 

 警戒レベルの引き上げを命じてから再び振り返ったが、ルノーUEの姿が見当たらなかった。

 だが、どこかでこちらを見ている筈だ。

 

 

 

「ナイスー村江参謀!」

『まあ、上々ね』

 

 村江が肩をすくめながら言った。

 

「でもまんまと引っ掛かるなんてねー」

 

 と、鹿屋が言った。

 

 塚野は敢えて三手に分かれるという一見意味不明な行動を取ったが、それはⅡ号戦車を撃破する為の策略だった。

 Ⅱ号戦車には自分達を追跡させながら知らんぷりを装っていたが、ラムⅡが横から襲い掛かり、見事に排除した。

 相手の反応が遅れたのは、こちらの作戦を訝しんで困惑していたせいで注意力が散漫になっていたからだろう。

 

「ツッチー、そーいや本日2輌目?」

『ああ、そう言えば…そうだね…』

 

 土橋は実感が無いのか、声がぼんやりしていた。

 ここまで8輌中2輌を倒しているが、どちらも土橋の手柄である。

 

「ノイジーは今どこ?」

『そっちに向かってるとこだぜ』

「りょ。じゃまた」

 

『…どっちにしても賭けになるわね』

 

 村江の表情はまだ不安そうだが、一方で監視のⅡ号戦車を排除したアドバンテージを生み出した塚野に敬意を抱いたようで、次の一手に期待を抱いているようだった。

 

 何しろ作戦が、古参校相手に通じたのだから。

 

 そう言えば先のイズベスチヤ社との演習でも、塚野の考えた作戦を黒森峰が発展させる形で採用し、一定の損害を与えている。

 

「ま、イチかバチかってやつ?」

 

 4対6。

 うち1輌は豆戦車…打撃を与えられるのは実質3輌だ。

 

『もうすぐかしら』

「オハギ、そろそろ知らせてくれていいよぉ」

『了解しました!』

 

 

 

 ルノーUEの銃撃音と、曳光弾が出鱈目にばら撒かれた。

 アルタの動揺した声が反応する。

 

『機銃!?』

 

 瞬時にエルは次に何が起こるかを悟った。

 

「来るわ!敵は近い!」

「え、どこ?見えな…」

 

 ペリスコープ越しに目を皿のようにして前方の様子を窺っていたヴィリディアナが言い終わらないうちに、何かがエル車の左側を高速で通過していった。

 

 進行方向には横一列隊形の中央を走るバスクのⅢ号突撃砲がいた。

 

「来たよ!」

 

 バスクが砲撃しようとして、現れた敵車輛に一瞬戸惑った。

 SU-100が現れたのまでは良かった。

 バスクはこれを撃破しようとしたが、その後ろにレオパルトとラムⅡが続いており、3輌は一本棒となって、一点突破を図った突撃をしてきていたのである。

 

「う…くそ…!」

 

 バスクは狙いをつける間もなく腰だめで発射したが、砲弾はレオパルトとラムⅡの間を通り抜けた。

 3輌はⅢ号突撃砲の傍を掠め、後方のベルデハ2に向かってまっしぐらに走って行った。

 

 散開していたエル達は対応に遅れ、3輌とベルデハ2との間に遮るものはない。

 

「嘘…!」

 

 アルタは距離を詰めて来るSU-100を見て硬直した。

 咄嗟の判断が下せず、ただ敵戦車がこちらに爪をかけようと襲い掛かって来る様子を見つめている事しかできなかった。

 

 と、間に何かが割って入り、ベルデハ2の操縦手は慌てて急ブレーキをかけながら車体の向きを変えた。

 横滑りしたベルデハ2は、急に割り込んできた物体に横からぶつかって停止した。

 

 恐らくそれにSU-100がぶつかったのであろう、もう1度衝撃がベルデハ2を揺るがし、蓋が開き白旗が上がる特徴的な音が聞こえた。

 

 しかしそれがベルデハ2のものではない事をアルタは直感で分かった。

 

 ハッチを開くと、割り込んできたのがソフィアのⅣ号戦車で、白旗を上げていたのがこの戦車だった。

 ソフィアが敵戦車隊の動きに反応し、ベルデハ2を守る為に身を挺してSU-100とベルデハ2の間に割って入ったのだ。

 バスクがSU-100を発見して僅か1秒後に行動を起こし、ギリギリでベルデハ2の盾になる事に成功したが、その代償としてⅣ号が代わりに被弾し、撃破判定となったのであった。

 

 一方SU-100は、Ⅳ号戦車を避け切れずに真正面から突っ込んでしまい、砲身をⅣ号のターレットリングに突き刺すように組み合う恰好となり、動けなくなっていた。

 

『ダメだ!仕留め損ねちまった!』

 

 野島の報告に悔しがっている暇は無かった。

 塚野達の後ろでは、バスクのⅢ号突撃砲が旋回を終えて今正に砲身をレオパルトに向けようとしていた。

 

「撤退!てったーい!」

 

 レオパルトとラムⅡは急発進してその場を逃れた。

 左右に逃げられてⅢ号突撃砲の射界の外に出てしまったので、バスクはⅣ号から離れようともがくSU-100を先に攻撃し、車体後部に徹甲弾を突き刺されたSU-100は敢え無く白旗を上げる。

 

『隊長!逃げないと!』

「でもフラッグ車がすぐそこ…」

 

 塚野は村江の警告を無視しようとしたが、Ⅲ号突撃砲の動きはレオパルトを狙って今まで以上に機敏になっていた。

 ベルデハ2を狙っている間にやられかねない。

 

「たばっち!離脱!」

「了解!」

 

 田張は擱座するⅣ号戦車を盾にするようにしてその場からの離脱を図った。

 既にベルデハ2は親元に駆け寄る子鹿のように、戻って来る青師団戦車隊に向かっていた。

 

「隊長、こっちよ!」

 

 村江は手を振ってレオパルトを呼び寄せると、「先に行って!」

 

 と言ってレオパルトを先に行かせてから土橋に命じる。

 

「よし。目標、ベルデハ2」

「了解!」

 

 予め打ち合わせしておいたのだろう、土橋は砲塔を動かして、あと数秒で味方と合流しようとするベルデハ2に砲身を向ける。

 樹木が障害物になっているが、村江は事前にどこを狙うべきかを指示しており、土橋は指示通りにその方向に狙いを付けた。

 

「合図で射撃」

 

 ラムⅡの目論みに気付いた三号突撃砲が停車し、車体を回してこちらに狙いをつけようとするが、村江はその前にベルデハ2を仕留めるつもりでいた。

 

 最初の突撃に失敗した以上、これが敵フラッグ車を討ち取る最後のチャンスだろう。

 

 たとえこちらがやられても、被弾前の射撃であればその砲弾は有効だ。

 

 ベルデハ2が隊長車のⅡ号戦車と合流する直前、ラムⅡの射線に入った。

 

「撃て!」

 

 飛び出した6ポンド砲弾は木々の間をすり抜けて行き、切っ先はベルデハ2の背中を捉えていたが、運悪くU次型に湾曲していた砲塔後部を滑って地面を抉るに留まった。

 

 隊長車のⅡ号戦車が急いでベルデハ2を自分の後ろに匿い、これでもうベルデハ2を攻撃出来なくなった。

 

 仕留め損ねたラムⅡをⅢ号突撃砲が仕留め、フロンティア学園チームの残りはレオパルトとルノーUEの2輌となった。

 

「え、マジ…?」

「残りは私達とルノーだけよ」

 

 井上が塚野を振り返った。

 口調こそ冷静だが、焦りを押し殺した、緊迫した表情だ。

 

「どうするのー?」

「隊長!」

 

 鹿屋と田張も塚野に指示を仰いだ。

 塚野は逡巡したが、すぐに決断した。

 

「ここで逃げたらもうマジであとがないから…」

 

 三号突撃砲を先頭にこちらに向かって来る青師団高校チームを振り返る。「反転して、もう一度仕掛けるよぉ!」

 

 井上が塚野の言葉に目を丸くした。

 

「本気で言ってるの!?」

「マジだから。たばっち、迂回しながらベルっちに突撃!オハギ、そっちは正面から行って!」

「了解隊長!」

『わ、分かりました!』

 

 レオパルトは青師団チームに向き直ると、最後の突撃を敢行した。

 二手に分かれ、レオパルトは青師団チームを迂回するように、ルノーUEは真正面から突っ込んで行く。

 

 履帯幅の広いレオパルトは、樹木の根が網の目のように張り巡らされ、突き出た岩の先端等でデコボコした足場の悪い森の地面をやすやすと踏破していった。

 

 一方のルノーUEはそんな悪路を右に左に傾き飛び跳ねながら敢然と青師団チームへと切り込んでいく。

 

「こんな状況でも向かって来るなんて…」

 

 トリスターナが感嘆の声を上げた。

 

「言ったでしょ、油断ならない相手だって」

 

 だが、敵を称賛するのは試合が終わってからだ…結果はどうあれ…負けるつもりもないが。

 

 エルは改めて味方の配置を確認した。

 自分の後ろにベルデハ2、正面に三号突撃砲、その左右にミランダのⅡ号戦車とガリシアのBT-5。

 戦況は5対2で、真っ向勝負を挑んでくるのはルノー…これはまあ、ベルデハ2に直接害をなすものではないとして、こちらから見て右側から迂回して接近してくるレオパルトが危険だ。

 ベルデハ2に有効打を与えられるのは唯一これだけで、しかもフラッグ車だ。

 

 これを撃破するという事は、同時に青師団の勝利も意味するが、それまでは全く気が抜けない。

 

 Ⅳ号戦車を失ったのは痛いが、おかげでベルデハ2は守られ、逆転敗北は免れた。

 ソフィアから貰った命、無駄にはすまい。

 

 

 

「甘い!」

 

 尾鷲は三号突撃砲のブロックを出し抜くと、BT-5の砲撃を掻い潜ってこれも出し抜いた。

 ベルデハ2は迂回接近してくるレオパルトを特に警戒して、隊長車のⅡ号戦車を間に置く形で走りながら、なるべくレオパルトから遠ざかろうとしていた。

 

 後ろではⅢ号突撃砲とBT-5が互いに交差しながら反転し、横ではもう1輌のⅡ号戦車が並走しながら20mm機関砲を撃って来る。

 

 当たればまず白旗だが、足場の悪い森の中であればそうそう当たる事はない。

 

 と、このⅡ号戦車が幅寄せしてきた。

 接近して残りの弾丸を叩き込むつもりらしい。

 

「そうはいかないわ!」

 

 尾鷲は速度を少し緩めながらミランダのⅡ号戦車に向かって転回し、ニアミスする形でこのⅡ号戦車を出し抜いた。

 

 

 

「あのルノー、やるわね!」

 

 ヴィリディアナが操縦手としての観点からそう言った。

 

「ヴィリディアナ!あれを突き飛ばせる!?」

「やってみる!」

 

 レオパルトの動向も気になるが、先にこいつを始末しなければならない。

 エル達も見たが、このルノーはベルデハ2をブロックする事で危機に陥れた影の脅威だ。

 

 豆戦車と侮って放置して、敗北の原因となってからでは遅い。

 だからこそここで倒さねばならない。

 

「バスク!レオパルトを追い払って!」

『あいよ!』

 

 バスクはミランダとガリシアに合図して、レオパルトのいる方角に弾幕を張った。

 おかげでレオパルトは一端コースを膨らむ必要が生じ、一時的にベルデハ2との間に距離が開いた。

 

 ルノーとの距離が更に縮まる。

 こちらを間近にして一切に怯む気配はない。

 

「ヴィリディアナ!」

「よっしゃ!」

 

 ヴィリディアナがⅡ号戦車を押し出すと、木の根を踏んで少しジャンプしてルノーUEの前に躍り出た。

 一瞬、ヴィリディアナはルノーUEの操縦手と目が合ったような気がしたが、本当の所は分からなかった。

 

 ただ、相手の思考が読めたのか、それとも長年の戦車道経験が培った直感だったのか、ルノーUEの回避行動を見切った上で、ルノーの側面にⅡ号戦車を正面から思い切りぶつけて突き飛ばす事に成功した。

 

 ルノーUEは地面の凹凸に引っ掛かって跳ねながらバク転するように転がり、最後は樹木に天板をぶつける形で止まり、エル車の一斉射でハチの巣にされて白旗を上げた。

 

「よし…あと1輌…!」

『エル!レオパルトがそっちに向かったぞ!』

 

 肩越しに、レオパルトがルノーの仕返しとばかりにBT-5を跳ね飛ばしながらこちらに向かって来るのが見えた。

 バスクのⅢ号突撃砲の砲弾は樹木に阻まれ、再装填の最中だった。

 

『こちらガリシア!撃破されました!』

 

 レオパルトは履帯の幅の広さによる高い走破性を活かして、あっという間に距離を縮めて来る。

 エル車とベルデハ2が同時に応射したが、傾斜した正面装甲に阻まれ、50mm砲がベルデハ2に向かって火を噴いた。

 

 幸いこの砲弾はベルデハ2を外れ、レオパルトは一撃離脱の要領で一端エル達から離れる。

 

「アルタ!味方と合流するわよ!」

 

 エルはベルデハ2を導いてバスク達の部隊との合流を試みる。

 また50mm砲弾が頭上を掠め、エルは一瞬頭をすくめたが、20mm機関砲で撃ち返す。

 

 しかしレオパルトは全く怯まずエル車とベルデハ2の間に割って入るように突入し、その為両車は引き剝がされてしまった。

 

 そのままレオパルトはベルデハ2を仕留めようと車体を擦り付ける。

 レオパルトより軽量のベルデハ2は、何度か突き飛ばされそうになって必死に堪えるが、何かの弾みで引っ繰り返されかねない。

 

「まずい!やられちゃう!」

 

 アルタの悲鳴が上がる。

 

「ミランダ!何やってる!弾幕張れ!」

 

 バスクが激を飛ばしながらレオパルトに牽制弾を放ち、その横でミランダ車も1クリップを乱射してベルデハ2からレオパルトを引き剥がす。

 

「追いかけて!」

「分かってるわよ!」

 

 焦るエルに、同じく焦るヴィリディアナも強く言い返す。

 

「アルタ!こっちに合流出来る!?」

『無理です!レオパルトがまるで大男ですよ!』

 

 その時エルは、レオパルトとベルデハ2越しに、上に向かって傾斜している岩に目を留めた。

 上の部分はスロープのように滑らかである。

 

 

 

「食らえ!」

 

 ミランダはまたも20mm弾を1クリップ分撃ち尽くしたが、お返しに放たれた50mm弾を横腹にお見舞いされて停止し、白旗を上げた。

 その様子を気にする間もなく、三号突撃砲が通過する。

 

「バレリア、もっと飛ばしな!」

「了解!」

 

 バレリアは悪路に苦心しながら、それでもその中でコツを掴んで走破性を上げていた。

 そのおかげで、ベルデハ2に追いつきかけていた。

 

 ベルデハ2も、45mm砲を振りかざしてレオパルトに必死の抵抗を試みていた。

 追突されそうになる度に、右に左に避けてやり過ごす。

 

『アルタ!そのまま真っ直ぐ!こっちに任せな!』

「バスクさん!」

 

 アルタが横に目を転じると、追いついてきた三号突撃砲が見えた。

 ベルデハ2とレオパルトの間に割って入るように幅寄せが始まる。

 アルタは操縦手を励ます。

 

「もっと速く!ここを乗り切れば勝てるわ!」

「やってやろうじゃないの!」

 

 

 

「行くよ!今!」

「はい!」

 

 バレリアは巧みに三号突撃砲を操って横滑りさせながらレオパルトと対峙させるよう車体を回す。

 土や岩石、木の葉等が強引に跳ね飛ばされる中、バレリアは見事に三号突撃砲をベルデハ2とレオパルトととの間に割って入らせ、砲身をレオパルトに向けた。

 

「来い!」

 

 スコープにレオパルトを捉える。「終わりだよ…!」

 

 勝負の一撃が放たれ、砲弾は確かにレオパルトに向かって飛んで行った。

 

 が、命中直前にレオパルトは地面から突き出ていた岩に乗り上げて左側を持ち上げる形となり、その下を砲弾が潜り抜けて行った。

 

「嘘だろおい!」

 

 バスクが唖然としつつ、カサンドラに装填を急がせる。

 最後の一撃とばかり思っていたカサンドラも我に返って砲弾をラックから抜き取り、砲身に押し込もうとする。

 

 と、目の前でレオパルトが急停止し、砲塔と砲身を動かした。

 

 バスクがもう1発を放つ前に、ベルデハ2を仕留めるつもりらしい。

 

「急いで!」

 

 もう一度バスクはカサンドラを急かしたが、まだ砲弾は半分までしか押し込まれていない。

 レオパルトが射撃する前に間に合うか…!

 

 そう思った直後、スコープ越しに頭上を影が差した気配がした。

 

「ん?」

 

 バスクが首を傾げる間もなく、頭上から弾丸が降り注ぎ、弾雨は手前の地面からレオパルトに向かって移動した。

 何発かがレオパルトの天板に直撃したところで弾雨は止み、レオパルトの背後に錐もみ回転を終えたエルのⅡ号戦車が地面に華麗に着地した。

 

「え、何?」

 

 何が起こったか分からず、ペネロペが困惑しながらバスクと顔を見合わせた。

 

 エルはこの直前に見つけた、上がスロープ状の岩を使ってⅡ号戦車を駆けのぼらせると、ヴィリディアナのテクニックで車体を錐もみさせながら横に向けた機関砲を全弾発射したのである。

 錐もみ状態の中でちょうど機関砲が地面に向くタイミングで銃撃したのである。

 

 数発の弾丸がレオパルトの天板に食い込み、特に車体後部のエンジンに刺さった2、3発が有効打となり、数年分にも匹敵する数秒間の緊張の沈黙の後、レオパルトから白旗が上がった。

 

「エル!」

「ヴィリディアナ、よくやったわ!」

「イヤッホー!」

 

 エルとヴィリディアナが掌を叩きつけ合う後ろで、未だ顔面蒼白のトリスターナがその場にへたり込む。

 

「死ぬかと思った~」

 

 エルのアクロバティックな戦術に仲間達が唖然とする中、蝶野亜美の判定が会場に試合終了を告げた。

 

『フロンティア学園フラッグ車、走行不能!よって、青師団高校の勝利!』

 

 

 

<第5話・終>

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