ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
チャプター1 次に向けて頑張ります!
「一同、礼!」
蝶野亜美の号令で青師団高校とフロンティア学園の両チームが頭を下げると、暗澹たる気持ちで渋い表情だった…もっとも、ほぼ疲労に覆い隠されて分かりにくかったが…塚野にとって意外な事に観客席から盛大な拍手が送られた。
一瞬、国崎会長と目が合ったが、国崎は拍手しながら塚野に小さく頷き返した。
尚も途方に暮れていると、
「おいどうした。何ボヤッとしてやがる」
野島に脇腹を肘で小突かれて我に返ると、エル隊長、ヴィリディアナ、トリスターナ、アルタ、ソフィア、そしてバスク副隊長が歩いて来るのに気が付いた。
一瞬リンチでもしに来たのかという場違いな考えが浮かんで塚野の心臓がドキリとしたが、エルは塚野の前で立ち止まると、親しみと敬意のこもった動作で右手を差し出した。
「塚野隊長、今日はありがとう」
「…え?」
「正直、ここまで息詰まる戦いが出来るとは思っていなかったわ。私達は正直、もう少しで負けるところだった」
「そ、そうなんです…か…?」
塚野は戸惑いつつエルと握手したが、エルの一歩後ろに立つ5人が一様に頷いた。
塚野にしてみれば、相手は勝者で、こちらは敗者だ。
敗者に何が残ると言うのか?
いやそれよりも、今までスポーツとかその類のものに慣れ親しんできていない塚野にとって、スポーツマンシップとはどういうものなのかよく理解していなかった。
「あの時の咄嗟の回避、ナイスだったよ」
バスクが言った。「あんた、ホントは経験者じゃないの?」
塚野は慌てて首を横に振った。
「あいや、ホントにトーシローですぅ…」
「ええ、信じられないですって!」
「そうですよ。エル隊長の言うように、危うく負けるかと思いましたよ!」
アルタとソフィアの言葉に、塚野は益々驚くばかりだ。
思い付きを作戦にして実行に移しもしたが、実際の所は必死こいて戦っていたに過ぎず、称賛される事をしたという覚えは無かった。
あるいはそういう事は、他人が評価する事であって、自己評価するものではないと思うが、『トーシロー』たる塚野はどう判断したものか分からなかった。
しかしともあれ、相手はこちらを皮肉もお世辞もなしに評価してくれた。
「私達もいつの間にか戦いに夢中になっていたし…」
「けど空中のローリングはもう勘弁してほしいかな…」
「えー、私の運転スキル疑われちゃってる!」
「いやヴィリディアナ、そう言うつもりじゃなかったのよ!」
わざと狼狽える仕草をしたヴィリディアナに必死に弁明するトリスターナに苦笑しながら、エルはまた塚野と野島を交互に見た。
「あなた達、あの食らいつきを大事にしてね」
「食らいつき?」
エルは頷いた。
「ええ。チャンスあらばそれに食らいついて来る敢闘精神。戦車道には色々な戦い方があると思うけど、ちょっとでも油断したら足元を掬われる猛獣型も悪くないと思うわ」
「猛獣型…」
「そう。これから色々学んでいくだろうし、それで変化もあると思うけど、あの戦い方、私は好きよ。そうね、真剣勝負を挑んでいる感じがするから、かしら」
「はあ…」
バスクが片眉を上げた。
「なんだか訳が分からないってツラしてるね。まあ、一日頭を冷やしながら考えてみたらいいさ。そうだ、試合は録画してあるんだろ?」
「あ、はい。してます」
「なら、見返してみるといいよ。多分、自分達でも結構ビビるだろうね、その分だと」
「わ、分かりました。見返してみます」
その後、再びエルが口を開いた。
「ところで、明日も試合?」
「はい。明日の午後から第二試合です」
「そう。まあこっちも明日試合だから…親睦会開けないのは残念ね」
「なに隊長。あとで何か送ればいいさ。生ハムにするかい?」
「後で考えればいいわよ、それは」
また苦笑しながらエルはそう言ってから振り返ると、「あ、お礼はいらないから大丈夫よ」
「エル隊長」
エルは背筋をすっと伸ばした塚野を不思議そうに見つめた。
「どうしたの?改まって」
「有難うございます。実を言うと私…第一試合を落としてガッカリしていました。勝って胸を張れる、負けたら無意味だって…さっきまでそんな事を考えていました。でも、エル隊長と皆さんのおかげで、今はもう大丈夫です。次の試合を頑張ります!エル隊長も、次の試合頑張って下さい!応援しています!」
エルの笑顔に力が入った。
特に、次を見据えて眦が決したように見える。
「Gracias!そう言って貰えると嬉しいわ!もう一度握手しましょう!」
今度は戸惑いではなく、力強い握手を塚野は交わした。
その様子を後ろから見ながら、村江と大地が互いに頷き合う。
「村江さん。負けはしましたが…」
「得られたものは多いようね」
互いの健闘を祈り、両チームは次の試合に向けて移動を開始した。