ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター2 移動

「にしても1日で移動とか横暴だよな」

 

 後ろへ過ぎ去る外の光景を車窓越しに眺めながら野島が言った。

 

 ここは第二試合のステージに向かう列車の車内。

 フロンティア学園チームの戦車は、客車より後方に連結されている台車に積載されている。

 

「本来は72時間以内に試合の開催地に寄港し、それから会場に登録を申請するんでしたっけ?」

 

 萩原の問いに、村江が首肯した。

 

「ええ、その72時間以内に、戦車の整備や作戦を考えるのだけれど…今回は異例ね」

「政府は2年後のプロリーグ開催に備えた人材育成に躍起になっていて、それでこんな慌ただしいスケジュールの組み方になったのかと思われます」

 

 村江は口をへの字に曲げた。

 

「やれやれ。こっちとしては有難迷惑ね…皺寄せを食らうのは私達なのよ…」

「試合開始が午後からな分、少しはマシでしょうか?」

 

 大地が言ったが、村江は首を横に振った。

 

「まあ、朝一からにしなかったのはせめての配慮かもしれないけれど…それでもきついわ。整備の時間も取れるか心配だし…それにみんな、疲れているわ」

 

 見回すと、メンバー達が座席を傾けたり窓際に寄りかかって静かな寝息を立てていた。

 表情には疲労の色が見られる。

 

 土橋に至っては、書きかけの漫画の上に突っ伏しており、恐らくそのページは白紙からのやり直しになるかもしれなかった。

 開かれたラップトップコンピューターには、今日の試合の経験のメモが箇条書きにされており、それをベースに新たなエピソードが構築中のようである。

 

「初めての…公式の試合ですからね」

 

 と、大地が付け加えた。「相当気合も入っていたかもしれません」

 

「おい、起きろ」

 

 相対する席で頭をこっくりさせ始めた塚野の左足の脛を、野島が蹴って起こした。

 

「あぁ、ちょっちい、眠くてねぇ」

「もうちょい起きてろ」

「明日までにHP回復しとかなきゃ」

「寝たらまた蹴るぞ」

 

 野島はそう脅しつつ、自分も大きく欠伸して目をこすった。「あ、やべ」

 

「ま、なんにしても次は勝ちたいねぇ」

 

 第二試合を落とせばフロンティア学園はグループ内の争いを脱落し、敗者復活戦に賭ける事となる。

 その為、第二試合を落としたとしても来年の全国大会出場のラストチャンスは残るが、負け続きはチームの士気にかかわり、たとえラストチャンスに挑んだとしても低い士気のままではチームパフォーマンスに影響が出る。

 

 この予選リーグを突破しないと、塚野を待っている結末を知る野島や土橋は、複雑な面持ちで視線を交わした。

 村江や大地、萩原も一瞬黙り込んでしまったが、再び口を開いたのは塚野だった。

 

「んで、次の相手は…ええと、バラトン工業高校だっけ?」

「ええ。前にも言ったけれど、侮れない相手よ」

「てことはさぁ、猶更今のうちに寝とかなきゃねぇ」

 

 塚野は眠気で重い頭を、窓際に肘を突いた右手で支えていた。「ああでも、なんか不安になってきたし…」

「隊長」

「なあに?むらっち」

「今日の試合も、悪くなかったわ。寧ろこっちが勝っていてもおかしくは無かった。あとは粘り強さと、少しばかりの運だと思うから、明日も同じ調子で、最後まで踏ん張っていけばいいわ」

「なーに、それぇ?昔懐かしの根性論ってやつ?マジうけんだけどぉ」

 

 軽く笑う塚野だったが、村江はクールに答える。

 

「いいえ、違うわ」

「じゃあ何さぁ?」

 

 塚野の頭が右手に沈み込んだように見えた。

 そろそろ疲労が塚野を制圧しようとしているようだ。

 

 そんな塚野にこんな話が頭に入るかは分からなかったが…

 

「確かに、根性ね。でもそれは、ここぞと言う時に使うものよ。根性論とか、精神論とかとは違うわ。ただ、戦車道は戦車がやるものじゃない、人間がやるものよ。その時のコンディションや気持ち、考えが影響するわ。だから隊長が頑張ればチームは頑張れるし、へばればチームもへばる。だから、ここぞと言う時に踏ん張れば、チームも踏ん張る。まあ、みんなのメンタルも大事だけれど…ちゃんと説明出来ていたかしら?」

 

 塚野はまた欠伸したが、ちゃんと真剣に村江の話を聞いていたらしい。

 

「いんや。なんとなく分かったよん。あたしが弱気じゃ、そりゃダメだねぇ」

「とは言え、相手の事も知っておかないと意味は無いけれど…だから根性論や精神論とは違うって言ったのよ」

 

 話にひと段落がつくと、大地が

 

「そう言えばバラトン工業の、ハンガリー戦車だけの編成計画の話は、結局どうなったんでしょう?」

「試合の録画をまだ見ていないわ」

 

 村江は右手で疲れた目を揉んだ。「早く確認しないと」

 

 そう言って立ち上がろうとする村江を、大地が押し止めた。

 

「私が見てきます。村江さんは休んでいて下さい」

 

 村江はおとなしく体を背もたれに深々と預けた。

 目は既に開く事を拒絶しており、固く閉じられている。

 

「そう?じゃあ頼んだわ」

「はい」

「録画は私が持っています」

 

 大地は立ち上がると、萩原と一緒に自分達がいる車両を出て行った。

 程無くして村江の呼吸が規則正しくなると、それが塚野や野島にも伝染する。

 

「うちらも寝よっかぁ。ふあ~あ…」

「ほら、ブランケットだぜ」

「サンキューノイジー…」

 

 塚野はブランケットを頭から被ると窓際に寄りかかった。

 野島もブランケットを首元まで引き上げると、座席を倒して仮眠に入った。

 

 

 

 その頃、別の列車に乗るバラトン工業高校チームでは。

 

「あーあ。負けちゃったね」

「しっかりしなさいタールツァイ。相手が…強すぎたわ」

 

 軽い口調だが今日の試合の結果を嘆く2年生のタールツァイ隊長を、隣に座る3年生のマヨルが嗜めた。

 

 バラトン工業高校戦車道チームのタンクジャケットは、第二次世界大戦時のハンガリー陸軍の制服をモデルにした、茶色を基調としたものだった。

 

「エクセルシオールの事、スパイしておけばよかったですわね。正直侮ってましたわ」

 

 そう言ったのは向かいに座る副隊長のアンヌだ。

 彼女の横に座るもう1人の副隊長のニコラもうんうんと頷くが、彼女も握り拳を膝の上に置きながら悔しそうに俯き、口元を歪めている。

 

「ちっ、あんなポッと出の、成金みてえなクソ校には負けたくなかったなあ!」

「ニコラ、暴言を交えないで」

「でもさ、マヨル先輩…」

「仮にも戦車道をやっている身として、言葉も謹んで」

「マヨル先輩の言う通りよ、ニコラ。冷静にならなきゃ」

 

 タールツァイにも言われ、ニコラはむっつりと押し黙った。

 そんなニコラを、アンヌが苦笑しながら宥める。

 

「相変わらずね、ニコラ。でも結果は引っ繰り返せないわ。次頑張ろ?」

 

 それからタールツァイを見る。

 

「それで、隊長。明日の相手ですが…」

「フロンティア学園。結果は青師団の勝ちなんだって」

「まあ、当然の結果ですわね」

「いや、実は五分五分で、逆に青師団はギリギリまで追い詰められたわ」

 

 アンヌが青師団高校の圧勝だと思っているのを察したマヨルが補足説明を行った。「多分、舐めて掛かると痛い目を見るわ」

 

「SU-100は確かに、危険ですわね」

「スペックの問題じゃないわ、アンヌ」

 

 と、マヨルが言った。「そのような事を考えていたら、また返り討ちに遭うわよ」

 

「でもここだって、今年の9月からスタートしたばかりのチームでは?」

「録画を見たら考えが変わるわよ」

「え、マヨル先輩、いつの間に…?」

「それで知ってたってわけっすか?」

 

 マヨルはアンヌとニコラを交互に見た。

 

「ええ。あなた達はいつ見るつもりだったの?」

「向こうに着いてからですわ」

「それまでは、ここで眠っとこうかなって…」

「そう。まあ、隊長は私と一緒にもう見たけど」

 

 アンヌとニコラはほぼ同時に目を丸くしたので、タールツァイは面白そうに笑い声をあげた。

 

「た、隊長…?」

「笑わんでくださいってえ」

「いや、なんか可愛かったもん」

 

 タールツァイは真顔に戻ると、「いや正直、2人とも録画は今から見ておいた方がいいわよ。心構えは早いうちに限るからね」

 

「分かりました」

「了解っす」

 

 アンヌとニコラは素直に立ち上がると、録画映像の確認に向かった。

 2人がこの車両から出て行くと、マヨルが

 

「タールツァイ。あの二人、大丈夫かしら?」

「副隊長に就任したばかりですからね。マヨル先輩のご指導のおかげで、色々助かっています」

「早く自立して欲しいわ。試合では機敏だけど、それ以外の事も、ね」

「はい、分かっております」

「どうしてマルギットを副隊長にしなかったの?」

 

 マヨルは斜め前方の座席で眠りこけているマルギットという隊員を見やった。

 

「マルギットはまだ1年生です。急に重荷を背負わせるのは酷だと判断しました…急な人事だった事ですし…」

「そうね。あなたはよく頑張っているわ」

「有難うございます。でもマヨル先輩から隊長の座を受け継いでから、まだまだです」

「私はこの高校ではもう『老いぼれ』よ、タールツァイ。次の世代に、チームの未来を引き継がないといけない」

「いえ、まだまだ学ぶべき事は多いです、マヨル先輩」

 

 マヨルは柔和に微笑んだ。

 

「そう言ってくれると嬉しいわ、タールツァイ。ただ、老婆心ながら、あの子達がハンガリー戦車だけの編成を熱望したというのに、あれではちょっと心配だわ…って、そう急に成長出来るものでもないわよね」

 

 実は今年の途中までマヨルがバラトン工業高校戦車道チームの隊長だったのだが、前々からチームメンバーの間で上がっていたハンガリー戦車のみでの編成の声がいよいよ大きくなった事で隊長の座を自ら退き、全幅の信頼を置いていた当時の副隊長…即ち現隊長のタールツァイを次期隊長に据えていたのである。

 

 マヨルはドイツ戦車の全廃には内心反対だったが、自分の拘りがチームの士気を低める事を懸念した上で次世代にチームを託す潮時だと考えたのであった。

 もっとも、マヨルは3年生で半年もすれば自然とハンガリー戦車オンリーの保有になる筈だったが、その流れを変えたのがこの予選リーグである。

 

 タールツァイも戦力保有としてはマヨルと同じ意見だったが、マヨルよりは柔軟な思考だったのでハンガリー戦車のみの編成を受け入れる姿勢を取った。

 

「私がしっかりチームの手綱を握ります」

 

 そう言うタールツァイの表情は、いつものフランクさとは違って引き締まっていた。

 

「頼もしいわ。とにかく、明日に備えましょう」

「Igen」

 

 その時、列車がカーブに差し掛かって傾いた。

 

 

 

続く

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