ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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本当はバラトン工業高校との交流も描く予定でしたが、思ったよりチーム内の会話劇が長くなってしまったので分割する事にしました。


チャプター3 不安

ここはフロンティア学園チームが詰める格納庫。

明日の試合開催地に隣接する戦車整備場兼宿舎に到着してすぐに、田張たち機械部5人組は戦車の整備に取り掛かっていた。

明日に間に合わせる為、夕食の時間を惜しんでの作業だったが、これには他のメンバーも作業の手伝いに加わっていた。

 

しかし作戦を検討する必要もあったので、塚野、野島、村江、大地の4人は隣の部屋で作戦会議を開いていた。

 

「お腹空いた~」

 

天井を仰ぎながら呆けたようにそう言う田張に、ラムⅡの下部で作業していた安藤が、フロントの縁を掴んで台車ごと自分自身を引っ張って顔を出した。

ガムを噛んでいるらしく、口をもぐもぐ動かしている。

 

「まーたですかチーフ。5分に1回それ言ってますぜ」

 

田張は尚も突っ立ったまま安藤を見下ろす。

 

「え~。だってもうかれこれ1時間経ってるじゃん」

「ああそうですかい。ほらチーフ」

 

安藤はズボンのポケットから引き抜いた板ガムの束で田張の左手をペチペチとひっぱたいた。「これでも噛んで我慢して貰わあないと。でないとチーフのハングリーコールがそのうち1分に1度になるでさあ」

「それじゃあ遠慮なく」

 

銀紙の包みを開いてミント味の緑色の板ガムを暫く噛んでいると、空腹感が紛れて来たのか田張の表情も落ち着く。

 

「・・・でも夕飯いつ来るのよ」

「さあ。朝食にはならんでしょう」

 

SU-100のエンジンを整備していた五十嵐が振り向いた。「もうすぐ食堂閉まるんじゃないですか?」

 

実は桑田がチームの為に腕によりをかけて夕食を準備すると言っており、それならば食堂を往復する時間を省けるだろうという事で、調理部が夕食を運び込んで来るのを作業しながら待っていたのである。

 

「痺れ切らして食堂行っちゃいますか?」

 

膝を屈めて工具箱を漁っていた伊関が言うと、作業で筋肉が強張った体を伸ばし解していた桐山も同調して、

 

「いっその事、行っちゃいましょうよ」

「でもそういう時に限って入れ違いになるもんです」

 

隅に置いた椅子に座ってタンクジャケットを修繕をしていた大川が、針と糸を持つ両手を動かしながら待ったをかけた。

 

「まあ確かにねえ」

 

土橋は紙コップに水入りペットボトルを傾けていた。「散々ウジウジして、漸く決断したらタイミングが悪かったというのは稀によくあるわけで」

 

「その通りです!『稀によくある』とはどういう事かはさておいて・・・」

 

と、なぜか勢いを得た様子の大川がタンクジャケットを前に突き出して言った。「辛い時は1分1秒が遅く過ぎ去るものです。でも今は耐える時。安藤さんの仰る通り、朝食までお預け、という事態にはまずならないでしょう」

 

「どうして分かるわけ?」

 

井上が腕組みをしながら訝し気な表情になると、

 

「桑田さんは調理部員ですから。気が付いたら朝日が昇っていたなんて事態になれば調理部の名に傷がつきます。プライドにかけて・・・」

 

すると噂をすれば影が差すと言うのか、格納庫の入り口のドアが開き、

 

「その通り!大川の言う通りだあ!朝までチームを飢えで苦しめるなんて恐ろしくて想像もしたかねえ!」

 

どうやら会話が耳に入っていたらしい桑田の威勢の良いセリフと共に、国崎、佐伯、桑田、小戸が銀色の大鍋を載せたワゴンを押して格納庫の中に入って来た。

蓋の間から食欲を刺激する香りが漂い、田張達は鼻をクンクン動かしながらワゴンの周りに自然と集まって来た。

 

「お、やったご飯だー!」

 

ラムⅡの車内から顔を出した鹿屋が歓声を上げて飛び降りたが、空腹と疲労で足元がふらついていたらしく、着地するなり横につんのめって倒れそうになったところを萩原と福地に支えられた。

 

「大丈夫ですか鹿屋さん?」

「広報は相当参っていたみたいね・・・」

「いやいやそれ程でもー」

 

呆れ顔の萩原と福地を後に、鹿屋はワゴンを取り巻くチームに加わり、後から萩原と福地も合流する。

 

「皆さんお疲れ様です!」

 

国崎が笑顔でチームを労うと、「今日はグヤーシュにテルテット・カーポスタ、キャセロールにチーズ類、パン、あとデザートにパラチンタとドボシュトルテがあります!明日の試合相手のバラトン工業高校から、食材を無償で譲って貰いました!調理部員が一から作ったんですよ!」

 

明日の対戦相手の厚意、そして調理部がこれらの豪華な料理を作って見せた事を知った一同が驚きの声を上げる。

 

「おいおい会長。そのセリフはあっしが・・・」

 

桑田が抗議しようとしたが、その肩に小戸の手が乗せられた。

 

「やめておくんだな桑田。会長に逆らうと痛い目を見るぞ?」

 

桑田はギョッとしながら小戸を振り返る。

 

「おいおい脅迫はやめてくれよ」

「脅迫じゃない。忠告だ」

「そりゃどうも」

 

そんなやり取りをよそに、国崎は佐伯と共に食器をチームメンバーに渡し始めていた。

 

「では皆さん。好きなだけよそって食べて下さい、でもあまりがっつくと胃がびっくりしますから、それには気を付けましょう」

 

桑田は抗議を諦めて、

 

「なあそれよりもよ小戸、一つ聞きてえんだが」

「なんだ?」

「どうしてまたあっしについてきたりしたんだ?バラトンとの交渉に」

 

夕食の準備を約束した桑田は、その当てとしていたバラトン工業高校に食材を分けて貰うよう交渉しに行ったのだが、これはバラトン工業高校が自前で野外料理する為の物資をたんまり持ち込んでいるという情報をアンツィオ高校の生徒から聞いたからだ。

 

「お前が勝手にバラトンの物資をくすねたり、うまく言いくるめて詐欺を働かないよう監視する為さ」

「そうかい」

「全く迷惑な話だ。人様の物資をおねだりしに行ったわけだからな」

「ああ。あっしも申し訳ないと思っていたからよ。ちゃんとカネは払うつもりだったさ。ダメだと言われたらすぐ引き下がるつもりでいた。けど驚いた事に、彼女達は喜んでタダでくれたってわけさ。あれは拍子抜けしたね。そしてこれも意外な事に、お前が料理を手伝ってくれたり運んでくれたりした」

「チームの為に、一度に全部運びたかっただけだ」

「調理部員に任せればいいのによ」

「お前の監視も兼ねていた」

「案外優しいな、あんた」

「ハ!買いかぶるな。保安部長としての仕事をしたまでだ」

 

その頃、いつの間にか騒ぎを聞きつけて隣の部屋から出て来た塚野達も食事に加わる。

 

「あ、塚野さん。今日は大変でしたね」

 

塚野は国崎からグヤーシュの入った深めのスープ皿とスプーンを受け取ると、自嘲気味に笑った。

 

「んまあ、勝ちたかったですけどねぇ」

「勝負は時の運と聞きます。まあ、部外者の私が偉そうですが・・・」

「会長は、参加しないんですか?」

 

すると国崎は少し言い淀んだ。

いつも穏やかだが回答に迷いの無い彼女にしては珍しい。

 

「参加してもいいのですが・・・ちょっとここのところ、生徒会の仕事が忙しいんです・・・生徒会長としての仕事が、です」

「はあ」

「そう説明するしかないのですよ」

 

と、国崎は肩をすくめた。

何か考え事というか、懸念材料があるのだろうか。

 

すると国崎は話題を変えて、

 

「そうだ。何か困っている事とかありませんか?」

「んー」

 

塚野はスプーンでグヤーシュをかき混ぜながら考える。

赤色が強めの濃いシチューの中に大粒の牛肉やジャガイモ、ニンジン、みじん切りの玉ねぎが具だくさんで食べ応えがありそうだ。

 

「やっぱ戦車道用の敷地が狭いですかねぇ」

 

国崎も気持ちは分かると言うように首肯しながらも、

 

「意見はごもっともですが、元々戦車道が無い学園艦だったんです。あれでも儲けものかと」

「そこをなんとか出来ないですかねぇ?」

 

国崎は苦笑した。

 

「私は生徒会長ですよ。独裁者じゃありません」

「横から失礼しますね~?」

 

そう言って会話に入って来たのは福地だった。

手には自分で挟んだらしいテーリサラーミとエメンタールチーズのサンドイッチが握られている。

 

「会長。確か新型学園艦に引っ越す計画があったと聞いておりますが?」

「どこから聞いたのですか、それ」

「私は顔が広いんです」

「まあいいですが・・・」

「新型学園艦って?」

 

国崎と福地が会話している間に牛肉とシチューを一口食べた塚野が尋ねる。

国崎が塚野にまた体を向けて、

 

「実は近日中に新型学園艦が完成予定なんです。もう我が校の学園艦は100年も運航しているボロ船。この際、そこに引っ越せないかと模索していたところです。しかも戦車道設置が前提とされているとか」

「え、隊長は知らなかったの?」

 

福地が困惑気味に塚野に聞いたが、

 

「いや、初めて聞いたし」

「実は新型学園艦を獲得する為の、戦車道のトライアル戦が企画されていたので、私もちょうどいいと思ったのですが・・・参加条件が学園艦を持たない戦車道設置校限定になっていたんです」

「ああ・・・そーゆー事っすかぁ」

「そーゆー事っす。幾らボロ船だろうと、我が校は学園艦を持っています。なので対象から外れているわけです」

 

福地が皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「学園艦の統合と廃艦を一挙に推し進めた副作用ってとこかしら?」

 

塚野が自信なさげに言った。

 

「参加の為に今の学園艦を捨てるわけにはいかないんですもんねぇ・・・自分で言うのもなんですが、負けたら洒落にならないわけで」

「そんなのやってみなきゃ分からないじゃない」

 

と、福地が言ったが、

 

「いやぁ、今の実力じゃちょっちい厳しいかなってぇ」

 

無意識にグヤーシュをスプーンでかき混ぜながら、塚野は踵を返すと作戦会議に使っている部屋に戻って行った。

それを見た佐伯が後を追い、一度閉まったドアのノブを回して引き開けると、明日の試合会場が描かれた地図が広げられている机の上にグヤーシュ入りスープ皿を置いて、心ここにあらずといった感じでスプーンに乗せたグヤーシュをゆっくり口に運んでいた。

 

「大丈夫?食欲ないみたいだけど」

 

塚野は佐伯には顔を向けず、地図をぼんやりと眺めながら

 

「病気じゃないし」

「・・・明日の試合ね」

「負けたら敗者復活戦だけどさぁ」

「連敗は良くないわね。あなたにとっては、特に」

 

後を引き取って佐伯は塚野の向かいに腰を落ち着けた。

 

「そこ、村江参謀の席」

「今はいないわ」

「で、何の用っすかぁ?」

「隊長がそんな事じゃ、チームもダメになるわよ」

「分かってますってぇ」

「どうだか」

「まーたお説教?」

「出来れば往復ビンタしたいわね。でもそれじゃあ何も変わらないだろうし」

 

それから暫く沈黙が続き、塚野がスプーンでグヤーシュを掬う際にスープ皿に当たる音が室内に虚ろに響いた。

しかし塚野は無理矢理食事を腹に詰めている感じで、心から食事を楽しんでいるわけではなさそうである。

今彼女の心を支配しているのは、明日の試合の不安、敗北への恐怖、そしてそれがもたらす、自身の退学のプレッシャー。

塚野が招いた危機だが、佐伯は放っておくわけにはいかなかった。

 

これが9月の時の自分だったら色々煽り立てていただろうが・・・

 

「怖い?」

 

佐伯の短い質問に、塚野が顔を上げた。

 

「どう思う?」

「そうだとしても無理ないわ」

「いつからそんなに優しくなったし?」

「違うわ。フロンティア学園の経歴に傷をつけたくないだけよ」

 

それは誤魔化しで、塚野にもそれは分かっているようだった。

 

「ふーん」

「不安なのは、あなただけじゃないわ」

「え?」

「バラトンチームの隊長も、同じよ。今のあなたと同じ目をしていた」

「あたしと?」

「そう」

 

佐伯は頷いた。「まさか同じく退学を賭けた戦いではないだろうけど、似たような心境を抱える理由があるのかもね」

 

「そっかぁ」

 

集中力が切れ切れの塚野は上の空でそう応じたが、

 

「ねえ、お礼ついでに、その隊長と会って、話をしてみたら?」

 

と言う佐伯の提案に驚いてマジマジと相手を凝視した。

 

 

 

続く

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