ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター2 陽動

「陽動隊が運河を越えました」

 

城塞に籠るハリーホプキンスから、フラッグ車のルノーUEと護衛のレオパルトとラムⅡが橋を越える様子を双眼鏡で追いながら大地が無線で野島に報告する。

 

が、返事が無いので大地はもう一度呼び掛けた。

 

「・・・副隊長?」

「ったく、気が気じゃねえなおい」

「ああ・・・」

 

大地は昨夜の作戦会議で半ばふてくされた野島を思い出して苦笑した。

どうあっても方針転換するつもりの無い隊長に、大地は塚野の隊長として成長の過程に立ち会っているのかと思うと戦車道経験者として気を引き締める思いであった。

 

実際、負けたとは言え歴戦チームの1つである青師団高校相手にあそこまでやれた事は大地も予想外だったが、それもまた急速な成長を予感させるものと大地は考えている。

 

「副隊長。こうなったら信じましょう」

 

ぼやく野島を大地がそう窘めると、

 

「でもよ。負けちまったらいよいよ崖っぷちなんだぞ、あいつは。幾らなんでも無謀じゃねえか?」

 

大地もその事はよく分かっている。

黒森峰女学園とタッグを組んでイズベスチヤ社のアグレッサーチームと練習試合をする直前に、塚野が仲間達に告白した裏事情には驚かされたが、だからと言って大地の塚野に対する印象や考えは決して変わっていない。

 

「知っています。でもそう簡単にはやられない筈ですよ」

「だといいけどな・・・」

 

野島は溜息を吐いたが、それ以上なにも言わなかった。

 

 

 

さてこちらは市街地を進軍するレオパルト。

ハッチの縁に腕を乗せた塚野は、辺りに油断なく目を配っている。

いつどこから敵戦車と鉢合わせするか分からない。

下手するとフラッグ車を瞬殺されるという事態もあり得るのだ。

 

まるで本当にやられていないかどうかを念入りに確認するかのように後ろを振り返ると、確かにルノーUEはしっかり後をついて来ている。

但しラムⅡは遊撃に出ていて今ここにはいないが、何かあればすぐ急行する事になっていた。

 

塚野は咽喉マイクに触れた。

 

「塚野から村江参謀。状況は?」

『敵の気配は無いわ。何かあったらすぐ知らせるわ』

「たのんます」

 

塚野はもう一度ルノーUEを肩越しに振り返った。

こまめにフラッグ車の安否を確認しないと安心できないようだ。

そんな必要は別に無いのだが、どうしようもない不安に襲われるのである。

機銃のみの豆戦車が狙われたら自衛する手段は無い。

だからこそ自分達が早々やられるわけにはいかないのだ。

 

『隊長、どうしました?』

 

機銃手の萩原が塚野の様子が気になったらしく、ドーム型ハッチを開いて呼び掛けて来た。

 

「ああ、いや。なんでもないよぉ。ハハ、ごめんね二度見も三度見もしちゃってさぁ、なんかキモイよねぇ」

『ああ・・・そんなつもりは・・・』

「分かってるってぇ」

 

萩原に手を振ると、塚野はまた前方に注意を戻した。

 

 

 

『こちらマルギット。あと5分で北側の橋に達します』

 

タールツァイはフラッグ車のトゥラーンⅢに乗っていた。

短砲身75mm砲が主砲だったトゥラーンⅡを改造キットで対戦車戦闘向きの長砲身75mm砲に換装したものだが、第一試合は最終チェック中で間に合わず、この第二試合が初陣だ。

 

「敵は城塞に籠ってると思うから、十分に気を付けてね。あとSU-100にも要注意」

『Igen!』

「ニコラ、そっちは?」

『こっちもあと5分くらいで南側の橋に着きます』

「了解。そっちも気を付けてね」

『フラッグ車のハラワタはうちらで抉り出してやりますよ!』

「お、おう。えらい気合入ってるね」

 

バラトン工業高校チームの戦力は、上記のトゥラーンⅢとトゥラーンⅡ、ズリーニィⅡが1輌ずつと、マドセン20mm機関砲搭載の38MトルディⅡが2輌と42M51口径40mm戦車砲搭載の38MトルディⅡaが3輌という構成だ。

この内マルギットは20mm機関砲と40mm砲を1輌ずつ率い、ニコラが20mm機関砲を1輌と40mm砲を2輌率いて河の北側と南側の橋から城塞へのアプローチを試みていた。

 

そしてタールツァイ率いるトゥラーンとズリーニィの主力部隊3輌が、中央から進軍して城塞との正面戦闘を引き受ける段取りとなっているが、最大の脅威として認識していたのはSU-100だった。

射程距離と威力に関して言えば、バラトン工業高校のあらゆる戦車が太刀打ち出来ない。

 

もっとも、敵が籠城している事は単なるこちらの予想でしかないが、わざわざ有利な位置を捨てて河を渡って来るとも思えなかった。

 

ただ、絶対では無いので、油断してはならない。

 

「さてと・・・どう出て来るのかなあ?あのギャル隊長さんは」

 

タールツァイは左手に持っていたプラスチック製の袋から目刺を1本引き抜くと、ゆっくりじわじわとかじり始めた。

 

 

 

「そろそろ来るかも・・・」

 

塚野がそう呟いた直後、出し抜けにバラトン工業高校の主力部隊が前方に姿を現した。

向こうもほぼ同時にこちらに気付き、走りながらトゥラーンⅢとトゥラーンⅡが砲塔を動かしてこちらに狙いを付けて来る。

 

「右折!」

 

塚野は素早く退路として目星を付けていた右折路へ先に入るようルノーUEに腕を振った。

ルノーUEが右折する間にレオパルトは急停止すると、50mm砲の仰角を少し上げて発砲する。

 

咄嗟撃ちにもかかわらず、弾丸はトゥラーンⅡの砲塔側面を擦って行った。

 

『うわ!当ててこられましたわ!』

 

アンヌの声を通信越しに聞きながら、タールツァイも応射を命じる。

 

「こっちも応戦!撃て!」

 

3輌が一斉に砲撃し、2発は大きく外れたが、1発はレオパルトの真下に着弾し、その衝撃が車体を震わせる。

 

「うわっ!」

 

突き上げるような衝撃に田張と井上が思わず声を上げる。

塚野も立ち直ると、

 

「ルノーに続けぇ!」

 

命令に反応した田張が無意識に体を動かしてレオパルトを操作し、一瞬後退させてから右に転回させて右折路に飛び込んだ。

その直後にトゥラーンⅢの高初速弾が背後を掠め飛び、建物の壁に直撃する。

神経を逆なでする空気の切り裂き音はいつ聞いても慣れない。

 

ルノーUEはレオパルトから10m程前方を走っていた。

それを確認してから体を捻って振り返ると、後を追ってトゥラーンⅢが最初に現れた。

砲塔をこちらに向けている。

 

「ジグザグ運動!」

 

右に左にふらつきながら逃げるレオパルトのすぐ左を、トゥラーンⅢの砲弾が穴を穿つ。

幸い軽戦車ながら幅広で大柄なレオパルトの車体はルノーと敵戦車隊の間を遮っているが、ここでやられたらルノーが孤立してしまう。

 

「また右折!」

 

塚野の指示でルノーはその先の交差点で右折し、レオパルトも後に続くが、敵戦車隊こちらも見失うまいと追いすがって来る。

 

その間に砲塔を旋回させていた鹿屋が砲撃したが、トゥラーンⅡとズリーニィⅡの間を通り抜けて後ろの建物の窓に飛び込んだ。

 

「こちら塚野!敵戦車3輌と遭遇!トゥラーンが2輌とズリーニィが1輌!主力かも!」

『今向かってるから持ちこたえて!』

「やばい奴いっからなるはやで!」

 

すると村江は一瞬で車種を絞り込んだようだ。

 

「・・・トゥラーンとズリーニィ、どっち!?」

「トゥラーン!1輌が長いやつ付けてんの!」

 

再び敵戦車隊が発砲し、レオパルトの周りに着弾して破片を撒き散らす。

因みに村江がズリーニィにも言及したのは、トゥラーンⅢと同じ長砲身75mm戦車砲を搭載したズリーニィⅠが存在していたからだ。

 

『今どこ!?』

「南に逃走中!」

『了解!あとトルディにも注意!ルノーならあれも天敵よ!』

「オッケー!気を付けっから!」

 

ルノーUEであれば、20mm機関砲でさえ危険な相手だ。

一瞬、フラッグ車はハリーホプキンスにすべきだったかと後悔が頭をよぎったが、すぐに塚野はその雑念を振り払い、村江のラムⅡと合流する事と、突発的な敵との遭遇にどうするか思考を巡らせた。

 

敵は包囲を狭めて来るだろう。

そして完全に囲まれる前に、隙間から離脱して運河の向こう側に逃走して敵を引き込まねばならない。

 

 

 

野島の心拍数が上がっていた。

 

「おい、大丈夫なんだろうな?」

『あーもうノイジー!へーきへーき!』

 

塚野の声は明るいが、敵戦車の発砲音と着弾音も一緒に聞こえてきており野島の冷や汗はひっきりなしに噴き出していた。

とは言え、今はただ無事にこちら側まで戻って来るのを待つだけである。

 

「ちっ、しくじったら承知しねえぞ」

 

そう言って無線を切ると、城塞に籠るチームに指示する。「全車、攻撃用意。南側の橋だ」

 

 

 

続く

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