ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

51 / 62
チャプター3 マルギットの策略

『ニコラ!敵は南の橋に逃げるつもりよ!』

「了解!前後に挟み撃ちするわよ!」

 

ニコラ率いる3輌のトルディ軽戦車は、タールツァイの本隊から逃げる敵チームの前方に通せんぼする作戦に出た。

狭い三車線道路の左右に林立する建物はどれも背は低めだが、直立した壁はまるで迷路の中にいるような錯覚と圧迫感を覚える上、慣れていないと似たような景色に惑わされてしまうだろう。

 

しかし、この模擬市街地はバラトン工業高校の一区画と似ており、バラトンの生徒達はいつもそこを歩き回るので方向感覚が自然と養われていた。

ニコラには、ここがハンガリーの首都であるブダペストの一風景のように映っていた・・・グールマップでしか見た事ないが。

 

「ええと、多分ここ・・・」

 

通信と地図を頼りに、ニコラは小隊を率いて南の橋に通ずる道の交差点の1つに出た。

ここを抜けてあと3つほど交差点を抜けると、川沿いの道に出て、そのまま南の橋に繋がっている筈だ。

 

そしてニコラの予想通り、右に左に波線を描くように砲弾を避けながら疾走してくるルノーUEとレオパルトをたった30m足らずの距離で出くわした。

ニコラ隊は横一列に並ぶ形で行く手に立ちはだかる。

 

「どんぴしゃあ!」

 

ニコラは手を打って歓声を上げると、「フラッグ車を狙え!」

 

一方の塚野も、不意の遭遇だったがすぐに怒鳴る。

 

「左折!!!」

 

その声に反応して尾鷲がルノーを横滑りさせながらトルディ隊のすぐ眼前を横切る形で交差点を左折させようとする。

 

トルディ隊がルノー目掛けて一斉射撃したが、背が低く非常に小柄なルノーのスライディングを捉える事は出来ず、悪戯に道路を傷つけただけに終わった。

20mm機関砲の車輛が最後までマガジンの弾丸を連射したが、ルノーはその弾幕をトンネルのように潜って交差点の左折に成功した。

 

ニコラはほんの一瞬目を剝いたが、

 

「くそっ、割り込め!」

 

と言って自車をルノーとレオパルトの間に割り込ませようとした。

隊長車たるレオパルトの目の前で、守るべきフラッグ車を仕留めて泣きっ面を拝んでやるつもりだった。

 

が、塚野の

 

「させるかぁ!」

 

という叫び声に呼応した田張がレオパルトを左折させる際に、その巨体の側面をニコラのトルディに幅寄せして強か体当たりした。

 

「ぎゃ!」

 

勢いを外側に突き飛ばされたトルディは、ガラスドアが連なる建物の入り口に突っ込み、ロビーの受付テーブルの手前でやっと止まった。

その後ろを仲間の車輛や本隊が次々通過していくのを振り返りながら、ニコラが悪態混じりに喚く。

 

「Basszus!!ふざけやがって!おい、早く出せっての!」

 

マイクのひずみ音のような耳障りな口調に、操縦手は呆れたように首を横に小さく振りながらトルディを一端バックさせてから道路に脱出すると仲間の後を追って再発進させた。

 

「絶対フラッグの首は取ってやる!必ずよ!」

 

ニコラはまだ顔を赤くしていたが、彼女の癇癪を見透かしたかのようにタールツァイから通信が入った。

 

『ニコラ、もう怒ってないよね?』

 

一瞬でニコラの頭が冷えた。

 

「え・・・ええ、はい。全然怒ってません。頭に来ましたけど!」

『くれぐれも抜け駆けはやめてよ。いいね~?』

 

図星のニコラは一瞬返答に喉が詰まったが、

 

「あ、ああ、は、はい。了解」

『そこんとこ宜しく』

 

砲手が疑わし気に顔を向けて来たので、ニコラは作り笑いで手を振りながら、

 

「ああ、ちゃんと言うこと聞くって・・・何見てやがるの!」

 

 

 

「さっさと橋に向かうよぉ!」

 

塚野は敵戦車の方にねじっていた体を前方に戻した。「そこ右折!」

 

それに従って先を走るルノーが交差点を右折し、続いてレオパルトも車体を傾けながら急カーブを切る。

その後を40mm砲のトルディが続こうとしたが、左折方向から不意に現れたラムⅡが急停止して立ちはだかり、それを避けようとしたが間に合わずラムⅡに激突してしまった。

 

その後ろの仲間の車輛も斜めにスリップしながら建物のショーウィンドウに激突して停止し、トゥラーン隊やズリーニィⅡも追突を避けようと車体を斜めに向けて止まった。

 

「撃て!」

 

発進前に村江の号令で、土橋が6ポンド砲をトゥラーンⅢに向かって発射した。

残念ながら敵フラッグ車を仕留める事は出来なかったが、砲弾は砲塔の左のシュルツェンを吹き飛ばした。

 

逃げて行くラムⅡにトゥラーンⅡが応射したが、建物の角に穴を穿っただけで命中しなかった。

 

タールツァイが感心したように右手を胸の前に振り下ろしながら指をパチンと鳴らす。

 

「くう、やるねえ!」

『早く追って差し上げないと!』

 

アンヌの言葉に、まだ前を塞いでいたトルディがのろのろと体勢を立て直して再発進する。

このままでは橋に逃げ込まれてしまうが、なぜかタールツァイは落ち着いていた。

 

『隊長!お構いありませんの!?』

「さあ、何とかなるんじゃないかな?」

 

 

 

マルギットが後続の20mm機関砲トルディを振り返った。

 

「イロナ、私が囮になるわ」

 

イロナはマルギットの意図を心得ていた。

二人は戦車道履修以来ずっとタッグを組んできた仲間であり友人同士だ。

どちらも仲間の無線のやり取りをリアルタイムで聞いて情報を把握している。

 

『・・・どこでやる?』

「ついて来て」

『はーい』

 

 

 

『ノイジー、状況は?』

「もう待ちくたびれてんだよこっちは」

 

SU-100が城塞から南の橋の対岸側に照準を合わせ、ハリーホプキンスとLVTは橋のこちら側で配置についている。

あとは囮部隊が逃げ込んで来るのを待つだけだ。

自分達は、その後を追いかけて来るバラトンチームに砲弾の雨を降らせてやれば良い。

 

LVTの砲塔の上では、福地がカメラを構えてシャッターチャンスの瞬間を待ち詫びていた。

 

「ふふ、良い画が撮れるといいな」

 

砲塔操作と装填を押し付けられたのは、前部席にいた西中だ。

 

「手伝って下さいよデスク」

「ちょっと待って、今いいとこだから!」

 

 

 

残す交差点があと1つという時だった。

 

そこに、いきなり40mm砲のトルディが右から現れ、横腹を晒した状態で停車するとそのまま居座り、砲塔がゆっくりとこちらに回転し始めた。

 

「・・・突破一択!」

 

敵が攻撃準備を終える前に、塚野は相手を突き飛ばしてでも最後の交差点を強行突破するつもりでいた。

その目論見通り、このトルディが砲塔を向け切る前にルノーはトルディの後部と建物の隙間を通り抜けようとした。

 

しかしその直前、このトルディはバックしてルノーを自身と建物の間に挟み込み、それによってルノーは動けなくなってしまった。

慣性の力が建物の方に向いていた事もトルディに味方したようだ。

 

ただ、塚野はレオパルトの巨体と質量を持ってトルディを突き飛ばそうと考えていた。

 

「蹴飛ばせ!」

 

そう言った直後、最初のトルディが来たのと同じ道から20mm機関砲のトルディが現れ、押さえつけられたままもがいているルノーの真後ろで停止した。

 

今度は砲塔が初めからルノーの方に向いている。

 

つまり、この2輌はそのつもりでここに罠を張っていたのだ。

40mm砲のトルディが囮で、20mm機関砲のトルディがルノーを仕留める役を受け持っていたようである。

 

レオパルトとルノーを捕らえたトルディ隊との間は、僅か15m足らずだったが、この僅か1秒間の出来事が塚野にはまるでスローモーションのように映った。

 

「え・・・!」

 

塚野は鹿屋に射撃命令を出そうと口を動かそうとしたが、敵のトリッキーな戦術に頭の理解がすぐに追いつかず、すぐに口を動かす事が出来なかった。

 

この時、もし後ろのラムⅡが、少し車体を横にスライドさせてレオパルトを射線からずらして発砲していなければ、20mm機関砲のトルディがルノーに全弾を叩き込んで決着を付けていた事であろう。

 

ラムⅡが発射したのは榴弾だった。

 

土橋が決死の思いで撃った6ポンドの榴弾は、トルディとルノーの間に楔を打ち込むように着弾して炸裂し、榴弾特有の爆風は40mm砲のトルディとルノーを引き離し、その衝撃に20mm機関砲のトルディの砲手が気を取られて発砲を中断させる事に成功したのである。

 

爆風はルノーを空中に持ち上げて縦に一回転させてから路上に着地させた。

 

「ぐわっ!」

 

萩原が頭を装甲ドームにぶつけて視界に星を飛び散らせる中、同じように装甲ドームに頭をぶつけて舌を噛みそうになりながらも尾鷲は本能でルノーを走らせ続けたが、その無意識下の体の動きが事態をややこしくしてしまった。

 

いよいよ橋に入ろうとした瞬間、20mm機関砲の斉射がルノーを掠め、尾鷲は思わず車体を右に切ってしまったのである。

 

あっと思った時には既に遅く、ルノーは橋から遠ざかってしまっており、その後ろでは橋の手前でレオパルトが停止してルノーを追いかけようと車体を旋回させ、その左右をあの2輌のトルディが走り抜けて追跡してきた。

 

「イロナ!ナイス!」

『うまくいってよかった!』

 

イロナの誘導射撃はダメ元だったが功を奏し、ルノーの川向こうへの逃走阻止に成功したのである。

2輌の間にレオパルトの50mm砲弾が着弾すると、マルギットがイロナの後ろについて盾となりながら後ろに向けた40mm砲で応戦する。

 

ルノーが相手なら、イロナ車でも十分だ。

 

対岸からはSU-100やハリーホプキンス、LVTの砲弾が降り注いでくるが、高速で走る小柄な車体に命中する心配は無かった。

 

 

 

「アンヌ!橋を封鎖しちゃお!」

『承知です!』

 

トゥラーンⅢとトゥラーンⅡが南の橋の前に陣取ると、その後ろをズリーニィⅡが通過した。

その音を聞きながら、橋を渡ろうと動き出したハリーホプキンスとLVTを牽制射撃で押し戻す。

本来はここでバラトンチームを足止めする筈が、逆にフロンティア学園が足止めされる恰好となっていた。

 

SU-100の砲弾がトゥラーンⅢの近くに命中すると、タールツァイは

 

「発煙弾装填!」

 

と命じ、それから砲身を城塞に向けさせると、SU-100目掛けて撃ち込ませた。

発煙弾はSU-100のすぐ近くの円柱型の構造物に当たったが、たちまち白煙がもうもうと広がってSU-100から視界を奪い取ってしまった。

 

「ダメです!撃てません!」

 

桐山が野島に振り向くと、首を横に振った。

野島は歯噛みして舌打ちするが、次の指示を出す。

 

「ちっ。移動すんぞ!」

「了解でさあ!」

 

安藤はSU-100を数メートルバックさせてから、車体を90度右に捻って発進させた。

 

『へー。いい記事になりそう♪』

 

福地の呑気な声が、オープンにしたままの通信を通して野島を苛立たせたが、

 

『なにのんびりしてるんですかデスク!』

 

と言う井坂の抗議が野島の気持ちを代弁したのであった。

 

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。