ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター4 攻防

「しめた!このままフラッグを孤立させちまえ!」

 

ニコラが勢いづいて叫んだ。

トルディ隊が左右に道を開けて、追跡部隊の中で最も火力の高いズリーニィⅡを先行させる。

 

早速ズリーニィⅡはルノーを狙い、ジグザグ運動するレオパルトとラムⅡが作る一瞬の隙間を狙って発砲したが、弾丸はレオパルトの横に着弾して外れた。

 

「う~ん。ゾフィア、やっぱり1輌ずつ潰していかない?」

「ですよねー」

 

マヨルの提案に、砲手のゾフィアは頭を搔き掻き頷いた。

 

こちらは全戦力、対してフロンティア学園は3輌。

残りの3輌は河の向こうにいるが、タールツァイとアンヌが救援に駆け付ける為の最寄りの橋を封鎖しているので、すぐには援軍に来られまい。

それは水陸両用のLVTとて同じだ。

水上航行は陸上で走るよりも速度は鈍る・・・川の流れを遡るとなれば猶更だ。

 

今のところルノーUEと自分達を隔てているのは、レオパルトとラムⅡだけである。

これとて侮れないが、敵が分断されている今が絶好のチャンスに違いは無い。

 

今度はズリーニィⅡとトルディが一斉射撃したが、また打撃は得られなかった。

 

 

 

「このままじゃジリ貧ね・・・」

 

村江はキューポラの覗視孔越しに追跡部隊や橋の様子を観察していたが、通信ボタンを押すと、

 

「隊長、橋のフラッグ車を始末しに行くわ」

 

一瞬の沈黙の後、塚野の声が応答する。

 

『オッケー!頼んだよぉ!』

 

ラムⅡが離脱すると、ルノーと追跡部隊との間を隔てるのはレオパルトのみになるが、レオパルトは高い車高と小型の砲塔の故に後方への射撃は苦手だ。

 

どちらが先にフラッグ車を撃破するか・・・こちらが先にやられてしまわないか?

 

その不安が塚野の頭をよぎったが、なんとかこの状況を打開しなければならないのも確かだ。

 

「了解。中村、市街地に入って」

「分かりました!」

 

ニコラ達の眼前で、ラムⅡは単独で道を右へ折れて市街地の中へ消えて行った。

 

「あ、ラムⅡが!」

 

ラムⅡの右折地点を通り過ぎる時に市街地に顔を向けたが、既にラムⅡの姿は無かった。

 

「早いですね・・・」

 

マルギットが驚愕と感服の入り混じった口調で言った直後、

 

『マルギット、こっちもちょっと寄り道するわ』

「先輩?」

『ラムⅡを始末してくるから、そっちは引き続きフラッグ車の撃破を頼むわね』

「・・・分かりました!」

『でもトルディだけでやれるのかな?』

 

ニコラが不安を口にしたが、

 

『副隊長、案があります』

 

マルギットの真剣な口調で、ニコラもこれ以上四の五の言う事は控えた。

 

「じゃ、指揮は宜しく」

『頑張ります!』

 

いきなり現場指揮を命じられたマルギットだったが、常にそう言う事態を想定した訓練を積んで来たので落ち着いていた。

 

タールツァイはその場の作戦を思いついた隊員に、学年や年齢に関係なく指揮を執らせる方針を取っていたが、これは提案者が最も作戦内容を周知しているという考えに基づく。

大洗女子学園戦車道チームの作戦方針にも似ているが偶然である。

 

マヨルの応答が無いと思ったその時、初めてズリーニィⅡがいつの間に隊列からいなくなっている事に気付いた。

 

 

 

少し後退した直後、トゥラーンⅢの高初速弾が手前に穴を穿った。

こちらも100mm砲を撃ち返すが外した。

 

『副隊長、もう少し頑張って』

 

村江の通信が入った時、野島は橋向こうのトゥラーン隊と川沿いを走る味方を交互に見ていた。

 

「けどよ、ズリーニィⅡがいなくなってるぜ」

『了解。気を付けるわ』

「で、あとどんくらい?」

『5分以内と思う』

「了解。一応、こっちはハリーホプキンスを救援に向かわせたぜ」

『とにかく持ちこたえて』

 

 

 

「で、作戦は?」

『機関砲にルノーを追わせます!こっちは敵フラッグ車を孤立させるんです!』

 

マルギットの提案は、ニコラにも妥当に映った。

20mm機関砲仕様のトルディ軽戦車は、戦車道では非力な部類だが、豆戦車で紙装甲のルノーUEにとってはこれさえも脅威だ。

 

「イロナ、市街地から迂回してルノーに追いつける?」

『いけます!でもレオパルトは何とかして下さい!』

「任せて!」

 

マルギット車が速度を上げて先行し、その後ろにニコラ車ともう1輌の40mm砲トルディが続く。

20mm機関砲トルディのコンビの方は、イロナが相方の車長に手を振って合図して市街地へ入って行った。

 

「くっそ、迂回する気じゃん」

 

塚野も相手の意図を察した。

しかし同時に、40mm砲トルディ隊3輌が増速してこちらに近付いて来る。

こちらを邪魔する気なのは明らかだった。

 

塚野はキューポラ越しに40mm砲トルディ隊を監視しながら、

 

「たばっち、準備は?」

「へへ、いつでもどうぞ!」

 

田張はまるで悪戯っ子が浮かべるような笑みを浮かべていた。

 

「こっちもいいよー」

 

と、鹿屋が言った。

 

井上はと言うと、口を引き結んで両手を天井や横の壁に手を突っ張っている。

 

「目回らないといいんだけど・・・」

 

塚野は頷くと、

 

「やっちまえ!」

 

田張が両腕を動かすと、レオパルトが滑りながら左向きに回転し、砲口が一瞬だけ真後ろの敵集団に向いた。

その瞬間、

 

「うおー!」

 

と叫びながら鹿屋が50mm砲を発砲した。

本当は威嚇と牽制のつもりだったが、弾丸は偶然にも40mm砲トルディに直撃し、有効打となった。

 

『は!?嘘でしょ!?』

 

やられた40mm砲トルディの車長の悲痛な叫び越えがマルギットやニコラの耳に響く。

こちらが優位だと思っていたのに、これ以上もたもたしていられない。

 

と言うより、早くしないと次の橋に到達して対岸に渡られてしまうし、敵もきっとそちらに1輌ぐらい救援に差し向けている筈だ。

ニコラは歯噛みしながら、再び前進に戻ったレオパルトに向き直った。

 

「マルギット!」

『行きます!』

 

既にマルギット車は行動に移っていた。

これにニコラ車も追従し、レオパルトの左右を挟むようにして接近しながら砲身をレオパルトに向ける。

 

「たばっち!左右から来るよぉ!」

「了解!」

 

田張はどちらも追い抜かせないように、先に近付いてきたマルギット車の針路を塞ぐ形で幅寄せした。

その隙にとばかり増速したニコラ車には、わざと横に並ばせてからすぐに左に舵を切って体当たりをかまして針路を逸らし、またマルギット車の妨害に戻る。

 

針路を逸らされたニコラ車は、川に転落しないようにブレーキをかけざるを得なかった。

滑りながら車体後部が川沿いの向こうに飛び出したが、なんとかこらえる。

 

マルギット車がレオパルトに40mm砲を発射したが、角度が合わず弾かれてしまった。

 

 

 

ラムⅡは遂にトゥラーン部隊の背後を捉えた。

こちらに気付いているのか気付いていないのか、砲塔をこちらに回そうとする気配は無かった。

念の為、素早く周囲を確認したが、まだズリーニィⅡの姿は見えない。

 

「目標、トゥラーンⅢ!」

 

敵フラッグ車への攻撃指令に、逸る気持ちを抑えて土橋が砲塔を旋回させる。

だが、どんなに自制しても急激に噴出したアドレナリンに両腕は震え、指先が感覚を失いそうになり、自然と心臓の回転数が上がる。

 

「おい、早く撃っちまえよ!」

 

桑田がじれったそうにそう急かすが、土橋は無視して全ての集中力を総動員し、慎重に狙いを付ける。

 

「ロックオンターゲット!」

 

と、ラムⅡの後ろにズリーニィⅡが現れ、あっという間に砲身をこちらに向けて来た。

村江はそれに気付いたが、

 

「撃て!」

 

ラムⅡの動きをじっと監視していたタールツァイは、こちらがロックオンされた事を自身の蓄積してきた経験と勘で察すると、

 

「バック!」

 

ラムⅡが発砲する0.1秒前に、トゥラーンⅢはバックして手前の建物の後ろに身を隠した。

その為、6ポンド砲弾はトゥラーンⅢの車体上面を掠めて外れた。

 

「車体を斜めに!」

 

中村がラムⅡを時計の長針と短針が4時55分を指すように車体を斜めにすると、

ズリーニィⅡから放たれた対戦車榴弾が車体左側面の後部に当たって力を受け流され、その先の建物に命中した。

 

村江はもう一度橋の方を見た。

トゥラーンⅢはもう身を晒さないだろう。

しかも連中は、橋に発煙弾を撃ち込んだらしく、白煙が橋を覆い始めていた。

 

そして再びズリーニィⅡに顔を向けると、

 

「目標変更!」

 

ラムⅡは右に信地回転してズリーニィⅡと相対したが、意図せずして3年生同士の対決となった。

 

ゾエがもう一度対戦車榴弾を装填する。

 

「装填完了!」

「隊長、ラムⅡは任せて」

『任された!』

 

向かい合った時間はほんの2、3秒だったが、その緊張感は、両者にはまるで1時間にも感じられた。

 

「突撃!」

「Megy!」

 

ほぼ同時に命令が下され、ラムⅡとズリーニィⅡは発進した。

 

 

 

「ちょーまずいじゃんこれ!」

 

レオパルトとルノーとの間は、ニコラとマルギットの陽動攻撃で明らかに開きつつあった。

40mm砲トルディ隊は、レオパルトを追い越せず打撃も与えられていなかったが、役割は果たしていた。

 

すぐには分からないよう速度をぼちぼち下げてレオパルトの速度を落とさせ、それに気付いて速度を上げようとするとこちらはそれ以上に加速して追い抜かそうとする。

 

40mm砲をルノーに向けた方が早いような気もしたが、レオパルトに妨害されながら狙うよりは20mm機関砲隊がレオパルトとルノーの間に割って入って一気に畳みかける方がより確実だ。

 

とは言え、マルギット車とニコラ車は機会があれば40mm砲をルノーに向けて放っていた。

そして案の定、レオパルトの妨害を気にしながらだと当たる筈もなく外していた。

 

その頃、イロナ隊はレオパルトを追い越しており、市街地の中だったが建物と建物との間に一瞬だけルノーを発見していた。

 

「目標、11時方向・・・アグネス、行くわよ!」

『アイアイサー!』

 

アグネス車を引き連れて、イロナは遂に攻撃に移った。

 

 

 

先手必勝とラムⅡが先に発砲したが、ズリーニィⅡはひょいと横跳びするように身をかわす。

 

両者の距離があっという間に縮まる。

桑田が6ポンド徹甲弾を押し込んだ。

 

「次で決めるわ!」

「勿論!」

 

土橋はズリーニィⅡと交差する瞬間を狙っていた。

しかしここでズリーニィⅡが急停止すると、前進と同じぐらいの速度でバックを始めた。

 

「くそ!」

 

土橋は再び砲塔と砲身を動かし、後退するズリーニィⅡを狙った。

それを見ていたマヨルはすぐさま

 

「前進!」

 

ズリーニィⅡがバックを止めて前進に移ったのを見て、土橋は焦った。

 

「嘘!?」

「落ち着いて狙って!」

 

村江の鋭い声が土橋の自制心を何とか引き戻したが、相手に翻弄されているような気持ちは完全に拭えなかった。

 

一方、ズリーニィⅡの砲手のゾフィアも焦れていた。

 

「早く撃たせて下さい!」

「合図を待って・・・後退!」

 

操縦手は腕が引き裂かれそうな感覚を覚えながらマヨルの指示に従う。

またしてもラムⅡが遠ざかった。

 

 

 

「停止!」

 

とうとう村江もたまりかねてそう命令した。

ズリーニィⅡの前後運動は、さすがの冷静沈着な村江もイライラしたようだ。

 

「タイミングは任せるわ!」

「はい!」

 

土橋はズリーニィⅡが一瞬停止する瞬間を狙う事にした。

砲塔と砲身をゆっくりと動かしてズリーニィⅡに追従させる。

 

 

 

「煙幕展張!」

 

ズリーニィⅡの発煙弾発射機が垂直に打ち上げられ、あっという間にすっぽりと覆い隠してしまった。

 

「ぬっ!?」

「気を付けて。出て来た瞬間を見逃さないで!」

「小癪な真似ばっかしやがるなあ全く・・・」

 

桑田が呆れたように呟いた。

 

土橋は息を整えてその瞬間を待った。

後ろでは尚も橋で撃ち合いが続く音が、車内のエンジン音に混じって聞こえてくる。

 

数秒経過した。

 

煙幕が薄れ始めたが、まだズリーニィⅡは現れない。

 

「・・・ひょっとして、回り込んで来る系?」

 

土橋が不安を口にし、村江も迷いを覚えて一瞬顎を引いて考え込んだ。

 

が、それを待っていたかのように、急に煙幕の向こうに現れた黒い影が大きくなり、ズリーニィⅡが猛スピードで飛び出してきた。

 

迷いを見せた村江達は完全に虚を突かれた形となり、対処に遅れた。

息を呑む間にズリーニィⅡは一気に距離を縮め、正面衝突する直前に渾身の一撃を放ったのである。

 

105mm対戦車榴弾をまともに正面に浴びた衝撃を受けてびっくりしたように仰け反るラムⅡに、ブレーキをかけたが止まり切れずに突っ込んできたズリーニィⅡが正面衝突した。

 

黒煙が晴れると、ラムⅡから白旗が上がっていた。

 

 

 

レオパルトとルノーの間にイロナ隊が横滑りに飛び出してきた。

 

「くそっ、気を付けて!」

 

塚野が警告すると、萩原が歯を食い縛りながら相手の動きを監視する。

尾鷲も背後を時々振り返りながら萩原の合図がいつ来ても応じられるように鼓膜を研ぎ澄ました。

 

「撃ちまくれ!」

 

イロナが手を振ると、マドセン20mm機関砲が連射を開始した。

 

 

 

続く

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