ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

53 / 62
チャプター5 遁走

2丁のマドセン20mm機関砲の弾丸がシャワーのように浴びせかけられた。

瞬間、ルノーは右斜め方向に舵を切り、ブダペストの国会議事堂をモデルにした建物の壁沿いを走った。

そのすぐ後ろを機関砲の弾丸が追いすがって建物の壁にブスブスと穴を穿って行く。

やがて20mm機関砲が鳴りやみ、辛うじて最初の斉射は凌いだようだ。

ただ、箱型戦闘室を弾丸が何度か掠めた時は萩原の肝を心底冷やしたようだったが。

 

「あ、危なかった・・・」

 

そう呟く萩原の喉はひりついており、尾鷲は顔中が汗びっしょりだった。

 

 

 

審判によるラムⅡの撃破判定のアナウンスが入ったのはその直後である。

 

『フロンティア、ラムⅡ!走行不能・・・!』

「は・・・マジ・・・!?」

 

塚野だけでなく、田張、井上、鹿屋も戦車道経験者の脱落に思わず動揺した。

いや、動揺しない方がおかしかったかもしれない。

だがそれは、マルギットとニコラに付け入る隙を与える事でもあった。

 

「全速、行け!」

 

ニコラ車が先に行き、マルギット車がそれに続く。

2輌は一瞬の隙を突いてレオパルトの懐に左から飛び込むと、立て続けに体当たりを食らわせた。

ニコラ車が最初に体当たりしてレオパルトの勢いを削ぎ、後からマルギット車が追い打ちをかけた事でレオパルトはバランスを崩し、田張が慌てて体勢を立て直そうとしたがうまくいかずに横道に頭から食い込む形で、建物に車体を横からぶつけて止まった。

 

「止め刺す?」

『いや、フラッグ車を優先します!』

「あいよ」

 

一瞬減速したニコラ車は再び加速すると、マルギット車を追って行った。

 

「あれー?止め刺しに来ないよー?」

 

鹿屋がそう言う傍ら、塚野が田張を急かす。

 

「チーフ、早く早く!」

「分かってますって!」

 

急かす塚野にそう応じながら、田張はレオパルトを再び川沿いの道に復帰させると、どんどん遠ざかるトルディ部隊とルノーを追って走り出した。

 

「ちょーまずいってマジで・・・!」

 

塚野の脳裏に、いよいよ最悪のシナリオが現実味を帯び始めた。

 

 

 

一方、トゥラーン部隊が陣取る南の橋では。

 

「ズリーニィが合流してきます!」

「分かってっから」

 

伊関の指摘に野島はそう応じつつ、無線でLVTに指示する。「おい、プレス。後退するぞ」

 

すると福地の不満そうな声がぶうぶう返って来た。

 

『えー、まだ撮影中よ!?』

 

相手は3年生だが知った事か。

 

「・・・つべこべ言ってねえでバックしろってんだ!」

『あーあ』

 

とは言え、操縦する井坂は野島に従ったらしくLVTは動き出したので、野島はやれやれとばかりに口をへの字に曲げて溜息を吐いた。

 

すると桐山が、

 

「でも副隊長。フラッグ車は?」

「3対2じゃ分がわりい。あと何発よ?」

 

これは伊関が答える。

 

「えー、17発です」

「これ以上は無駄撃ち出来ねえな。猶更態勢立て直さねえとよ」

 

それから野島は、バックしながら応射しているLVTを見た。

 

「援護すっから先に行け」

『いや、そっちが・・・』

「とっとと行きやがれ!」

『写真が~』

 

殿を務める口実で写真撮影を試みたが却下されてしまい、尚もごねる福地だったが、井坂が容赦せずLVTを反転させて撤退に移った。

そんなLVTに、トゥラーンⅡの砲弾が緩やかな弧を描きながら飛んできて掠める。

 

『どこ行くのですか?』

 

西中が聞いた。

 

「味方と合流すんだよ」

 

SU-100も牽制弾を撃ちながらゆっくりと後退を始めた。

 

 

 

『敵、後退していきますわ!』

 

アンヌの声が興奮して言った。『追撃の機会ですわ!』

 

「先に行くから、ついて来て」

『了解!』

『待って』

 

マヨルの引き留める声と共にズリーニィⅡがやって来て、トゥラーンⅢの左に並んでアイドリングした。

 

『私が先頭を行くわ。フラッグ車だから不用意にリスクを取る事ないわ』

「じゃあ、マヨル先輩。宜しくお願いします」

『ズリーニィの車高だったら、そっちは問題なく射撃できる筈よ」

「分かりました」

 

ズリーニィⅡが最初に橋に入り、次にトゥラーンⅢ、最後にアンヌのトゥラーンⅡが続いた。

 

 

 

萩原は後ろを振り返った。

 

レオパルトはとうとうこのデスレースの最後尾を拝みながら走る羽目になったようだ。

幾ら天性の名砲手の鹿屋と言えど、この引き離された距離からハエのように乱舞するトルディ隊に当てられるかどうか・・・

 

「次来たらやられる・・・!」

『こちら大地、橋で合流しましょう!』

 

その声に反応して萩原が対岸を見ると、ハリーホプキンスがあらん限りの力を振り絞って川沿いの道を爆走しており、ちょうどこちらを抜かしたところだった。

 

続いて地図を開きながら、

 

「えっと確か・・・」

「大丈夫、分かってるから」

 

マップを事前に頭に叩き込んでいた尾鷲は、このまま直進していては橋を潜り抜けてしまい、合流出来ない事を知っており、国会議事堂型の建物を通り過ぎた辺りで右折し、橋に続く道に進路を取った。

 

「間に合うかな・・・」

 

萩原は不安そうに後ろのトルディを振り返った。

再装填がもうそろそろ終わる頃合いだと思うが・・・

 

レオパルトは40mmトルディ隊の妨害でとうとう最後尾から追いかける羽目に陥ったらしく、今はルノー単独でこの場を切り抜けるしかないようだ。

 

「萩原、そっちのタイミングで合図して!」

「分かりました!」

 

尾鷲の言葉に、萩原は息を詰めて20mmトルディの様子を窺った。

 

 

 

同じ頃、ハリーホプキンスが橋まで20m程の距離で急ブレーキをかけながら車体を右に捻ると、今までの勢いで横滑りしながら右に90度回り、橋の前で勢いがかなり落ちた時には、ちょうど正面が橋の出入り口にぴったりと向けられていた。

 

「そらっ!」

 

五十嵐が自分の掛け声を合図に再び加速すると、ハリーホプキンスは急激な加速への抗議に車体をガタガタ震わせつつも、速度をぐいぐい上げて橋を渡り始めた。

前から後ろに過ぎ去る鉄骨の隙間越しにルノーUEもあと少しまで来ているのが見えたが、そのすぐ後ろには20mm機関砲のトルディ2輌が追いすがり、40mm砲のトルディ2輌も追いつきつつあった。

 

レオパルトは最後尾から必死に追い上げているがかなり離されており、ルノーの運命はハリーホプキンスに掛かっていた。

 

 

 

どういう理屈か説明出来なかったが、萩原は感覚で射撃の瞬間を捉えて叫んだ。

 

「来ます!」

 

尾鷲がすぐに馬の手綱を強く引くようにルノーの速度を落とすと、直後に20mm機関砲の弾丸が、直前までいたルノーの場所に降り注ぐ。

思わず追突を避けようと、20mmトルディ部隊の操縦手達は左右に開いてルノーを避け、ルノーはこの2輌の間を走る形となった。

 

「挟め!」

 

すぐにイロナが対応して、20mmトルディのコンビは互いの頭を向け合うように斜めに傾けて、スライド式のドアを左右から閉じるようにルノーを挟み込もうとした。

 

「危ない!」

 

萩原が叫ぶよりも早く、尾鷲は巧みに左側のイロナ車の後ろを回り、そのまま横に出る形でイロナの作戦を回避する。

 

「ちっ、小癪な!」

 

イロナ車は並走するルノーに横から体当たりで弾き飛ばして川に落とそうとしたが、またもルノーはイロナ車の後ろを回って今度は右側、即ち2輌の間に出ると、再びサンドイッチしようとする暇を与えず2輌の前に出た。

 

 

 

『マルギットさん!橋に逃げられます!』

 

イロナの報告を聞きながら、マルギットは橋を渡って来るハリーホプキンスを確認していた。

 

マルギットは通信ボタンを押すと、即座に立てた戦術を、ガトリング砲のような速さで味方に伝える。

 

「ルノー撃破は一時中止、ハリーホプキンスの撃破を優先!」

『はいマルギットさん!』

 

続いてニコラの声が、

 

『先に行くわ!』

「了解、援護します!」

 

イロナ達が少し減速し、2輌の間をニコラ車とマルギット車が通り抜けて前に出た。

その少し先をルノーが走っているが、40mm砲の狙いはハリーホプキンスに向けられる。

 

 

 

「まずこっちを潰す気ね。上等よ」

 

相手の動きから狙いがこちらに向けられた事に気付いた大地は、五十嵐に「合図でもっとスピードアップをお願いします」

 

五十嵐は頷いた。

 

「了解」

「尾鷲さん、そちらから見て右車線から突っ込みますので、そこに敵戦車を誘導してから左に避けて下さい」

『はい』

 

この橋は中央をトラム線が2本走り、その左右を自動車用の道路が2車線ずつ走る構成になっている。

また、2本のトラム線の間にはパンタグラフ用の電線を渡す黒い支柱が一定間隔を置いて立っていた。

そして橋の真ん中には、河の中州として浮かぶ島に繋がる分岐点がある。

 

「佐伯さん、一番前に来たトルディを狙って下さい」

「いいわ」

 

先頭のトルディはニコラ車だった。

佐伯は到達地点で予測される交戦距離に対応する調整をしながら、「ったく、なんで豆戦車をフラッグに選んだのよ」

 

とぶつぶつ文句を呟き出したので、大地が苦笑しながら

 

「副会長も賛成してたじゃないですか」

「ああこれ?自分に言ってるのよ・・・」

 

 

 

ルノーが坂を道を曲がって橋に到達したが、そのすぐ後ろを、何をどうやったのか橙色のトラムが縦に回転しながらフロントを地面にガツンと打ち付けると、その衝撃の勢いで反対側へ吹っ飛んで行った。

その直後に、2輌の40mmトルディが現れ、ルノーの後を追いかけて来る。

少し遅れて20mmトルディ隊が姿を現し、レオパルトも曲がって来た。

 

「増速!」

「はい!」

 

五十嵐がハリーホプキンスを更に加速させた。

先程の打ち合わせ通り、ハリーホプキンスは構わず一直線に突進を続け、ルノーはそれを右に膨らむ形で避けて行った。

 

「来、来る・・・!」

 

突撃してくるハリーホプキンスの剣幕に操縦手が一瞬怯み、ニコラも息を呑んだが、すぐに

 

「回避して!」

 

ニコラ車とマルギット車はルノーと同じく左車線に回避を試みながら、主砲をハリーホプキンスに向ける。

そこをハリーホプキンスが電線の支柱と支柱の間に車体を巧みに通して針路を妨害する。

 

「撃てっ!」

 

佐伯はニコラ車を狙って発砲した。

ほぼ同じタイミングでニコラ車とマルギット車も発砲し、3発の弾丸は交叉して互いの目標に向かった。

 

ハリーホプキンスはニコラ車を捉え、トルディ側はニコラ車の弾丸が外れてマルギット車の弾丸がハリーホプキンスの正面の傾斜装甲に弾かれた。

 

白旗を上げて停止したニコラ車を避けてマルギット車が再び反対車線に出ようとしたが、それをハリーホプキンスは逃さず、急ブレーキの勢いで滑りながら右側面を晒す形でブロックをかけた。

ぶつかり合った互いの車体が、双方の乗員に凄まじい衝撃で翻弄する。

 

「ぐわっ!」

 

マルギットは舌を噛みそうになったが、辛うじて持ちこたえて命令を発しようとして、2ポンド砲の砲口がこちらに向けられた事に気付いて体が硬直した。

 

しかし追いついてきたイロナ隊の20mm機関砲弾の弾幕が左右斜めから襲い、そのうちの1発が傾斜装甲を垂直から入る弾道だった。

 

イロナ隊が左右を通過して間もなくハリーホプキンスから白旗が上がり、マルギットはホッとして通信をオンにした。

 

「イロナ、助かったわ」

『お安い御用です!早く追いますよ!』

 

後ろを一瞥すると、レオパルトが電線の支柱を倒しながら橋を渡り始めていた。

 

「追跡再開!」

 

マルギット車もレオパルトに追いつかれないように急発進する。

 

 

 

「え、マジで言ってる?」

 

ハリーホプキンスの撃破を目の前で見た塚野は信じられないという面持ちで言った。

横を通過する際、砲塔のハッチが開いて大地が申し訳なさそうにこちらに両手を合わせるのが見えた。

 

「あ~、ドンマイドンマイ!」

 

塚野は手を振って応えたが、現状を頭の中で整理してクラクラしそうになった。

貴重な戦車道経験者を2人とも失い、戦力差は4対6で尚且つ相手は当然だが練度の高い経験者揃いという事で動揺しそうになるが、これまでの演習や実戦経験を思い出してなんとか平静を保とうと試みる。

 

塚野の心中を察した鹿屋が、車内から塚野のスカートの裾を掴んで軽く引っ張りながら、

 

「ねーねー。まだフラッグはやられてないよー」

 

井上も肩越しに、

 

「青師団を相手にしたでしょ?今更何よ」

「隊長、ご命令を!」

 

田張がそう締め括ると、塚野は息を深く吸い込んで荒れ狂いそうになった心の波を凪に取り戻した。

 

「このまま前進!ルノーを助けるっ!」

 

 

 

「このままだと対岸に渡り切られます!」

 

イロナ車の砲手が予備弾薬を装填しながらそう言った。

 

タールツァイ隊長からは、橋の向こうで釘付けにしていたSU-100やLVTが後退したと聞かされている。

ルノーが向かう所は、間違いなく味方の所だが、それを阻止しなければならない。

 

だが焦って攻撃しても、小さなルノーUEを撃破するのは難しいし、相手の操縦手はなかなかの腕の持ち主のようだ。

 

ふと、イロナは中洲の島を見て1つアイデアを閃いた。

 

「誘導射撃するわ!合図でルノーの左を通過するように狙って!」

「了解!」

 

スコープの中でルノーは蛇行して狙いをつけさせないように走っていた。

イロナはルノーが中州への分岐点に差し掛かる直前まで待ち、

 

「撃て!」

 

20mm機関砲の弾丸が何発か、ルノーの左すれすれを通過すると、それに驚いたルノーの操縦手が思わず分岐点の方へ進路を変えた。

再び対岸の方へ車体を向けようにも、既に分岐の橋の中に入ってしまっており、方向転換して元のコースに戻ろうにもトルディ隊はすぐ近くまで来ていた。

 

「ちっ、仕方ない・・・」

 

尾鷲は舌打ちすると中州に向かって走らせた。

萩原が通信でコース変更を味方に伝える。

 

「こちら萩原、中州にコースを変えさせられました!すみません!」

『あー!?何やってんだよ!分かった、やられんなよ!』

「すみません、副隊長!」

『ノイジー、あんまり怒らないの』

『おめえは危機感持ちやがれ!』

 

やがてルノーは分岐の橋から中州へと入った。

中州とは言っても、全長2~3kmはあり、最大幅が500m程の大きな島で、上から見るとゾウリムシに似た姿だった。

島には木々が生い茂っているが芝生の広場も多く、舗装された道が整備されていた。

 

「ああ、ええっと、とりあえず北の橋に行きますか?」

「だね」

 

萩原の提案に尾鷲は同意した。

大きな面積とは言え、島は島だ。

逃げ場が大きく制限されるこの環境で包囲されたらおしまいである。

 

島の北側を横切っている橋に向かい、もう一度対岸を目指す事になった。

 

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。