ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー 作:ミハイル・シュパーギン
塚野の半べそ声が、
『ノイジー!今どこぉ!?』
「反対側の出入口に向かってる!」
『早く来てぇ!うちだけじゃ守り切れないってぇ!』
「うるせえ!泣きつくのやめろ!」
野島は通信相手を変えた。「福地!」
『指示通りやってるから安心して!』
「早くしろよ。隊長が危ねえんだ」
『ちゃんと通話は聞いてるから!』
福地との通信が終わると、野島は溜息を吐いた。
「頼む、間に合えよ・・・」
台車にラムⅡを乗せて運搬するM19戦車運搬車の荷台のベンチでは、土橋が自分のラップトップコンピューターに試合のライブ中継を再生しながら、落ち着かなげにそわそわしていた。
隣に座る村江は勿論、向かい側のベンチに座る中村と大川にも見やすいようにラップトップを配置している。
『フロンティア学園は絶体絶命!はたしてここから巻き返しなるでしょうか!?』
まるでアナウンサーが実況を通して、『もはやお前らに勝ち目はない』と挑発しているかのように聞こえる。
勿論そうじゃないのは分かっているが、土橋の口がへの字に曲がった。
気付いた村江が声を掛ける。
「しっかりして」
土橋は質問を一瞬躊躇ったが、
「・・・村江さん。正直、戦況はどうですか?」
返答が怖かったが、土橋は問わざるを得なかった。
村江は答える代わりに、
「隊長は何か考えていると思うわ」
「この中州で決着とか、ですか?」
中村が聞くと、村江は首を横に振った。
「まだ分からないわ・・・脱出を考えているかもしれないから」
明確な返答を避けているが、却って土橋の不安が膨らんだ。
「でも策が思いつかないんだよね・・・」
「いやあ、これは勝ちたいですねえ」
土橋の言葉を遮るように、大川が突然言った。
3人が注目すると、いつも飄々とした態度の大川の目は真剣であった。
「事情は知っています。もしこの試合に負けて、その次の敗者復活戦もダメだったら・・・これ以上は言いませんよ。しかしそれはさておいても勝ちたいですよ、この試合に・・・!」
話をしている内に熱を帯びて、いつの間にか早口になっていた大川はふと我に返って口をつぐんだが、また口を開き
「皆さんはどう思います?我々に今必要なのは勝利じゃないですかねえ?」
土橋は、自分が弱気になっていた事を改めた。
「誰よりも隊長が、そう思っているんじゃないかな」
村江が首肯しながら、先程の言葉を繰り返す。
「だから、隊長は何か考えていると思うわ」
4人の視線が、再びラップトップコンピューターのモニターに戻された。
『中州に逃げ込みました!』
マルギットの報告に、タールツァイは何かを思いついたらしく右手の指をパチンと鳴らした。
「よし、そこを墓場にしよう!反対側の出口に先回り!」
『了解!南側の出入口に1輌が封鎖中です!』
「お、気が利くね。さてと…」
タールツァイ率いる3輌の主力部隊は川沿いを走っていた。
先頭をズリーニィⅡ、次にトゥラーンⅢが走り、殿のトゥラーンⅡは砲塔を後ろに向けている。
後退して姿が見えないSU-100とLVTが、いつ不意打ちしてくるか分からないからだ。
特にトゥラーンⅢはフラッグ車なので、狙われる確率が高い。
今の状況なら相手が起死回生を狙い、焦って攻撃してきてもおかしくない。
『鬼ごっこに飽きた?』
マヨルの声が言った。
「はい。さっさと終わらせて学園に帰って、温泉でゆっくりしたいです」
『油断は禁物よ』
「勿論です先輩」
『で、どっちが先にフラッグを取るか賭けてみる?』
ここで3輌は、中州の南側出入口と繋がる橋に右折した。
「いいですね。何を賭けます?」
『隊長の座・・・冗談よ。苦手なもの食べるのはどうかしら?』
その提案にタールツァイは若干動揺して生唾を飲み込んだが、頼れる先輩の悶絶する顔を見てみたくなった。
「・・・じゃあ、それで」
ただ、自分の嫌いな食べ物のイメージが口の中に広がり、タールツァイはその感覚をなんとかごまかそうと目刺しをもう一本つまんだ。
「あれ、全然来ないよー?」
「何か変ね?」
困惑する鹿屋の言葉に、井上が不審げに首を傾げる。
ルノーとレオパルトは中洲の一本道を走っていたが、急にトルディ隊が追跡をやめて左右に散って行ったのだ。
3輌のトルディの内、1輌の20mmトルディは相手がUターンして戻って来た場合に備えて南側の出入口に居座ったので、追ってきているのは40mmトルディと20mmトルディが1輌ずつだった。
不意打ちを警戒していたが、なかなか現れないので不審に感じたのである。
『・・・嫌な予感がします』
萩原の声はそわそわしていて不安そうだ。
「何にせよ、今のうちに脱出ね!」
自分を元気づけるように田張が言うと、塚野の脳裏にフラッシュのような直感が走った。
「・・・ここに閉じ込める気かも?」
南側出入口を封鎖中の20mmトルディが横にどいてタールツァイ達を通すと、自らもその後に続いた。
ここは2ルートあり、真っ直ぐ橋に至る一直線のスロープと、螺旋を描くように登るスロープがあるが、螺旋を描く方は補修工事で閉鎖されているので、直接橋に向かう方を押さえていれば大丈夫だ。
『こちらマルギット、反対側出入口の封鎖完了!』
「よーし、追い込んでやるか」
『目標が近づいて来ます!』
「その場で仕留めちゃってもいいよ!」
出入口に通ずるスロープを背にマルギット車が立ちはだかり、左に十数メートル離れた場所でイロナ車が控えている。
塚野達も必死だ。
「たばっち!20mmをフェイントしてから40mmに体当たりして道を開けるよぉ!」
「了解!」
レオパルトが向かって来ると、機関砲が主力のイロナ車にとって冷や汗ものだった。
弾幕を張れる事を脅威に捉えたのだろうか?
質量差でも圧倒されており、ぶつかり合えばイロナ車が弾き飛ばされる。
だがイロナは受けて立った。
「レオパルトは任せて下さい!」
『じゃあ、ルノーはこっちで!』
イロナ車は応射しながらわざと気乗りしない動きをして、レオパルトとニアミスの形になるよう誘う。
マルギットはじっくりルノーを引き付けた。
「撃て!」
しかし40mm弾はルノーの小柄な車体を逸れる。
「装填します!」
「いや、ぶつけて!」
その時、レオパルトが途中で向きを変えてマルギット車に向かって来た。
意表を突かれたのか、イロナ車の反応が遅れる。
ハッとした操縦手が、
「マルギットさん・・・!」
「落ち着いて!」
レオパルトの砲塔が動き、主砲がマルギット車を狙うが、マルギットはその瞬間を待っていた。
「突っ込んで交叉!」
「はい!」
操縦手は目と口を大きく開いてトルディを急加速させると、レオパルトの砲撃をかわすと同時に、車体を擦り合わせて火花を散らしながらニアミスした。
「ターン!」
マルギット車は左右履帯の動きを相反させて路上を滑りながら180度回転した。
いつの間に砲弾を取っていたマルギットが素早く装填し、
「ドルカ!」
ドルカと呼ばれた砲手は、既にスコープに目を当てていた。
照準にルノーを捉えると、急いで仰角を調整する。
塚野が叫んだ。
「ルノーを守れぇ!」
塚野の反応があと1秒遅れていたら、ルノーは今度こそ仕留められていたかもしれない。
レオパルトが割って入ると同時にドルカが発砲し、レオパルトの後部に命中した。
着弾箇所から煙を吹きながら、レオパルトは停止して白旗を上げた。
レオパルトの脱落はラムⅡのチームを動揺させた。
『フロンティア、レオパルト、走行不能!』
「お願い…!」
土橋は祈るように顔の前で両手を組んでいた。
「今のうちに!」
「分かってるって!」
尾鷲はルノーからもっと出力を出そうと努力しながらスロープを登らせるが、豆戦車の性かどうにものろのろして仕方がない。
レオパルトで射線を切ろうとしたが、間もなくトルディの姿が現れた。
イロナ車が機関砲を撃ち始めると、尾鷲は舌打ちした。
「くそ!」
脱出を諦めた尾鷲は、ルノーを90度左に転回させるとスロープから飛び降りた。
今までルノーが走っていた場所に、20mm機関砲の弾丸が着弾して破片を飛び散らせる。
思わず動転した萩原が、
「尾鷲さん、何やってるんですか!?」
「タンケッテだけじゃ無理!」
「それはそうですけど・・・」
マルギットはこめかみに汗を浮かべながらも小さく頷いていた。
「隊長!奴がスロープから下りました!もう逃げられません!」
『もうすぐ追いつくから逃がさないように!』
緊張しながら高揚するタールツァイの声。
今頃主力3輌が、封鎖に使った20mmトルディと一緒に急行してきているに違いない。
数分あれば・・・いや、もっと早いかもしれない。
マルギットはイロナと協力してぐんぐんルノーを追い詰めた。
相手は機銃しかないので撃ち合いを恐れる必要は無いが、その随一の小柄さを活かしてすり抜けてくるかもしれない。
そして遂に、船の船首のように先が尖っている中州の北端までルノーを追い詰めた。
そこは石垣のような土手で急な斜面となっており、ルノーは斜面の麓に下りたところで完全に逃げ場を失った。
麓は人一人分が通れる幅しかなく、その先は河だ。
左にイロナ車が、右にマルギット車が慎重に斜面を下りてルノーを挟み込む形となる。
ルノーが斜面を登って逃げようとしたとしても、当然動きは遅くなるから落ち着いて狙い撃ちすればいいだけだ。
『譲りますよ、マルギットさん』
「ミスったらカバーしてね」
『いやいや大丈夫ですって』
「装填完了!」
ドルカが言った。
「悪いわね。でも勝負とはこういう・・・」
しかしマルギットの言葉は最後まで続かなかった。
出し抜けに凄まじい衝撃がマルギット車の横から襲ったのである。
マルギット車は斜面に叩き付けられてから間もなく、白旗が飛び出した。
『ふう、間に合ったぜ・・・!』
ホッとした口調の野島の声が萩原と尾鷲の耳に入った。
振り返ると、北西側の対岸でSU-100が砲口から煙をくゆらせていた。
続く