ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター7 止めの一撃

イロナがショックに気を取られている間に、ルノーUEは斜面でつるつる滑りながら後退して、撃破されたマルギット車の裏に身を隠した。

 

気付いたイロナが追いかけようと動き出した瞬間、イロナ車にSU-100とは明らかに異なる砲弾が直撃し、イロナ車にも白旗が上がった。

 

LVTだった。

水陸両用なので、河の上をを船のように航行してきたのである。

 

「これは凄いわ!艦砲射撃大成功ね!」

 

福地が西中とハイタッチを交わした。

 

「記事の見出しは決まり!主役は私ね!」

「バカ言ってんじゃないわよ!」

 

井坂が言った。「早くルノーを助けないと!」

 

 

その報告にタールツァイは驚愕した。

 

『すみません、私も撃破されました!』

 

イロナの追加報告に、タールツァイは二度目の驚愕をした。

 

「ぐぬぬ・・・」

 

タールツァイは無線機を握り締めたが、強引に冷静さを取り戻した。「我々はまだ4輌!このままルノーを押し潰す!」

 

『隊長、冷静にね』

 

と、マヨルの声が念を押すように言う。

 

タールツァイは努めて冷静に、

 

「はい、先輩」

 

とは言うものの、タールツァイは勝利の執念に突き動かされていた。「絶対に勝つ!負けてたまるか!みんなを全国大会に!」

 

 

 

「この坂を上がりますか?」

 

ルノーの背後に聳え立つ石造りの護岸壁は急傾斜で、豆戦車の出力で這い上がれるか不明だった。

 

「いや、敵がすぐ近くまで来てるかも。顔を出した途端、バン!ゲームセットはしたくないわ」

「ですよね。でもどうします?」

「う~ん、時間が無いわね」

 

萩原と尾鷲が策を話し合っていると、LVTがそろそろと近付いてきた。

 

『ルノーさーん!後ろをご覧くださーい!』

 

福地の通信に振り返ると、LVTの砲塔から顔を出している福地がルノーに向かって笑顔で手を振っている。

 

「デスク!」

『ご乗船くださいませー!』

 

しかし萩原は不安そうに、

 

「・・・沈んだりしませんかね?」

 

因みにルノーの全長が2.8m、全幅が1.74mに対し、LVTの全長が7.95m、全幅が3.25mなので、上に乗る事は出来る。

 

「やった事ないけど、やるしか・・・」

 

尾鷲がそう言い掛けた直後、野島の声が入電する。

 

『奴さんどもがお出ましだぜ』

 

その意味を悟り、尾鷲と萩原は護岸壁を見上げた。

 

 

「いつでも撃てます!」

 

桐山が指示を求めたが、野島は制止する。

 

「待て。外したら装填の隙を狙われる」

 

 

「フラッグ車はこの下ですわよ!一気にやっておしまいですわ!」

 

アンヌがそう息巻くが、タールツァイは慎重に事を進めようとした。

河を挟んでこちらを狙うSU-100はこちらを撃って来ないが、決して弾切れではない。

橋を巡って壮絶な撃ち合いを演じたが、まだ弾丸は残っている筈だ。

 

相手が撃って来ないのは、装填時間の隙を狙われない為なのは明らかである。

フラッグ車のトゥラーンⅢは狙われないよう一歩後ろに立ち、トゥラーンⅡが盾となっていた。

 

「・・・いや、包囲して同時攻撃しよう」

「私も賛成」

 

マヨルがタールツァイの作戦を支持した。

 

「SU-100に気を付けて。ロージャ、あなたは右から。アンヌは左。私とマヨル先輩で、逆落としにルノーを逆八の字に挟んで河に突き落とすわ」

『了解』

『Igenでございます!』

 

ロージャと言う車長が乗る20mmトルディとアンヌが、一端バックして左右に展開する。

 

「準備出来たら教えて。それで一気に勝負をつけるよ」

 

 

「敵が左右に展開!」

 

桐山がじれったそうに貧乏ゆすりする。「攻めてきたらおしまいです!」

 

「分かってる。合図を待て」

 

野島は双眼鏡で相手の動向を監視しながら、対処プランを頭の中で巡らせていた。「ここで最終決戦だな・・・」

 

 

バラトン工業高校戦車道チームが刻一刻と包囲を形成していく様子は観戦モニターにも映っていた。

破滅へのカウントダウンか、それとも・・・

 

「スズネちゃん」

 

不安に押し潰されそうになった土橋が、後ろから塚野の裾を掴んだ。

塚野はちょっと肩越しに振り向いて小さく頷いた。

 

「ノイジーを信じる。それしかないよ」

 

他の隊員達も、固唾をのんで決着に向けた敵味方の準備を見守る。

それは目を背けたくなる試合経過でもあったが、全員が逃げずに、食い入るようにしてその時を待った。

それは学園艦でライブ中継を見ている生徒や一般住人もそうだった。

 

「おう、しっかりやってくれよ?」

 

放送部長の羽佐間でさえ両手を握り締めていた。

 

 

『こちらアンヌ、準備完了!』

『ロージャ、同じく!』

『いつでもどうぞ?』

 

最後にマヨルの報告を聞くと、タールツァイは息を吸い、

 

「突撃!」

 

 

「来ます!」

「用意・・・!」

 

瞬間、SU-100の全員がまるで1体になったかのように空気が引き締まる。

トゥラーンⅢとズリーニィⅡは途中まで真っ直ぐ並走していたが、SU-100をフェイントにかけようと途中で交叉して位置を変えた。

 

それはちょうど、SU-100の主砲の稼働領域の外に出る形だったが・・・

 

「照準調整!」

「よしきた!」

 

安藤が車体を少し左に回し、桐山は落ち着いて砲身を固定する。

狙う場所は決まっていた。

 

 

傾斜を下ったトゥラーンⅡが、最初にルノーの右側から現れる。

 

「逃がさないですわ!」

 

発砲しようとしたアンヌだったが、ルノーの行動に驚愕した。

ルノーはトゥラーンⅡに向き直ると、追い詰められてやけを起こしたかのように向かって来たのである。

 

「え、何ですか一体!?」

 

砲手が焦燥としてアンヌに振り向く。

 

「俯角外です!撃てません!」

「何ですって!?」

 

 

「こっから先は関係者以外立ち入り禁止でーす!」

 

LVTに通せんぼされ、ロージャは苛立った。

 

「撃・・・いやでもどうしよう・・・」

 

ロージャが困惑したのは、LVTを仕留めるのはいいがそんな事をしたら巨大なLVTがそのまま壁となって鎮座してしまうのだ。

その迷いはフロンティア学園側の思う壺だった。

 

 

「くそ!トゥラーンⅡに方向転換!」

 

タールツァイとマヨルは、それぞれがトゥラーンⅡの懐に飛び込んだルノーを追撃しようと左に舵を切ろうとした。

 

 

「撃て!」

 

満を持した野島の号令に、桐山は100mm砲を発射した。

砲弾が飛んで行った先、それは今正に方向転換していたトゥラーンⅢの足元だった。

 

瞬間、トゥラーンⅢの足元が炸裂し、榴弾によって撃ち砕かれた岩石が飛び散ると共にトゥラーンⅢの足場を崩した。

 

「うわわわわわわ!」

 

タールツァイが戸惑う中、トゥラーンⅢは傾斜を横滑りするように滑落し、車体の右半分が河に足を付けた状態で止まった。

 

「隊長車が・・・!」

「構わないで!このままアンヌと一緒に河に沈めるわよ!」

 

一方のズリーニィⅡはそれに構わずルノーを追い、トゥラーンⅡと共にルノーを押し潰そうとしたが・・・

 

「撃てえええええええええええ!!!!!!」

 

両眼を見開いた野島の叫びと共に、決め手の徹甲弾が放たれた。

 

SU-100に対して横腹を晒し、かつ車体の右半分が方向転換に不自由な川底に足を付けていたトゥラーンⅢほど、狙いやすい的は無かった。

 

徹甲弾はトゥラーンⅢの横腹を捕らえ、車体を揺るがした。

 

その衝撃的な光景を見て、トゥラーンⅡとズリーニィⅡ、トルディの動きが止まったが、ルノーはトゥラーンⅡとズリーニィⅡに挟まれて逆立ち状態になっていた。

 

長く息苦しい沈黙の後、トゥラーンⅢから無念の白旗が上がったのであった。

 

『バラトン工業高校、フラッグ車、走行不能。よってフロンティア学園の勝利!』

 

審判のアナウンスが静けさを破り、やっと勝利の現実を認識したフロンティア学園の生徒達の大歓声が上がった。

 

 

 

続く

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