ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター2 疲労

夕食が終わり、暫く会話による交流を楽しんだ後、塚野達は来客用の宿舎に案内され、塚野は野島と土橋と一緒に1つの居室をあてがわれた。

他のメンバー達も、やはり2~3人に一室の割合で居室に案内されている筈である。

 

「あ~、もーくたくた~」

 

二日連続の試合の疲労は、自分で思っていたより体力を消耗していたらしい。

直々に居室へ案内してくれたタールツァイがドアを閉めて立ち去って数秒後には、真っ白なシーツがピンと張られたベッドへ丸太が倒れるように突っ伏したのだった。

 

「おい、壊すんじゃねえぞ」

「ノイジーもソファーの上でだらしねえぞぉ」

 

野島はソファーの上で俯せにだらけているが、右腕がソファーの縁からはみ出て指先がギリギリ床に届かないで宙ぶらりんになっている。

 

「ああ、まるで洗濯物みたいになってるね」

 

苦笑する土橋は、机の上に置いたラップトップコンピューターを開いて自作漫画の続きを描いていた。

 

「ツッチーも早く寝なよぉ」

「うん、1コマでも描き進めておきたいから。それが終わったら寝るよ」

「どーせもう1コマ、もう1コマってなるっしょ?」

「かもね」

「あ~、このままダウンしちゃいそぉ」

 

実際塚野は毛布も被るのも億劫で、疲労に身を委ねるかのようにそのまま目を閉じて規則正しい呼吸を始めた。

 

が、数秒後に何かを思い出したかのように目を開き、

 

「・・・にしても1週間後かぁ・・・」

 

土橋が執筆の手を止めて、

 

「第三試合?」

「うい。相手やばいって話じゃん?」

「エクセルシオール大学附属学院?」

「そ」

「・・・そういやタールツァイも言ってたな」

 

野島が重たそうにソファーから身を起こしていた。「2戦2勝だっけか?」

 

「だね。予選リーグ突破は確実って話だった筈」

「えっと、あれってうちらと同じ戦車道新設校だっけ?」

「数か月早いらしいけどね」

 

そう言いながら土橋はモニターに日本戦車道連盟公式の予選リーグ特集ページを呼び出していた。そこには今日までの予選リーグの結果が表示されており、バラトン工業高校は敗者復活戦への移行が確定しており、青師団高校は第三試合の結果次第らしい。そこにはフロンティア学園戦車道チームの勝ち数も影響するとの事だ。

 

「古参の青師団とかバラトンを立て続けに破るってどんな連中なんだ?」

「戦力が充実しているらしいね。コメットとかクロムウェルを持っているみたい」

 

土橋はサイトに掲載されている試合中の写真を分析していた。

塚野もベッドから下りて土橋の後ろに立ち、ラップトップコンピューターを覗き込む。

 

「おー。あとこれ、スチュアートだっけ?」

「多分M5の方じゃないかな?フロントが斜めでしょ?」

 

軽く触れておくと、スチュアートと呼ばれるアメリカ製の軽戦車(そしてスチュアートは供与先の1つである英国が名付けた愛称だ)にはM3とM5があり、M3は雛壇型の車体デザインで、M5は正面に傾斜装甲が採用された1つの箱型の車体デザインである。

 

もっともM3にはM5のデザインの影響を受けたバリエーションもあるが、それについては割愛する。

 

野島もやって来て、土橋を両側から挟むように立ち、試合中のエクセルシオール大学附属学院チームの画像を見る。

 

「機動力が売りって事か」

「うちらもそうじゃね?」

 

野島が塚野を見返した。

 

「火力はまばらだろ?」

「確かに、向こうはある程度まとまってるよね」

 

野島の意見に土橋が唸りながら同意した。「初めからフラッグ車狙いがいいかな」

 

「そう上手く行ったら苦労しないですよねぇ」

「・・・だよな」

「凄く実感あるね」

 

3人は同時に溜息を吐いた。数秒間の何とも言えない沈黙が流れる。

第一試合と第二試合は、ありとあらゆる教訓を一気に経験したような気がする。

 

塚野が疲労を一緒に吐き出すかのように、

 

「・・・この2日でなーんか随分年を食った感じだねぇ」

「気のせいだよきっと」

 

そう言う土橋も、グリグリと両目を揉み解している

 

「急に勝てるか不安になってきたんですけどぉ」

「おい、隊長がそんな弱気じゃチームの士気に関わるぞ」

「だねぇ」

 

塚野は気持ちを切り替えようと、両手で頬をパンパン叩いた。「とりま寝ますかぁ。HP回復しないと」

 

「ああ。あたしも疲れたぜ」

「私はもうちょっと起きてるね」

「ご自由にぃ」

 

土橋はサイトを閉じて執筆作業を再開した。

 

塚野はベッドに、野島は毛布を持ってきて例のソファーで横になると、2人とも1分も経たないうちに規則正しい寝息を立て始めたのだった。

 

 

 

同じ頃。

 

「さて、最後はフロンティア学園ですね」

 

エクセルシオール大学附属学院戦車道チーム副隊長の真加部ミサは、窓から眼下の運動場を見下ろしている毛利シノブに後ろから声を掛けた。

 

「そうね」

 

毛利は縦横無尽に履帯跡が刻み込まれた運動場をじっと見つめながら言った。日々の練習を思い返しているのだろうか。

 

「村江の奴、電話に出ましたか?」

 

すると毛利は初めて真加部を肩越しに振り返った。

 

「真加部さん、口が悪くなってますよ」

 

真加部は右手を腰に当てた。

 

「通話無視ってあり得ないでしょ。仮にも隊長の元部下でしょうが」

 

毛利はゆっくりと真加部に向き直った。

 

「・・・彼女は中立派よ」

「あんたを裏切って?」

 

あんた呼ばわりした真加部に毛利は少し眉をひそめたが、静かに応じる。

 

「だからって、悪口を言って良い理由にはならないわ」

 

真加部は腕組みすると、顔をやや斜め上に向けて軽く笑った。

 

「隊長は甘いんですよ。だから新戸学園は・・・」

 

毛利は真加部にそれ以上言わせなかった。それまでの静かな口調から打って変わりピシりと鋭い口調で、

 

「やめなさい!」

「おっと失礼」

 

真加部は毛利の命令に従ったが、どこか毛利の反応を楽しんでいるかのようだった。「・・・で、中立派の村江さんは強引に引き抜いてしまえばいいんだわ」

 

「それは予選リーグが終わってからの話よ」

「へ、その間に引き抜いたら面白い事になりそうですよね」

「真加部さん!」

「分かってます、分かってますって。さすがの私もそこまでは・・・やりたいなあ」

「はあ・・・」

「大丈夫ですよ。今は運命共同体。対立していた頃と違うという事は分かってます」

 

毛利は疲れた体を引きずるようにして部屋の一角にあるテーブルに向かった。どちらかと言うと、身体的な疲労というよりは精神的な疲労のようだ。

 

そしてその原因の一端は、真加部副隊長にあるらしい。

 

「・・・じゃあ、編成の見直しを」

「第三試合までまだ1週間ありますが?」

 

が、既に毛利の耳に真加部の意見は届いておらず、机の上の資料に意識を集中させていた。

真加部は首を横に振ると、毛利と机を挟んで向かい合った。

 

「隊長。今必死こいて考えても良いアイデアは浮かびませんよ。もう何日寝てないんですかね?」

 

毛利は机の上の資料から顔を上げた。

 

「時間は有限よ。今日は編成まで確定させておきたいの」

「そんな事より寝た方がいいんじゃないですか?明日でいいでしょ?」

「どこまで私に反対したいの?」

「さっき言いましたよね?『今は運命共同体』だって。隊長に倒れられたら困るんです」

 

真加部が心から自分を気遣って言っているのか、それともあらゆる機会を捉えて反対したがっているのか図りかねたが、淀んだ思考を必死に動かして副隊長の忠告を頭の中で回した。

 

相手がどう考えているにせよ、言っている事は正しい。

 

今の自分に必要なのは、間違いのないところ、休息だ。

 

「・・・分かりました。今日はここまでにしましょう」

「遅すぎるくらいじゃないですかね?」

 

それには返事せず、毛利は電気スタンドのスイッチを切った。

 

 

 

続く

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