ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター3 ルートビアとミミズのフライ(スナックラーメン)

翌日早朝。

バラトン工業高校学園艦が先に出航し、フロンティア学園はその後から出航した。

両艦は左右に航路を取り、別れの汽笛を鳴らし合った。

 

帰艦して塚野達が驚いたのは、校内のみならず一般住人達からも戦車道に注目されている事だった。

 

報道部の刷った号外はすっかり売り尽くされており、廊下や校舎の外を歩いていると、その号外を持った生徒達に話しかけられたり、一緒に撮影してほしいとせがまれたりしたのだった。

 

「これ見てよ」

 

昼休みの食堂。

 

土橋が塚野達にラップトップコンピューターを回すと、モニターには昨日一昨日の試合が校内新聞の一面を飾り、第三試合に向けての興奮と、予選リーグ突破への期待が記事に綴られていた。

 

「デスクったら盛り上げすぎですよこれ・・・」

 

萩原が苦笑しながら言うと、井坂が

 

「こっちも抑えるように言ったんだけどね」

「悪い事じゃないでしょ?」

 

福地がそう言い返した。

 

「大勢がライブ中継見ていたっていうのは本当ですもんね」

 

西中が言った。「おかげで放送部は私達報道部に吸収出来たし」

 

「そーいやそんな話してたっけねぇ」

 

塚野は予選リーグにエントリー直後に流れた放送部の校内ニュースを思い出していた。

 

ニュースでは羽佐間が戦車道チームの成功に懐疑的な視線を面白おかしい内容で喋っていたが、その疑念は晴らされたわけである。

 

ちょうど同じ頃に報道部と放送部が統合される話があり、もしも学内で戦車道が盛り上がれば、放送部は報道部に吸収され、そうでなければ逆の事が起こると言う賭けが行われ、報道部の勝利になったのだった。

 

萩原が言う。

 

「羽佐間さん、ぶうぶう文句言ってましたけど、あの人も約束は守る人です」

「で、実はLVTの乗員にしようと思っているの」

 

と、福地が言った。「さすがに人手不足だから」

 

「1人?」

「ええ、1人。それでも助かるわ」

「1人かぁ」

 

塚野は腕組みして考え込み、また同じセリフを繰り返しながら立ち上がった。「1人かぁ・・・」

 

「おい、どこ行くんだ?」

 

野島が呼び止めると、塚野は振り向いた。

 

「ああ、ノイジーも来て」

 

 

塚野は野島と一緒に、学園敷地の一角で桑田が運営している屋台にいた。

 

「はーい毎度あり!あ、塚野さんと野島さんじゃないですか!うちには初めてですね!」

 

焼きそばパンを売った初坂が、次に並んだ客が塚野だという事に気付いた。

 

「くわっちは?」

「くわっち・・・ああ、桑田さんですか!今ちょっと出かけていまして。すぐ戻って来ると思いますが」

「んじゃあ、それ一個おなしゃす」

 

塚野が積み重ねられた焼きそばパンの1つを指差した、そこへちょうど桑田が戻って来て、

 

「おおこれは隊長と副隊長!」

「はい、焼きそばパン1つ」

 

初坂が値段を言おうとすると、桑田が止めて

 

「隊長割引にさせて貰いますぜ・・・あ、副隊長割引もね」

「あたしも同じもの1つ」

「はい、焼きそばパン1つ毎度あり!」

 

初坂は野島に焼きそばパンを渡しながら、「桑田さん。塚野さんが話があるそうで」

 

「ほう?」

 

会計を済ませると、桑田は2人を屋台の裏に連れて行った。

 

「で、何です?話って」

「うん。折り入って相談があんだけどねぇ」

 

焼きそばパンを包むサランラップを解きながら、塚野がそう切り出すと、桑田は目を丸くした。

 

「このあっしに!?隊長が直々に相談でやすか!?」

「何かいい知恵貰えそうだなって。ほら、この前資金調達策も教えてくれたじゃん?おかげで仮予算でもなんとかやってけてるし」

 

桑田は両手を腰に当てると上半身をちょっと前に傾けて、まるで何か企むかのようにひそひそ声で

 

「するってえと、あれですかい?正式な予算を貰う策でも?」

「あいや、そうじゃなくて。人を増やしたいんだけどさぁ」

 

桑田は姿勢を戻して腕を組んで唸った。

 

「うーん・・・金儲けは得意ですがねえ?人集めはちょいと・・・」

「くわっちに協力して貰えないかなあって」

 

塚野は焼きそばパンを一口頬張った。「このソース手作り?」

 

桑田はにやりとして左掌に右拳を叩き付けた。

 

「勿論です!企業秘密で詳しい事は言えませんが、スパイスと調味料の絶妙な配合で実現してますぜ!」

 

「うん。旨い」

「・・・で話を元に戻すんですが。それって金儲けになりますかい?」

 

もぐもぐしながら塚野はうんうん頷いた。

 

「なるし」

「どんな内容で?」」

 

一口目を飲み込むと、

 

「・・・それにはちょいと時間がいるんだよねぇ」

 

桑田は体を左右に揺らしながら右手を顎に当てる。

 

「ふーむ、なるほど。纏まった時間が欲しいってんでしたら、今夜トランプゲームやりますんでね。1階の多目的室Dまで来て貰えましたら、そこで相談に乗りますぜ」

「そこって教室のある校舎と連絡通路で繋がってるとこ?」

「まさしく」

「けどよ、邪魔にならねえか?他に誰かいんだろ?」

 

野島がそう言うと、桑田は首を横に振った。

 

「ただのお遊びじゃねえんです。いわゆる商談ですな。でも堅苦しいのは嫌いだから、トランプしたり、何かお菓子でも食いながら、ざっくばらんに話をするってわけですわいな」

「何時から?」

「19時ジャスト」

「オッケー。んじゃあノイジーと一緒に行くね」

「おい、勝手に決めんじゃねえ」

 

野島の抗議に、塚野は意外そうに

 

「え、マジ?」

「まず聞いたらどうなんだ」

「行く?」

「あたりめえだろが」

 

塚野が『筋を通した』ところで、桑田が説明を挟む。

 

「お二人に限らず、何人でも歓迎しますぜ・・・ああ、席は多くないんで、多すぎたら立ち見ですがね」

「分かった。んじゃ、19時に」

 

 

そして19時。

桑田の言った1階の多目的室Dの窓からは、確かに照明が漏れていた。

 

近くまで来ると、何やら言い争う声が聞こえる。

 

「…あんたいつか過労死するぜ」

「余計なお世話だ」

 

桑田の声に応えたのは生徒会保安部長の小戸の声だった。

 

一瞬野島と顔を見合わせると、塚野はドアノブを捻って多目的室Dに入った。

 

「ばんはー」

 

桑田の体はちょうどこちらに背中を向けて立っている小戸に隠れていたが、ひょいと体を右に傾けて顔を見せた。

 

「おお、時間通りですね!まあそちらへ」

 

桑田は丸テーブルを囲う何脚かの椅子を指さした。「どうぞお好きな席へ」

 

見ると、奥の方に大川が座っており、グラスに入っているシュワシュワ泡立つ茶色の飲み物を飲んでいた。

 

次に桑田は、小戸にも席を勧めた。

 

「あんたも座りなって」

 

小戸はガードを固めるかのようにゆっくりと腕を組んだ。

 

「断る」

「えーと、なんで小戸さんが?」

 

小戸は肩越しに席に着いた塚野を振り返ると、桑田をひょいと顎でしゃくった。

 

「2回目の質問ですね。こいつを監視する為ですよ」

「監視だなんて大袈裟な!」

 

桑田が叫んだ。

 

「残業代出るんすか?」

 

小戸は軽く笑うと、

 

「フ、それも2回目の質問ですな。答えは、ノーです」

「で、あっしが残業代出してやろうかって言ったらよ、贈賄未遂だと抜かしやがるんだ。ったく人の事なんだと思ってんだ」

 

桑田が口を挟むと、小戸は

 

「それより談合はいいのか?」

「だから談合じゃねえって!おめえもそれ2回目の質問だぞ!えーと・・・」

 

桑田は指折りしながら、「ああ、2回目?3回目?」

 

「フン」

 

桑田は小戸の胸の前に右の人差し指を突き付けて念入りに聞く。

 

「で、本当に座らねえんだな?」

 

小戸は答える代わりに唸り声で応じた。

 

「うーむ」

「へ、そうかい。じゃ、いつでも音を上げてくれたら歓迎するぜ。じゃあほっといて始めようぜ」

 

そう言って桑田も席に座った。

グラスを置いた大川が、

 

「何かお飲みになりますか?」

「んじゃ、コーヒーにクリームで」

「へえ、ブラックじゃねえのな」

 

いつもブラックコーヒーを頼む事を知っている野島がそう言うと、

 

「偶には味変するし」

「ああ、失礼ですがここにコーヒーはありませんので・・・でも今度取り揃えておきましょう。それより、ルートビアはいかがです?」

 

大川はそう言いながら、小型冷蔵庫を開けて、取り出した茶色のルートビアの缶を掲げた。

 

「初めからそのつもりだったろうがよ」

 

桑田の突っ込みに、大川はにんまりと笑いながら、

 

「物は試しと言うではないですか。それにこれも『常に挑戦』ですよ」

「へ、すっかり錆びついた100年前のガラクタスローガンだろうがよ・・・」

 

そこまで言ってから、ハッとした表情で小戸を振り返った。「これ減点案件?」

 

「言論の自由は保証されている」

 

小戸が淡々と静かに答えると、桑田は舌打ちした。

 

「ち、訴えてやろうと思ったのによ」

「ほう?」

 

小戸が首を傾げると、桑田は慌てて

 

「取り消す」

「強情張ってくれたら減点してやったのに」

 

塚野は、なかなか話が始まらないのに痺れを切らした。

 

「ええと・・・」

 

桑田も頷きながら人差し指を立てた。

 

「そうそう。人手不足解消策っすね。あっしに出来る事がありゃ・・・勿論サービスさせて頂きますとも!無料相談サービスってやつですな!」

「塚野隊長、野島副隊長。どうぞ」

 

大川がうやうやしく2本のルートビア入りグラスを差し出した。

塚野はグラスを取って鼻に近付けて軽く臭いをかぐと、驚いて顔を引っ込めた。

 

「ナニコレ、包帯?サロンパス?」

「まあまあとにかく。まずは飲んでみて下さいよ。これが癖になるんですよ」

 

大川に促されるまま、塚野は疑わし気にグラスを傾けてシュワシュワの茶色い液体を一口含んだ。

 

「あっま・・・それから、包帯・・・」

「おお、こいつは・・・ハハ・・・」

 

野島も口の端を歪めているではないか。

 

「ノイジー大丈夫?」

「てめえこそどうなんだよ」

「意外と好きかも」

 

言うなり塚野はグラスのルートビアを一気に飲み干した「おかわり」

 

「マジか」

「まあまあ、副隊長もまんざらではなさそうですよ?」

 

大川は塚野からグラスを受け取ると、その入れ替わりに麺のスナック菓子が山盛りの黒い深皿を差し出した。「ミミズのフライです」

 

野島が椅子から飛び上がらんばかりに驚いた。

 

「あ!?」

「冗談ですよ副隊長。只のスナックラーメンです・・・チキン味のね」

「ノイジーって意外と乙女よねぇ」

「うるせえな」

「で、相談ってのが」

 

ようやっと塚野の相談が始まった。「体験乗車ってのを考えてんだけどさぁ」

 

「是非聞かせて下さいよ」

 

桑田がトランプカードを手際良く配って行き、1周目が終わると小戸を見た。「あんたもどう?」

 

無言の小戸に、桑田は溜息を吐いた。

 

「堅物なんだよあんたは」

 

そしてカード配り2周目に入った。「何を楽しみに生きてるか分からねえ」

 

 

 

続く

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