ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター2 呼び出し

 生徒会室へ行くと、生徒会員の1人が受話器を取り、内線で生徒会長室に塚野が来た事を知らせた。

 

「会長室へどうぞ」

 

 取次ぎをした生徒会員に促されるまま、塚野は生徒会長室の扉を押し開いた。

 

「ちーっす」

 

 生徒会長室では、3年生で生徒会長の国崎マイと、同じく3年生で副会長の佐伯ユキネが何かを話し合っていたが、塚野が入室すると話を中断した。

 脇に退がった佐伯が敵意のこもった鋭い視線を塚野に向ける。

 国崎は1枚の書類を、尚も数秒間眺めていたが、不意に塚野の方に顔を上げ、書類を下ろした。

 

「小高先生から聞きました」

 

 そう切り出され、塚野は小高先生が誰だったか思い出そうとして、さっきの緊急特別追試の担当だった事に思い当たった。

 その時、国崎は眺めていた書類を突き出した。

 中身は緊急特別追試の答案用紙で、塚野の名前が右上に書かれている事から、紛れも無くさっきまで塚野が悶々としていた答案用紙だった。

 

 そして点数は…彼女の名誉の為に控えておこう。

 

「あ、あぁ、それっすか…」

「…舐めてるの?」

 

 佐伯の口調は刺すような冷たさだった。

 普通の人間ならば金縛りに合うところだが、なんと塚野は図太くもへらへら笑いながら頭を掻いて見せた。

 

「いやさぁ、全然分かんなかったんだよねぇ。完全お手上げ状態」

 

 だが、直後に国崎から返って来た言葉に、さすがの塚野も固まった。

 

「退学です」

 

 国崎はあくまでポーカーフェイスだが、佐伯とは違う別の冷たさがあった。「ゲームセット、ですよ」

 

「ふえ…?」

 

 塚野は理解が追い付いていないような声を上げたが、その実、いきなり首元にナイフを突きつけられたかのような衝撃を受けていた。

 

「塚野さん。3月の末に言った事、忘れていないですよね?フロンティア学園は2度目の留年は認めない、もし今度も成績不振なら、退学になる決まりだ…と言った事を…」

「え、あぁ、そうだった、かなぁ…?」

 

 とぼけてはみたが、本当は覚えていた。

 聞いたその時はただの脅しだろうと、ロクに校則を確かめもせずにスルーしていたのだが、まさか本当にそういうルールだとは思ってもみなかったのである。

 

 とは言え、食い下がってみる。

 死中に活を求めるのだ。

 

「あ、でもさ。2学期から頑張ったらいいじゃ…」

 

 しかし最後まで言い終わらないうちに、国崎の冷徹な言葉が遮る。

 

「もう手遅れです塚野さん。あなたは今年の1学期の成績で、もう退学回避限界点を越えてしまいました。残りの期間を、たとえ全科目100点満点を取ったとしても挽回出来ないレベルです」

「え、どゆこと…?」

「何の為に緊急特別追試やったって思ってるのよ?」

 

 苛ついた佐伯が、床を右足でトントン叩き始めた。「全然分かってないわね」

 

 その後を国崎が引き取る。

 

「…あれが、成績を挽回するラストチャンスだったのです」

「そ、そーなんだ…」

「…ふざけてるの…?」

 

 佐伯の体が前のめりになり、今にも塚野に殴りかかりそうだ。

 

「佐伯さん、もういいです」

 

 国崎に止められて、佐伯は素直に姿勢を正した。

 

「はい会長」

 

 国崎は再び塚野を見て話の続きをする。

 

「本当ならこの場で退学処分といったところですが…とは言え、何とかならないか考えてみました。そして、まだ何とかする方法があります」

 

 塚野は思わず興味をそそられた。

 

「へぇ…なんすか?」

「残りの期間の学業を頑張りつつ、『トライポイント』を稼げば、進級条件を満たす成績点を取れるかもしれません」

「とらいぽいんと…?」

「何かに挑戦する事…部活でも、個人的な活動でも何でも…とにかく挑戦する内容や、その結果次第ですが、それが評価点として成績に加算されます」

 

 塚野にも、入学時に説明を受けた記憶がうっすら残っていた。

 

 このフロンティア学園では、何かに挑戦する事を事前に生徒会か担任教師に表明していれば、その挑戦活動の結果を成績点に加算してくれるという特殊な成績評価システムが取り入れられている。

 また、自分が挑戦した内容が、場合によっては進学希望先への推薦状にも成り得るのだ。

 基本的に違法だったりモラルに反していたり無謀過ぎたりしなければ、どのような挑戦内容でも認められるようになっているが、決して全生徒に強要されるわけではなく、任意で決める事が出来る。

 

 もっとも余程の理由が無い限り、学業と両立出来ていなければ、それはそれで問題視されてしまうが。

 

「あー、なんか聞いた事あっかな」

 

 国崎の説明が続く。

 

「もし明日の午前8時40分までに、挑戦内容が決められたら、退学処分は取り下げましょう。もし断るのであれば、それでも結構です」

「え、何それ。なんでそんな回りくどい事するわけ?退学させる気なら、ズバッと退学処分にしたらいいじゃん」

「…その後はどうするのですか?」

「さあ。どっかに転校すりゃそれで済む話っしょ」

 

 国崎が呆れたような、憐れむような、あるいは両方の気持ちを合わせたような溜息を吐いたので、塚野は困惑した。

 

「な…なんすか?」

「塚野さん。今のあなたの偏差値では、低レベル校しか行けませんよ」

「いや、低レベルっつってもたかが知れてるっしょ」

「疑うのは自由ですが、あとで後悔しますよ。それはそれは酷い所だそうです。それでもいいなら止めませんが」

「う…」

 

 これには塚野も、身の振り方を再考せざるを得ない。

 塚野とて、将来は辛く苦しい人生を送りたいと思っているわけではないし、フロンティア学園に入学したのも、色々事情こそあれ、自分の将来を考えての事だ。

 

 …が、今の状況は控えめに言っても『最悪』である。

 

 考え込んだ塚野に、佐伯が煽りを入れる。

 

「『下手な考え休むに似たり』って言うし、さっさと転校しちゃえば?」

「佐伯さん…!」

 

 さっき止めた時より少し強い口調で国崎が言った。「他人を貶める事が生徒会の役割じゃありません」

 

「…すみません、会長」

 

 佐伯は素直に謝ったが、表情は釈然としておらず、その後の質問も、言葉選びに苦労していた。「ただ…でも、本当にいいんですか?こんな…生徒」

 

「決めるのは本人です」

 

 塚野は拳を握った。

 こうなれば答えは1つだ。

 

「…ちっ、分かったよ。やりゃあいいんよね、やりゃあ」

 

 国崎が塚野の眼を覗き込むように確認する。

 

「では、明日の8時40分までに答えを出す、という事でいいですね?」

 

 塚野はうんうんと頷きながら佐伯に指を突き付けた。

 

「あたぼうよ。それにこいつの言う事がいちいちむかつくしさぁ」

「ふーん。まあ、無理しないでね」

 

 佐伯の冷笑に、塚野は睨み返した。

 

「てめぇ、まじで見てろよな」

「あ、それはそうと…」と、国崎が言った。「私も佐伯さんも、一応3年生です。敬語で話すのがマナーですよ」

「あ…これでいいっす…ですか?」

「はい。他に質問は?」

「無いっです」

 

  

 

「あーもーおんぼろエレベーターが。階段の方が早くね?」

 

 実際のろいエレベーターに無意味に当たり散らしながら外に出ると、野島と土橋がベンチに座って待っていた。

 

「あ、どうだった?」 

 

 真っ先に立ち上がった土橋が言った。

 歩きながら生徒会から聞いた話を2人に聞かせると、野島が考え込むように腕組みした。

 

「ふーん、なるほど。で、どうするんだ?」

「考えなう」

「あのさ、時間無い事分かってんのか?」

「まあまあカエデちゃん。いきなり決まるものではないし…」

 

 土橋が苦笑しながらそう言ったが、野島の表情は硬いままだ。

 

「…ったく。マジで明日までに答え出せよ」

「はいはい、分かってるって」

「分かってねえ面してっから言ってんだぞ」

 

 また野島がヒートアップしそうになった為、土橋が話題を振る。

 

「あ、そうだ。スズやんさ、良かったら漫画部に入らない?」

 

 しかしこの土橋の提案は速攻で却下された。

 

「あ、いや、うち絵心死んでるから却下っすわ」

「えー。何かオリジナル漫画描いて売り出したらいいのに。普通に成績点になるよ、実際にあったし」

「あたし棒人間しか書けねぇんだわ」

「うーん…頑張ったら書けると思うんだけど」

「無理なもんは無理だっつーの」

 

 結局その場では何も決まらないまま、3人は分かれた。

 

 

 

 続く

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