ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター5 接触

しかし寄港先から試合場まで自走という強行軍は回避された。

 

翌日の夜、塚野達は貨物列車に便乗していた。

寄港先の最寄り駅から乗り込み、台車には戦車も一緒に積載されて小刻みに揺られている。

メンバーは明日も参加者募集を行う安藤ら数名を除いた全員が乗り込んでいる。

 

「うーん、これは旨いわねホントに」

 

客車で村江の先輩の宮口恵良が頬張っているのは桑田特製の焼きそばパンだった。

因みに村江は所用で隣の客車に行っておりこの場にいない。

 

「あのー。本当にお代は結構なんですが・・・」

 

遠慮がちにそう言うのは佐伯だ。

小戸は戦車道メンバーではないので乗車しておらず、桑田の監視を佐伯に任せていたのだったが、早速桑田は宮口に焼きそばパンやらなんやらを売り込んだのだった。

 

それを見つけた佐伯は現行犯で取り押さえようとしたのだったが、意外にも宮口は買ってくれたのである。

これは桑田が焼きそばパンの実物を交えて宣伝した事で、特製ソースの香りが宮口の胃袋を刺激したからだった。

 

もっとも、宮口にとっても桑田の売り込みは渡りに船だったらしい。

 

「今日は忙しくてお昼抜いちゃってて・・・ああ、あなた達のせいじゃないからね?」

「いや、本当に助かりました!有難うございます!

 

頭を下げる塚野の髪を宮口はわしゃわしゃとかき混ぜた。

 

「もうそうなんべんも要らないって」

 

そうは言われても、宮口には頭が上がらない。

 

村江から相談された宮口は、ちょうど戦車や関連物資や人員の移動を行う貨物列車が試合場の近くを通るという事で、空いているスペースをフロンティア学園チームの戦車用に急遽割り当ててくれたのだ。

 

・・・と言っても、フロンティア学園の戦力は6輌である。そう都合よく台数分の空きがあろう筈が無い。

 

聞けば、やはり今すぐ必要ではない貨物を幾らか下ろしてスペースを確保してくれたと言う。加えて塚野達チーム全員の便乗も許可してくれるという気前の良さだ。

 

「でもなんかそのお、二度手間を取らせてしまったってゆーかなんてゆーか・・・」

「後から運ぶ荷物はまだあるし、いいのいいの」

 

頭を掻く塚野に、宮口は笑ってウィンクしながらサムズアップして見せた。

 

宮口は競技用戦車の試験評価チームの隊長を務めており、現在の勤務地から埋立地の再利用事業で新たに建設された戦車道訓練施設に移動するところであった。

 

この試験評価チームは少数生産の戦車、あるいは試作だけの戦車、もしくはレオパルトのように試作途中で終わった戦車といったレアものを取り扱っており、それらを競技用戦車として蘇らせるべく試験運用を繰り返しているのである。

 

実際、列車に乗り込む時に塚野達は台車に積載された珍しげな見た目の戦車を目撃していた。

気になって仕方がない様子の土橋がふにゃふにゃと手を挙げる。

 

「あ、そう言えば宮口さん」

「ん、何?」

「見間違いじゃなければ、運んでるのはその、クーゲルブリッツだったりします?」

 

宮口は「ヒューッ」と口笛を吹くと、

 

「あら、よく知ってるじゃない」

 

ここで変な方向に話を進め始めたのが桑田だった。

 

「なんだいそりゃあ?ボールペン?」

「ちげえわ。クーゲルシュライバーだぜそれ」

 

野島のツッコミに塚野が感心したように

 

「へー、ノイジー博識じゃん?」

「そんでよ。ボールペンが戦車だなんて聞いた事あるか?」

 

まだボールペンだと思い込んでいる桑田に、宮口が簡単に説明する。

 

「クーゲルブリッツ。ドイツが戦中末期に開発した試作対空戦車よ。ボールペンじゃないから、そこんところ宜しく」

「ああ・・・で、ボールペンはなんつったっけ?」

 

桑田に尋ねられた野島は、口をへの字に曲げながら

 

「クーゲルシュライバー」

「ええ、それで・・・戦車が・・・」

「クーゲルブリッツ」

「ややこしいなおい!」

「ええと、確か・・・」

 

まだ首を捻っている桑田をよそに、土橋が顎に手を当てて俯き加減になりながら、ラップトップコンピューターから得た知識を必死に掘り起こす。「数台だけ完成したとかしないとかって聞いてますが」

 

「んー、まあ実際の台数は不明だけどね」

 

宮口はそう答えた。「うちは2台持ってるけど」

 

「2台も!それって凄くないですか!?」

 

クーゲルブリッツが完成したのは試作含め10輌未満とされる。

Ⅳ号戦車の車体に30mm連装高射機関砲付きのボール型の専用砲塔を搭載したこのレア中のレアの対空戦車を、宮口率いる試験評価チームは2輌も所有していたのである。

 

野島がどこか不思議そうに、

 

「つーかよく知ってたな。マニアックじゃねーのか?」

「色々調べてたら沼にハマっちゃって」

 

土橋は背中のリュックに入っているラップトップコンピューターをトントン叩いた。

 

一方、宮口は桑田に

 

「これ、あるだけ持って来てくれる?」

 

と特製焼きそばパンを追加注文していた。

よほど気に入ったらしい。

 

 

その頃、村江は隣の客車の一室の中を行ったり来たりしていた。

右手には電源が入ったままの携帯電話が握られており、画面に映っていたのは通話履歴で、最新は毛利の名前があったが、ほんの5分前まで通話していたようだ。

 

その時、背後のドアがノックされ、村江は足を止めて携帯電話をパタンと閉じた。

 

「今いいかしら、ブルーアイズ?」

 

宮口は村江の事をそう呼んで可愛がっていた(かなり前にも説明したが、日本とイタリアのハーフの村江は碧眼である)。

 

「はい。どうぞ」

 

宮口は後ろ手でドアを閉めると、腕組みしながら横の壁によりかかって村江の背中を見つめた。

村江の携帯電話を顎でひょいとしゃくりながら、

 

「・・・毛利隊長?」

 

村江の背筋が静かにゆっくりと伸びる。

ゆっくりと息を吸うと、

 

「・・・はい」

「何て?」

「スカウトです。私にエクセルシオへ来ないかと」

「ほう?」

「勿論断りました。私の居場所はここです」

「その割に・・・浮かない顔してるね?」

 

振り向いてもいないのに、宮口は村江の今の表情を言い当てた。

実際、振り向いた村江の表情に陰りが差している。

 

「一応、元仲間ですから」

 

宮口は首を少し傾げながら村江の碧眼を覗き込む。

 

「・・・会うのね?」

「はい。今一度、話をつけておきたくて。お互い、別々の道を選んだのですから」

 

宮口は右手の立てた親指を背後に振った。

 

「それ、みんなには話すの?」

「いいえ。特に試合に影響は無いですから」

「・・・だといいけどね」

「宮口先輩は・・・みんなに話せと?」

「そうは言ってないわ。けど、踏ん切り付けられてないなら、それがあなたの足を引っ張るわよ」

「未練はありません」

 

宮口は言葉を選びながら言う。

 

「それは、勿論分かってる・・・私は、あなたのやった事、賛成よ。でも苦しかったと思う」

 

村江は俯いてそのまま沈黙した。

唇が震え、息が苦しそうだ。

 

「私は・・・今でも・・・迷って、ます・・・」

 

それが宮口の言う、村江の付けられていない『踏ん切り』だった。

判断は正しかったと思っているが、同時に彼女の心にしこりを残していた。

もっともそれをフロンティア学園のメンバーに話すつもりは無い。あくまでこれは、自分と元仲間の問題に過ぎないのだから。

 

ただ、その迷いが試合に悪影響を及ぼすとしたら問題だ。

 

「おいで」

 

宮口は村江を抱き寄せた。

村江は必死に感情の迸りを抑えようと下唇を噛み締めていた。

 

 

その夜遅く。

 

一行は学園艦に先行する形で試合会場に到着した。

 

「ひぇ~、なんとか間に合ったぁ」

「冷や汗もんだったな」

 

手続きを終え、力が抜けてフラフラの塚野の尻をつねってシャンとさせながら野島が頷く。

 

「学園艦は明日の今頃だっけ?」

 

学園艦の到着予定は今からおおよそ丸一日経過してからである。

今回は運よくチームを先行させる事が出来たが、次も都合良く行く保証は全く無い。

 

根本的に解決するには、学園艦の速度性能を回復させるか、新たな学園艦を手に入れるか、あるいは現状維持しつつ航行スケジュールを調整するか、チームの陸送手段を事前に確立しておく・・・といったところだろう。

 

だが、フロンティア学園は戦車道に力を入れているわけではないし、そもそも今年2学期から誕生したばかりの『この高校では』歴史の浅い履修科目である。

 

言ってみれば、たかがぽっと出の戦車道チームの都合で、学園艦の航行スケジュールに影響を及ぼす事など出来るわけがない。

 

が、何はともあれ今回は間に合った。

まずはそれが重要だった。

 

「とりま、今日はもう遅いから寝ましょ寝ましょ」

 

欠伸する土橋の瞼は半ば閉じられている。

 

「朝一で戦車を動かさねえとな」

「やば、雨降って来たし。シェルターシェルター」

 

街灯に照らされたコンクリートの地面を、雨の斑点が塗り潰し始めていた。

 

 

密かに一行から離れていた村江も、雨に気付いて雨雲に覆われた空を見上げた。

雨具は持っていないが、気にする様子は無かった。

それよりも、気持ちは別の事を連想しているようである。

 

「あの時と、同じ・・・」

 

小さく、微かに震える声でそう呟いた直後。

 

「カルラ、久しぶり」

 

その声に、村江は我に返った。

 

「・・・毛利隊長」

 

 

続く

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