ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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チャプター6 スカウト

その当時は2年生だった。

村江カルラは雨に打たれるに任せて立ち尽くしており、顎先に集まった雨水の滴が1本の水の線となって滴り落ちていた。

その日の新戸学園は雨だった。

 

 

物陰から歩み出て来たもう1つの人影に気付いた村江の表情が強張る。

雨は次第に強く、そして粒が大きくなりつつあった。

 

「あれ~?一体どうしちゃったわけ?」

 

ポケットに両手を突っ込んで歩きながら、エクセルシオール大学附属学院戦車道チーム副隊長の真加部ミサは挑発するように村江を茶化した。「まさか後悔してるんじゃないわよね?」

 

「言ったこと忘れたの?」

 

隊長の毛利シノブは肩越しにひと睨みするが、真加部は特に悪びれる様子もなく肩を竦めて毛利の横に並んだ。

 

とは言え、それ以上は口をつぐんだので、

 

「ひとまず、雨宿りね」

「フン」

 

真加部が鼻を鳴らして近くの建物に顎をしゃくって歩き出した。

 

3人は少し濡れてしまったが、近くの建物の外壁に沿うように設けられていたコンクリート製の庇の下に雨を避けた。

 

毛利は村江と真加部の間に立っていた。まるで自分の副隊長が何かしでかさないか警戒しているかのように。

 

村江は雨をぼんやりと眺めながら、今からでも立ち去ろうか考えていると、毛利が静かに口を開いた。

 

「真加部さんと、またやり直す事にしたのよ」

 

その真加部は壁にもたれかかっていて、ポケットから取り出した銀色の爪やすりで爪の先端を磨きだしていた。

 

村江は聞き返した。まるで信じられないというような表情で。

 

「・・・やり直す?」

「そう。今更だけど、あなたの忠告を、もっと真剣に聞くべきだったと思ってる」

 

雨脚が強くなり、地面に落ちて弾けた雨粒の飛沫が足元に降り掛かって来た。

 

村江は言葉を探して顎を斜めに引いたが、口は鍵を閉ざしていた。きっと理性が彼女に待ったをかけたのだろう。今口を開けば、恐らくロクでもないセリフが口を突いて出たかもしれない。

 

村江が黙っていると、真加部が再び口を開いたが、先程の挑発的で茶化す口調とは違い、今度は刺すように冷たかった。

 

「雨はお嫌い?」

 

そう言ってから、爪の先端に積もった削り屑を「フーッ」と吹き払う。「あの時もこれくらい強かったっけ?」

 

すかさず毛利が低く鋭い声で、

 

「いい加減にして」

「へいへい」

 

村江の唇と左頬が一瞬ひくついたが、自制心を働かせた。今は過去の思い出に花を咲かせている時ではない。

 

「・・・それで、お話とは?」

「電話でも話したけど、あなたのスカウトよ。また一緒に、私達とやっていかない?」

 

村江は真加部にちらりと目線を動かしたが、それが全てを物語っていた。

 

毛利も素早く言葉を継ぐ。

 

「時間が解決するわ。今は・・・ぎこちないけど」

「なんでしつこく誘うんです?」

「1か月以内に、新型学園艦を手に入れるトライアル戦がある。あなたにも加わって欲しいの」

 

その事なら村江も知っていた。既に学園艦があるフロンティア学園にとっては無関係なので特に調べていないが(因みに塚野達も、バラトン工業高校との試合前夜に福地からこの話を聞いている事を、改めてここで述べておく)。

 

「学園艦が無いのですか?」

「今は大学の学園艦に居候させて貰ってるけど、来年独立するわ」

「待っていても学園艦は回して貰えますよね?なんでわざわざ?」

「それがどうも・・・狭くて。新型艦なら問題無いわ。大学にずっと居座るわけにもいかないわ。今は色々不便なのよ。だから絶対に勝ちたい」

 

(まあ、そんなの知った事じゃないんだけれど)と出かけた言葉を村江は飲み下し、代わりに疑問を口にした。

 

「人材なら十分では?予選リーグは余裕そうですし」

「よく知った人間が必要なの」

 

なるほど理由は一応分かった。フロンティア学園よりは長いが、それでも設立したてのエクセルシオール大学附属学院の戦車道チームをよりスムーズに動かす事が目的なら、ある程度頷ける。

 

それにもし、来年の全国大会の切符を手にした上、自力で学園艦をゲットした高校となれば拍も付いて非常に魅力的だ。

間違いなく人が入って来るし、そこから後を託せる人材と巡り合うチャンスにも恵まれるだろう。

 

だが、それは村江にとって興味の外だった。

 

「毛利さん」

「何?」

 

村江は、元隊長にして元友人の目線を真正面から見据えながら言った。いや、今でも友人だと思う。

 

そうでなければ、こうして顔を合わせていない筈だ。

 

「私は、フロンティア学園でやっていくと決めました。折角のスカウトですが、お断りします」

「じゃあ、どうして来たの?」

「今一度、念押ししておきたかったからです」

 

村江は特にこのセリフを強調して言った。

 

「考え直して貰えないかしら?予選リーグが終わってからでも良いし、なんなら短期転校という手も・・・」

「お断りします」

 

決意の硬さを見て取った毛利は一瞬黙ったが、

 

「もう1つ聞かせて」

「何ですか?」

「どうしてまた戦車道に戻る気になったの?あの時のあなたは心が折れていた」

「しかも、今年の二学期から始まったばっかの、初心者もいいところの高校でね?」

 

真加部の余計な補足に毛利は溜息を吐いたが、今度は何も言わなかった。

 

村江は一瞬、彼女の表情に疲労や悲しみ、後悔がよぎるのを見たような気がした。過去を悔やみ、今も引きずっている元隊長の苦しみを。

 

だが、村江は断固として答えた。

 

「あの子達に、伸びてほしいから」

「と言うと?」

 

毛利は気を取り直したようで、表情は平静に戻っていた。

 

「確かに、二度と戦車道に関わるまいと思っていました。でも、あの子達と出会って・・・出会ってまだちょっとですが・・・私と同じ道を辿って欲しくない。それなら、彼女達に力を貸すべきだって、もう一人の私が言ったのです。だから私は、フロンティア学園に決めたのです」

 

経験者でありながら、敢えて隊長にならなかった村江の真意はそこにあった。塚野達が最終的に自立を掴み取って欲しかったから。

 

真加部が舌打ちした。

 

「けっ、転校先が潰れてなきゃね。文科省万歳」

 

村江にしてみれば交渉打ち切りの良い合図で、その意味では真加部に感謝した。

 

「どのみち歓迎されなさそうですし、私はこれで」

 

せめてもの礼儀と、頭を下げて立ち去ろうとした時、毛利が呼び止めた。

 

「村江さん」

 

スカウトを粘ろうとしているわけではなさそうだったので、村江は振り向いた。

 

毛利は小さく頷くと、

 

「試合、お互いに頑張りましょう」

「はい。では当日に」

 

村江も頷き返すと、左手を傘に少し弱まった雨の中を走って行った。

 

村江の背中が闇の中に消えると、毛利は落胆したように肩を落とした。

 

「叩き潰してやるまでね」

 

と、後ろで真加部が呟いた。「試合だから遠慮要らないわよね、隊長?」

 

毛利は振り返らずに答えた。既に彼女はエクセルシオール大学附属学院チームの隊長モードに戻っている。

 

「分かっているわ。試合は試合」

 

 

 

続く

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