ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

62 / 62
チャプター7 回想

雨は明け方までには上がっており、雲は残っているが空は晴れていた。

 

塚野達はまだ睡眠モードの体に気合を入れて起床すると、屋外に駐車させていた戦車を急いで格納庫に収容した。

明日の試合に備えて、整備や調整で大忙しになるだろう。学園艦に残っていた安藤と中村は日中に学園艦のヘリコプターでここに来る予定だ。

 

戦車を収容した後は桑田が握ったおにぎりの朝食を済ませ、それから塚野と野島は勿論、車長クラスは作戦会議に入ったが、最初に村江がみんなに伝えたい事があると言った。

 

「え、元仲間?」

「初耳だぜ」

「ごめんなさい。試合直前まで黙っていて・・・」

 

村江は第3試合の相手のエクセルシオール大学附属学院チームの毛利隊長と真加部副隊長が、新戸学園在学時代の村江と一緒の戦車道チームメンバーだった事を明かしたのだ。

 

「でも、黙っておくことも出来た筈なのに、どうしてですか?」

 

そう聞く土橋の指は、ラップトップのキーボードの上で静止している。それほど村江の告白は大きな驚きだったのである。

有名校や歴史ある高校ならいざ知らず、まだ出て来たばかりでフロンティア学園と同じく無名のエクセルシオールの情報は非常に少ない。

無名であればメディアの関心もゼロに近いほど低い。

 

「・・・どうしても、心のつっかえが取れなくて」

 

普段の村江にしては冷静さを欠いているというか、どうも歯切れが悪い。「でもみんなに話したところで・・・切り出しておいてあれだけれど・・・」

 

村江は躊躇うが、何か心の奥で自責の念を抱え込んでいる事を感じ取った塚野が背中を押した。

 

「いいじゃん。話聞くよ?」

「おめえ軽いなおい」

 

野島が塚野を肘で小突いたが、どうやら今の村江にとってはそれが良かったらしい。

 

「・・・ありがとう、隊長」

 

話す前に村江はちょっと俯き加減になった。

一瞬開きかけた口がまた閉じ、それから尚2秒程の沈黙が流れたが、意を決したように息を吸い、顔を上げる。

 

「私、裏切者なの」

 

まさかの単語にある者は隣と顔を見合わせ、ある者は少しざわめくが、塚野が代表して尋ねる。

 

「どゆこと?てか、なんの?」

 

村江は視線だけ動かして塚野を見た。

 

「真加部がクーデターを起こそうとしていたの」

 

裏切者にクーデターと、およそ高校生活には似つかわしくない単語が相次ぐ。

 

「クーデター?どういう事ですか?」

 

首を傾げて聞き返す大地。

村江は言葉を継いでいく。

 

「・・・私が新戸学園の2年生だった時よ」

 

 

ある日、毛利隊長(新戸学園でも彼女は戦車道チームの隊長だった)は生徒会長室へ急に呼び出された。

 

『そういう事で宜しく』

 

生徒会長は毛利隊長にそう冷たく言い放つと、机の上に1枚のA4書類を放り出した。

 

毛利がチームへ持ち帰ったその書類の文面には、戦車道への予算凍結の旨が記されていたのだった。

村江は今でも覚えているが、頭の理解が追い付かず何度もその文章を読み直して、遂には茫然と立ち尽くして暫くその場を動けなかった。

 

仲間達も反応がまちまちだった。村江のように言葉もなく立ち尽くしている者、隣の仲間とこの先どうすればいいのかと言う話、毛利に真偽を問い質す者。

 

『この話は本当よ』

『そんな・・・』

 

唇を震わせ始めた隊員の横で、真加部が捲し立てた。自分含めて、チームのモチベーションを保とうとしたのだろう。

 

『・・・よくスゴスゴ引き下がって来ましたね!隊長の戦車道への思いってその程度ですか!?』

 

そのきつい口調には村江も反応した。隊長であり親友でもある毛利が攻撃されるのを、黙って見ているわけにはいかなかった。

 

『副隊長!』

 

村江は真加部の元に駆け寄った。

相手は副隊長なので、あくまで下手に出るよう気を付けたが、

 

『隊長を責めないで下さい』

 

真加部はぎろりと村江を睨みつけた。

 

『あんた悠長ね。チームが置かれている状況を分かってないようね?』

『私が言いたいのは、毛利隊長がすんなり受け入れる筈がない、という事です』

 

真加部に反論する暇を与えないように、すぐ毛利に顔を向け、『ですよね、隊長?』

 

チームが毛利に注目する。彼女は頷いた。

 

『ええ。それに「はいそうですか」と言って出て来たわけではありません』

 

それにすかさず真加部が激しい口調で、

 

『それなら今から全員でカチコミに行きましょう!この手で撤回させてやる!』

『待って下さい、真加部さん』

『隊長!』

『落ち着いて下さい。交渉の余地はある筈です。なんとか元に戻して貰うか、幾らかでも予算を回して貰えるように粘り強く話し合いをするべきです』

『連中はこっちと話し合いを試みましたっけ?いきなりですよね、その書類。つまり話は通じないって事では?』

 

真加部は皮肉交じりにそう言った。

そして実際、生徒会は初めから毛利達と話し合うつもりが無かった。

 

理由は、予算を多く貰っていながら全く成果を上げられていないから・・・というのが生徒会の主張だった。

戦車道に予算を多く割かれている現状に不満を抱いていた他の部活動・・・特に体育系の部活動の生徒が生徒会トップに君臨した結果、その不満を予算配分の見直しという形で戦車道にぶつけてきたのだった。

 

生徒会トップの座が前任から引き継がれてすぐに実行されなかったのは、ある程度の根回しが必要だからだった。

 

戦車道は部活動ではなく、選択制履修科目である。つまり学校が設置を決めた事だ。幾ら学校運営に決定権を持つ生徒会と言えど、スイッチを切るようにはいかなかった。それで、その為のレールを密かに敷いて来たのであった。

 

その代わり、戦車道チームとはこれっぽっちも話し合わず、不意討ちの形で予算の即時凍結を実行したのだった。

 

 

「そんな、あんまりじゃないですか!」

 

大地が思わず叫んだ。少なくとも彼女の所属校では戦車道を潰すような動きは無かった。ただ悔やまれるのが、成果が出る前に文科省が廃校を決定したからだが、ある意味諦めがつく。

 

しかしこれは違う。初めから潰すつもりだったのだ。どんな理由があるにせよ。

 

野島も唖然として

 

「嘘だろおい・・・」

 

と呟き、塚野も当時の新戸学園生徒会の言い分に面喰いながら

 

「マジであり得ない・・・」

「ともかく、交渉はしたわ。私も毛利隊長に同行した。でもダメだった。しまいには門前払い。多分居留守もあったと思う。それでも諦めずに交渉しようとしたけれど・・・時間だけが過ぎて行ったわ。予算が入らないから、練習や整備は満足に出来なくて、すぐに稼働率が下がったわ。私達の練度も。チームは交渉派とクーデター派に分裂した。私はどちらにも加わらなかったけれど・・・」

 

瞬間、塚野の脳裏で1つの事が繋がった。

 

「あ、そのクーデターって・・・」

 

村江は頷いた。

 

「真加部副隊長が、クーデターで生徒会を乗っ取ろうとしたの。戦車を使って」

 

その場の空気が一気に張り詰めた。

武力行使が画策されたのだから、落ち着いていられるわけがない。

 

「本当にクーデターが・・・?」

 

車長では無いが生徒会副会長として出席していた佐伯が聞くと、塚野が言った。

 

「多分、村江参謀が止めたんだと思う」

 

ハッとして塚野を振り返る佐伯。

 

「・・・え!?」

 

村江は静かに首肯した。

 

「ええ。私が止めた。偶然クーデターの決行日が聞こえたの。毛利隊長に知らせたけれど、決行日に説得すると言われて、それまで待つように言われたけれど、副隊長の気質を考えたら押し切られると思った。それで・・・」

 

 

村江の脳裏には、その時の記憶が鮮明に蘇っていた。

 

『・・・ふざけんな・・・!』

 

雨の中で村江の胸倉を掴む真加部の表情は、怒りを通り越して泣きそうになっていた。

村江は真加部の怒りを真正面から受け止めていたが、奥歯は食い縛っていた。

 

『真加部さん』

 

毛利が真加部を制止した。そのままだと首を絞めかねなかったからだ。

 

クーデター中止の説得にやって来た毛利も、村江の白状を聞いて驚いていたが、真加部のように怒りはしなかった。

村江の行動は事実上隊長を信用していないと宣言したようなものだったので、実際にどう思っていたかは分からないが。

 

『ちっ!』

 

真加部は村江を突き飛ばしたが、それは持って行き場の無い感情の吐き出しだった。

ゆっくりと村江が立ち上がる中、近くの倉庫らしき建物、即ち戦車を収容している格納庫の中から、1人の新戸学園生が走り出て来た。疲れ切った表情をしている。

 

『真加部さん!』

 

呼び掛けた新戸学園生に、真加部は短く確認する。

 

『どう?』

 

その新戸学園生は首を横に振った。

真加部はもう一度憎々し気に村江を見た。報告した新戸学園生も村江に憔悴し切った目を向ける。

 

だが、真加部に言える事は1つだった。その口調には弱気が見える。もはや計画は実行不能だ。だが諦め切れない。

 

『・・・もう一度試して』

『でも・・・もうクーデターは・・・』

『試せったら試すのよ!』

 

真加部の有無を言わせぬ剣幕に押され、相手は一瞬で干上がった喉に唾を呑み込んだ。

 

『わ、分かりました・・・!』

 

と答えて、格納庫に戻って行った。

中では、数名の新戸学園戦車道チームメンバーが2輌の戦車の駆動系統に群がっていた。その全員の表情も、やはり憔悴し切っていた。

 

『もう一度試せって・・・』

『試せってったって・・・もう無理だよ・・・』

 

真加部は村江に、忌々しげに言った。

 

『・・・もうおしまいね・・・』

 

村江は皆が寝静まった真夜中に、戦車の駆動系統を破壊して使えないようにしていたのだ。

だが正直言って村江は自己嫌悪に陥っていた。

村江にとってそれは、大好きな戦車道に手を掛ける事だった。自分が乗っていた戦車にも手を掛けた。

 

破壊工作をしている時は涙が止まらなかった。

 

狙い通り、クーデターは未遂に終わったが、自己嫌悪から村江は真加部に自分の仕業だという事をすぐに白状した。駆動系統が破壊されて大騒ぎになっているところに現れて。

 

彼女がクーデター派から恨みを買ったのは、想像に難くないだろう。

村江は中立派だった。それなのにまるで交渉派に与するかのような行動を取ったのだ。

 

そしてクーデター派とは言え、真加部とその同調者はついこの間まで一緒に戦車道を楽しんでいた仲間だった。

 

 

「だから裏切者だって言ったのよ。自分の事を。あの後すぐに転校したわ。そこもすぐ廃校になって、今に至るけれど・・・」

 

と、村江は言った。

話せば話すほど自己嫌悪の沼に沈んでいくようで、奥歯を食い縛っている。真加部に胸倉を掴まれた、あの時のように。

 

「いや、村江参謀は悪くないと思うし」

 

またも塚野だった。完全素人の自分を、大地と共に戦車道経験者として支えてくれたのだ。感謝してもし切れない。

 

「私もスズネちゃんと同じです」

 

土橋も塚野に同調した。いや、この場にいる大地や佐伯、野島も。

全員が塚野に賛成していた。誰も村江を責める者はいない。

 

「村江先輩。もしクーデターが本当に決行されていたら・・・戦車道は・・・」

 

大地はその先を言わなかったが、意味は明白だった。

戦車道が暴力行為に使われていたとしたら、そしてもし誰かが危害を受けていたとしたら・・・想像しただけでも恐ろしい事だった。

 

その瞬間、戦車道としての名誉は失われる。どのような理由があろうとも。

 

「つーか理不尽の極みじゃん?戦車道を守ったんでしょ?」

「・・・でも、仲間はそう思わなかったわ」

「じゃあ私達はそう思う!村江参謀は悪く無い、正しい事をした。これでど?」

「おう、おめえがまさか良い事言うなんて思わなかったぜ」

 

茶化すようにしながら野島は塚野の意見を支持した。他の者も頷く。

 

「戦車道だけじゃなく、クーデター派の皆さんも、村江先輩に救われたと思います」

 

大地はそう言いつつ、「なんかその、当事者じゃないですが・・・」

 

村江の表情が生気を取り戻しつつあった。

昨夜スカウトにやって来た毛利と真加部へ静かに啖呵を切ったのは、間違いでは無かった。

自分はフロンティア学園の戦車道チームに自分の力を使おうとここに転校を決意した。本当は二度と戦車道に関わるつもりが無かったのに。

 

そしてチームは、自分を仲間として受け入れてくれている。それが村江は報われたようで嬉しかった。

 

「みんな、本当にありがとう」

「明日の試合、頑張らないとね」

 

と、佐伯が締め括るように言ったが、野島が

 

「あ、でもよ。1つ気になる事が」

「と言うと?」

「分裂してた隊長と副隊長がなんでまたエクセルシオールで隊長と副隊長やってんだ?まさか共通のなんたらが出来たからとか・・・?」

「ああ、ある意味ではそうね。でも標的は私じゃないわ。新戸学園の戦車道の存続よ。私が転校した後、色々あったみたいだけれど、移転先を探していたみたい」

「なる。それがエクセルシオと」

「ええ。毛利隊長達がエクセルシオに移った後に新戸学園は文科省の標的になった。生徒会は毛利隊長に復帰を打診したそうだけれど、後の祭りだった」

 

これらの出来事は、毛利から電話で聞かされた事だった。

村江としても、新戸学園から逃げ出した後も毛利達の事は気にしていたので、この際だからと耳を傾けた。スカウトに応じるのは別として。

まあそれが結局毛利が粘り強く村江の引き抜きを試みた理由でもあったのだが。

 

村江はスカウトの件も話した。昨夜の事も、何度か電話があった事も。

 

「勿論、ここを出るつもりはないわ」

 

と付け足す事も忘れなかった。

 

「なるほど再出発ねえ」

「よく知った人間を呼びたがるのはまあ分かるか」

 

塚野と野島がそう話をしていると、大地が

 

「それで、毛利隊長はどんな作戦を使って来ると思いますか?」

「陽動と不意討ちの繰り返し。ゲリラ戦ね」

「大洗の戦術みたいな?」

「いいえ。もっと怖い」

「それだけ緻密と言う事ですか?」

「と言うよりは・・・本当に怖い。真加部副隊長はホラーに喩えてたけれど」

「そのホラー作戦をまたやってくるって感じ?」

 

と、塚野が聞いたが、村江は難しそうに首を捻った。

 

「かもしれない。でも、私がここにいる以上、同じ作戦は使わないかもしれない。今までの予選も・・・思っていたのとは違っていた。明らかに作戦を変えているわ」

 

村江は予選リーグにおけるエクセルシオールの戦いぶりを録画したものを見ていたが、コメット巡航戦車やクロムウェル巡航戦車、そしてM5軽戦車を使った機動戦を主体としており、確かに「ホラー」なゲリラ戦も使ってはいたがそれだけではなかったのである。

 

「同じ手を使って来ないとは限らないけれど、私が毛利隊長なら、第三試合はそうしない」

 

それから話題は第三試合の作戦会議へと入って行った。

 

 

続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。