ギャル&パンツァー/ガールズ&パンツァー   作:ミハイル・シュパーギン

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Guest Stars:秋山優花里


チャプター8 第三試合開始

『学園日誌補足。学園艦の寄港が夜遅くに伸びた。試合までには間に合ったが、日本戦車道連盟からは次回までの改善を求められた。一方、寄港してすぐに機関室で点検が行われる事になった。学園艦の艦齢は既に100年。とっくの昔にガタが来ていてもおかしくはない』

 

 エンターキーを叩いて日誌の書き込みを終えると、国崎は「ふーっ」と溜息を吐きながら背もたれに体を預けた。

 

 船長から報せを受けた時は冷や汗が止まらなかったが、まずはなんとかなって何よりだ。

 

 その安心から今まで張りつめていた緊張が解けて、体から力が抜けたのである。

 

「う~。蝶野教官怖すぎ……」

 

 改善要請の電話を入れて来たのは蝶野亜美だった。

 表向きは明るくサバサバした口調だったが、しかし国崎の心胆を寒からしめた。

 

『次からは宜しく頼むわね!』

 

 言い方こそフランクなのだが、それと同時に有無を言わせぬ迫力があった。

 

 だが連盟の言い分はごもっともである。老朽艦ゆえの性能低下はこちら……即ちフロンティア学園側の問題だ。

 

 日本戦車道連盟がこちらの都合に合わせる義理など全く無いし、その為に足並みを乱すなどもってのほかである。

 

 今回は大目に見て貰えたが、本来なら相手の不戦勝になった可能性だってある。

 

 仮承認とは言え、戦車道の活動を認めたのは他でもない自分だ。この問題は早急に何とかしなければならない。

 

「まあ文句は言えないですよね……」

 

 そう呟いた時、パソコン画面右下のデジタル時計は22時53分を表示していたが、まだすべき事が残っている。翌朝に回そうかなとも思ったが、キリの良いところまで済ませておく事にして、また体を起こしてパソコン画面と向き合ったが、すぐにパソコンメールの受信数の多さに渋い表情を浮かべ、頬杖を突きながらやっぱり明日に回そうかと思考をグルグルさせているところに不意に電話が鳴った。

 

 メールから気を逸らす口実が出来た事をちょっと嬉しく思いながら受話器を取る。

 

 これとてかような時間帯に来るのはとても面倒なのだが、この際誰かと話が出来るのは内容如何に関わらず有難かった。

 

「はい国崎です。あ、小戸さん? 遅くまでお疲れ様です」

『その声からして、会長も早く休まれた方が良いかと思いますがね』

 

 それから小戸保安部長の報告を聞いた国崎は思わず背もたれから体を起こした。

 

「え、スパイ?」

 

 

 時間は少し前に遡る。

 

 消灯されて真っ暗な戦車道チーム用格納庫の隅っこで埃を被りながら寂しく並ぶ2輌のカヴェナンターの陰がぼんやり光っており、弱弱しく照らされた壁には人影が蠢いていた。

 

 その弱弱しい光はその人影が左手に持つビデオカメラから発せられる灯りである。

 

「ああ私の愛しいカヴェナンターちゃん……会いたかったですよお!」

 

 車体に頬をこすりつけるその仕草は確かに愛情がこもっている。

 それからおもむろに身を起こし、左手のビデオカメラのレンズを自分に向けると、ひそひそ声で

 

「そろそろ引き揚げますが、その前にこの中を調べてみたいと思います!」

 

 そんな事をしていたので、真後ろに立った人影に全く気付いていなかった。

 

「こんばんは」

「ひやっ!?」

 

 不意を突かれた人影が飛び上がるように振り向くと、懐中電灯で照らし出されたので、強い光から目を守る為に両手でガードした。

 

「あ、ああ、どうもこんばんは。アハハ……」

 

 愛想笑いを交えながら挨拶するが、小戸保安部長は淡々と相手に尋ねる。

 

「こんな遅くにここで何を?」

 

 小戸保安部長は淡々と相手に尋ねた。

 相手は恥ずかしそうにもじもじしながら、

 

「え、ああその、戦車道に興味があって、それで……」

「学生証を見せて下さい」

「は、はい! 勿論であります!」

 

 そのくらいは想定済みだ。伊達に何度も他校に諜報目的で潜入していない。と言って今回は個人的な趣味からだが。

 既に冷静さを取り戻していた彼女はポケットから学生証を取り出し、小戸に手渡す。

 

 小戸は学生証に張られた証明写真と目の前の人間を見比べ、

 

「植山……イクミさん。知らん顔ですな」

「転校してきたばかりなんです」

「ああ、なるほどね」

「信じてくれましたか!?」

 

 小戸は出し抜けにこう言った。

 

「大洗の秋山優花里さんが加われば百人力ですな」

「ぬぁ……!」

 

 大洗女子学園戦車道チームの秋山優花里の声は思わず裏返った。

 

「立ち話もあれなので、ご同行願えますか?」

 

 その時後ろにも気配を感じて肩越しに振り返ると別の人影……即ち保安部所属の生徒が立っていた。逃走を図られた時に備えて。

 

 身元を特定し、部下を連れて来るといった準備の良さを見ると、最初から潜入はバレていたようだった。

 

 

 数分後、優花里は映画やドラマで見る取調室のような小さな部屋に連行された。

 と言って尋問というよりはただ単に「日常会話をしているだけ」のような感覚で、自分は一体ここで何をしているのだろうという錯覚に捉われた。

 

「すぐ戻ります」

 

 小戸は優花里を座らせ、見張りの保安部員1人を置いてから部屋の外に出ると、2~3分ほどしてから調理部員の初坂を伴いまた戻って来た。

 

 お盆の上には、サランラップにくるんだ焼きそばパンと紅茶入りマグカップが2人分載せられていた。

 

 因みにこの時に国崎へスパイ、即ち秋山優花里の確保を報告していたが、当然優花里に知る由は無い。

 

 見張りと給仕係は終始口をつぐんでいたが、テーブルに食事が並べられてから小戸が頷くと、2人はやはり黙って頷き返して取調室? を出て行った。

 

「秋山優花里。大洗女子学園2年生。Ⅳ号戦車で装填手担当……ええと、あんこうチームでしたか?」

 

 Ⅳ号戦車は大洗女子学園戦車道チームの中核で、隊長の西住みほの座乗車輛である。あんこうチームはいわゆるコールサインだ。

 

 西住流家元の指導と強固な友情で育まれたその戦闘能力は高く、土壇場に追い込まれても起死回生の逆転劇を演じ、それが他車輛の乗員達にも感化を与えたのか、あんこうチームのみならず個々の車輛も侮りがたいスキルを持つ。

 

 優花里も戦車道は未経験であるものの、筋金入りのミリタリーマニアであり、また戦車道のファンでもある為、ミリタリーと戦車道の知識は豊富で、知識面でみほ隊長を当初からサポート、そして実際に戦車道の経験を積み重ねていくうちに強力な隊員の1人として成長していったのである。

 

 小戸は優花里のプロフィールを纏めたA4用紙を下ろした。

 

「いやしかし、戦車道強豪の一角がどうして」

「新しい戦車道設置校が幾つか出来たと聞いて、興味があったんです」

「他の高校にも?」

「実はここが最初なんです」

「それは光栄ですな」

 

 小戸がもぐもぐ食べる焼きそばパンのソースの香りはスーパーやコンビニで売っているものとは違っていたが、異様に食欲を刺激してきて胃袋を鳴らした。

 

 それは他でもない桑田作の特製焼きそばパンだった。

 

 優花里も自分の前に置かれた焼きそばパンについ手が伸びそうになるが、ここはじっとこらえた。

 

 それにしても一体このソースには何が使われているんだろう? まさか気持ちよくなる白い粉ではあるまいが……いやくだらない冗談を考えている場合じゃない。

 

 焼きそばパンに興味津々だと察した小戸が、優花里の前の焼きそばパンを指し示しながら、

 

「どうぞ。我が校の名物です」

「あの……」

 

 本当にこの子があの大洗女子学園の秋山優花里なのかと疑いたくなるほどしおらしい。

 もっと攻撃的というか、色々言い返してくるのかと思ったが、逆に小戸は彼女に親しみを覚えた。

 

 なるほど強豪というフィルターで先入観を持ち過ぎていたか。

 彼女も自分と同じ人間なのだ。

 

「なんです?」

「取り調べとか……しないんですか?」

 

 すると小戸は不思議そうに首を傾げた。

 しかし取調室っぽい部屋に連行されたならそう思うのは当然だろう。

 

「取り調べ?」

「だって私……その……」

「ああ、スパイ行為ですか。別に誰かを暗殺しにきたわけじゃないでしょう?」

 

 インパクトのある単語を使われたので、優花里は返答に困りながら、

 

「え、ま、まあ……」

「わざわざコソコソしなくても、私か生徒会に言って貰えたら案内しますよ。ツアーも計画されてるくらいです」

「そう言えば体験乗車もやってましたね」

「ああ、見てたんですか?」

 

 瞬間、優花里の目が文字通り輝いた。

 さっきまでしおらしかった姿とは180度違うその激変ぶりに、小戸と見張りの保安部員が驚愕で目を見開いた程だ。

 

 いや確かに連行前はカヴェナンターに頬ずりしていて小戸はちょっと引いたのだが……

 

「勿論です! 出来れば乗りたかったですよお! カヴェナンターが動いてるところ見るのは初めてなんです!」

「……その意気や良し」

 

 小戸は、優花里の前に一枚の書類を差し出した。「だからどうですか? 歓迎しますよ」

 

 見てみればそれはフロンティア学園の戦車道参加書類だった。ご丁寧にボールペンまで添えられている。

 

 なるほどこれが目的か……と思ったところで、しかし本気で言っているのか? それともただの冗談か? あるいはダメ元か? 

 

 優花里は相手の真意を測りかねた。

 

 小戸は真面目くさって続ける。

 

「人材確保が急務なんです。あなたのような逸材が来てくれたら我が校は万々歳ですがねえ」

「あ、あの~……」

「はい」

「……折角の申し出ですが……私の居場所は大洗ですので……」

「会長はあなたを優遇すると言ってますよ?」

「折角ですが、すみません」

 

 優花里は頭を下げながらそう言った。

 小戸もそれ以上追求しなかった。そもそも本気で言ったわけじゃない。

 

「まあ冗談ですがね。では、朝一にヘリであなたの学園艦までお送りしましょう」

 

 その時扉が開いて、国崎が入って来た。「それより明日の第三試合を見て行きます! それが終わったら、自分で学園艦に戻ります!」

 

「明日のフライトスケジュールを確認しないと」

「あ、いや。お気遣いなく」

「大切な客人なので」

 

 更に小戸はこう付け加えた。「スパイ行為は不問にしますが、何か頼み事はするかもしれません」

 

「え、頼み事、でありますか?」

「まだ決めてませんが」

 

 国崎が小戸の横に立ち、優花里に握手を求めた。

 

「はじめまして。フロンティア学園の生徒会長の国崎です」

「あ、はじめまして! 大洗女子学園の秋山優花里と申します!」

 

 優花里はビシッと敬礼を決めてから、国崎と握手した。

 

「転校の件、再検討願えないかしら?」

「ああ……それはないですね……」

「それは残念です」

 

 スカウトの件は早々に切り上げて、国崎は改めて焼きそばパンを勧める。

 

「どうぞ。病みつき間違いなしです」

「で、では。お言葉に甘えて」

 

 優花里は遂に焼きそばパンに手を伸ばした。

 1分後、焼きそばパンは彼女の胃の中に納まっていた。

 

 その後優花里はおかわりを所望した。

 

 

 そして試合当日早朝。学園艦は現地に間に合い、塚野達はホッと胸をなでおろした。

 

 到着予定が前日夜から翌朝に延びた時も気が気でなかったが、この上更に延び延びになってさすがの戦車道連盟もエクセルシオール大学附属学院を不戦勝扱いにしてしまうのではないかと心配していたのである。

 

「心臓交換したかったぁ」

「おじいちゃんも謝ってたな」

「次から空飛べるようにしといてって言っといてよ」

「言えてんな」

 

 塚野は意外そうに野島を見た。

 

「え、怒んないの?」

「さすがにあたしも神経すり減らしたぜ……」

 

 野島も塚野の冗談をさすがに小突く気になれなかったようだ。

 

「まあまあ」

 

 土橋が後ろから労わるように2人の背中をポンポン叩いた。「そんな気に病んでたら試合でもたないよ?」

 

「ああ、それもそっかぁ」

 

 塚野は目をぱちぱちさせて気持ちを切り替え、野島もうーんと伸びをした。

 

 学園艦に残っていた隊員達も集結し、用意は整った。あとは第三試合に臨むだけである。

 

 フロンティア学園にとって、この試合は是非取りたかった。一応負けても敗者復活戦というラストチャンスは残されているが、リタイアというプレッシャーを背負いながら戦いたくない。

 

 と、その前に安藤が4人の生徒を連れて来た。1年生が2人、2年生が2人という内訳だ。

 

「履修希望者でさあ」

 

 安藤は横一列に並ぶ4人の内、左から数えて最初に立つ、眼鏡をかけた1年生の背中をポンと叩いた。「この前の体験乗車で命中率トップだった子よ。将来有望ってわけですな」

 

 鹿屋が右手の人差し指を顎に当てる。

 

「へー。今度勝負したいな~」

「なに対抗意識出してんのよ」

 

 佐伯が窘めたが、

 

「えーなんでー。切磋琢磨って知ってるー?」

「ああめんどい……」

 

 佐伯がうんざりする中、その眼鏡の1年生が列から進み出た。

 

「菅生ユリカです! 宜しくお願いします!」

 

 1年生に負けてならぬと奮起したか、今度は右端のショートヘアの2年生が進み出る。

 ちょっと気が強そうで、塚野は彼女の事をなんとなく佐伯っぽいなと思った。

 

「小宮レイカよ」

 

 3番目に進み出たのは、もう1人の2年生だ。

 

「深見ナツキです。以後、万事万端、宜しくお願い申し上げます!」

 

 土橋が塚野に囁きかける。

 

「任侠映画でも見たのかな?」

「人形?」

「あ、なんでもない」

 

 最後にもう1人の1年生がカミカミの口調で

 

「わ、私、ヨスダホナミだす!」

 

 と自己紹介した直後、語尾がおかしい事に気付いて「です!」

 

 しかしまだ不明点があったので、塚野が代表で質問する。

 

「えっと、ヨ・シ・ダ、でいいんよね?」

「は、はい! 吉田です! あれ、なんて言いましたっけ?」

「ヨスダ」

「す、すみません。よ、吉田です!」

 

 野島が塚野に、

 

「さすがに今日は見学だよな?」

「カヴェナンター……」

 

 そう呟いた瞬間、4人の顔色が一様に恐怖やら嫌悪やらに変わった。

 

「はあ!?」

 

 と、小宮が早速毒舌を吐く。「あのイカれたオーブンに乗れって!? 冗談じゃないわ! なんであんなポンコツ買ったのよ!」

 

 正に塚野が受けた第一印象通りだった。

 それとも、自分が留年生だと念頭に置いての反論なのか? 

 

 まあそれはいいとして、彼女の様子はどちらかと言うと……

 

「うお、ノイジーみたい」

「あ?」

「うん、隊長もあれはもうやだ」

「折角空調服とか扇風機とか用意してたのに」

 

 安藤が残念そうに言って田張を見た。「あとなんでしたっけ? 冷却システムも改造してたんでしたっけか?」

 

「まだ終わってないのよねえ」

「あ、あれは、や、やめてください。ま、真面目にし、死んでしまいます……」

 

 吉田の顔は蒼ざめていた。今にも倒れるんじゃないかとこっちが心配してしまうくらいだ。

 

 体験乗車がよっぽどトラウマらしい。それでも履修を希望したのは多分、安藤の説得によるところが大きいのだろう。

 

「ねーチーフ。エアコン付けらんないの?」

 

 塚野の問いに田張は、

 

「多分無理だし、あれ禁止されてませんでした?」

「えーと。まあルールには載ってなかったと思いますが……」

 

 大地がそう言うと、塚野が

 

「じゃあこの際付けちゃう?」

「あと冷えたビールもお願いします」

 

 菅生が挙手しながら更に混ぜっ返すと、全員が「え!?」と声を洩らして彼女を見た。

 

 菅生は慌てて両手を振りながら、

 

「あ、ただのジョークです!」

 

 深見が半ば呆れながら

 

「す、凄い肝座ってるわね……」

「コーラじゃスケール小さいかな~って思いまして……」

「まあそういうわけでクーラーは無理だから諦めな!」

 

 野島がばっさりと切り捨ててこの話をおしまいにした。

 塚野がちょっと肩を竦め、

 

「じゃ、今日は見学かぁ」

「そもそもロクに訓練とかしてないしな。さすがに無理あるだろ」

 

 と、野島が言った。

 

「それにそろそろ時間よ」

 

 携帯電話のデジタル時計を確認していた村江が言った。

 

 しかし何はともあれ、隊員が増えた事は塚野にとってとても喜ばしい事だった。

 

 問題は戦車が無い事だ。あのイカれたオーブンを除いて。

 本当にエアコン付けたいな……

 

 

「一同、礼!」

 

 審判の号令に従い、両チームは頭を下げた。

 

 礼を終えるとそれぞれのチームが持ち場に就こうと踵を返したが、真加部だけ無言で村江と向き合っていた。

 

「何?」

 

 村江が聞き返すと、真加部がおもむろに右手を上げ、村江に向かって真っすぐ伸ばした。

 右手の親指は立てられており、人差し指だけを突き出したその手つきはピストルを構えるポーズだった。

 

「ドーン!」

 

 真加部は発砲音を口真似しながら、ピストルを形作った右手をポンッと跳ね上げた。それから彼女は仲間の後を追って行った。

 

 村江は眉一つ動かさなかったが、尚数秒間立ち尽くして真加部の背中を見送った。

 

「村江先輩……」

 

 いつの間に戻って来た大地が横から心配そうに声をかけた。

 塚野も右手を腰に当てながら口をへの字に曲げていた。

 

「あいつ蹴っ飛ばしてこよっか?」

「……気にしないで。それより、早く乗るわよ」

 

 静かにそう言うと、村江も回れ右をして持ち場のラムⅡ巡航戦車に歩いて行った。

 塚野と大地は複雑な表情で顔を見合わせたが、やはりそれぞれの戦車に向かって行った。

 

 

 

<第8話・終>

 

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