バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
【ミネバ自室。夜22時】
「へー、そうなんだー…分かった、じゃあ明日夕方5時に池袋ね☆ パパにはナイショで!」
スマホでの会話を盗み聞きはドズルの信念に反するものだったが、わざとらしい小声が彼の危機感を募らせた。別にデートぐらい堂々としたら良い。アメリカンに家まで送り届けに来たら最高だ……が、最後のパパにはナイショとは何事か。バナージ! 男と男の友情は幻だったのか! 俺は……俺はお前のことを……
背後でゼナが心配そうな顔をしている。娘を信用しきっているゼナが心配しているのは、巨体を不器用に縮こめて娘の部屋を探る旦那の異常な姿なのだが。狂いつつあるドズルには慮外の事であった。
階下に降り、食卓で左右の肩にトゲがあしらわれた自分のスマホから「息子(予定)」をタップ。電話を掛ける。
「もしもし、夜分すまんな。ドズルだが」
「あ、今晩はです。バナージです」
「隠し事は無しで行こう。『パパにはナイショ』って何だ?」
バナージは一瞬逡巡した。マッハでバレてるじゃんミネバ! なんで面倒は僕の所にばかり……でも……男の約束は……
「どうした、私には語れない話か?」
ドズルの声からは腹を括った男の響きがあった。不味い、ヤバいパターンだ。
「いえ、そんな事は……場所柄心配かけるかなって……」
「バナージ・リンクス君」
電話越しにミシミシとスマホが軋む音がする。あの声は僕を男と見込んだあの声だ……真っ直ぐな男の信頼に応える術を、バナージは正直である事以外知らずにいた。ゴメン、ミネバ!
「……池袋の北口にですね……」
池袋北口! 咄嗟にドズルの脳内に池袋周辺地図が描き出される。ビックカメラなどに偽装されているが、大通りを裏手に一本入れば繁華街。余り治安の良く無いエリアだ。地下道を潜り西口に向かえばちょっと先にはラブホテル街! あの陸橋の脇かっ!
「うっ……うっ……(涙)」
「だと思った! 違いますよドズルさん!」
「いや、2人でステップを上がる日が来たのだな……せめて、せめて避妊だけは……」
「待ってくださいドズルさん!(赤面&必死)」
ミネバの予測は見事に的中した。北口って聞いただけで暴走するに決まってる。ミネバは愛するパパを知悉していた。
数分後。
「そうだよな、お前がそんな事する訳ないよな! ガッハッハ」
「凄いファイターがいるらしいんです。見学に行こうかと」
「そうだよな、ガンプラバトルだよな。凄い頑張ってるもんな、そうだ、そりゃそうだ」
会社の部下の子がやたら先進的だと聞いている為、ドズルは極端にその辺を恐れている。彼の配下には50そこそこでお爺ちゃんになった者も少なくない。いや、ジィジになるのが怖いわけでは無いんだ。愛しのミネバの子なら美男美女は確定だろう……もうドズルは上の空で缶ビールを開けている。今日も酒が美味い。
「喧嘩も強いらしいです。何でもロケットパンチを放つとか」
「ロケットパンチ? マジンガーZが?」
池袋といえば漫画の聖地西武池袋線終点。トキワ荘グループの石ノ森章太郎的に仮面ライダーやキカイダーではないのか。何故永井豪……
「良し、俺もついて行こう。なぁに邪魔はせん。ミネバにはナイショだぞ」
イケフクロウ前で待ち合わせる2人を見守る体で、警察に3回職質されて閉口したドズルであった。極真本部があるから比較的体格の大きな人間も多い池袋であるが、肩のトゲは異質を絵に描いたような存在感を放っている。ミネバにすぐ見抜かれバナージが説教されたのは言うまでもない。バレた原因はミネバなのだが。この親にしてこの子あり、と言った所か。
目指すはバンダイ直営ガンべ北ブクロ(ガンダムベース 池袋北口店)。ちょっと刺激的な社会科見学が始まる。
筆者注:永井豪は石ノ森章太郎のアシスタント出身だし、若年時は豊島区在住だから池袋にマジンガーが出たっておかしくは無い。
しかもファイターは女性だ!
「アフロダイAやダイアナンAじゃないのか?」(ドズル談)