バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
ぴこぴことチープな電子音が音楽を奏で、明滅する光の中で感情を露わにした男の子たちの横顔が照らし出される。レバーやボタンが電光石火の如く身をくねらせると、モニタ上の戦士が華麗に舞う……(昨今の施策でかなり減ったとは言え)タバコの煙と埃の香りが入り混じった電気の戦場、それがここだ。
「うゎぁ……」
「な……なんか、圧巻……」
バナージもミネバもゲームセンターには行ったことはある。ただそれはプリクラやUFOキャッチャーで遊ぶ「そういう場所」でしかなく、生活資金までも100円玉に変え、刹那の戦いに投じる電子の戦士達の集う場所ではなかった。
対戦型ゲームが流行ると、一時ゲームセンターは賑わう。プレイヤー人口の増加でひととき場が賑わうのだ。そして……明らかな実力を持つプレイヤーが出始めると、
余りに実力に開きが出ると、強者達は「俺より強い奴に会いに行く」と、強者が集うと言う
ガンプラバトルも例外ではなく、ここ池袋もそんな結節点の一つである。正直に申せば2週間前までは割と「出来は良いが、腕は悪い」ガンプラファイターが多い2線級の戦場と見做されていた。ガンプラバトル以前からプラモデル製作工房(レンタルスペース)やビックカメラの顧客に解放された展示用ショーケースが多数の「ビルダー」を集めていた土地柄である。また、江古田を始めとして「クリエイターが集まる」場所でもあった。どちらかと言うとファイター傾向が弱いのだ。
それが、一変した。
当初それはカスタマイズZガンダムと見做され、綺麗に飛ぶ機体として観客に感嘆の声を上げさせた。アニメの影響もありガンプラで空を躍る……ゲッターじみたジグザグ飛行の事だ……そんな空間機動はあったが、そのZモドキは巧みにメイン推力のベクトルを操作して優美に飛んだ。そう、空を飛んだのだ、鳥の様に! そしてプレイヤーが妙齢(優しい表現)の女性というのが噂に拍車をかける。
そのZは猛禽類が林の木立の間をすり抜ける様に減速無しで空を駆け抜ける。それが市街戦であれ、アステロイドの岩塊の中であれ、だ。多くの場合敵となるプレイヤーはドッグファイトを仕掛けるまでもなく障害を避けきれずに自滅し、或いはフィールド中央に釘付けになって打ち倒された。ただ、その場合も可能な限りガンプラの破損を避け、突き付けた銃で降参を求める姿勢はこの地のファイターに愛された。
それ故に
「はぇえ!」
反応速度には自信のあるファイターたち……これは誇張でもなんでもないが、1/60秒を見切ることが出来るファイターたちでさえその速度には目を見張った。単なる直線機動なら追い縋る事が出来た機体もあったかもしれないが、空の上では鷹に追われる鳩も同然であった。空を自在に飛ぶ鳥の前では空に躍るヒトガタなど相手にならぬ……多くの機体は文字通り「蹴落とされた」
エネルギー機動性理論という。
空間機動において機体の持つ運動エネルギー量に着目して機動を組み立てる
飛べるから強いなら、飛べないステージを選べば良い。ある意味当然の推論だ。ジオン水泳部の河童と呼ばれたファイターがジャブローステージでクソ鳥に挑む!
「バナージ……」
「うん……何だろうね、あの
そんな場所でもZモドキは壁や天井を蹴り、重力を無視したかの如く立体的に動く。傍のアメリカ人がOh……Ninja……と声を漏らす。
「ババァ! てめぇいい加減にしろ!」
激怒したミリタリールックの青年が声を荒げると、女は不敵に笑って受け流した。
「坊やにはまだオンナの相手は無理だったようね?(嘲)」
音も立てず羽毛の様にZモドキが着地する。場が一瞬にして静まり返った。ぴこぴこというチープな電子音すら声を潜めたかの様だ。明らかな怒気だ。これまで見せなかった明確な殺意に皆が萎縮する。ミラーシェイドのサイバー感溢れるサングラスを外した女が猛禽の目でズゴックを睥睨した。その目が妖しく輝く。
「女王様だ……」
「どSやんけ……」
「これは……ご褒美……?」
モンローウォークで腰を振りつつZが歩を進める。ありもしないピンヒールの音が聞こえるかの様だ。
「いい子になさい」
すっと上げた右拳がジャブの構えを一瞬見せる。次の瞬間半拍ずれて破裂音がすると、明らかに拳が届く範囲を超えてズゴックがよろめく。まるで鞭のような一撃! グフか!
録画を画像解析すると、以下の様なモーションが分かるだろう。ジャブの様な構えから先ず肩が動き、ジャブの軌道が継いで動く肘の内側折込により大きく内側にズレる。そこからスナップを効かせたバックハンドブローじみた拳が伸びると同時に機体は半歩だけ歩を進めた。相対する敵は足の動きに気が付けない。うねる鞭の様に拳は伸びて目標を捉える。
ジャブだと思えば半拍遅れて伸びた拳の直撃を食らう。打たれる瞬間の身体硬直……「覚悟」が解ける瞬間を突いた鋭い一撃! まるで腕が伸びたかの様な……
「あ……アームパンチ?」
「ダルシム?」
「ロケットパンチや……」
ギャラリーの声が収まらぬ中、よろめいたズゴックの頭にZ?の指がかかり、体勢を直そうというオートバランサーの動きに合わせて軽く引き寄せられる。まるで身体を自ら女王様に差し出すかの様に。
膝の一撃!
細身のZから繰り出されたとは思えぬ威力に皆が眼を剥く。Zからは不協和音の様な……或いは
足下にズゴックを踏み締めると音は一段高まり、まるで高笑いをする女王様めいた風情を現す。
「
「ぐっ……動かねぇ……なんて重さだ!」
あ(やっちまった感)
「(怒) …………潰すわよ?(微笑)」
Zの哄笑が一際高まるとあり得ない事にズゴックの下の岩塊が崩れ始める。Zの踵が静かにズゴックの外殻に
「Battle ended. Winner "Pachycephalo-Sword“」
「が……ガンプラがガンプラ踏み潰した?!」
「な……何もんだあの……あのぉ……お姉様?(萎縮)」
余りの衝撃に、ギャラリーは皆機体名を聞き逃した。
立教の英語に自信ニキはおらんのか。