バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
【ガンベ北ブクロ23時過ぎ】
流石に遅いのでバナージ達は後ろ髪を引かれつつ帰宅したが、ゲームセンターはまだ騒然としていた。1ゲーム単価の高いガンプラバトルは試合時間も(余程の戦力格差が無ければ)長引きがちで、桃李は3日でまだ15戦しかしていない。初日に行った野良2vs2とカミーユとのタイマン以外は13勝。勝率は9割近い。
次に北ブクロの女王様と戦う権利を懸けて6人のバトルロイヤルが繰り広げられる中、桃李は店長から事務所に呼び出されていた。
「あんた、やはり強敵探して流れて行くのかい?」
「いや、ここで遊び続けるつもりだけど?」
「こっちとしても常連になって貰えればありがたいが……ならもう少し手を抜いてくれないか?」
「なんでよ?」
「……知らんのか? フォビドゥンになっちまうだろ」
バトルが先鋭化した結果生まれたルールである。ゲームであるから仕方ないのだが、このゲームは競技性が高く実力差が反映されやすい。すると格上に勝てなくなり、一方的な蹂躙が発生しやすくなる。強いファイターは外から更に強いファイターを呼び込み店を「強者が集う店」に変えるが、結果として実力の低いファイターが遊びにくくなるという弊害をもたらす。端的に申せば店の収益が下がるのだ。この問題を避けるために各店舗では「その店舗での平均勝率」をベースに自店舗のランク付けをする。ウチはF〜Gの初心者向けですよ、A〜C推奨ですよなど。
「姐さんがどこから来たのかは知りませんし聞きません。ただ、ウチの敷居跨ぐにゃちょいと強過ぎる。あのカミーユだって最近は
もうちょっと隙があるなら1日5戦程度はタダにするし、イベント協力してくれるならチョイと金を包んでもいい……勝率9割以下、こいつでウチに草鞋を脱いじゃ貰えませんか……悪い話じゃねぇと思うんですがね……」
口調はヤクザだが、威圧感は無い。
「私もこの辺の事情には詳しく無いの……だから教えてもらえるかしら? あのカミーユ君ってどれくらい強いの?」
「新宿でも10に入るか入らないかですなぁ。関東でも30には入る」
「それって有名って事でいい?」
「まぁ、ファイターなら大抵知ってますわな」
「一般人にも知られるには?」
「台場で顔売れたら、イケますかね? ただ、とてつもない所ですぜ?」
桃李は思案する。カミーユはちょっと(ちょっとか?)おかしいが腕は確かだ。あの子を確実に降せる様になれるだろうか。
「いや、姐さん。アンタの腕を下に見るつもりは無いが、台場はほぼ全日本選抜だ。ここ数年の日本チャンプはあそこの連中だし、流石に相手が悪過ぎる……なんでそんなに強さを求める? ……何か事情があるのかい?」
「女の事情に土足で入るもんじゃないぞ、辰」
「玄ちゃん!」
「ウチの姪だ。昼間遊び歩くなやシャチョー。紹介し損ねたじゃねーか」
【深夜、ギレン邸】
「あるわきゃないだろ。そんなテク。聞いたこともないわ」
「だが、有るんだよ兄貴」
浴衣のギレンが煎茶を啜る。ある訳が無いものがある。そんな時どう動くか……「現物優先」だ。これがザビ家の家訓だ。細かい話は後にして、今あるものを取りに行く。1週間後の100万より明日手に入る50万。6日後にコロニーが落ちてきたらどうするんだ。未来は未定……それは希望であり地獄である。利確優先欲かくな。手形決済で夏の日を駆け巡った遠い日の思い出が……
「ミネバは本当に出来た娘だ……ドズルの娘とは思えん」
「自慢の娘だ。確実に俺の子だぞ兄貴!」
「豪運という事だよ。ビールでいいか?」
「バンダイが動くだろうな」
「ガンプラだからか?」
「ここ数年のバンダイは、誰にでも良い出来をという目標を掲げている。バナージ君のザクを見ただろう?」
「ああ、ちょっと仕上げれば見事なもんだ。あんなものを作り出すとはな」
「ところが話は簡単ではない。出来の良過ぎるプラモデルはモデラーを減少させる。長期的には衰退するだろう」
「どうしてだ兄貴? 俺にはサッパリ分からん」
「趣味とは究極的には自己満足と承認欲求のバランスだ。誰でも『同じ様に』金太郎飴じみたものが作れると、他者との差別化が出来んのだ……」
「改造したらいいじゃないか!」
「改造の仕方が分からない子供が増えているのに、か?」
鋭い目でギレンはドズルを見る。
「今はガンプラの出来がいい。改造しなければいけない理由など無い。それどころか改造までテンプレ化している。昔のザクやガンダムとは違うのだ……もっと遡ればウッドカービングやフィッシュカービングの時代からモデルの精緻さは増す一方だ」
益子焼の茶碗を置いて腕を組む。
「流れは止まらん。いつの日か人はロボ魂に心囚われるだろう。先の異常なガンプラはその先触れかもしらんな。だが……」
ドズルにビールを注ぐ。ギレンはキリン派だ。
「差が無くなればガンプラバトルも衰退しよう。モデルで差が付かなければファイターの腕のみが重要になる。バーチャや鉄拳、ストIIが歩んだ滅びの道だ」
「あの時代は熱かったな……」
「随分筐体生産や設置で稼いだな……すると当然先のファイターを邪魔者として排除したがる奴がいる」
グイッと杯を煽り、ドズルが呟く。「ヤジマか」
「だろうな。彼らはガンプラに差異を求める」
「どうする兄貴? ウチはどう出る?」
「分からん。流石にこればかりは読めん。選択するのはミネバやバナージ達、子供たちだ。我々が選んでも彼らが望まねば何にもならぬ」
「バナージか……ミネバはやはり見る目がある」
娘を誉める点に於いては金メダル級だなと、ギレンは弟を見て目を細める。どんな体勢からも褒め言葉を紡ぐドズルはハメド・スタイルと言っても良い。(但し、深夜なのでものすごーく悪役顔に見える)
足立の夜はふけてゆく。遠くスカイツリーだけが忙しなく顔色を変えていた。
ユニコーンに乗らないとバナージ空気というか、振り回されるだけになりかねないなー、などと。