バナージ・リンクスの受難【完結】   作:PureFighter00

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母の目は何も見逃さない。


お母様は魔法使い

 後々語られるであろうが、ハマーン ・カーンはこの世界で尽くし切れぬ恩義をザビ家に感じている。故に小さい頃から乳母なんじゃないかと思われるぐらいにミネバを溺愛しており、近所のヤマダ電機にパソコン見に行きたいとの要請にはすぐ応じた。問題は、その後だ。

 ミネバに説明をするこの少年、ちらちらとこちらを見るのだが、私をミネバの姉か母と勘違いしている。百歩譲って姉は良いが、母とは何だこの俗物が。しかも今ならこちらもセットでお安くなりますときた。ザビ家の裔が千円二千円で靡くと思ってか、恥を知れ! 流石に私の苛立ちを察したか、少年は売り込みをやめて会計を薦める。ミネバはまだアレコレと聴きたい様だが、奥様は今日の晩は鍋にするとおっしゃっていた。遅れぬように帰宅せねばなるまい。そんなにパソコンが欲しかったのか。まだまだ子供だな。

 ご自宅に愛車のハスラーでお送りすると、玄関前でゼナ様の瞳が怪しく輝いた。ちょっと寄って行かない? と声をかけられて応接にお邪魔する。ミネバは自室でカタログを広げているという。

「恋ね」

 応接でニュータイプ音がキュピンと輝き、私を貫く。なん……だと……

「流石シャア課長相手に千日手を繰り広げただけあるわね、ハマーン。アレを見抜けぬようではまだまだ女として未熟。新婚で浮かれていてはダメよ」

 ぐぅの音も出ない。才女天才と煽てられながら……このハマーン、恋愛に関しては偏差値32のど底辺であった。今意中の彼と結婚できたのも、足立の奇跡と呼ばれた超天才ギレン社長と給湯室の主人と呼ばれたキシリア、そしてゼナ様を含むジオン女性従業員の包囲網があってこそだ。

「どんな子だったの?」と問われて、私は絶句した。まさか、まさかあのバイトか? 正直に申し上げて(足立区基準では)地味で控えめな少年ではありましたが……

 やはり色恋に関してはハマーンはポンコツね、とゼナは嘆いた。足立基準で地味なら世間一般ではマトモだろう。キャラ・スーンやイリア・パゾムは足立基準で普通よりちょっと弾けているが、銀座では完全に異物である。幕張のモーターショーか。

 この点において足立区は大変誤解されているが、基本足立区もそれ程治安が悪い訳でもなく、ファッションセンスがおかしい訳でもない。ただ、ペットショップで犬の洋服を見れば、スパンコールバチバチのピンクと黒とか、スカジャン風の背中に髑髏デザインが並んでいるのは悲しいことに事実である。隣接する草加や川口市南部を経由して、文教都市旧浦和市……のカントリーサイドである浦和美園あたりまで行くと、幾分ワンちゃんファッションも大人しく高品位になる。また、ちょっと前まで竹の塚駅には白タク(無許可タクシー)が酔客を運んでいた。

 僅かであるが、ほんの僅かであるが……やはり足立区は特色があり、足立区民以外からは奇異に見える事がある。これは件のヤマダ電機がある交差点の名を苗字とする漫画家は絶対怒る奴だが、それは否定し難い事実であった。

 そして東京都の最果て赤区式津島(伊豆七島の更に先。住民227名)生まれの田舎娘は、この足立区を東京都23区の標準として認識してしまっている。

 これは私の出番ねと、ゼナは決意を新たにした。娘より早く娘の恋心を察知し、然るべき教育を施さねば……この淡い恋心はソーラ・レイに焼かれた艦隊の様に消し飛ぶだろう……彼は一人チェンバロ作戦を決行しなければならないのだ。

 ゼナはもうすぐ戻るであろう愛しの旦那様を思い浮かべた。まだ見ぬ少年、私のミネバの初恋の人……相手はモンスターよ、頑張りなさい。




ゼナは理解者。
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