バナージ・リンクスの受難【完結】   作:PureFighter00

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白鯨(デンドロ)沈没事件の余波は続く


お悩みバナージ

 バナージ・リンクスは何度目かのデンドロビウム爆散動画をボンヤリと眺めていた。無論彼もガンプラバトルを楽しむ程度にはガンプラに詳しいので、それがどんな事であるか……デンドロビウムの撃沈の裏で消えた熱意や労力はどれだけであったか理解している。

 

 コメント欄は大炎上中だ。その中でも「デンドロビウムを出すなんて」と言うファイター批判が心を苛む。デンドロビウムだからダメなのか。俺のユニコーンなら良いのか……整理すればこの様な問いかけなのだが、感情が心の中で津波の様にあらゆるものを濁流の中に飲み込みつつある今、それは中々言語化出来ずにいた。

 何となくは、判る。デンドロビウムを出す事自体は賭けだ。桃李さんの機体攻略にミサイル飽和攻撃や極端な火力を用いるというのは多分間違いじゃない。分の悪い賭けには思えるが賭けるだけの価値はあるかもしれない。何だろう、その価値って。

 突き詰めれば、何故あの名も無きファイターはデンドロビウムを出したのか……幾つも理由は浮かぶし、そのいずれも決定的ではない。コメント欄で指摘されている様に置き場に困っていて最後に死に花を咲かせたいという可能性もある。パシケファロという「破壊される事を前提に、そのダメージを最小に抑える」アプローチに対する挑戦なのかもしれない。あの機体攻略法を皆で共有しようとした?

 或いは、ある種の意地か。

 

 バナージもあの時世間一般では然程(さほど)珍重はされないが、その時点……既に数年前になるが……で持てる技能の限りを尽くしたユニコーンを出撃させた。自分が渾身の力を込めた手持ちの最良だ。自分にとっては名無しの勇者のデンドロビウムにも比肩するものだ。冷静になればなる程「何故あそこでユニコーンを出したのか」さらに言えば何故ユニコーンを持って行ったのかが分からない。ザク男ではダメだったのか? ザク男はガンプラバトルという破損があり得る戦場でユニコーンを破損させない為に作ったものでは無かったか。

 何だろう。自分で自分が理解できない。

 

 恋に落ちた事に気付かなかったミネバと同じようなものだ。心の中に顔の無い怪物がいて暴れている。バナージはその怪物と対峙しているのだが、それが何者か分からない。何故その怪物が暴れているかも理解できないのだ。恋やガンプラバトルに限らず……人はこの怪物と戦い続ける。例えば今この文章を読んでうっかり感動してしまい、その心の中に湧き起こる「感情」を感想として残そうとした時にもそれは起きる。会社で何かの企画を通す時、心に浮かんだイメージを絵画や彫刻にする時、凡ゆるシーンで人は抽象と具象の狭間で悩むのだ。これを先人は思考と言い創作と呼ぶ。

 全く頭の痛い話だ。世の中人生には悩むべき様々な事が渦巻いており、デンドロビウムが破壊されたその背景やファイターの心情を探るなど一文の得にもならない。バナージにもミネバと仲良くなる方法や、連休や夏休みにデートするプランなど考えるべき事は山ほどある。じきにミネバと住む家や仕事、子供は何人と考えるべき事は雪だるま式に増えて行くだろう。

 だがしかし、「それ」は脳裏から離れる事なく常にバナージを見据えている。気が付けばいつも彼は背後に立っている。一度心の中に怪物が生まれてしまうと、その顔の無い暴虐とは終生付き合っていかなければならない。さもなくば打ち倒すか、飼い慣らすか。

 

 何故バナージはユニコーンを出し、何故デンドロビウムは現れたのか。例えば貴方がガンプラバトルシステムにガンプラを載せる時、何故そのガンプラを選ぶのか。それは安価なガンプラの素組だろうか? ちょっと奮発してMGだろうか? ミキシングビルドのオリジナル機だろうか、プロポーション改修した改造機か? フルスクラッチか? ガンプラバトルシステムでは基本的に後者の方が有利になりやすいが、貴方は自分のプラモデルの破損というリスクに対して「どこまでのもの」を賭けることが出来るだろうか? もちろん貴方はなろうのチーレム転生者ではなく、時と場合により対戦で負けることのあるモブである。連戦すればいつの日にか愛機を粉々にされ立ちすくむ日が来るだろう。

 

 先のアンケートで一つだけ意地悪な仕掛けをした。デンドロビウムを出すなんて!という項目は裏の意味を持つ。デンドロビウムはダメならば、『何なら許されるのか』

 自分が出来る限り手をかけたマイベストは出せるのだろうか? それともバトル用に組んだ破損前提で「手間暇掛けずに修理可能」な機体を出すのだろうか? ……勝ちや勝率を捨てて。

 

 バナージ・リンクスは今も悩んでいる。彼にとってこの問題は現実として今考えなければならない問題なのだ。この様にして悩み考えて結論したものの累積が哲理となる。

 

 バナージ・リンクスは今も悩んでいる。




5カウント以内なら反則攻撃アリのプロレス脳。
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