バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
【ガンベ北ブクロ 土曜夕方】
入り口前にテレビ局の取材陣が来ていた。大型の物々しいカメラが三脚に乗り、腕には何やら腕章が。
「すいません、ガンプラバトルですか? ちょっとプラモデルを見せて欲しいんですが……」
巧妙であると言わざるを得ない。これが現在の政治に対する不満や海外情勢への取材であれば、多くのファイターは無視を決め込んだに違いない。しかしガンプラファイターはガンプラ好きで、自分の機体に興味を持たれたら「語ってしまう」ものなのだ。通常だと袖にされて延々と声掛けを続けなければいけないのだが(ほんと、気の毒に思えるぐらい無視されたりする!)、多くのファイターは自機を懐から出して取材に応じている。
「ぅゎぁ……綺麗ですね、これは?」
「バルバトスルプスです。HGですね」
「凄くカッコ良く出来てますが、作るのにどれくらいかかりました?」
「そんなに手間はかけてないですよ、塗装含めて3週間ぐらいかな?」
「でもこれ、ガンプラバトルで使うと壊れませんか?」
「僕は壊す方なので大丈夫です」(満面の笑顔)
名も無きスタッフは絶句する。彼は全く自分が負けるなんて事は考えていなかった。取材の方向性としては「大切なプラモがバトルで壊れるのは悲しい」という話を引き出して、先の
既にスタジオの裏手ではガンプラを作った事があると言うADがメルカリで入手したデンドロビウムの作成に四苦八苦している。ガンプラなんか1時間もあれば組めるやろ、HGなんだし……とディレクターが無茶振りしたのだ。実物を見たディレクターは手隙のスタッフを集めて人海戦術でデンドロと格闘する羽目になった。恐竜的進化を遂げたガンプラを舐めすぎだろう。HGUC050番台のガンプラとは違うのだ。
「勝つから壊れません」
「勝つ為に作ったんで」
「手ぇ抜いたら勝てませんから」
北ブクロ前取材チームは困惑していた。ガンプラを壊すゲームに参加するファイター達は、なんと誰一人として負けて破壊されるという前提が無かった。壊れるのは悲しいですねというコメントが撮りたかったのに、ティーンからM2層(男性 35〜49)に至るまでそんな事は考えていない。まるでここではない裏口辺りから大量に負け役の人でも入っているのではと疑いたくなる状況だった。
「……どうする?」
「なんとか誘導してよ工藤ちゃーん!」
取材と言っているが事件報道のコンセプトは取材前に決まっていたりする。取材を基に報道原稿を作るのでは無く、報道原稿に合致し内容を補強するVを取るのである。取材してから報道したのでは、取材の結果報道に値する内容が無い事もあるからだ。効率的な番組作成の為には先に視点を決めて「論点」を設けなければならない。
そこに桃李がやってきた。大体この手の取材では老若男女の発言を使う……幅広い人に尋ねましたという建前を守る為だ。出来たら女子大生が良かったなぁなどと思いつつ、F1(女性 20〜34)には当たるかとマイクを向ける。すいませーん……
スタッフ一同神に感謝した、本気で。桃李のアタッシュケースには丁寧に梱包されたパシケファロとその予備部品が詰まっている。更には外装パーツの予備ランナーが数枚……F1ガンプラバトルガチ層、ミラーシェイドのサングラスにパンツルックのスーツ姿……見栄えはする。
「ぅゎぁ凄い! この部品は?」
「壊れた時の交換用です。破損は避けられないので……」
スタッフ一同が破顔する。やった、工藤ちゃん頑張れ! そろそろ撤収したいんじゃ!
「頑張って作ったガンプラが壊れるのを見るのは心が痛みませんか?」
「そりゃあ、いい気持ちはしませんね」
神よ(涙)
カメラ担当は少しでもこの女性を綺麗に写してあげる気になった。ようやく欲しいコメントが来た。ありがとうお姉さん!
「……でも、勝つ為には手抜きを出来ないし、相手も勝つ為に様々な工夫をしてるんです。それが例え相手の大切なモノでもやるしかないですよね。格闘系のスポーツと同じじゃないかなぁ……」
カットすればいいやとスタッフ一同肝心な所は無視する事にした。
「そう言えばここで先日、凄いガンプラが壊されたって話がありますが、そちらについてはどう思われますか?」
「仕方ないですよね、負けるわけにはいかないし。あの時はやるしかないなって思いました」
「そうですか、ありがとうご……え?」
桃李は会釈して意気揚々とゲームセンターの中に消えて行く。彼らは例の動画に写っていたパシケファロの姿をよく見ていなかったのだ(まぁ、デンドロに気を取られてそちらは大多数の人が気にしていなかった)
事件取材していたら真犯人にインタビューしてたなど、偶に取材には幸運がある。おめでとう取材チーム(外注) スクープだね!
……まぁ、その事をDに伝えたら出待ちしろ、何なら中の試合も取ってこいと言われて撤収出来なくなってしまったのだが。
外注残酷物語。工藤ちゃんたちは結局テッペンまで撤収出来なかった。