バナージ・リンクスの受難【完結】   作:PureFighter00

33 / 50
 足立区版だぎゃ


ギレンの野望

【ギレン邸 日曜午後】

「あなたー! お客様がお見えですよ!」

「今行く、茶とお菓子の用意を頼む!」

 足立区は職人の町でもある。ギレン邸は6LDKと広くは無いものの職人の手による確かな仕事が映える邸宅だ。庭木は近隣川口市安行から取り寄せ、某エクステリア(古い言い方だと造園業か)会社の施工例として写真が掲載されている程度には力が入っている。

「貴方、ミネバちゃんが男の子を……」

 妻君が耳打ちをする……バナージ君か。飛んで火に入る夏の虫とは君の事だ……ふふふふふ……何をしに来たかは知らぬが……瑞兆には違いあるまい……残念ながら悪役顔が極まっているギレンの微笑みは例の「圧倒的ではないか……」のシーンのあの顔そのままだ。

「突然お伺いしてしまって申し訳ありません」

「堅苦しい挨拶は無用だぞ(近い将来身内になるのだから)」

「今日は伯父様にお願いがあって来たの」

「(アナハイム高専の優秀な学生に借りを作れるなんて)私も嬉しいよ、頼ってくれて。ささ、遠慮なく茶菓で喉を潤してくれ」

 正直に申し上げて、ギレンはバナージをジオン工業に入社させられないかと策を巡らせていた。アナハイム高専卒業生は国際的にも有名なアナハイム社に優先入社出来る特権がある……それだけ優秀なのだ。ドズルには「縁故採用は無い」と断言しているが、そもそもアナ高専で成績優秀なバナージなど普通に試験しても全く問題無く入社出来る。姑息な手を用いる必要などどこにも無い。それをミネバがわざわざ虎口に連れて来た……我が家の可愛い桜海老ちゃんが天然物の大真鯛を引っ掛けて来おったわぁ!

 ギレンは舞い上がる気持ちを必死で食い止め仏頂面をする。その為生来の眉なし悪人顔が更にパワーアップしてさりげなくバナージにプレッシャーを与えているのだが……

「で、どの様な?(500万ぐらいまでなら明日にでも振り込むが)」

「はい……MC(マシニングセンター)をお借りできないかと……終業後でいいんです!」

 マシニングセンター! マジで! つまり君ウチにインターンで来たいって事? いいの? 本当に! 

 余り工作機械に縁が無い方に説明すると、マシニングセンターというのは各種切削作業をほぼ自動でこなしてくれる機械である。ジオン工業は自社オリジナルモデルとして5軸MC“ジオング"を始めとする工作機械を外販もしている。元々はザクシリーズなど機能の制限された安価な機器を東側諸国などに輸出していたのだが、国内産業向けにギレン自身が加工精度を高めた物を設計し、昨年から販売開始した所だ。今ならお値打ち12,000万円(初年度メンテナンス費含む)

 

 今にでもクラッカーを鳴らしてケーキでも取り分けたい所であるが、ギレンは耐えた。眉間に皺を寄せて歓喜に耐えた。バナージが気圧されたのも無理はない。

「学校にも……フライス盤ぐらいはあるだろう? それではダメなのかね?」

「有りますが、作るものが小さすぎますし、公差が……」

「……ふむ、何を作るのかな?」

「お恥ずかしいんですが、ガンプラのフレームを……ダメでしょうか?」

「我が社はものづくりを志向する若者の熱意は無駄にはせんよ。それがガンプラであれベーゴマであれ最大限の協力をしよう」

 思わず本音が出て眉根が下がった! キリッとしなければ!

「つまり、最新型のジオングを借りたいという事だね? あれは私の設計でね……シャア課長をサポートに付けよう。存分に使い熟すといい……で、何を加工する? アルミか? やはり鉄か?」

「アクリルで作ろうかと思っています」

「……なる程、速度とトルクコントロールか」

「金属ならある程度分かるんです、実習もしました! でもアクリルは……」

「そうだな、熱伝導率の問題だろう?」(あと割れやすい)

「はい」

 素晴らしい! 明日から出社しないかな。大体ガンプラ加工にMC使おうという発想がいい。普通なら手作業で加工する筈だ。高精度短納期小ロットならNCやMCだろう。趣味で我が社の機械の操作練習してくれるとは何たる幸運! これで絡め取ってウチに誘えば樹脂系分野のスペシャリストが手に入る! 得しかない!

「良いだろう、使い給え。私から現場には話を付けておく。アクリル加工なら専門家の意見も聞くといい……付き合いのあるアクリル什器加工会社にも声を掛けておこう」

「それであの……お値段は……」

「馬鹿な事を言うな。我が社の最新機器のオペレーターを育成するのだよ? しかもその優位性を十分理解した優秀な学生だ! こちらこそお願いしたい。何ならアナハイム高専用に特別見積もりを出してもいい」

 

 近年では若者は直ぐに3Dプリンターに飛びつく。やむを得ない所であるが、ここに日本の町工場の技術を継ぐ若者が現れた……本当に本当にギレンは喜んでいる。旋盤! ボール盤、フライスNCMCロータリートランスファー! レーザー加工にウォーターカッター超音波焼入れ!

 クックック……逃さぬぞバナージ・リンクス君。絶対私が仲人して子も同然に仕立ててやる! ガルマの次の我が社社長は君だ!

 

 ギレンはミネバもビビる程の悪人顔を晒していたと記録されている。




怖いね!(こなみ)

みんなの連絡帳
筆者手違いで飛ばした31話「店内撮影厳禁」が本話投稿後に挿入されてます。めんどくさい仕業になってスマヌ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。