バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
【TV生放送中】
勝手に発言を切り貼りされて捏造されては困るので、一部始終をこちらでも録画させて貰い後にアップロードするぞと告げたら急遽生放送に変更された。何があってもゲームを悪者にするのだという強い意志を感じる……ガンダムゲームの強さに驚異を感じた某国資本の介入か、面白い。
「実際これ喧嘩みたいなものでしょう? 私の時代でいえばタイマンですよ、それ自体はいい……」
コメンテーターだかが愚にもつかぬ事をペラペラ喋っているが放置だ。どうせ奴は話に緩急を付けて最後に熱弁を振るい勝手に締める。イニシアチブを奪うタイミングと残時間が肝要だ。
「3万もするもの喧嘩に使ってその破壊衝動で喜ぶ! 幼稚じゃありませんか! しかもそのゲーム機が人を殺傷する能力を持つ? こんなのもう子供の遊びじゃありませんよ!」
「えー、ギレン社長? 先程から黙っておいでですが……」
「議論なのだろう? そちらの主張は終わったのか?」
「いや、その……」
話の途中で割り込んで主張を最後までさせない手口等に引っかかるか。皆が発言している様に見せて意見封殺。見飽きた展開だ。
「実際どうなんですか、危なくないですか?」
「……そちらの主張は終わりかね? 今の問いかけは私の意見陳述を促したと取るが宜しいか?」
「う、まだ……」
「有るなら存分に語るがいい。無ければ少しの間その口を閉じていろ」
「何様だあんた!」
「この文字が読めんのか? ゲストコメンテーター、つまりここに招かれた客だ。この番組では賓客の遇し方も知らんのか?」
ギレンが席から立ち上がる。ディレクターがギョッとして後退りするが塗り壁の様なドズルに肩を押さえられて動けなくなる。
「どうなんだね、はっきりモノを言い給え」
「おい!」
ドン!
「不正規発言はするな。発言したくば挙手をして許可を取れ。議論の仕方や話し合いの仕方も知らんのか。
……ここは猿山か?」
ギレンの発言がスタジオの雰囲気を変えた。猿山か?でさりげなくカメラ目線。論敵を必ず左、自分を右になる様撮影させる……この構図は画面左側が障害、困難、権威を感じさせ、右側が改革、革新、挑戦を想起させる。演劇や芸術に造詣があればこの様な意図も掴めるのだろうが……ひな壇をボサーッと舐めてる様なボンクラには分かるまい。
「君、議事進行を頼むよ……さて、先程までの彼の主張において論点は4つ……」落ち着いた低いトーンで話を始める。論点を整理して「きちんと話は聞いていた」という姿勢は示す。
「いや、そういうはな
ドン!
「議長! いつ発言を許可したのだ! 議事進行をしっかりしたまえ!」ここで声を荒げる。
「すいません、まだギレン社長のお話が続きますので……」
「貴方は弁護士ではないのか? まさか法廷でもそんな不正規発言を繰り返しているわけではあるまいな?」
ここで彼に近付き見下ろして小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。さぁ、どんどんヒートアップしたまえ! 君は今侮られているのだよ! 激昂して無様な姿を電波に乗せろ!
……ほぅ、乗って来ないか。それなりに議論は経験しているのだな。それとも勝手が違って調子が出ないか?
「話を続けよう。まず破壊衝動云々だが『お話にならんな』競技で有る以上必ず勝敗はつく。過剰な勝ち方が不味いというなら阪神が時に発揮する大量得点は悪か? 滅多打ちにされたピッチャーに対するイジメかね?」
「……詭弁を……」
もう口でも言ってやらない。司会に態とアゴで示す。
「……静粛に願います」
「発言したければ挙手して許可を取れと言う話すら理解できんか……馬鹿も居たものだ。それに詭弁だと? まさか君の主張だけは詭弁ではないと言う訳ではあるまいな?」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは! こっちは
「議論のルールすら理解できない低脳だろう? 先に言うと私はMITで学士号2つ、博士号1つ、更にバークレーでMBAも取得しているが?」
「なっ……」
「えっ……?」
「……君たちはホスト側なのに何も知らずゲストを呼んだのか?」
キシリアが手を上げる。CM入りか。一旦中断だ。
「……どうした諸君、CMだよリラックスしたまえ」
カメラを手招きしてアングルを指示する。
「この角度だ。CM開けにこの角度で撮りたまえ、いい絵になる」
「はぁ……」
ふ、完全にスタジオを掌握したな。司会の傍に立ち威圧する。
「あ、あの……」
「議事進行もできないなら下がっていろ(威圧)」
「は……はい……」
【CM明け】
視聴者は混乱するだろうが司会席に立ち演説を敢行する。
「諸君の意見は理解した。要するに危ないから規制するなりやめさせろと、全く度し難い。敢えて言おう、愚かであると!
君たちは無策にもリスク調査もせずにやめろやめろと騒ぎ立てる。アレもダメ、これもダメ。瑕疵が少しでもあり危険があるから止めろという……結果、幾つもの産業が衰退し今やこの国は競争力を失い三等国に落ちつつある……何故だ! 何故我々はここまで無様になったのか!
改革改善をせぬからだ!
我々は数多くの問題を一つ一つ、段階的に発展させて今に至る。困難に当たればそれを調査分析して新しいテクノロジーを開発してきた。乗り越える力こそが人類の発展の礎であると言えよう。この為に多くの科学者や技術者、勿論文学哲学法学経済学……様々な分野で人々が協力し合い、世界を発展させてきた。これは歴史を見ても明らかである!
しかし現代日本はお寒い限りだ。自ら賢しげに語るメディア側の人間が率先して困難に当たるとすぐ止めろと合唱を始める。碌に下調べもせず、専門分野でも無いのにだ!
いつからこの様になってしまったのか! 我々の乗り越え改革する力はいつから失われてしまったのだ!
ワクチン戦争原発人口減少! 凡ゆる国難とも言える事態に貴方がたは何をした! 足を引っ張るだけか!
ゲームが俗悪だ危険だ子供の健全な発展を損なう……前世紀から言われている話だが結果はどうだ? 犯罪発生率は? 事故率は? 何かネガティブな要素が増加傾向を示したか? データを出したまえデータを! 相関を考察してより良い方策を探し、我々国民に新しい明るい光を見せよ!
口を開けばやめろやめろ……今や赤羽の酔っぱらいですらもう少しまともな話をする……酒も入っていない素面でそのザマか。公共の電波を何だと心得る!
立て! 視聴者よ!
社会を構成する我々自身が意識も新たに一つずつ困難を解決して行かねばこの国に未来はない! 一歩でも半歩でも良い。国民が一致団結して一歩歩めば、それは日本全体で1億2000万歩の歩みとなる!
立ち止まるな、歩き続けるのだ! 我々自身の明るい未来のために、誰かに頼らず未来を良くして行くために!」
スタジオは気圧されて静まり返っている……手応えはあった……後は……
パチパチと、弱い拍手の音がする。女性スタッフが涙を流し、ディレクターは呆然としている。やがて拍手は数を増やし、スタジオを揺るがしていく……
何十年かぶりのアジテーションは多少緊張したがまぁまぁ成功か。雰囲気で呑み具体策を示さぬまま「イギナーシ」を取り付けていたあの頃が懐かしい。随分歳をとったものだ。
そんな事を考えながら、ギレンは「こんな時に連呼して意気を高めるスローガンが無いのがこの国の弱点だな」などと考えたりした。
やはりあそこで「ジーク・ジオン」と入るから演説が締まるんだよなぁ。ほんと「連呼できるキラーワード」は大切やで……