バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
「あれ? 今日は何を?」
「お母様がプリンターは買いなさいって……」
「電子化が進んでる中、あまりプリンターは」
「電磁資料はすぐ消えるから、現物が大事なのよって」
「うーん、ちょい前までは電子記録をプリントして保存する必要あったんですが、今は電子データ保管でいいんですよ、まぁプリントしたものの方が高齢者にはウケるんですけどねー。で、ウチでプリンターというと……」
「しょうかがたにしなさいって」
「しょ……昇華型ぁーー?!」
「白色が印刷できるの」
「CMYKじゃないーーっ!」
完全特殊用途である。具体的に業務用で、バナージには「オリジナルガンプラデカールでも作るのか」と感じられたが……まあまあ当たりだ。ガンプラバトル足立カップを主催するジオン工業として、オリジナルTシャツなんかもオンデマンドで作りたいなーという話だ。尚、OKIのC941dnなどがこの用途に合致するが、現時点でバナージも知らないそのお値段は、なんとお値打ち139万8000円。間違いではない、13万ぐらいかとゼロを数えたら139万だった。オリジナルデカール作成までの道のりは高く険しい。
「わ……私、何かすごい事言っちゃってる? 大丈夫?」
詳しい事は何一つ理解してないミネバだが、バナージの……パソコン関係に詳しいバナージの余りの動揺にミネバは事態を何となく察した。お母様なんて話を私にさせるのっ!
「だっ……大丈夫です。ちょっと特殊なオーダーだけど……それでもっ!」
立ち上がるバナージをミネバは頼もしく思った。彼女がそれを恋心と認めるのは少し後になる。
全てはゼナの予想通りである。彼女の見立てが正しいのなら、彼はそのオーダーの異常に気付く筈。ミネバは慌てて背中をさするなりボディコンタクトを取るでしょうね……まだ、娘は恋を恋と認識しておらず……気楽に手を取り親身に心配するでしょう。しかし年頃の男の子はそうはいかないのよ……既婚女性悪魔の謀略。キシリアを義理の姉、ギレンを義理の兄としたゼナはザビ家の嫁として家風である「謀略」に長じていた。デギンをしてドズルには過ぎた嫁だと言わしめただけはある。
現物優先。これは印刷に限った話ではない。恋愛偏差値の低いハマーンには見抜けなかったが、ゼナはその優れた「女のカン」で未来の有望株を見抜いていた。というか、店に連絡してバナージがアナハイム高専生徒である事を聞き出している。この事は既に義理の姉に伝えて素行調査が開始されており、同時にジオン工業内給湯室ネットワークも稼働している。大変勤怠管理が厳格で近年稀に見るホワイト企業であるジオン工業社員には余暇が豊富にある……動かし方一つで女性従業員は余暇を用いて幾千もの目となり諜報機関と化す。
先ずは一手。バナージ君を先に籠絡する。ミネバが気に入らなければリリースすれば良い。主導権を握れ……義理の兄の薫陶だ。未来の有望株から主導権を奪取出来るなら140万円は安い買い物だ。なんなら経費にして利益圧縮しても良い……今季はリニアのトンネル工事も受注して調子は良いのだ。遠く山梨の山中で陣頭指揮を執る旦那様もミネバと言えば裁可するのは明らか……
足立島根に魔女がいる。高校生の娘を持つ歳とは思えぬ妖艶さと老獪さを兼ね備え、ジオン工業を裏から支える魔女がいる。ミネバの母とはその様な女性であった。後のバナージ・リンクスの義理の母である。
デカール用プリンターが高いから、一部ではセブンイレブンのプリンターで店員には無断で透明デカールを印刷するヤカラもいる。熱でデカール紙が溶けて詰まると大惨事になるから控えよう。白色印刷をしなければ昇華型プリンターでも安いものはある。