バナージ・リンクスの受難【完結】   作:PureFighter00

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話が膨らむンゴ……


大人の戦い

【ヤジマ商事 エントランス】

「企画営業部の関根部長でございますか?」

「10時にお会いするお約束で参りました。永野と申します」

 ヤクザチックに乗り込んでも良かったが、結局紀伊から電話番号聞いて普通にアポ取り付けた。今日の永野は紀伊の代理人(エージェント)である。彼は今ある大型プロジェクトへ参加予定でガンプラバトルシステムにかまけている余裕は無い……この事自体は嘘では無いのだ、もう話は首相や経団連、文科省を巻き込んで動き出しており「GBNの実在する異世界(パラレルワールド)の話ではあるが」紀伊は本来その中心に居なければならない重要人物。こんな所でブラック勤務してる場合では無い。

 ところが紀伊は親切にもガンプラバトルシステムを修正してもいいと言う。ぶっちゃけGPD開発した際のデータと稼働しているGBNデータを転用してしまえば、この世界でも一気に没入型VRシステムが流行るだろう。ただ、インフラ整備やシステム構築などクリアすべき課題は多く、開発元がこの壮大な計画を了承して「同じ流れで行きましょう」と了解しなければ話は通らない。カネもヒトもモノも必要なのだ。

 勿論、やりようはある。極端な話永野がゲンブツを全てこちらに持ち込みコピーしたら、VR系システムも何も急速に開発が進むだろう。しかしそれは海賊版の不正コピーで具合が悪い。異世界であるとは言えそれは永野のエンジニア魂やラララ科学の子としての哲理に反する。出来るだけこの辺りは適正にやりたくはある。

 

【ヤジマ商事 会議室】

「永野と申します」

「関根です。早速ですが紀伊氏は……?」

「……すいません。所用で外せず、私がエージェントとしてお話をお伺いさせて頂きます」

 おかしい。元部下を「紀伊氏」と呼ぶか? 

「紀伊も気にしておりましたが前任の……」

「ええ、昨日付で前任の部長はヤシマ物産アルゼンチン支社で羊毛買付業務に携わる事になりまして……」

 ギレン氏の怒りのチクりによるものである。南無。

「なるほど、このご時世ですし大変ですなぁ」

「私もこの業界は全くの門外漢でして。ガンプラバトルシステムの根幹に触り続けた紀伊氏の力がどうしても必要なのですよ」

 嘘は無いだろう。しかし永野が敢えて企業訪問したのは訳がある。いくら取り繕おうとしても、訪問すれば企業の雰囲気はバレてしまうのだ。例えば朝の会社玄関を見る。定時前に颯爽と歩く若者だらけだと「年寄り・ベテランが残り難い業態だ」と分かる。遅刻寸前でも床を眺めながら足を引き摺る様に歩く奴ばかりの会社に明るい未来はあるか? 挨拶はどうだ、出勤時間に会社からボロボロの風体で外に出て、コンビニ弁当を抱えて来る一団が居たとしたら?

 その会社では当たり前の毎日の風景から、その会社の日常が見える。その会社では日常となり「見慣れた風景」であるが故に無頓着になっているその姿……優れたセールスマンはそれだけである程度「察してしまう」 更に言えばさりげない関根部長の出したセリフの中にもサインが入っている。前任の部長がアルゼンチン? 懲罰人事にしても苛烈が過ぎる。そして後任は畑違いの人間で経験者の引き戻しに躍起……関根は「こちとらもう後には引けんのんじゃい!」というメッセージを送っている。永野も代理人を名乗り「お前んとこに紀伊をやる訳にはいかんのよ。内容次第では一時的に派遣してやらんでも無いが」を匂わせている。

 それは武術の達人同士の戦いの様に、一言二言の挨拶の間で大変な駆け引きが行われていた。互いにそれを感じ取った2人はとりあえず席に着いた。これからが大人の戦いである。

「恐らくは世間を騒がせているデンドロ事件……あの巨大なガンプラが爆破破損した件ですな……その対策を求めての紀伊の招聘かと思いますが……」

「いやぁウチも馬鹿な事をした。紀伊君には以前より良い待遇での復職をお願いできないかなと」

「残念ながら彼は今とある国の官民協力プロジェクトの主力でしてね、ご期待には添えないかと」

「官民協力? それはまた……」

 関根は柔和な顔を崩してはいない。ハッタリだと思い込んでいるのだろう。まぁこちらの世界の話ではないのだから妥当な判断だ。

「それは兎も角として、紀伊自身も自分が手掛けたシステムの窮状には心を痛めておりまして……条件次第ではご協力が出来るかもしれません」

「ほぅ、興味深い。どの様な条件ですか? 是非とも拝聴したいのですが……」

「良いのですか? 申し訳ないがお話する前にNDA(秘密保持契約)の締結が必要になります」

「NDA? そこまで?」

「そこまでです。もし締結したら貴方はその内容に腰を抜かすと思いますよ」

 書面内容を関根部長が確認している。視線の動きから2度は読み、下部の英文注釈まで念入りに読み込んでいる。無言の5分が過ぎ、ようやく関根部長の重い口が開く。

「本当にハッタリでは無いのですね?」

「私は虚勢を張らぬよう留意しております」

 

 関根部長は丁寧にサインをした。

 さて、ご覧頂こうか! これですら紀伊の構想の一部に過ぎないのだがな!




VR周りはダイバーズ世界がかなり先を行ってるけど、別にダイバーズ世界が全てにおいて優越しているわけでは無い。互いに長所となる分野があり、それがぶつかって居ないから大躍進が期待できる。特にプラフスキー粒子の発展応用や物理学的な分野ではアーリージーニアスニキとギレンという才能によりファイターズ世界が先行しており、リニアモーターカーなどはダイバーズ世界より10年は先に実用化するだろう。
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