バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
【第二戦】
「GM/GMの政だ。無論出てくるんだよなぁ、永野玄一……いや、GM Crazy!」
「えー、ワシやんなきゃダメか?」
「GM/GMの生みの親の癖に弱気な事を!」
GM/GMはPPSE社破綻後の永野がガンプラマフィアの依頼で設計したキットである。
架空のガレージキットメーカーを立てて、ワンフェスでの1日版権プラキットとしてガンプラバトル用にデザインされた機体なのである。永野が以後必ず現地現物を確認する様になった苦い記憶だ。
その後このキットはガンプラマフィア専用ファイター機体となり各所で猛威を振るう。素組での機体性能、量産性、可動範囲の広さや多彩なウェポンマウントなど「当時の永野」のガンプラバトル対策が存分に盛り込まれている。
「全く、若い頃のワシも迂闊極まりなかったな……」
「せめて自分のデザインしたガンプラで逝け!」
「桃李、パシケファロ借りるぞ」
「え? 永野さんがジム以外を?」
「GM Crazyの名が泣くぞ玄一!」
「ワシゃー気付いてしまったんじゃ……安価で出来が良く素組で人気がありどこでも見かける機体……それって現実世界の主役機達だよな……」
「いや、ガンダムはRXシリーズ、V作戦の……」
「宇宙世紀ではそうだ。でも現実世界では逆なんだ。ただでさえ生産数が少ないGMシリーズキット、それをカスタマイズして専用機にしてるワシは現実を見ずに宇宙世紀を、宇宙世紀だけを見て遊んどったわ……その悟りがあって生まれたのがこのパシケファロよ。これで過去の亡霊を祓ってくれるわ」
手早くパシケファロの破損部位をユニットごと交換して関節の具合を見る。ギレンとバナージだけはチラと見えた内部フレームの異質さを見取った。
「……あの素材は……」
「エンジニアリングプラスチックだ。君以外にも同じような事を考える奴が居たのだな」
「そんな資材を……」
「フルスクラッチとはそういうものだ。使えるものなら何でも使う……時計バンドでもコンパウンドでも水鉄砲でも……プラ板の箱組や粘土造形のみがフルスクラッチではない」
「あらゆる素材やパーツを組み合わせて機体を作り出す。その加工技能とデザインセンスが『モデラー』の真髄よ、何年もポリスチレンやABSに甘んじて来た怠惰、今こそ思い知るがいい……」
「待ってくれ! それでは既にガンプラでは……」
「安心しろ、ポリキャップだけはバンダ○製だ」
それは果たしてガンプラだろうか?(哲学)
テセウスの船の様な哲学上の問題点を残しつつパシケファロが飛ぶ。ステージは荒野で遮蔽物もない開けた場所だ。
急上昇してループを描きつつ頂点付近で90度ロールし、ナイフエッジのまま螺旋状に高度を上げて行く。対してマフィアのGM/GMは動かない。
「撃たないのか?」
「当たらない弾は撃たない主義だ」
「当てる自信があるみたいだな」
パシケファロは上空で振り返ると一瞬停止、GM/GMを見据えてバレルロールをしながら急降下する。ロール半径を微妙に変化させつつ不規則なマヌーバで射撃回避運動を取るがGM/GMは盾を構えて腰を落としたままだ。そこに羽根を広げた鷲の様にパシケファロが突っ込み、両足でGM/GMの盾を踏みつける。GM/GMはその猛烈な衝撃を全身で緩和して大地を削りながら踏みとどまった。
「よく磨いてるな」
「マフィアも最近は暇なんでね」
優秀なキットでも磨かねば光らない。GM/GMは素組でもそれなりに強力な機体だが、シンプルな面構成である事からこそ全身研磨し易い機体になっている。チューニングが容易なのだ。更にこの機体……関節の保持力を上げる為に軸を太らせている。先の衝撃に吹き飛ばされなかったのも関節の硬さと衝撃の殺し方が上手いからだろう。
盾を蹴り飛ばしたパシケファロは高く蜻蛉返りをして着地。そのまま機体を僅かに浮上させてGM/GMに迫る。牽制程度のGM/GMから放たれるビームスプレーガンをバレルロールでかわして肉薄! 至近距離からダム・ダムと火球を放つが、GM/GMはバク宙で回避。しかしパシケファロはその背後を取って銃口を向ける。
「貰った!」
「悪いがそいつは俺の間合いだ!」
高いバク宙から捻りを加えてパシケファロの射撃を回避したGM/GMがパシケファロの両肩に脚を引っ掛け膝で頭を挟み込む。
「なっ!」
「フランケンシュタイナーだと……」
GM/GMが鋭く身体を伸ばして孤を描くと、一瞬遅れてパシケファロの頭部が大地に叩きつけられる。
「……その機体、射撃戦には滅法強そうだからな。バリア張るとかMSとして恥ずかしく無いのかね……」
「iフィールドがある世界で何を言う!」
「……まぁ、そんなもんはステゴロでは役に立たん」
盾を背中にマウントしたGM/GMが今度は半身に構えてステップを踏む。ボクサーの様な構えだ。
「案外皆、格闘はしたがらなくてね……おかげで稼がせてもらっている!」
ライトハンドのジャブ2発から左の低いフックでボディブロー。ウェイトの差はあるが手慣れた動きでGM/GMがパシケファロを弄ぶ。
純粋に、喧嘩が上手い!
良くマフィアやヤクザは相撲取りやボクサー、プロレスラーを仲間に引き入れているが、その世界では対して戦績を残せなかった連中でも「世間一般の市民」から見れば絶対的な強者である。人を叩き傷付けるにも技術がありノウハウがある。全くその手の技術を持たない人々がこれに対抗するのは難しい。
「空を飛んだり銃を撃つよりこっちの方が得意でね」
コンビネーションブロウ5発! 上手く体重を乗せて虚実を織り交ぜながらGM/GMの拳が的確にパシケファロを捉える。頭部右SEセンサー破損、先のデモンストレーションでビームマグナムの直撃を受けた右肩の動きが鈍る。
「惜しい、な」
永野がポツリと呟くと、パシケファロは低く唸り始めた。キィ……キィ……ン。キィ…キィ…ン。耳障りな
「逃げるのは上手くなったな、ジムクレイジー!」
「残念ながらワシの操作じゃない。パシケファロが勝手に避けている」
別にパシケファロが意思を持って動き出した訳ではない。SEジェネレータを起動させてフィールドを構築し、機体の慣性質量を限界まで低減させただけだ。余りに軽い?機体は僅かに拳に反発するフィールドに押されて木の葉の様に翻る。パシケファロの異常な障害物回避高速飛行と原理的には同じこと。
キィキィン! キィキィン! キィンキィンキィンキィン!
吼えるパシケファロに敵の攻撃が当たらなくなる。強烈なSEフィールドが慣性質量を取り戻したパシケファロを隈無く覆い、GM/GMの拳を磁石の反発の様に寄せ付けなくなる。エンジニアリングプラスチック製の躯体は健在。パシケファロは全身に力を漲らせて胸を張る。
状況を飲み込んだマフィアはフィールドの中心……丁度パシケファロの丹田に向かい拳を突き出すが、威力を殺されて全くダメージを与えられない!
「クソっ! 汚ねえ!」
「いきなりファイター本人殴りに来る連中が何言ってんだ。SEジェネレータの出力上がるまでに仕留められ無かったそっちの手落ちだぞ。パシケファロの能力ぐらい知ってただろうに」
「お前ならGMで来ると!」
「ああ、そりゃお生憎様だな。次はGM持ってくるわ。SEジェネレータ搭載で藤田デザインのジムをな。今日はこいつで我慢してくれ。アポが無かったんで用意してないんだわ」
無造作にパシケファロの左手をGM/GMに翳すと、指先から紫電が走り掌の中に黒い何かが凝縮される。
「ガンプラ粘流はあらゆる素材を望む形に作る技。それは素材が対戦相手や工具がガンプラでも変わらん……」
黒い何かが案外ゆっくりGM/GMへと進む。凝縮されたSEフィールドが空間そのものを破砕しながらGM/GMに到達すると、メキメキと音を立てながら
「このゲームでは、ワシのGMへの思いが力にならんでな。従来のガンプラバトルシステムならお前など相手にならないぐらいフルボッコに出来たんだがなぁ……案外、強い機体で戦うってのもつまらない物かもしれんね」
[Battle ended. Winner "Pachycephalo-Sword“]
そう、勝ったのはパシケファロであって私ではない。永野はちょっぴりセンチメンタルになりながらパシケファロの背中を見つめていた。
ジム好きがジム破壊して楽しい訳無い。