バナージ・リンクスの受難【完結】 作:PureFighter00
次は星一号作戦だ!(まだあるのかよ!)
「大変にすまない事をした、許して欲しい」
それは見事な土下座であった。ドズルは道理や義侠を愛する男である。若き日のドズルを描いたThe Originにも描いてある。
土下座とは滅多にする物ではないが、すべき時に直ぐ様それを行うのは勇気が要る。己の頭の価値を知るならば尚更だ。ゼナはそれを厭わないドズルの素直さと実直さに惚れた。彼女だけは愛するドズルの突飛な行動により「予想外に事態が好転する事」を予期していた。料理の手伝いにミネバを呼び出し、2人で客間の話に耳を傾ける。ジュウジュウと焼けるハンバーグの良い香りと共に、パパの家では見せない「男」を感じさせる低い声が心地良く響く。
バナージはこの大男を好ましく思った。足立の民として育った彼であるから、また然程裕福ではなく足立のノリとは少し異なったから……彼も喧嘩の一つもした。意識が刈り取られる程の力は流石に経験したことは無く、この男の腕っ節に感嘆さえ惜しまなかった。そしてこの土下座である。なぁなぁでは済まさずキチンと謝意を示した。ヤマダ電機クレーム担当でもこうまで見事に頭を下げることはない。この清廉さに彼は真の男を見た。バナージは
ドズルもビジネス上の要請から礼法には些か詳しい。雑多な職人と協働する機会の多い彼ではあるが、そんな中でも弁えた人物はいて、彼はその所作を見逃さなかった。
ドズルは感心している。良い少年だ。ラル部長補佐なら迷わず寄越せと談判しに来るに違いない。こんな息子が欲しかった……ミネバに欠けたる部分など一つも無いと心から思う彼であったが、息子と共にキャッチボールをしたかった。自らも少年に戻り、息子と友情を育みたかった。これも偽らざる本心である。或いは末弟ガルマへの愛情には、望んで得る事が出来なかった息子への思慕があったかもしれない。
「足を崩そう、バナージ君。ようこそ我が家へ……かぁさん! 何かジュースを、あとワシにはビール!」
はぁい!と明るく声を掛けて、お盆に瓶を乗せて運ぶ。ゼナは「これは落ちたわね」と内心ほくそ笑んだ。私の見立てに間違いないわ。あなた男の子が欲しかったのでしょう? いい事を教えましょうか? ミネバが望めばその子は貴方の息子になるのよ♪
ゼナの心はチェンバロ作戦直後に連邦艦隊を襲ったララァ専用MA(商標配慮)のビットの様に軽やかだった。私もあなたも欲したもの、神様が授けてくれなかった宝物を、私たちのミネバが連れて来た。私たちはこれから完璧になるの。私たちの幸せが増すのよダーリン。ミネバを差し出すなんて考えてはダメ。私たちはミネバと息子を両方手にするの!
ゼナは嫁入りの日を思い出していた。父は涙を堪えて「お前を嫁に出すだけじゃ無いんだ。ドズルさんを私たちの息子にしたんだ。こんな嬉しい日はない。幸せにおなり……」そう言った。あの日は父なりの精一杯の強がりだと思ったけど、お父さん……あれは本心だったのね……
ただ1人、ミネバだけはぷりぷり怒っていた。ドズルのハンバーグはミネバの物と交換されて、ちょっぴりドズルを落胆させた。ドズルと仲良く喋るバナージを見て、ゼナはその恐るべき人たらしの才に少しだけ戦慄した。オヤジ殺し……社会で成功する為の特殊スキル。これは化けるわねとハンバーグの味を尋ねながら彼女もまた喜んでいた。
辛いのはバナージである。折角招待されたのに料理の味がしない。ゼナの料理の腕のせいではない、何故かお父様と仲直りしたのに口をきいてくれないミネバの真意が読めぬのだ。彼は極度の緊張状態にあった。気が気でない。足立島根の魔女と呼ばれたゼナも女故に年頃の男の子の内心を計りかねた。バナージの焦りが分かる方はここに「ここ好き」連打をすると良い。筆者ならこの席で冷や汗ダクダクである。
帰りたくなるよな。こんなん。