走ることに安心はないのだと、彼女はそう笑った。   作:サッカーボーイ

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皐月賞:サクラスターオー

 

 皐月賞。

 

 ウマ娘が一生に一度しか走れないクラシックレース、その序章。

 

 三つの冠を奪い合う彼女たちにとって、出走すること自体が誇らしい格の高い場所。

 

『最も速いウマ娘が勝つ』────そう謳われる大舞台に、オレの担当ウマ娘は立っていた。

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 スタンドの最前列でゲートに入っていくウマ娘達をぼんやりと眺める。

 何だかんだ見慣れた光景だが、それでも担当ウマ娘が大舞台に立つときは不思議と胸が高鳴ってしまう。 

 

「先パーイ! 頑張れよー!」

 

 隣に立つディクタストライカが無邪気に応援していた。

 学園内でたまに見かけた時は大体孤高って感じの雰囲気出してんのに……

 

「んだよトレーナー」

「いや……お前、案外仲間思いなんだな」

「同じチームの先輩だし応援くらいするだろ」

 

 当たり前のことを当たり前の表情で言われた。

 

 先入観はよろしくない。

 仲間思いで協調性もそこまで問題がない、という解釈に修正しよう。

 

「来年はストライカも走るんだ。よく見ろよ」

「……おう」

 

 なんだか微妙な表情になった。

 

「スターオーなら何も言わなくていいだろうけど、一応言っておく。今日この日はお前にとって掛け替えのない経験になる一日だ」

「オレにとって?」

「ああ。直接走る訳じゃないが、きっと役に立つ」

 

 サクラスターオーは中団から抜け出して差す、先行よりの差しだ。

 ディクタストライカも似たようなタイプであり、きっとレース展開は似たようなのが望ましいだろう。

 

 そした馬場の状況、実際に走るとなればどこが苦しくなるのか。どのポジションのウマ娘が有利でどこが不利なのか、走っている最中のウマ娘の表情からも読み取れることは多い。

 

「ストライカが実際に走っていると仮定し、自分ならどう動くのかを考えながら見るんだ。そしてその通り行くとして、何が敵として立ちはだかるのかを思い付け」

「……わかった」

 

 少し考えるような仕草をしたのち、素直に頷いた。

 

 要するにイメージトレーニングなんだが、今の内から考える力を付けさせようという魂胆である。スターオーは一年間でモノにしたが、ディクタストライカにもペースがある。それを把握するためにも課題として出す必要があった。

 

 同期の中ではかなり優秀な方だと思うんだけどな。

 

「トレーナー」

「なんだ?」

 

 煙草代わりのキャンディーを加えて、ディクタストライカの質問を待つ。

 

「勝てると思うか?」

「勝ちが9割、負けが1割」

「そういうもんか」

「そういうもんだ」

 

 本音は勝つと言ってやりたい。

 それでもやはり、勝負にはある種の呪いが掛かるのだ。

 絶対に負けない選手など存在しない、勝率100%のままで競争生活を終えたウマ娘だって訳アリが大半だろう。スーパーカーという異名を与えられたウマ娘だって、勝負する土台が違えば負けていた可能性がある。

 

 だから絶対とは言えない。

 少なくとも、絶対を崩してしまった側のオレは。

 

 二人してじっと待っていると、やがてファンファーレが鳴り響く。

 年に限られた数しかやらないG(グレード)Ⅰレース、しかもクラシックというウマ娘の人生で一度しか走れない大舞台。

 

 ────大歓声が沸き立つ。

 

 最前列でターフを眺めるオレ達を包み込むように、爆音が突き抜けた。

 まだ始まってすらいないというのにこの盛り上がり方だ、第4コーナーを超えた先が恐ろしくなってきたな。

 

 隣に立つディクタストライカは少し堪えたようで、耳を絞って不快感を露わにしている。

 

「慣れろ。ダービーはこんなもんじゃすまないぞ」

 

 恐らく聞こえただろう。

 耳を僅かに動かし、尻尾でオレの膝裏を攻撃してきたのだから。

 サッカーやってて良かった、体幹鍛えられてるから並の成人男性では耐えられない攻撃を耐え抜いたんだ。

 

 そして歓声が止み、静まり返ったターフの上で、今か今かとゲートが開くのを心待ちにしているウマ娘達。

 

 それはきっと見ているオレ達も同じだ。

 胸の高まりだけを感じながら、固く閉ざされたゲートが今────開かれる。

 

 一斉に駆け出したウマ娘達。

 白一色の勝負服に身を包んだ我が担当は枠番は3枠6番、そこまで悪くない位置だ。

 先行争いが激しく行われる最中、するすると後ろに下がり中団……いや、後方集団に陣取り第1コーナーを迎える。

 

 大外からぐいぐい内側へと集団が縮こまり、中々団子な展開になりつつある。

 

 スターオーは後方5番手と言ったところか。

 

 少し後ろ過ぎるのが気になる。

 持続力の有る末脚が強みであり、決して瞬発力に欠けている訳では無いが、最後方一気を軸にするには心許ない。おそらくオレと同じ答えを持っているであろうスターオーは、第1コーナーを抜けた辺りで少しずつ前に進み始める。

 

「中団まで出ちまうのか?」

「お前ならこの状況、どう考える」

 

 レースの最中ではあるが、オレ達は見守る事しかできない。

 祈るくらいならばその間に身の有る会話をさせて頂こうと、ディクタストライカの問いに問いで返す。

 

「……第4コーナーで中団から抜け出して大外ぶん回す。だから、ここはまだ耐えるぜ」

 

 正解だ。

 ハイペースとは言えないレース展開であり、差しよりは先行勢の方が疲弊が強いだろう。好位置の奪い合いが仇となり、後半息を乱す可能性が高かった。

 

 坂を上り第3コーナーを迎え、未だスターオーは中団に留まっている。

 焦っている表情は無く、未だ計画通りと言った様子。

 

 まだどのウマ娘も疲労は出ていない。

 しかし追われる立場である先行ウマ娘達は、やや焦燥が出て来たか。

 蓋をされない為にも外へ内へとせめぎ合いをしている内に、ジワジワ削れる体力。感覚的に拙いと悟ったか? 

 

「動いたっ」

 

 ディクタストライカの声に釣られ、スターオーへと視線を戻す。

 ゴール地点までおよそ500、既に終盤と言って差し支えない状況。第4コーナーへと先団が突入する中、それすらも追い抜く勢いで前へと迫っていく。

 

「────行けっ、スターオー!」

 

 コーナーを抜ける頃には先頭まで5バ身。

 もうここからは直線を駆け抜けるだけ────そう思った矢先、一瞬視線が合った。

 

 彼女は領域(ゾーン)へと至れなかった。

 まだ成長途中だからか、それとも、彼女にその素質が無かったのか。現役最強であるシンボリルドルフのような、最強と鎬を削り合う三冠馬ミスターシービーのような、前人未到の偉業を打ち立てたお嬢様、メジロラモーヌのような才能が。

 

 彼女はそれを受け入れた。

 

 才能が無いのなら、それ以外を使えばいい。

 そう言ったのはトレーナーでしょう。そう言って、より一層激しいトレーニングに身を投じた。

 

 悔しくないわけが無い。

 領域は時代を作り上げるウマ娘が使える、と言われている。

 それを彼女が持ちえないというのならば、きっとそれは────そういう事であり。

 

「これまでのお前を信じろ! サクラスターオー!」

 

 ないものねだりはさせない。

 歯を食いしばり地面を蹴り上げた彼女は一気に先頭集団へ混ざり、そして大外を突き抜けるように一番先へ躍り出た。

 

 観客席は大歓声で包まれている。

 

 そうだ、見せつけてやれ、サクラスターオー。

 お前の脚を不安だと言ったやつを、お前の事を不出来だと言ったやつを、お前の走りを肯定できなかった愚か者たちを。

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 元プロサッカー選手のトレーナーがいるらしい。

 

 私が入学した年のトレセン学園にはそんな噂が流れていた。

 サクラの代紋を背負ったものの脚のこともあり、周囲から少し距離を置いていた私の耳に入ったのは、選抜レース直前の事だった。

 

 特に滞りなく時刻通りに進む選抜レース。

 夕方に走る予定だった私は、周囲から受ける奇異の視線に辟易しながら脚のケアをしていた。

 

 ──……やはり、そう見られますか。

 

 生まれつき右脚の発達に異常があり、それは成長した今でも変わらない。本格化を迎えてなお変わらない歪さに歯痒くなったことなどしばしば、自分だけがハンデを背負っている現状に苛立ちを抱える始末。

 

 それでも私は走ると決めた。

 実家は強制しなかった。それどころか、サポートに回った方がいいとアドバイスもしてくれた。治る保障もない障害を抱えたウマ娘をサポートする手間暇を考えれば、それ以上に有力なウマ娘に時間を割きたかったのだろう。

 

 わかっている。

 名門サクラ一族に生まれたのだから、それくらいは理解している。

 

 それでもウマ娘に生まれてしまったのだから、強い本能が訴えかけてくるのに逆らえなかったんだ。

 

 見返す、なんて崇高な理由じゃない。

 

 ただ自分が走りたかった。

 実家で見たレース映像。ターフの上を駆け抜ける多くの姿、互いを喰らい合うような闘志の鬩ぎ合い。勝利を求めて美貌を歪ませ覇を競う、あの世界で一番に輝きたかった。

 

 スターオー(星の王)という名前に負けないくらいに。

 

 ……そう意気込んで、努力を続けて来たけれど。

 

『あの子が今年のサクラ一族か……』

『あの脚見たか? 噂通りだったな』

 

 努力だけでは覆せないことはある。

 本格化を迎えれば急成長するかもしれないと、一抹の希望を抱いて中央トレセン学園の狭い門を潜り抜け、栄養にだって拘って来た。

 

『ああ、細すぎる。アレじゃあ全力の踏み込みに耐えられないんじゃないか?』

『貧乏くじだな。失敗したらサクラ家になんて言われるか……』

 

 サクラを見縊るな。

 そんなつまらない文句を言う訳が無い。

 たしかに、論理的ではない非効率的なトレーニングメニュー等を課してウマ娘を壊すようなトレーナーに罰を与える事はある。それはそちらに非があるからだ。

 

 一人のバ鹿なウマ娘が、愚かにもトレーナーの言う事を無視して怪我をした。

 

 私の場合そう処理されるだろう。

 周囲の反対も押し切って、ウマ娘としての幸せを手に掴もうとした私のことなんて。

 

 そんなこともわからない盲目なトレーナーなど、此方から願い下げです────そうやって、気を強く保とうとした矢先のこと。

 

 それまで疎らにざわめきが広がっていたターフが静まり返る。

 レースがまもなく始まるというのに、誰一人として言葉を発していなかった。何か異常事態でもあったのかと見渡し、皆の視線が一人の男性と一人のウマ娘に注がれている事に気が付いた。

 

 漆黒の美しい髪色に、凛然とした瞳。

 トレセン学園の共有の服である筈なのに、どこか気品あふれる優雅さ。前髪に人房流れる流星の如き白房が、その美しさを引き立てていた。

 

 ────メジロラモーヌ。

 

 今年のティアラ路線最有力候補であり、トライアルレースと本番である桜花賞を勝利し一冠を手にしたウマ娘。

 

 どうして選抜レースを見に? 

 私の考えは周囲と一致していたらしく、思わぬ大物の登場に僅かに空気が引き締まった感覚がした。

 

『おお、懐かしいな。去年見たきりだもんな、うんうん』

『あなた2年目の新人なんだから当たり前でしょ……』

 

 一組の男女はこちらの緊張感も気にせず自由な空気を出している。

 その空気感にあてられたのか、先程まで張りつめていた雰囲気が緩む。そしてポツポツと呟かれた言葉をウマ娘の聴力が捉えた。

 

『…………川内(せんだい)だ』

『どうやってメジロを口説き落としたんだか……』

『新人だってのに、一体どんな手を使ったんだよ』

 

 川内(せんだい)秀次(しゅうじ)トレーナー。

 2年目(担当したウマ娘がジュニア級だったので、実質的に1年目と扱われているらしい)にして担当ウマ娘GⅠ初勝利を挙げ、早くも一流トレーナーへと片足を踏み出した優秀な人。

 

 桜花賞が終わったのがつい先日の事なので、流石に疎い私でも耳にする機会があった。

 

 キョロキョロとターフを見渡して、彼はにこやかに笑いながら懐に手を入れ何かを探る手付きてゴソゴソ弄り、隣に佇むメジロラモーヌさんに睨まれて手を止めた。

 

『……ちょっと』

『すまんすまん、流石に冗談だ』

 

 そう言って彼ははにかんだ。

 その信頼関係が、羨ましく見えた。

 

 天才トレーナーと才媛のコンビ。

 時代を制しているのは圧倒的な一人の絶対王者でも、これからまだまだ新たな時代は訪れるのだと、胸の内で少しだけ炎が燃え上がる。

 

 ────私も、サクラの名に恥じないウマ娘に。

 

 そして臨んだ選抜レース。

 私は、ゴール200m地点で片足への負荷が重すぎて走行不能になり。

 

 下バ評通りの実力を発揮してしまい、絶望に打ちひしがれる事となった。

 

 

 

 

 

 ────満足に走る事も出来ないのかと、己に罵倒もしましたね。

 

 一生に一度しかない大舞台、クラシック一冠目である皐月賞の最中、私は恩人との出会いを思い返していた。

 

 緊張はある。

 でもそれ以上に、今この場に立っている事実に高揚していた。

 

 サクラ一族でも皐月賞に必ず出走している訳ではない。

 寧ろ、出れないウマ娘だって大勢いる。そんな中で右脚にハンディキャップを抱え、一族の中でも優先順位の低かったウマ娘が皐月賞にて最有力ウマ娘として呼ばれる事となった。

 

 復讐心のような感情は無い。

 自分が上の立場で、この家を盛り立てなければいけない使命を抱えていたのなら、きっとそうしたのだろうから。それが名門というものだ。

 

 …………でも。

 思う事がなかったわけじゃない。

 

 だから余計に、その…………あの人に感謝はしてもしきれない。

 

 ────ありがとうございます、トレーナー。

 

 見捨てないでくれてありがとう。

 無様な私を拾い上げてくれてありがとう。

 誰からも必要とされていなかった私を、ウマ娘としての私に価値を見出してくれて、本当に、ありがとうございます。

 

 既にレースは後半戦、第4コーナーを大きく外回りして先頭集団へと齧りつく。

 

 直線へと抜け出した後、大外という不利位置ではあったけれど想定通り。

 前を遮るものは何一つとして無くて、後は駆け抜けるだけだと本能で察した。

 

 参加しているウマ娘達に、この場所から私を差し返せる子はいない。

 分かっている筈なのに、本能で理解した筈なのに、不安を取り除けない理性が邪魔をする。ここで勝負を仕掛けるべきか、それともあと100m堪えるか。

 

 でもこれ以上遅くなったら、瞬発力で差されてしまうかもしれない。

 そうなるくらいならば事前に着差を付けてでも────

 

「────行けっ、スターオー!」

 

 思わず、スタンドへと目線を向けた。

 

 彼は真っ直ぐ私のことを見ていた。

 隣に佇む後輩ウマ娘と並び、皐月の舞台を走る私だけを。

 

『君。そこの、途中で力尽きちゃった子』

 

 あの時投げかけられた、残酷な言葉を思い出す。

 スタンドからターフを見守るトレーナー達が私に対して好き勝手言っている。ウマ娘の担当をしているのだから、その小さな話し声だって聞こえると知っている筈なのに。

 

 でもそれは事実だった。

 どこまで行っても、私はレースの途中で脚を庇いきれず競争中止した愚かなウマ娘。サクラを名乗り入学しておきながら、力配分すらロクに出来ない無能。

 

 その評価が正しく、もう覆せないのだと理解し折れた私に追い打ちをかけた、ひどい人。

 

『名前はなんて言うんだ?』

 

 嘲笑うつもりか。

 

 そう警戒心を顕わにした私に、担当ウマ娘へと向けていた笑顔を変わらず向けながら、こう言ったのだ。

 

『オレは川内秀斗。トレーナーの端くれだが……どうだろうか。オレを、トレーナーにしてくれないか?』

 

 あの時私が何を思ったのか、貴方はわからないでしょうね。

 

 わかってもらうつもりもありません。

 

 言葉で伝えるようなことじゃ、ありませんから。

 

 ────歯を喰いしばって、右脚で大地を踏みしめる。

 

 折角拾ってもらった私は、天才じゃなかった。

 才能は一流に劣るだろうし、時代を作るウマ娘のように領域を使う事も出来ない。

 貴方は言わなかったけれど、それくらいの事は私でもわかる。現役最強と謳われるシンボリルドルフや、その最強と覇を競い合う三冠馬ミスターシービーや、貴方に栄光を齎したメジロラモーヌさんのような才能が無いのだと。

 

 そして貴方は言った。

 領域が全てを左右するわけじゃないと。

 

 それが慰めだということくらいわかっている。

 だって、他ならぬ領域を使用して世界の頂点に立った貴方が領域の有用性に気が付かないわけが無いのだから。

 

 ────それでもいい。

 

 貴方に勝利を捧げられるなら、領域など無くてもいい。

 

 これは証明なんだ。

 私でもクラシックに挑めるのだと、私でも勝利を競えるのだと、私でも先頭の景色を拝めるのだと。

 

「これまでのお前を信じろ! サクラスターオー!」

 

 ええ、信じますとも。

 貴方が信じてくれる、私自身を! 

 

 先頭集団を抜け出して、一番先へ躍り出る。

 ペースを崩すな。もっと、もっと早く。あと200mだけでいい、その僅かな時間だけ最速であればいい。

 

 右脚も動く。

 左脚も調子がいい。

 

 ああ、最高のコンディションです。

 自分で考えて自分で揃えろ、そんな風に言い放った貴方は少し嫌いでした。それでも決して間違えてなかったと、嘯く大人達に叩きつけてやりましょう。

 

 川内秀斗トレーナーは私にとって、かけがえのない大切な人なんだと。

 

「────はあああぁぁぁっ!!」

 

 息を振り絞って、視界に映ったゴール板を駆け抜ける。

 

 周りを見る余裕なんて一切無かった。

 誰かと競い合う余裕なんて、一切ない。

 ただ勝利だけを見据えて走らなければ、きっと私は手にする事すら出来ないだろうから。

 

 走り抜けて、息を整える為にゆっくりとペースを落としていき、やがて第一コーナーの中間で脚を止める。

 

 ────大歓声が響いた。

 それに気が付かないくらい集中していたのか、自分自身のことだと言うのにどこか他人事のように感じた。

 

 結果は、結果はどうなんだ。

 肩を上下させながら、私は必死になって電光掲示板へと目を向ける。

 

 1着だと表示されている番号は…………

 

「スターオーっ!!」

 

 その声に導かれるように、表示された数字に目を見開く。

 

「サクラスターオーっ!! おめでとう!」

 

 ────ウマ娘には、一生に一度しか走れない大事なレースがある。

 

 数千と居る同世代の中から、僅か十数人しか出走する事を許されない残酷な栄光のレース。

 クラシックレースの三冠全てを手にしたウマ娘は数える程しか誕生しておらず、もしも手にすることが出来たのなら、その歴史に名を刻むことになるだろう。

 

『必ずや三冠を捧げましょう。唯一この私に手を差し伸べてくれた、貴方に』。

 

 そう誓った言葉は夢物語ではない。

 

 きっと、今の私ならば叶えられる。

 ティアラ三冠の栄誉は先んじて捧げられてしまったけれど、それならばクラシック三冠の栄光を貴方に。

 

 人差し指を掲げ、まだこの旅路は終わりでは無いのだと全てに伝える。

 どよめきとざわめきが交差するスタンドを高揚感に包まれたまま見渡して、トレーナーへと視線を戻し、再度誓いを胸に抱く。

 

 クラシック一冠目、皐月賞。

 

 私は、三冠ウマ娘への切符を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その資格が、すぐに剥がされるとも知らずに呑気に喜んでいたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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