PM12:50
カフェは見えない友達を使って犯人探しを行っていた。というのも、情報が足りないままトウカイテイオーに突き止めにいったところで、もし違うとしたら返り討ちに遭う可能性を考慮しての事だ。
「……あの袋はコンパクトなサイズで机や棚、収納場所などには隠しやすいサイズの袋です。……犯人が何処に隠したかは分かりませんが、必ず突き止めてやります」
今カフェはトレセン学園の寮のある区画にいた。カフェは豆から粉砕させ、燻製し、一杯のコーヒーを作る本格派だ。豆に見合った調理法を探し、自分が満足出来る一杯を作る時と、その一手間を終えてようやく飲むあの至福の一杯がカフェにとっては大切な時間なのだ。
それを奪うというのならば、容赦する必要は無い。
カフェは何も無い空間を見つめる。
「…………見つかりましたか?」
『…………………………………………』
声は無い。だけどカフェには分かる。
「……なるほど。では栗東寮に向かいましょうか。……私の時間を奪ったクソ野郎には死の鉄槌を」
行先は決まった。
カフェは、一歩一歩ある部屋へと向かっていく。
PM13:10 終了
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PM13:30
午前の座学は終わり、午後からはトレーニングの時間だ。チームに所属する者や専属の者は決められたメニューをこなしていく時だ。しかし肝心なテイオーはチームに所属どころかトレーナーもついてないため、主に自主トレがメインとなる。
そんなやや遅れ気味なテイオーは、一人ぶらぶらと学園内を歩いていた。
しかし今朝のような元気は無い。むしろやつれていた。
「……なんでだろう」
テイオーは呟く。今、物凄く何かに縛り付けられているような奇妙な感覚がある。
「なんであの時確証の無い返事しか出来なかったんだ?おかしい、ボクがあの世界で死んだのは東京だ。あの時いた場所、剣道、親、一部の友人は覚えている。だけど__」
テイオーは全身から妙な寒気を感じながらそばにあったベンチに腰を掛ける。
「何か……何かあの東京のなかにある街で肝心な部分が欠け落ちてる……。この世界に来てからもう数年以上も経つけど何かとんでもないことを忘れている気がする……」
あの時ネイチャの推測に妙な引っかかりを感じたのは何故だ?普通能力者と聞いたらイレギュラーな存在だから信じられないのが当たり前なのだ。
だけど、どうしてあの時能力者と言われても納得して信じてしまったんだ?
(分からない。自問自答しても答えなんて返ってこない……)
単に忘れてるだけならここまで深く考える必要は無い。だけど忘れてるだけじゃ纏められない何かをテイオーは感じていた。
彼女は両手で顔を覆いながら、こう結論を出した。
「ボクは、記憶喪失かもしれない……」
あまりにもおかしな話かもしれない。だけど、この世界に来て初めて行き詰まった部分が起きた。
これまでは超能力なんて、そんな話は聞いた事なかったはずだ。聞いてたとしたらもっと前からこの事について議論していたはずだ。だけどそれが無かったから今一人で議論している。
もしかしたらこの世界にはまだ自分の知らない秘密があるのかもしれない。
単純に自分だけが知らないだけかもしれないが、もしそれがそうだとしたらあの時ネイチャが信じる信じないかの疑問なんて投げかけないはずだ。
(……一体、ボクはどこでどのタイミングで記憶を無くしたんだ?)
前世?それとも今の世界?
「……ダメだ。自問自答していても答えが分かんない。そもそも記憶が失われたタイミングなんて分かる訳ないでしょ」
結局、何も分からないまま議論は終わる。
(……この事は絶対に黙っておこう。とにかく今は皆と話を合わせながら情報を集めていくしかない)
今後の方針を纏めてテイオーは立ち上がった。
その瞬間だった。
『……あなたが、トウカイテイオーですね』
「!?」
何も無い場所から突然誰かの声が耳に入った。テイオーは周囲を見渡すが付近には誰もいない。
「どこからなの!?」
「ここですよ」
答えは迅速に返ってきた。背後から突如聞こえた声にテイオーはまさかだと思った。
「き、君は誰!?」
その場から離れて声の主へと見据える。さっきテイオーがいた場所には、腰のラインまである黒髪のロングヘアに、目を覆うような感じで伸びだ前髪。瞳の色は黄色。見た目からしてホラーのような雰囲気を漂わせるウマ娘がいた。
「……私はマンハッタンカフェです。……あなたが私の珈琲豆を盗んだ事が発覚したので、ここで罪を償わさせるためにきました」
「……一体何の話?」
「……シラを切らないでください。……あなたが私のお気に入りの珈琲豆、マンデリンを盗んだことは既に分かってます。……今なら痛めつけない程度の怪我で済ませてあげますが」
カフェはスカートから一枚の写真を取り出した。カフェはそれをテイオーに見せびらかすように向ける。
「……この部屋、貴方のいる部屋ですよね?……勝手ながらお邪魔させてもらいましたけど、貴方の机に私のマンデリンの袋がありました」
「待ってよ。そもそもボクは珈琲豆だのマンデリンだの言われたってよく分からないんだよ!大体いきなりなんなのさ、それをボクが盗んだって言うの!?」
「……はい」
即答だった。
「……もう一度聞きます。……これは貴方が盗んだのですよね?」
「だから違うって!そもそもいつそんな事が起きたのさ!?ボクは今朝走りに行って学園に遅刻しかけたけど、少なくともそんな袋は見かけてないよ!!」
「……これが最後のチャンスです」
カフェはさっきよりもかなり低く、そして威圧を与えような声で、
「……これは貴方が盗んだのですよね?」
「違う!!」
テイオーは、否定した。
「…………そうですか。……ならばもう交渉は決裂です。……貴方のやった行動と否定した事が間違えだった事を力ずくで分からせます」
カフェは顔を俯かせ、何かを唱えるような声が聞こえてくる。
(な、っに、これ……!?)
周囲の大気がまるでカフェに吸い込まれていくような動きがあった。吹き荒れる風がカフェを包み込む。透明感のある空間だが、あれに触れたら千切りでもされそうな引き裂き鎌のような危なさがある。
「……正直オレはあんたが気に食わないんだよねテイオーちゃん」
「!?」
さっきとは違う声が聞こえてくる。テイオーは第二の刺客かと思い周囲を見渡すが誰もいない。だけど今聞こえた先はカフェしかいない。
いや、カフェから聞こえたという方が正しい。
「……あまりオレのマックちゃんを取られてるとお前に噛みつきたくなる。いや、なんならぶっ飛ばしたくなるもんだよな」
「君は、誰だ……!?」
カフェ、いや、別の何かは顔を上げる。さっきのダークな雰囲気が消え去り、次に感じたのは威圧だった。
それに、さっきまで見ていた瞳の色が黄色から赤色へと変わっていた。
まるで何かに取り憑かれたような、そんな雰囲気だった。
そんな謎の存在は告げる。
「よう、オレはサンデーサイレンス。ちょっとお前を全治三年のレベルの噛みつきをしてやるから付き合いな」
PM14:05 終了